ライモンダ(新国立劇場バレエ団)

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04年10月17日(日)

新国立劇場(オペラ劇場)

 

振付: マリウス・プティパ  改訂振付・演出: 牧阿佐美

作曲: アレクサンドル・グラズノフ

舞台装置・衣装: ルイザ・スピナテッリ     照明: 沢田祐二

指揮: エルマノ・フローリオ    管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

ライモンダ: スヴェトラーナ・ザハロワ   ジャン・ド・ブリエンヌ: アンドレイ・ウヴァーロフ   

アブデラクマン: ロバート・テューズリー

クレメンス: 湯川麻美子   ヘンリエット: 西川貴子   ベランジェ: マイレン・トレウバエフ   ベルナール: 冨川祐樹

ドリ伯爵夫人: 豊川美恵子   アンドリュー世王: 長瀬信夫 

夢の場/第1ヴァリエーション: 湯川麻美子   第2ヴァリエーション: 西川貴子

サラセン人: 大森結城, 厚木三杏, 川村真樹

スペイン人: 遠藤睦子, 奥田慎也

チャルダッシュ: 大和雅美, 吉本泰久

マズルカ: 厚木三杏, 大森結城, 鶴谷美穂, 千歳美香子, 深沢祥子, 堀岡美香

グラン・パ・クラシック:
遠藤睦子, 西川貴子, 西山裕子, 川村真樹, 寺島まゆみ, 本島美和, 丸尾孝子, 真忠久美子
市川 透, 奥田慎也, 陳 秀介, 江本 拓, 冨川祐樹, 冨川直樹, 中村 誠, 高木裕次

ヴァリエーション: 遠藤睦子

パ・ド・カトル: 奥田慎也, 陳 秀介, 中村 誠, 冨川祐樹

パ・ド・トロワ: 川村真樹, 寺島まゆみ, 丸尾孝子

 

とーっても楽しかったですよん♪
なにしろ小嶋直也不在の新国立劇場の舞台ですから「まあ,新制作だから一応見ないわけにもいくまい」程度の気分だったのですが,その事前のノリの悪さが嘘みたい。自分でも不思議なくらい楽しめました。見終わったあと「らんらん♪」状態だっただけでなく,その後の数週間頭の中でグラズノフの音楽が鳴っていたくらいの楽しさ。

ええと・・・最初に書き留めておきますが,物語の盛り上がりとかドラマチックな感動などは全然なかったです。主役のゲストにも,劇場のダンサーにも言いたいことはあったし,振付演出や装置や衣裳には「なんじゃこりゃ?」もありました。

でもねー,どうせツッコミ入れながら見るなら,「キーロフと同じ黄色やピンクのカツラを日本人にかぶらせてどうするんじゃい」なんて言っているより,独自の演出や美術に文句を言うほうがずーっと楽しいじゃない。言う甲斐があるじゃない。

そして,そういう今ひとつの部分なんかどうでもいい,と思わせるくらい踊りが盛りだくさんで・・・もう全編踊りの洪水。
ライモンダ役もたくさん踊るし,ほかのダンサーも次々と(主に集団となって)出てきて,「あれよあれよ」と言いたいくらいの感じで入れ代わり立ち代わり踊る。あ,あの人がこんなところに,うーむ,この衣裳はこの人には似合わんなー,なんてチェックしながら,舞台全体も見なくちゃいけないし,主役ももちろん気になるし。3時間があっという間でした。

そして,全体としては装置も衣裳もパステル調の繊細な美しさ。
開幕前に改訂振付・演出の牧阿佐美が強調していた「普遍的な男女の恋愛模様」を描くのには失敗していたと思いますが,もう一つ語っていた「華麗な絵巻物」としては立派な成功だったと思います。

 

さて,その振付と演出ですが・・・振付には「うーむ,あまりきれいでないような・・・」もありましたが,演出はよかったです。

牧阿佐美バレヱ団が採用しているウエストモーランド版に似ている気もしましたが(←自信はない),前奏曲の間に紗幕のうしろでジャンが出征して,二人の別れの様子をアブデラクマンが見ているところなどは独自の演出。そして,これはとてもよいアイディアだなー,と思います。
そもそもの『ライモンダ』ではジャンが不在のまま肖像画だけで婚約者の出征が表わされるわけですが,事前の知識なしでこれを理解せよというのは無理難題ですよね。そこを解決しつつ,アブデラクマンが「よし,婚約者がいないこのチャンスにかねて憧れていた姫を」と思ったのであろう,ということまで伝えてくれるわけで,親切でわかりやすいですー。

それから,アブデラクマンの描き方が粗略すぎず重すぎず,ほどのよい「印象的な敵役」だったのもよかったです。
夢の中に出てきたり求婚しながら踊りまくるアブデラクマンも悪くないですが(というか,好きですが),あまり感情移入できすぎると,その後の話の成り行きや3幕の結婚式に釈然としない気分が残りますからね〜。かといって「蛮族の襲来」みたいではもっと困る。うん,中庸を得ていてよかったと思いますよん。

 

ザハロワは,たいへん美しかったですが,演技が平板。最初から最後まで「苦労知らずのお姫さま」でした。

特に,1幕が「幸せいっぱい♪ 花いっぱい♪」の雰囲気だったのは理解に苦しみます。
あのー,婚約者がいなくても差支えないのでしょーか? 戦地の彼のことが心配ではないのでしょーか? アブデラクマンの不吉な感じの登場や十字軍の(つまりはジャンの)敵の富貴を見ても不安にならないのでしょーか?

・・・とは思いましたが,まあ,これは『ライモンダ』という作品自体が持つ問題なのかもしれませんねー。そして,↑で誉めたプロローグがあるから,より違和感が募ったのかもしれません。うーむ・・・最初にジャンが登場するのも痛し痒しなのかなー???

踊りはもちろん上手でしたが,期待したほどではなかったです。
なんか,音楽が速くなると雑になるというか全身の調和が欠けてしまうというか,そういう印象。ゆっくりたっぷり見せるソロやウヴァーロフに支えられてのアダージオは「美しいな〜。眼福だな〜」と思えるのですが・・・。腕や脚が長すぎてアレグロが苦手なのかしらん?

グラン・パ・ド・ドゥも今ひとつかな。↑に書いたような表現面はさておき,最近の「女王様」ぶりから考えて3幕はすばらしいに違いないと期待していたのですが,うーん・・・風格に欠けるというかライモンダらしくないというか・・・。いや,なにが「ライモンダらしさ」なのかと言われると説明に窮するのですが,直前に見た「ルジマトフのすべて」でのユリア・マハリナは,まさにライモンダだったと思うわけです。故障明けということで技術的にはかなり問題があったのですが(ポアントで垂直に立てていなかった),上半身の使い方,音楽の見せ方,顔のつけ方,タメ,視線・・・うーん,さすがだったなー。

あら,話がそれてしまいましたね。
まあ,そんなわけで,ザハロワは事前の期待ほどではなかったのですが,もちろん水準のはるか上をいく踊りではありましたし,なにしろまだ若いし,初役で新演出に客演したから難しい面もあったのでしょう。愛らしいお姫さまで,よかったと思います。

 

ウヴァーロフは,踊りが非常によかったです。大柄だからダイナミックだけれど,細部まで丁寧さがあり決して崩れない端正な踊り。跳躍は高く,回転は速く,しかも美しい。その上,いつも私を悩ませる着地の大音響がなかったので(新国立劇場の床って上質なのね〜),気持ちよく「いいねえ♪」と思えました。マナーも常にバレリーナを立ててすばらしいダンスールノーブルぶりですし,パートナリングもたいそう見事。

したがって,そういう意味では理想のナイト=騎士だなー,と思いましたが,騎士のもう一つの要素である戦闘能力は低そうでありました。
うーむ,「いい人そう」なのが悪いのかなぁ,2幕で颯爽と登場したときにザハロワにマントを踏まれて「お笑い」要素が入ってしまったのが悪かったのかなぁ,いや,チャンバラが苦手なのかもしれん。とにかく,「あわや」の瞬間に駆けつけて恋人の危地を救う場面は迫力に欠けました。
まあ,十字軍の騎士ですからね。ああいう人が集まっていたから結局エルサレムを取り戻せなかったのであろう,と考えておくことにしましょうか。

 

テューズリーのアブデラクマンはよかったです〜♪
美男子の上に髭もピアスも似合っていて凶々しい魅力の異邦人に見えるし,上半身のたくましさが「惚れた女は奪うもの」的行動様式によく似合っておりました。

特に1幕はすてき。長ーーいマントを翻しての登場シーンがそれはもうかっこよかったですし,ライモンダに真摯な愛を捧げている雰囲気もありました。そして,長居しないで一陣の風のように(再び長ーーいマントを翻して)去っていくところもかっこいい。「きゃあああ」でしたわ〜。

残念ながら,肝腎の2幕は1幕ほど印象的ではなかったです。これは振付や演出のせいだという意見も多いようですが・・・私は必ずしもそうは思わないなー。

まず,ソロが「アラビアの踊り」風両手差し上げポーズを多用していて,なんかクネクネしていて妙なのですね。だから,振付がよくないとも言える。
でも,例えばグリゴローヴィチ版のこの場面のソロにもそういった感じの振りはあったわけですから,やはりテューズリーの責任もあったのではないか,踊りに力強さが欠けていたのではないか,と思います。跳躍などがきれいでないなー,という感じもありましたし。

それから,そのソロ以外のときは,舞台の端にただ立っているとか腰を下ろしているとかうろうろしている,という感じに見える。これは演出の問題かもしれませんが,でも,逆に言えば演技で見せるべき場面なわけで・・・うーむ,少々工夫が足りなかったのではないかなー。

そして,衣裳が粗末。これはまったくご本人の責任ではないわけで,気の毒だったと思います。
色が地味なのはいいにしても,デザイン的に騎士とか貴人とかには見えませんもん。あれじゃ海賊か山賊・・・の中でも下っ端のほうにしか見えない。まあ,テューズリーの場合,上腕部の筋肉がワイルドな感じですてきでしたから,上半身は許すにしても,ズボンが中途半端な長さでシューズとの間に素肌が出ているのはいかがなものか。あんな装束で登場されては,ライモンダでなくても随いていくのはご免こうむりたいですよねえ。

というわけで,2幕では「♪」とまではいかなかったのですが,全体としてはよかったです〜。
こういう役(野卑な二枚目というか・・・)は日本人ダンサーには難しいでしょうからゲストに来てもらってよかったとも思いますし,急な代役としては立派だったとも思います。(失礼ながら,客演3回目にして初めて,「呼ぶ価値のあるダンサーだな〜」と思えました)

 

女性コール・ドはよかったと思います。(それにつけても,あの腕カバー様の手袋? は勘弁してほしかった。とほほ)
特に,1幕の夢の場面は出色。ああいう場面を破綻なくきっちりと,しかも叙情的な雰囲気でたおやかに踊れるのはたいしたものだと思いますわ〜。

3幕のように男性が加わると,そこまで誉める気分にはなれないのですが・・・リフトでぐらつくなっとか,アントルシャ・カトルとかトゥール・ザン・レールがちゃんとできないソリストってなによっとか言いたくなるから・・・でも,数年前に3幕を上演したときよりはずっと上達しておりました。

そうそう,3幕では遠藤睦子のヴァリエーションが見事。上手で安定していて見せ方もうまくて,言うことなしでしたわ〜。

ライモンダの友人役のソリストの中では,湯川麻美子のクレメンスがよかったと思います。踊りがきれいだったとは言いませんが,『こうもり』のベラやレスコーの愛人のときとは別人のようなかわいらしさで,演技力(自己演出力?)に長けたダンサーだな〜,と感心しました。
ベルナールを踊った冨川祐樹には「あら,こんなに踊れるのね〜」と。いや,ベランジュ役のトレウバエフのほうがもちろん上手なのですが,さほど見劣りしなかったので頼もしく感じました。(もしかしたらもしかすると,単にトレウバエフが不調だったのかもしれませんけどー)

 

それから,今回は,キャラクターダンスが非常によかったです。
もちろんボリショイやキーロフのようにはいかないですが,このバレエ団がキャラクターダンスでこんなに見せてくれるなんて,とびっくりしました。

なんというか・・・普段のこのバレエ団のキャラクターダンスは(いや,日本のバレエ団のキャラクターダンスは,と言ったほうが適切かも),「たまたま今日はキャラクテールを踊ってます」という感じなんですよね。実際ほかの場面ではクラシック(主役の友人とか)を踊っているわけですし。
でも,この日は,「キャラクテール専業なのでは?」とか,そこまでいかなくても「キャラクテールのほうが輝くのでは?」と思える踊りが続きました。

特によかったのは,スペイン人(2幕)の奥田慎也。勢いがあったし,動きも大きくキレもあり,「いかにもスペイン」の見得切りなども見せていて,たいへん感心しました。見事だったと思います。
大和雅美/吉本泰久のチャルダッシュ(3幕)や大森結城のサラセン人(2幕)も魅力的でした。スピード感や動きの大きさがキャラクターダンスの身上ですもんね〜。

 

残念だったのは,仕事が忙しい時期で1回しか見られなかったこと。早目に再演してくれると嬉しいな〜。
そして,そのときこそ小嶋直也のジャン・ド・ブリエンヌを見たいな〜,と恒例の慨嘆で終わることにいたしますー。

(04.12.19)

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Glazunov: Raymonda
Alexander Konstantinovich Glazunov Alexander Annissov Moscow Symphony Orchestra
B00000149F

バレエ音楽『ライモンダ』の全曲CD・・・らしいです。

Glazunov: Raymonda - Music from the Ballet
Alexander Konstantinovich Glazunov Edwin Paling Neeme Jarvi
B000000AE5

こちらも,全曲入っている・・・のかなぁ? アマゾンのリストに入っている曲数が少ないし,2枚組でないようでもあり・・・?

 

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