ニューヨーク・シティ・バレエ プログラムA

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04年9月22日(水)

オーチャードホール

 

「すてきだわ〜」とか「うっとり〜」は全然なかったですが,4演目中3つが初見だったので,面白かったです。
全体に前回よりは上手だったような気はしますが,その代わり迫力が減ったような気もするのですが・・・見る側の心構え(予測というか期待というか)の違いでしょうかね? それとも,演目の違いかしらん?

 

『コンチェルト・バロッコ』

音楽: ヨハン・セバスチャン・バッハ

振付: ジョージ・バランシン

照明: マーク・スタンレー

レイチェル・ルサーフォード, イヴォンヌ・ボレ, ジェイムズ・ファイエット ほか

初めて見ました。

女性はスカートつきのオフホワイトのレオタード,1人だけ登場する男性は白い半そでTシャツと黒いタイツの下に白ソックスという,「いかにもバランシン」という衣装の作品。振付も,男性の背後に女性4人が重なるとか(『アポロ』より一人多いわけですね),やたらに皆で手をつなぎながら動くとか,これも「いかにもバランシン」で面白かったです。

が,踊りはよくなかったと思います。衣裳でごまかせないせいもあるのかもしれませんが,全体として情緒がないですー。ダンサーのプロポーションが美しくないですー。動きが重いですー。踊りが音楽的でないですー。コール・ドが揃っていないですー。要するに,事前の予想どおりですー。

 

『デュオ・コンチェルタンテ』

音楽: イーゴリ・ストランヴィンスキー

振付: ジョージ・バランシン

オリジナル照明: ロナルド・ベイツ     照明: マーク・スタンレー

ダーシー・キスラー, ニラス・マーティンス

前回の日本公演のときも見て「つまんないなー」と思ったのですが,今回はそれなりに楽しめました。やっぱり,キスラーの力が大きかったんじゃないのかな。(生で彼女の踊りを見るのはたぶん初めて)

年齢的・体型的な問題でしょうか,跳躍などは重いとは思いましたが,腕の動きが優美だし,存在感もあり,なにより踊りに雰囲気がありました。うん,これが音楽を表現する踊りだわ〜,さすが「バランシンの最後のミューズ」と言われるだけあるわ〜,『コンチェルト・バロッコ』に出たダンサーたちにも見習ってほしいわ〜。
マーティンスのほうは,あー,ヌルいというかきれいでないというか。でも,以前より身体が締まったみたいでしたね。

作品としては,やっぱり苦手。
第1楽章はダンサー2人はピアノの脇で音楽を聞いているだけで「音楽を楽しんでください」ということなのでしょうが・・・残念ながら,私は踊りなしでストラヴィンスキーを聞いても,ちっとも楽しくないんだわ。第2楽章は踊ってくれて安心したら,第3楽章になったらまたピアノのそばに戻る。途中から踊りになりましたが,私はバレエの公演に来ているのであって,音楽の演奏会にお金を払っているわけではないんだからさー。ぷんぷん。
さて,第4楽章は音楽自体も舞曲のような感じで,とてもよかったです。客席からも盛大に拍手がわいて盛り上がったところが,あらま,第5楽章があったのですね。しかも,舞台は暗くスポットの中にダンサーが現れたり消えたりして・・・雰囲気あるなー,と思う方もあるかもしれませんが,私はつまらなかったです。プログラムのバランシンの言葉によると「デザート」だそうですが,うーむ,もらってかえって迷惑なオマケのような。

結論:第2楽章から第4楽章までだけ上演してほしいです。(バランシン先生に怒られそうですねー)

 

『アゴン』

音楽: イーゴリ・ストランヴィンスキー

振付: ジョージ・バランシン

照明: マーク・スタンレー

ウェンディ・ウェーラン, マリア・コウロスキー, ジョック・ソト, セバスチャン・マルコヴィッチ

エレン・バー, レベッカ・クローン, アーチ・ヒギンス, エドワード・リアン ほか

断片的に映像を見たことはありますが,全体を見るのは初めてでした。おお,なるほど,たしかにこれは名作と言うべきでしょうね〜。
↑の『デュオ・コンチェルタンテ』のところでぶつぶつ言っているとおり,私はストラヴィンスキーは苦手なのですが,リズムも和音も複雑な音楽をそのまま視覚化するとこうなる,ダンサーの動きも出入り(各場面の人数とか)もこういうふうに複雑になる,という感じで,大いに感心しました。意表を突かれる振りもあり,やはりバランシンはすばらしい振付家だと思いますわ〜。
プログラムによると,音楽が先にあってバレエを振り付けたのではなく,完全なコラボレーションだったとか。うん,納得です。

ダンサーの中では,パ・ド・ドゥを踊ったウェーランがすばらしかったです。
明晰な動きが印象的でシャープな力強さがあり,しかもストラヴィンスキー的。「ストラヴィンスキー的」と言ったのは,もちろん音楽的という意味なのですが,普通「音楽的」というと美しいメロディーを思い浮かべるでしょう? でも,ストラヴィンスキーは違うのよね。全然甘さとか優しさとか幸福感と縁のない感じというか・・・で,私にとっては神経に障るようなところがある。そういう「普通の美しさとは違う音楽」を踊りで見事に表現していたと思います。
パートナーのソトも,プロポーションは私の好みの外ですが,「クラシック・バレエに似ているけれど実はバランシンは違うのだなー」という踊りでよかったと思います。ただ,後半はちょっと息切れだったかも。

衣裳は,女性は黒レオタードでウエストに黒いベルト,男性は『コンチェルト・バロッコ』と同じ路線でした。この作品に関してはそれがよく合っているとは思うのですが,開演からずっとこういう簡素な衣裳ばかり見せられると,「せっかくバレエ見てるんだからもう少し華やかであってほしいなー」という気分にはなりました。

 

『スターズ・アンド・ストライプス』

音楽: ジョン・フィリップ・スーザ

振付: ジョージ・バランシン

装置: デヴィッド・ヘイス     衣裳:カリンスカ     照明: マーク・スタンレー

第1キャンペーン(作戦行動?): アシュレイ・ボーダー ほか

第2キャンペーン: エレン・バー ほか

第3キャンペーン: トム・ゴールド ほか

第4キャンペーン: ソフィアン・シルヴ, チャールズ・アスケガード

第5キャンペーン: 全員

これも全体を生で見るのは初めて。楽しかったです。(衣裳もやっとチュチュになったしー)

女性陣だけの第1キャンペーンと第2キャンペーンについては,『コンチェルト・バロッコ』と同じような問題点はあったと思いますが,でも,とにかく元気がいい作品だから,あまり気にならないで楽しめるのですね。
男性パートの第3キャンペーンも踊りとしてはあまり上手ではないと思いますが,「跳んで回って行進して」いればいい振付なので,細かいことはまあいいか,と。うん,盛り上がりました。

次々と変化するフォーメーションが楽しく,おおっ,これは確かにパレードの動きを取り入れている感じだわ〜。小道具(バトントワリングとか)を持ち込んでいるのも,衣裳の色が派手すぎるのも,まさにパレードですね〜。

第4キャンペーンのパ・ド・ドゥがメインということになるのでしょうが,これもよかったです。
シルヴは細かい脚の動きが上手でしたし,陽気でノリノリのこのパ・ド・ドゥの見せ方も心得ている感じ。明るさを振り撒く感じでチャーミングでした。
アスケガードのほうは,正直言って振付に踊りがついていっていないと思うのですが,そういうところも含めて戦闘力は必要ない平和な世の中の兵隊さんっぽくていいです〜。(今のアメリカの兵隊さんがそうなのかどうかは別として)

そして,総出演の最後は盛り上がりますね〜。定石どおりの構成ですし,最後に背景に星条旗が出てくるというあまりの単純明快さにはどう反応すべきか悩むところはあるわけですが・・・でも,やっぱり盛り上がるよね〜。

 

(04.9.26)

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