La Belle (モンテカルロ・バレエ)

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04年7月24日(土)

オーチャードホール

 

原作: シャルル・ペロー   音楽: ピョートル・チャイコフスキー

振付: ジャン=クリストフ・マイヨー

美術: エルネスト・ピニョン=エルネスト   衣装: フィリップ・ギヨテル   照明: ドミニク・ドゥリヨ

ラ・ベル(オーロラ姫): ベルニス・コピエテルス   若者/王子: クリス・ローラント

リラの精: パオラ・カンタルポ
女王(王子の母)/カラボス: ガエタン・モルロッティ   父王(王子の父): ラモン・ゴメス・レイス
王(姫の父): ジェンス・ウェーバー   王妃(姫の母): ジョイア・マサラ

 

面白くはあったのですが,うーむ,あまり好きではないなー,という感じでありました。
物語を現代的に置き換えた結果,性的側面が強すぎる話になってしまって私の好みから外れましたし,なんか,結末が・・・後味が悪いと言えばいいのかな。

 

1幕

前奏曲の中,カウチに寝そべって『眠れる森の美女』の書物を読むローラントの映像。続いて同じ姿の本人(若者)が現れて,舞台は始まる。本に夢中になるうちに,王夫妻のダンサーが現れ,若者は物語の中の王子に・・・。
王夫妻は完全に女王に主導権があり,王子も母の抑圧下にあることが,『眠り』プロローグの音楽の抜粋の中で踊られていく。
悄然とする王子のもとにリラの精が現れ,ラ・ベルの住む世界を見せる。色とりどりの衣装で毎日を楽しむ人々。中で王夫妻だけは子に恵まれないことを嘆いている。リラの精の力で子どもを授かり王夫妻も人々も喜ぶ。音楽は,1幕の前半の音楽とか2幕の狩の場面とかが使われていたような。
再び王子の部屋。1幕後半の音楽の中,両親も舞台上に現れ,女王は王子の見る夢を嘲笑する。父と子は抵抗を試みるが結果は空しい。力を落とす王子にリラの精がラ・ベルの住む世界を再び見せるが,女王はその世界にも魔手を伸ばしている。恐怖にかられる王子をリラの精が励ます。

感想

○ 映像の使い方は,まあ普通でしょうか。音楽を切ってつないでいるのですが,そのつなぎ方が乱暴すぎるように思いました。

○ 現代のヨーロッパでは,「母性」というのはこういうふうに抑圧的なものだと理解されているのでしょうかね? マッツ・エクやマシュー・ボーンの『白鳥』もそうだよね。「無私の母性」みたいな論も好きじゃないけど,こういう話もあんまり好きじゃないなー。

○ 父王も女王もスキンヘッドなのに,どこでどーすればローラントのような金髪の息子が生まれるのだろーか?

○ ローラントって,ほんっとに「情けない」姿が似合う二枚目なのね〜。『シンデレラ』のお父さん役のときも感心したけど,今回はいっそう。前の週に『ロミオとジュリエット』を見たとき,ウリアゼレカ@ロミオに「あのー,ちょっとでいいから毅然とできませんか?」と言いたくなったんだけど,うーむ,初演者がこうではああなるのはやむを得ないか。

○ こどもが生まれないのはそんなに不幸なことなわけ? 無理してお腹からではなく頭から生むほど,こどもは必要不可欠なわけ??(怒) なんか,日本の皇太子夫妻の境遇とか不妊治療が発達しすぎたために余計つらい思いをする方々などに思いを致してしまいましたよ。
いや,本当にこどもが欲しいならそれでいいのよ。でも,場面全体の描き方が「みんなできることが自分だけできない」ことに傷ついているみたいに見えてしまって,かなり本気で怒りました。

○ 衣装の色遣いや形は,私には少々前衛的すぎましたですねー。渋い色調の王子の国のほうはともかく,ラ・ベルの国のほうは,ここは道化の国か? と。王夫妻も冗談みたいな衣裳だしー。(ウェーバー@かっこいいティボルトが滑稽な王に変身していて,あらまー) でも,リラの精と宮廷の侍女たちの衣裳はかわいくてメルヘンだわ〜,で好き。

○ 振付がよくないのかダンサーがよくないのかわかりませんが,踊り自体は今ひとつつまらないなー,という感じもありました。

○ モルロッティはスゴイですわ。もちろん女性には全く見えませんが(見せる気もないし,その必要もないのであろう)この人なくしてはこの作品はできなかったのではないか,という感じでした。それにしても,ダンナと息子の情けなさってどうよ。

 

2幕

透明な球体に包まれ幸福と安寧のうちに16歳を迎えたラ・ベルのもとに求婚者たちが現れる。その中にカラボス=女王の姿も。カラボスに煽られ,次第に激した若い男たちは,球体を破り,ついには集団の力でラ・ベルを蹂躙する。身も心も傷ついたラ・ベルはリラの精の導きで,傷を癒すため長い眠りにつく。音楽は1幕がそのまま使われていた感じ。
王子はラ・ベルを救うため彼女の世界に向かうことを決断し,父王を振り切って出発する。

感想

○ 求婚者たちとラ・ベルのシーンは,踊り的には,この作品で一番の見どころだったのではないでしょうか。最初はラ・ベルの美しさに気圧されていた男たちが,集団心理でエスカレートしていって,彼女を外の世界に連れ出し,『マノン』2幕みたいなリフトを経て,服を剥ぎ取り,ついには輪姦に至る。
迫力もあるし,美しくもあって,見事な解釈であり,演出だと思いました。そして,見事であるだけに,たいへん不愉快でもありました。

○ 女王が完全に男性の姿(=カラボス)になって出てくるのはいかがなものか。もちろん男性が踊っているのは歴然なわけですが,でも,そのせいで,女王がカラボスに姿を変えたのではなく,カラボスが女王に姿を変えていた,という印象になってしまうのでは? 
おまけに,その結果,王子の世界のほうは女王不在になっている。そのタイミングで突如として旅立たれてもさー,怖いお母さんがいないからできたことで,しかも気の毒なお父さんを見捨てていくのね,なんて思ってしまいましたよ。

○ 求婚者たちが総じてかっこよくなかったのが惜しまれます。『ロミジュリ』を見てある程度諦めてはいたのですが,「目の保養」系の方も欲しいですー。お顔がよいとプロポーションがよくない,プロポーションがよいと姿勢がよくない,等々。

○ ラ・ベルは舞台奥の坂の中途で眠りにつくのですが,リラの精に連れられてそこまで上っていくときに,踵から先につくバレエでない動きをしていて,それが,背中を丸めた姿勢とあいまって,打ちひしがれた感じを出していました。なるほどー。

 

3幕

王子は,リラの精の導きで杭(?)の立ち並ぶ中で眠るラ・ベルを見出し,二人は運命の恋に落ちる。2幕の間奏曲に載せての幸福なパ・ド・ドゥ。しかし,そこにも女王の存在が不吉な影を落とす。彼女は父王を殺害し,王子を無理に即位させるとラ・ベルに襲いかかる。女王がカラボスと同一人物と気付いたラ・ベルは忌まわしい過去の記憶に苦しむが,王子が駆けつけて愛を確認し合う。二人は女王に立ち向かい,ついに勝利を得る。(音楽は,幻想序曲『ロミオとジュリエット』だそうです)
カウチに横たわる若者が目覚めて,すべてが夢であったことを知る。しかし,目の前にはラ・ベルがいた。彼は彼女に導かれて,彼女の世界に去っていく。

感想

○ うーむ・・・私には,なぜ王子がラ・ベルに惹きつけられるのか全く理解できませんでした。そして,王子の出現によってラ・ベルが救われる(癒される)のも,不可解だなー。傷ついた同士が慰めあう関係ということなのでしょうかね? おとぎ話でなくなっているから,なぜPTSDから立ち直れたのかそれなりに納得がいく話にしてもらわないと・・・。「愛の力」なのかもしれないけれど,出会ったばかりでそれはちと無理があるような。
それはそれとして,出会いのシーンと続いてのパ・ド・ドゥは美しかったです〜。互いの位置を変えて踊りながらの長いキスは『ル・パルク』より難しそうだなー。ここに間奏曲を持ってくるのもうまい。背後の坂が緩やかな流れに見えるような照明もすてき。

○ コピエテルスはすてきですね〜。非常に裸に近い衣裳で,正直言って私は好きではないですが,それでも美しく見えるというのはすばらしいと思います。エロティックな女性美もあり,現代的な強さもあり,見事な踊りと表現。

○ この作品の王子は,とにかく「情けない」系の人柄で,話が進めば進むほどいらいらさせられましたが,ローラントはとても役に合っていましたし,優しげな踊りがセクシーでもありました。(ただし,全く私のタイプではない)
踊りはちょっとお疲れの感じも。前の週の『ロミオとジュリエット』を故障で降板したという話でしたから,やはり本調子ではなかったのかもしれませんねー。

○ 結局のところ,女王がラ・ベルに危害を加えたのは,王子が水晶球の中の彼女に憧れを抱いたからだったのかしらん? 「息子をほかの女に取られたくない」的な雰囲気も感じるのですよね。王の衣裳(というか装置?)を着せてしまって永久に自分の支配下におきたいと思っているようでもある。
でも・・・それにしては,そこまでのモルロッティは強烈すぎました。登場の最初から獰猛で悪辣すぎたので,そういう「母」を描いているというよりは,極めてまっとうな敵役に見えてしまったような。

○ 主役二人が女王に対するシーンは,『白鳥の湖』のロットバルトを打ち破るシーンのようで感動しました。ただですねー,(その後の進行の関係からしかたないことではあるのですが)王子は最後の最後は舞台にいないのですわ。なので,「肝心のときに逃げ出すんじゃないっ」と怒りたくなったりして。

○ ラ・ベルの口づけでカラボスが死に至る,というのは,「愛の力が悪に勝った」という意味のようです。ちょっと理が勝ちすぎているかなー,という気もしますが,私はこういう論理的(?)なのは好き。
この作品では口唇がかなり重要ですよね。球体から外に出たラ・ベルの口に手を当てて前のほうに連れてくるカラボスとか,呼吸が苦しそうで大きな口を開けるラ・ベルとか,恋人どうしのパ・ド・ドゥの始まりの長いキスとか・・・その集大成としてこのキスがあるのかなー,という気もしたし。

○ ラストはハッピーエンドなのでしょうが・・・うーむ,夢想家の青年が本の世界に耽溺しすぎて,あっちの世界に行ってしまったようでもあり・・・私には,前向きな終わり方には思えませんでした。
あのー,あなたとしては幸せなのでしょうから余計なお世話かとは思いますが,ご家族や友人の皆さんが心配なさっていると思いますよ。早く理性を取り戻して,現実世界に戻ってきてくださいね。それが,大人になるということなのではないでしょうか? などと意見したいような気分で・・・見終わったときに「よかったわ〜」とにこにこしながら語る気分にはなれなかったのでした。

(04.8.7)

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