リーズの結婚 (牧阿佐美バレヱ団)

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04年10月30日(土)・31日

青山劇場

 

演出・振付:サー・フレデリック・アシュトン

原作:ジャン・ドーベルヴァル

作曲:フェルディナン・エロール  脚色・編曲:ジョン・ランチベリー

美術:オズバート・ランカスター

指揮:堤俊作(←ではなかったような記憶が・・・?)   管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

  10月30日(土)マチネ 10月10日(土)ソワレ 10月31日(日)
リーズ 佐藤朱実 橘るみ 伊藤友季子
コーラス 相羽源氏 逸見智彦 アルタンフヤグ・ドゥガラー
シモーヌ(リーズの母) 保坂アントン慶
トーマス(アランの父) 本多実男
アラン オリバー・ハルコヴィッチ ドミニク・ウォルシュ
村の公証人 中村一哉
公証人の書記 鈴木直敏
若いおんどり 小嶋直也
めんどりたち 渡辺悠子,竹下陽子,野口かほる,森脇友有里 中溝志保,駒崎友紀,寺内直子,吉田浩子
リーズの友人(木靴の踊り) 金沢千稲,橋本尚美,吉岡まな美,笠井裕子
リーズの友人 坂西麻美,小橋美矢子,坂梨仁美,青山季可 坂西麻美,奥田さやか,加藤裕美,青山季可
農夫 塚田渉,徳永太一,今勇也,邵治軍,中島哲也,高橋章
フルートボーイ 武藤顕三

 

小嶋さんの9か月ぶりの舞台。
「若いおんどり」はかぶりものの役なので(というより,着ぐるみに限りなく近いので),ほんとうに彼が踊っているのかどうかわからなかったらどうしよう・・・なんて思ったりしていたのですが,それは杞憂というものでした。冒頭で小屋の中にじっとしているときはさすがに確信は持てませんでしたが,踊りだしたら,すぐわかる。つま先の美しさも軽やかな跳躍も細かい脚さばきの見事さも,「これ,これ♪ これが見たかったのよ〜♪♪」という感じ。
その後も,軽くて速い動きであっという間に舞台のこっちからあっちの袖に消えていくところなど,彼のよさの出た見事な踊りで,堪能しました。(うふふ,幸せ〜♪♪♪)

何回も踊っている役だけにニワトリとしての演技もとても上手。じっとしていたのが突然クビだけ捻ってリーズを見るところとか,1回だけ大きく翼を広げて(←ニワトリだから羽と言うべきでしょうが,「翼」のほうがかっこいいじゃん)はばたきするところとか。雨の中で傘に隠れたアランをつつくところなんか,いや〜ん,なんでこんなに上手なの〜♪
(これはダンサーではなく演出や衣裳の力でしょうが)ユーモラスで愛嬌があるし,(こっちはダンサーの力だと思う)家禽におさまりきれない凶暴そうな趣もあって,そりゃもう印象的でありました。

 

話が後先になりましたが,主役3組もそれぞれ楽しませてくれました。
中でも,土曜マチネの佐藤朱実/相羽源氏がよかったわ〜。

佐藤さんは庶民的な愛らしさでリーズ役にぴったり。恋人,母親,友人たち,アラン・・・と相手によってくるくる変わる表情が魅力的ですし,お母さんに逆らったりふくれたりしながら,でもお母さんを大好きなのね,という感じも上手に見せていて,とてもよかったです。
何回も踊っているお得意の役だけあって踊りも安心して見ていられますし,特にアシュトン作品の特徴である細かい脚さばきが音楽的。
全体としてあれくらい見せてくれれば,私は文句なしですわ〜。見事だったと思います。

相羽さんは,以前見たときは「かわいくてかまいたくなる」感じのコーラスだったのですが,(もしかして少し太ったおかげもあるのかな)優しそうな感じや頼もしい感じが強まって,「村一番のハンサム」という感じでした。
うん,この人と結婚したら幸せになれそうですー。でも,やっぱりかわいげもあるから,この人のお嫁さんになって幸せにしてあげたい,という気持ちにもなれます。雰囲気や演技は理想のコーラスかも〜。(足りないのはソロのテクニックだけだわっ)

なぜこの二人が一番よかったかというと,二人とも役に合っているということもあるのですが,「幸福な恋」の雰囲気が舞台に漂っているのですわ。相羽さんが要所要所(?)で小鳥みたいなキスをするのがとってもいい雰囲気で,微笑ましいな〜,と幸せな気持ちになれました。

 

ソワレは橘るみ/逸見智彦でしたが,こちらは,少々牧歌的な雰囲気には欠けましたですね。悪くはないのですが,お姫様と王子さまで見たほうがよさそうな感じ。

橘さんは小柄だし目がくりくりしたお顔立ちで,リーズが似合わないわけではないのですが,この役にはちょっと「おすまし」すぎるのかも。村娘姿よりも大団円の白いドレスでティアラを着けてのシーンのほうがずっとよかったです。
踊りは,「普通によかった」という感じでしょうか。佐藤さんほど余裕がない感じはしましたが,初役だからこれくらいなら立派かな,という気もしましたし。

逸見さんのほうは,農夫@実は貴族のご落胤に見えてしまいます。たいへんかっこいいのですが,稼ぎが悪そうだし,女癖も悪そうなので(キスのしかたが相羽さんに比べて色男すぎる),娘を嫁にやるのはご免こうむりたいですわ。(当事者であれば,ふらふら駆け落ちしてしまうかもしれないが) 
踊りはとてもよかったです。何回もこの役で見ていますが,見る度に上達しているような気がします。一人で踊るところもパ・ド・ドゥのときも全身がきれいなんですよね〜。(とはいえ,ソロの度に最後に息切れするのよねえ。1幕1場と2場の間の酒瓶を使ってのソロも最後にボトルを蹴倒していましたし,2場のヴァリアシオンで最後に手を床に着けて決めるところも足もとがあやしかったし・・・。うーむ,体力が足りないのだろーか?)

 

日曜日の伊藤友季子/アルタンフヤグ・ドゥガラーは,(ちょっと陳腐な表現なような気もしますが)「フレッシュなカップル」という感じでした。恋を語るシーンはちょっと「おままごと」みたいな趣もあって,かわいいわ〜。

伊藤さんは頭が小さく腕も脚も長く,プロポーションがすばらしいですね〜。ポアントが弱いかなー,とは思いましたし,小さなミスもあったみたいですが,チャーミングだったし,全幕初主演としては立派な舞台だったと思います。
それから,彼女が一番「ラ・フィーユ・マル・ガルテ=監督不行き届きの娘」らしかった。もちろん愛らしいのですが,お母さんに対する態度が完全に面従腹背に見えて,なんのかのと言っても,最終的には自分のほしいものを手に入れたのよね,実は「強い女」なのよね〜,なんて思いました。(念のために書きますが,悪いと言っているわけではないですよ。そういうしたたかさもリーズという人の一面ですもんね)

ドゥガラーさんは,やんちゃな少年みたいなコーラス。若々しくて(←実際若いが)はつらつとしているし,ハンサムすぎないのも役に合っていました。
彼は演技(マイム)がわかりやすいですね〜。少し古臭い大仰さも感じるのですが,あれなら青山劇場でなくボリショイ劇場で踊っても,上のほうの席まで意味が伝わるんじゃないかしらん。(もしかして,モンゴルの国立オペラハウスもすごく大きいのかな?)
踊りはよかったのですが,ううむ・・・期待ほどではなかったです。身体能力やテクニックはほかの二人のコーラスより上だと思うのですが,「きれい」という感じが欠けていたような。もっとも,初役だし,なによりまだ若いですもんね。これからもっときれいになってくださいね〜。

 

アランは,海外からのゲストだったのですが・・・うーん,どうなんでしょう,それなりによかったとは思いますが,さすがゲストで呼ぶだけあるわ〜,というほど魅力的だったかどうかは・・・? じゃあ牧のどなたが踊ればいいのか? と聞かれると困るから,やはり呼ぶ意味(必要)はある,ということになるのかなぁ・・・。
まあ,この役については根岸正信さんが刷り込みになってしまっているので,誰が踊っても不満が残るのかもしれません。

ハルコヴィッチさんは踊りに躍動感がありましたし,かわいらしさもあってよかったです。お顔がかわいいので,コミカルな行動もアランの子どもっぽさが強調される感じで,健気という言葉が頭に浮かびました。
ウォルシュさんのほうは,踊りも演技も上手だったと思いますが・・・私は好きではないです。なんというか・・・「口を開けてにたっと笑えばアホに見えると思ってるのか?」という感じで・・・いや,実際ちゃんとアホに見えなくもないのですが・・・ううむ・・・私にはそういう姿はユーモラスには見えないし,笑う気はしないのですわ。

ただ,この辺りについて書いているうちに,どうもよくわからなくなったのですね。こちらの知的障害者に対する偏見というか差別意識が,「主張する障害者」ではなく「かわいい障害者」を期待しているのかなー,なんて思えてきて。うーん,どうなんだろう・・・。(悩)

 

シモーヌ役は3日とも保坂アントン慶さんでしたが,とてもよかったです〜。
今まで見てきた三谷芸術監督に比べて格段に若いから,「踊れる」のよね。それから,おおらかな雰囲気のあるダンサーだから,基本的に娘思いのお母さんに見える。笑いをとる場面のタイミングも上手でした。
トーマス役の本多さんもまるーいお腹を突き出して,いつもどおり,尊大でありながら,頭の弱い息子を思い遣るいいお父さんを好演していました。

周りのダンサーも適材適所で楽しそうに踊っていてよかったと思いますし,やはりこの作品は名作ですわ〜。よくできていますわ〜。
ピンクのリボンを使った数々の踊りの楽しさ(綾取りは何回見ても感心する),ポニーの調教師(馬丁? それともご主人?)までダンサーとお揃いの農夫の衣裳を着せてしまうという芸の細かさ,2幕でのコーラス登場シーンのびっくり〜,そしてラストをアランのエピソードにしてほのぼの〜とさせて終わるところ・・・などなど,ほんとうにすばらしいと思います。
2日に3回も見るのは特殊事情による行き過ぎですが,たとえその事情がなかったにしても1年に1回は必ず見たい作品だな〜,と改めて思ったことでした。

そして,特殊事情のほうは,言うまでもありません。何回見ても見足りないくらい好き。小嶋さんが踊っている姿を見ることがなぜこんなに幸せなのか,自分でも理解不能な幸福感。3回の公演が終わった後の,しばらくは見られないのね,という淋しさと,(やっぱり言ってしまおう)コーラスを踊るのもまた見たいな〜,見る機会があるのかな〜,という少々の切なさと・・・そういうものも混ざった幸福感。それは,ただ手放しで幸せなわけではないから,その分より貴重なものでありました。

(04.11.12)

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