ルグリと輝ける仲間たち 2004 (プログラムA)

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04年7月19日(月・祝)

ゆうぽうと簡易保険ホール

 

第1部

『精密の不安定なスリル』

振付:ウィリアム・フォーサイス   音楽:フランツ・シューベルト

ミリアム・ウルド・ブラーム, ミュリエル・ズスペルギー, ドロテ・ジルベール,
オドリック・ベザール, エルヴェ・クルタン

びっくりしました。とってもとってもびっくりしました。これって,ほんとにフォーサイスなのぉ???

バレリーナはチュチュだし,音楽はきれいだし,フォーサイス風オフバランスとか,男女が組むことによる「ぎりぎりまで身体を引っ張った感じ」は出てこないし・・・ほんと,びっくりしちゃったわよ。バランシンかと思った。というか,プログラムには「バランシーンの遺産」と書いてあるけれど,私の目には,遺産どころかバランシンそのものに見えました。

作品自体は,「幕開きにふさわしい明るい現代バレエ」という趣で楽しくはあったのですが・・・フォーサイス作品にそんな形容詞がついていいのか? これはもしやフォーサイスの冗談なのか?? そして,ルグリは共犯者なのか,それともただ利用された間抜けな善意者???(←いくらなんでもそれはないよね) 

この作品はキーロフも上演しているはずなので,バランシンをプティパのように踊るキーロフがこれを踊るとフォーサイスもプティパのようになったのではないか・・・などと,この際関係ないことまで考えてしまいました。

えーと,ダンサーは皆よかったと思いますが,私としては,クルタンの安定してキレのよい動きとウルド・ブラームの軽快に上がる脚が気に入りました。(彼女,2年前よりずっと垢抜けてきれいになりましたね〜)

 

『アベルはかつて・・・』

振付:マロリー・ゴディオン   音楽:アルヴォ・ペルト

ステファヌ・ビュリヨン, ヤン・サイズ

今回の参加ダンサーでもあるスジェのゴディオン振付。白いズボンの男性ダンサー二人によって踊られました。
優れた作品かどうかはわかりませんが,ダメな作品でないのは間違いないと思いますし,私は好きです。

仲のよい兄弟だったのに,布を裂いたら大小ができたことから少ない側に鬱屈が生まれ(←事情を簡潔に視覚化していてよいアイディアだと思います),ついには,その布でもう一人を殺してしまう・・・。そういう,ワイドショーが飛びつきそうな骨肉の愛憎劇(←なんて言ったら,聖書に対して失礼か?)なのに,あえて音楽の盛り上がりや照明の変化などに頼らずに,踊りも静謐な雰囲気を保っているのが,とてもすてきだなー,と思いました。それによって,作品全体に宗教的な「格」みたいなものが出ていたのではないでしょうか。(眠くなるおそれも大きいとは思うが)

ダンサーもなかなかよかったと思いますが,ピュリヨンの五分刈りには驚きました。でも,サイズのほうは「収拾がつかん」感じの巻き毛なので,二人のコントラストが強調されてよかったと言えるかも〜。

 

『エスメラルダ』よりパ・ド・ドゥ

振付:マリウス・プティパより   音楽:リッカルド・ドリゴ

オレリー・デュポン, マチュー・ガニオ

デュポンは,それはもう美しく輝いていました。ジプシー娘にしておくのが惜しいような凛然たる美しさで,おお,これぞエトワール♪ という感じ。
ヴァリアシオンの最初,両足ポアントで客席を睥睨しながら(←笑顔だったからこういう形容は不適切かもしれないが,そう言いたくなるくらい貫禄があった)タンバリンを鳴らすところの間の取り方なんか,「きゃあああ,かっこいい〜」と。

技術的にもとてもよかったです。身体があまり柔らかくないのかしらん,ヴァリアシオン後半の脚を使ってタンバリンを鳴らすタイミングこそ「?」がありましたが,アダージオでの片脚ポアントのバランス技が長かったですし,コーダのフェッテがすばらしかった〜♪ ダブルを入れたり,後半では45度ずつ多く回って身体の向きを変える技も見せていましたが,それ以上に,フェッテそのものがきれいで滑らか。回転の必要上伸ばして巻き込む足の動きが目立たないのも上品でよいです〜。(なぜ目立たなかったのかよくわからなかったのですが・・・身体の後ろで処理しているのかしらん?) スピードや回数でもっと見せてくれるバレリーナはいるし,そういう踊りにも興奮はしますが,こんなふうにエレガントに回ってくれるのもすてきだわ〜♪♪

ガニオについては,登場の瞬間,すばらしく見事なプロポーションに目を奪われました。散々聞いていたし,写真も見ましたが,実際目の当たりにして,改めて感心。頭は小さいし,首は長いし,脚も長い。お顔は王子系というよりドゥミ・キャラ系のように思いますが,ハンサムなのは間違いないでしょう。

舞台上での華もあり,なるほどこりゃ前評判どおりだ・・・と思ったのも束の間,踊りのほうは「ありゃ」の連続でありました。サポートが安定していなかったのは,この日のデュポンは一人でも踊れそうな「自立した女」風だったから差支えないような気はしますが,ソロも不安定だし,なによりポーズが美しくない。なぜなのかなー? と仔細に観察してわかったのですが,足がきちんと5番に入っていないみたいね。
・・・と文句は書きましたが,エトワールという肩書きはついてしまったものの,まだ新人ですもんね。今後に期待いたしましょー。

 

『マニフィカト』(アリア)

振付・ジョン・ノイマイヤー   音楽:ヨハン・S・バッハ

エリザベット・プラテル, ヤン・サイズ

初めて見ました。

二人の動きの作り出す造形美が音楽とあいまって,静謐な別世界を作り出している印象。美しかったですし,しみじみと感動的でありました。

プラテルは,品格のある大人の女性の美しさ。第一線は退いているわけですが,そんな印象は皆無の見事な動きでした。サイズも長身をきちんとコントロールしてきれいな動き,パートナリングも滑らかで,よいダンサーですね〜。

そして,やはりノイマイヤーはいいなー,と思いました。かなりミョーな動きもさせていると思うのですが,それが突出しないで全体として雰囲気ある作品に仕上げる品のよさがよいわ〜。(ただ,冒頭の開脚グラン・プリエだけは勘弁してほしかった。短いスカートであれをやられるのは苦手だわ)

 

『四重奏のフレーズ』

振付:モーリス・ベジャール   音楽:ピエール・アンリ

マニュエル・ルグリ, 東京バレエ団

ルグリのために03年に創作された作品だそうです。

コラージュされた音楽の中,上半身は裸,下は赤のルグリが,叫んだり,難しそうな踊りを踊ったり,舞台上を走り回ったり,編物をしている4人の女性の椅子を倒したり,女性たちにリフトされたり,マイクを持って長い台詞を語ったり(歌いだすかと思ったわよ),「蜘蛛の糸」のように舞台奥に下がっていた綱をつかもうとしたら綱が上がっていったりしました。
数十年前に流行した不条理演劇のような雰囲気の作品で,面白かったです。(何回も見たいか? と聞かれると少々悩みますが・・・でも,私としては,『エンジェル』やソロ版『カルメン』よりこっちのほうがいいなー)

動き自体はあまりベジャールには見えないのですが(ルグリに合わせて振り付けたらこうなったのだろうか? それとも踊りが上手すぎてベジャール風にならないとか?),全体の雰囲気は,おお,ベジャールだなー,と。
台詞の訳から察するに,(いつか終わりが来る)ダンサーの生活がテーマなのでしょうが,もっと普遍的に「人生」をテーマにした,と言われても頷いてしまいそうな感じでした。

 

第2部

『ディアナとアクティオン』

振付:アグリッピーナ・ワガノワ   音楽:チェーザレ・プーニ

エレオノーラ・アバニャート, ステファヌ・ビュリヨン

ルジマトフファンにこういうものを見せると怒るぞ,という感じの上演。

それでも,ピュリヨンのほうは,あのー,その姿は風呂上がりの高校球児でしょーか? などという楽しみ方もできるし,上体が反らないダンサーにはこのパ・ド・ドゥは踊ってほしくないっ,というのはこちらの刷り込みのせいだと思うこともできました。率直に言って効果的とは思えないできではありましたが,難しそうな跳躍技を見せたのはガラらしくてよいとも言えますし,最後の大技リフトでタイミングが合わなかったのを,落とさず持ちこたえたのも立派だと思います。

でも,アバニャートは・・・私はダメ。全然ダメ。雰囲気的には女神の品格が感じられませんし,動きは見ていてものすごく居心地が悪くて,完全に拒絶反応が・・・。もしかすると,キーロフのバレリーナと踊り方(音のとり方?)が違うだけのことなのかもしれませんが,私の目には,全然踊れていないように見えました。

 

『幻想〜白鳥の湖〜のように』

振付・ジョン・ノイマイヤー   音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー

オレリー・デュポン, マニュエル・ルグリ, ヤン・サイズ

プログラムによると・・・第1幕のラスト,上の空の王とその心をつかもうとする王女とのパ・ド・ドゥ.そこに「影の男」が現れる・・・ということでした。
よかったのですが,期待ほどではなかったです。今回の公演のために準備した作品らしいから,踊り慣れていないんじゃないのかな。(この日は初日だったし)

いつものルグリのサポートは,難しい動きをしていても難しいようには全然見えないくらい流麗なのに,この日は動きが見えてしまって,「おお,難しそうなことをやっとるなー」という印象でした。いや,もちろん,普通のダンサーより上手なんですけどー。
表現面も,「表現してます。苦悩してます」という感じで,こちらの心に響いてくるものがなかったです。いや,これも,普通のレベルよりは上手というか表現していたとは思いますから,ちょっと期待が大きすぎたのよね。すみません。
衣裳とお髭はよく似合っていてすてきでした。

デュポンは美しかったですが,肩幅があるせいでしょうか,あまり衣裳が似合っていませんでした。うーん・・・でも,貴婦人らしくは見えたから,ああいう形に胸から肩が空いた衣裳は,ああいう感じに見えたほうが正しいのかなー? という気も。どうなんでしょ?
踊りとか雰囲気については,ルグリと同じですね。何回か踊った上で見せてくれるともっとよかったんじゃないかなー,と贅沢なことを思いました。

サイズは,ルグリに貫禄負けはしていましたが,もちろんそれはしかたないことですよね。役割は十分果たしていたと思います。

 

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』

振付:ジョージ・バランシーン   音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー

メラニー・ユレル, マロリー・ゴディオン

ユレルは,少々地味ですし,この作品で印象的に使われているパ・ド・シャの形が今ひとつきれいでない気はしましたが,きちんと音楽を表現している感じでよかったです。躍動感よりエレガントが勝る感じで上品な雰囲気。

ゴディオンは,リフトが弱いとは思いましたが(上半身を鍛えてくださいね〜),ソロは軽くてスピード感もあってとてもよかったです。特にヴァリアシオンが見事。あと,アダージオの踊り方(パートナリングの音のとり方というか・・・)が「どっかで見たことあるなー?」だったのですが,もしかするとルグリに似ているのかな?

このカップルの問題点としては,幸福感が薄いことでしょうかね。それぞれが職責を果たすのに一意専心しすぎていて,恋はおろか共同作業の雰囲気にも欠けるというか・・・。でも,二人とも上手でしたし,品がよくて清新な感じもあり,よい上演だったと思います。

 

『フー・ケアーズ?』

振付:ジョージ・バランシーン   音楽:ジョージ・ガーシュイン

第1パ・ド・ドゥ: エレオノーラ・アバニャート, マチュー・ガニオ
第1ヴァリエーション: ミュリエル・ズスペルギー
第2パ・ド・ドゥ: オレリー・デュポン, ヤン・サイズ
第2ヴァリエーション: メラニー・ユレル
第3パ・ド・ドゥ:ミリアム・ウルド・ブラーム, エルヴェ・クルタン
第3ヴァリエーション: ドロテ・ジルベール
第4ヴァリエーション: マニュエル・ルグリ

いや〜〜〜,パリオペのバランシンはいいねえ♪♪ みーんな上手で音楽に乗っていて,とーってもよかったです〜。若いダンサーが多いせいか,はたまた座長ルグリの人柄か,「Who cares?」というには品行方正な感じでしたが,その分スピード感と音楽的な感じが強まっていたんじゃないかな。
(正確には全員ではないけれど)総出演の感じもあり,とても盛り上がって「ああ,楽しかったわ〜」という気分で公演が終わりました。Aプロ・Bプロ通じて,この作品が一番よかったと思います〜♪

アバニャート/ガニオに関しては,「ふむふむ。二人とも古典よりこういうもののほうが得意なのね」と冷静に見ていたのですが,次のズスペルギーが軽やかで元気がよくてチャーミングで「おおっ♪」と盛り上がりました。

続くデュポン/サイズは,器量自慢でお金持ちのお嬢さん(成績もいいに違いない。ENA出身だったりして)と,本人は伊達男のつもりなのにちょっと抜けてるお坊ちゃんの恋の駆け引き(←掛け合い漫才とも)の雰囲気が秀逸。とーっても楽しかったです〜♪

で,ユレルが出てきて「うーむ。やはりプルミエだけあってズスペルギーよりうまい」と少し冷静に戻ったところでウルド・ブラーム/クルタン。小柄なカップルでかわいらしかったですし,軽快で幸福そうで見ていて嬉しくなれる感じ。
そして,クルタンは上手ですね〜。サイズもそうだけれど,スジェでもこれくらいうまいって,いったいどういうことなんでしょ。新国立に少し分けてほしいわっ。

・・・と余計なことを考えながら拍手していたら,次のジルベールがすごかった。
おそるべき滑らかさで回転するのよ〜。エトワールの最有力候補とは聞いていましたが,なんでこんなに上手なんでしょー,と唖然。見覚えがある振付だから,世界バレエフェスティバルなどでよく上演されるヴァリアシオンだと思いますが,もしかすると,今まで見たバレリーナの中で一番上手だったかも〜。

そして,そして,最後に登場したルグリは,やっぱりもっとすごかったです〜。このヴァリアシオンもいろいろなダンサーで見ていると思いますが,今まで見た中で最高! 段違いにすばらしい!! と断言できます。
どう表現したらいいのか言葉が見つからないのですが・・・とにかくうまいんだわ。「ちょっと踊ってみようかな」という感じで,さらっとパをこなしていて,それが完璧な音楽の表現になっている。脚も腕も全身が柔らかでいて弾むようで,自然で・・・とにかく上手。ほんとうに上手。すばらしく上手。最高に上手。
惚れ惚れしましたし,ずっと見ていたかったです。

これは後から思ったことなのですが・・・表現だとか精神性だとか,そんなことはどうでもいいんじゃないかなー。音符のとおりに,振付のとおりに踊れば(←人によって多少やっていることが違うような気もするから振付どおりなのかどうかは実は知らないが,たぶんルグリは正しく踊っているだろうと仮定),それが完璧にできれば,それが一番すばらしい踊りになるんじゃないかなー。もちろんそれができるダンサーは稀有だし,そういう振付も稀有なのでしょうが,でも,そういうものを見せてもらったんじゃないかなー。
そう思いました。

最後の全員で踊るところもよかったです〜。ルグリが「さあ,行こうぜっ」みたいなリーダーシップを発揮して,仔分の皆さん(って失礼?)もみんなノリノリで「踊る歓び」が客席に押し寄せてくる感じ。
うーん,楽しかったわ〜♪♪ 

 

というわけで,多々「?」がありつつも,とても楽しい公演でした。
今さらこんなこと書いたら笑われるかもしれないけれど,やっぱりルグリってすごいよねえ。

(04.7.31)

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ルグリと輝ける仲間たち 2004 (プログラムB)

04年7月25日(日)

ゆうぽうと簡易保険ホール

 

第1部

『パキータ』

振付:マリウス・プティパより   音楽:ルードヴィヒ・ミンクス

オレリー・デュポン, マニュエル・ルグリ, 東京バレエ団

あまりよくなかったです。
ヴィシニョーワ/ルジマトフ(+レニングラード国立バレエ)の刷り込みのせいもあるとは思いますが,二人ともあまり調子がよくなかったのではないかなー。あるいは,ルグリのほうは,3演目出演だからセーブしていたのかなー。

デュポンは安定した踊りでしたが,Aプロの『エスメラルダ』に比べて動きが重かったです。音楽が遅めだったからそういう印象を受けたのかもしれないけれど,でも,うーん・・・なんか地味だったし・・・。
あのー,もしかして,ルグリと踊るより若くてかわいいコと踊るほうが楽しいのでしょーか? あるいは,『エスメラルダ』の尋常ならざる輝きは,「私がなんとかしなくちゃ」という使命感から来るものだったのでしょーか?

ルグリのほうは,ううむ・・・白いタイツも似合って脚のほうはよいのですが,上半身がきれいでない。なんか,肩に力が入っている感じで,彼の踊りがそんな風に見えたことって今までなかったんですけれどねえ・・・。連日3演目出演で疲れていたのかなぁ? それとも,中途半端に軍服仕様を取り入れた衣裳のせいなのかなぁ?

それから,古典に関しては,デュポンはルグリには大柄すぎるみたいですね。何回か出てくるショルダーリフトがたいへんそうに見えました。(名人ですからミスはしませんが,珍しくも「よいしょ」感がありましたし,足もとがきつそうなのが気になってしまって,舞台を楽しむ妨げになる)

コール・ドは・・・長身のルテスチュ/マルティネスが真ん中を踊るときと違って視覚的違和感が少ないから,動く舞台背景としては結構だったと思いますが,共演者と考えればもう少しきれいに踊ってほしいなー,と。(去年の世界バレエ・フェスティバルのときのほうがよかったと思います)

 

『スターズ・アンド・ストライプス』

振付:ジョージ・バランシーン  音楽:ジョン・フィリップ・スーザ

ミュリエル・ズスペルギー, エルヴェ・クルタン

ええと・・・この作品は,どう受け止めたらいいのかよくわからんのですわ。プログラムによるとパレードのバレエ化だそうですが,軍隊様式の取り入れ方から見て一種のパロディーのようでもあり,全編上演の最後に背景として星条旗が現れる雰囲気からすると,無邪気な国威発揚バレエのようでもあり・・・。それとも,単に音楽に合わせてバレエを作ったらああなっただけなんですかね? うーむ・・・どうなんでしょ?

まあ,それはさておき,このパ・ド・ドゥのアダージオはつまんないなー,と見る度に思います。NYCBの公演でならともかく,パリ・オペラ座のダンサーにわざわざ見せてもらわなくても差し支えないんですけどー。

上演自体は,二人とも軽やかでよかったと思いますし,特にクルタンの足さばきは見事だったと思いますが,うーむ,このパ・ド・ドゥは,パリのエレガンスとかフランスのエスプリとか,そういう類のものを捨て去って,もっと脳天気な雰囲気を出して踊るのが正しいのではないでしょーか? 以前見たデュポン/ルグリもそういう意味ではダメだったから,やはりフランスのダンサーに踊ってもらわなくても・・・。ぶつぶつ。

あと,クルタンの敬礼がなんか・・・えー,私の職場が入っているビルの警備員さんの敬礼のほうが,よっぽどぴしっと決まっておりますです。でも,パロディーだとしたら,ああいうにやけた感じでいいんだろうし・・・。でも,マジメに軍隊調をやっているつもりなら全然ダメだし・・・。うーむ・・・どうなんでしょ?
・・・と話が最初に戻ってしまうのでした。

 

『モーメンツ・シェアード』

振付:ルディ・ヴァン・ダンツィヒ   音楽:フレデリック・ショパン   ピアノ:高岸浩子

エレオノーラ・アバニャート, ステファヌ・ピュリヨン

暗い照明の中,紫の衣裳で美しい音楽に乗せて踊られるきれいで雰囲気があるデュエット。

こういう作品でのアバニャートは流麗でとてもよいですね〜。持ち前のコケティッシュな雰囲気も生きていてすてきだったと思います。
ピュリヨンは,堅実なパートナーでしたし,きれいでなかったとも言いませんが,さすがに五分刈りはこういう作品ではキツイ。うん,でも,その効果もあって清潔な感じだった,と誉めておこうかな。(それがこの作品に向いているかどうかはやはり疑問ではあるが)

 

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』 

振付:ジョージ・バランシーン   音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー

ドロテ・ジルベール, オドリック・ベザール

ジルベールはとてもよかったです〜♪ 長い腕が柔らかく動いて踊り全体に明るい感じを与えていましたし,細かいステップの見せ方も上手で,たいへん魅力的。
まあ,見せ方については,キーロフのヴィシニョーワと共通する「アクセントつけすぎ」という意見もありそうに思いますが(ルディエールのファンの方なんかは気に入らないんじゃないかなー?),私にとってはこの作品はヴィシニョーワがベストだから,この方向で差支えないです〜。

ベザールは,えー,ソロもサポートもいっぱいいっぱいという感じでしょうか。長身のダンサーにはこのパ・ド・ドゥのスピードはつらいのかな,とも思いますが,着地の大音響は改善してほしいなー。あと,この作品では見得切り(それとも腕の動きの癖なのかな?)はやめたほうがいいと思いますー。

 

『さすらう若者の歌』

振付:モーリス・ベジャール  音楽:グスタフ・マーラー

ローラン・イレール, マニュエル・ルグリ

この作品を見るのは2回目なのですが,以前見たときは熟睡してしまったため,初見と同じ状態でした。
イレール@若者が希望に溢れていたり苦悩したり自分を知ろうとしたりして,ルグリ@影がそれを助けたり妨げたり寄り添ったりする・・・という雰囲気でしょうか。一人の青年の内面の葛藤を現しているのかな。

振付は,ベジャールにしては普通のバレエの動きを中心にした感じで,ごく普通のネオクラシックの作品に見えました。で,ものすごく健全で,なんか教育委員会推薦図書「悩みがあるのが青春だ!」みたいな趣でしたわ。
うーむ,プログラムによると,初演のときは「従来のバレエの概念を破る作品としてセンセーショナルな話題を呼んだ」のだそうですが,いったいどこが? と不審に思ってしまいましたよ。30年前には男性二人で踊ること自体がセンセーショナルだったんですかね? それとも,ヌレエフがベジャール作品を踊るという事態がセンセーショナルだったのだろうか?? 

えーと,上演自体は,二人とも上手ですから悪くはなかったのですが,感動するほどよくもなく・・・という感じ。
私はちょうどイレールとルグリがエトワールになるかならないかの時期からバレエを見始めたので,この二人が共演している(しかも作品がヌレエフのために創作されたものである)という事実とカーテンコールで肩を抱き合う二人の姿にはしみじみしましたから,見られてよかったな,とは思います。でも,ルグリに対しても,イレールに対しても,そういう付加価値だけで感動できるほどの思い入れはないのよね,私は。

(04.8.1)

第2部

『精密の不安定なスリル』

振付:ウィリアム・フォーサイス   音楽:フランツ・シューベルト

エレオノーラ・アバニャート, メラニー・ユレル, ドロテ・ジルベール,
ヤン・サイズ, マロリー・ゴディオン

Aプロでは全然フォーサイスに見えなくて(バランシンに見えて)仰天したのですが,この日はちゃんと「不安定」になっていてかなりフォーサイスっぽかったです。どこがどう違うのか実はよくわからないけれど,あまりに違うので今度はそれにびっくり〜。

たぶん,この日の踊り方のほうが正しいのでしょうし,おそらくそれは,主としてアバニャートとユレルの功績でしょう。ジルベールはやっぱりバランシンみたいに踊っていて,「全然ダメじゃん」でした。Aプロのときは「上手だなー」と思ったし,本人の踊りは変わっていないのに勝手なものですわね。あはは。
男性は二人ともよかったと思いますが,サイズのほうが腕の使い方がフォーサイス風に見えたような。

まあ,でも,変わった作品だとは思いました。単に私があまりフォーサイスを見ていないから驚いたのかもしれませんが,「シャープに踊っていた次の瞬間,やる気なさそうにすたすた歩く」に代表されるようなユーモアもないし,照明も明るいし,音楽はおなじみのウィレムスではないし,「なんか違うなー」感は非常に強かったです。一番「違うなー」だったのは,バレリーナが一応チュチュのせいもあってか「かっこいい」存在ではないことかな。
ふーむ,こういう作品もけっこう多いのかしら〜? それともやっぱりなにかの冗談なのかしら〜?

 

『眠れる森の美女』

振付:ルドルフ・ヌレエフ   音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー

ミリアム・ウルド・ブラーム, マチュー・ガニオ

ヌレエフ版は初めて見たと思うのですが,ヌレエフ特有の「パを詰め込めるだけ詰め込んだ」ではないのですねー。アダージオからヴァリアシオンまではごく普通の感じに見えました。(補足:よく考えてみたら,かなり前に,松山バレエ団で見ておりました。さらによく考えたら,スカラ座バレエでも見ています)
男性ヴァリアシオンのマネージュの前半が身体を斜めに倒して回る動きなのはヌレエフの振付なのかな? それともダンサーの裁量なのかしらん? いずれにせよ,デジレ王子はそんなことをしないで,正攻法できれいに舞台を回ってほしい,と私は思いますが・・・。
コーダは二人での踊りが増えていた感じで,いっしょにパ・ド・シャ(? 両脚で菱形を作る技)で跳ぶのを見て,おお,ヌレエフだなー,と。

ウルド・ブラームは,少々余裕がない感じではありましたが,きちんと踊っていたと思います。小柄で愛らしい雰囲気ですし,品もよく華もそれなりにある感じ。(モーラン系?) グラン・パ・ド・ドゥのオーロラにしては元気がよすぎる気はしましたが,16歳のお姫さまだと考えればよかったのではないでしょうか。

ガニオについては・・・私は全然ダメでした。プロポーションと華は立派な王子ですが,踊りもマナーも全然王子じゃないんだもん。あ,でも,アダージオで必死さが顔に出ているのが,かつてのルジマトフの「いつでも熱愛,場違いに熱愛」の王子の切なげな表情にちょっと似ていて,ほのぼのした気分になりました。(うーむ,これじゃ誉めたことにならないか?)

 

『ル・パルク』

振付:アンジェラン・プレルジョカージュ   音楽:ヴォルフガング・A・モーツァルト

オレリー・デュポン, ローラン・イレール

映像をざっと眺めたことはありましたが,舞台で見るのは初めて。というか,日本初演だと思います。

すばらしかったです。
プログラムによると,「恋愛の最終段階の作用を表わす“解放”のパ・ド・ドゥ」だということでした。最終段階という意味はよくわかりませんでしたが,静謐でありつつ情熱的,官能的でありつつ上品で・・・かなわぬこととは知りつつも,一度でいいからこういう恋をしてみたい・・・と思ってしまうような上演でありました。

デュポンは美しく,しかもかわいらしかったです。
彼女は,あまり感情の表出をしないバレリーナだと思いますが(よく言えば気品がある,悪く言えば無味乾燥),それはいつもどおりだから,かなり官能的な振付も上品に見えて,いかがわしさが皆無。そして,とても愛らしく見えました。少女のようと言うのが,この作品の場合に誉め言葉になるのかどうかわからないですが・・・大人になりかけている(なろうとしている)少女の雰囲気。

ええとですね・・・話が迂遠になりますが・・・初めて男性の部屋に泊まるでしょ。彼がいれてくれたコーヒーを飲みながら少しおしゃべりして,そろそろ・・・という感じでシャワーを浴びる。で,もちろん着るものがないわけ。でも,まさか最初から裸というわけにもいかないから,彼が自分のワイシャツ(または,そういうしっかりした感じのデザインのパジャマ)を出してくれるの。それを羽織ってるみたいな感じの衣裳で・・・いや,正確には違う衣裳だったということは知っていますが,そういう感じに見えて,そういう情景を勝手に想像しました。

イレールのほうは,成熟した大人の男なわけです。実際にはそこまで年齢差はないわけですが,20歳は年上に見えました。(離婚歴もあるかもしれない,もしかすると,小学生くらいの子供がいて月に1回会っているかもしれない,いや,今だって妻帯者かもしれない,十代の娘がいて,デュポンは娘の友達かもしれない・・・と妄想は続く)
そして,前半は,ただ立っているような印象。突っ立っている,とい言ってもいいかも。その,ただ立っているだけの姿に濃厚な大人の男の色気があって,すばらしかったです。有名な長〜い接吻をしながら踊る場面もすてきですし,最後にデュポンを抱き上げて下手の袖に入っていくところまで終始見事。

そうですねー,そもそもの『ル・パルク』がどういう物語なのか知りませんが,今回の上演を見て,若いころ読んだサガンの小説を思い出しました。手もとにないし詳しい内容は忘れてしまったけれど,「ある微笑」だったかな?
・・・などと柄にないことを思い出すくらい,すてきな舞台でしたよん。

 

『アレス・ワルツ』

振付:レナート・ツァネラ   音楽:ヨハン・シュトラウス

マチュー・ガニオ, オドリック・ベザール, ヤン・サイズ, エルヴェ・クルタン, マロリー・ゴディオン

初めて見ました。(抜粋上演だそうですね)

前半は,ベザールとサイズに後からガニオも加わって,ちょっとハンガリー風(チャルダッシュ?)の音楽で踊りまくる感じ。踊りは3人ともよかったですが,やっぱりサイズに一日の長があったかな。
楽しいし,黒い衣裳で長身美男のダンサーが揃って踊って,まああ,目の保養だわ〜♪ とたいへん盛り上がりました。

(後半は,音楽が『こうもり』での小嶋直也の舞台を思い出させたため,えー,舞台に集中できなくて,なにがなんだかわかりませんでした。無責任ですみませんが,クルタンとゴディオンの能力から推測するに,たぶんよかったのではないでしょーか。)

 

『椿姫』

振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フレデリック・ショパン

モニク・ルディエール, マニュエル・ルグリ

3幕の,いわゆる「黒のパ・ド・ドゥ」の上演。
たいへんよかったと思いますが,↑の事情でこちらの精神状態に難がありました。もったいないことですし,変な話かもしれませんが,ダンサーに対しても申し訳なく思います。

この作品では,このあと二人が会うことはありません。アシュトンの『マルグリットとアルマン』のように,死の間際にアルマンが駆けつけて彼の腕の中で死を迎えるのではなく,マルグリットは一人で死んでいくわけです。そして,作品の中で最後の逢瀬であるということと,もしかすると,この二人が日本で共演するのはこれが最後かもしれない,ということが重なって見える・・・そういう舞台だったのではないでしょうか。
ですから,たいへん感動的でした。そして,もちろん,そういう知識というか思い入れのようなものがなかったとしても,感動的な上演だったと思います。

 

全体としては・・・私はAプロのほうが楽しかったです。Aプロの『フー・ケアーズ?』がとても気に入ったし,この日は最初の『パキータ』で躓いたせいもありますが,まあ,最後に,舞台とは直接関係ない事情でドツボにはまったという要素が多分にありましたから・・・うーむ,あまりアテにならない感じ方ではありますね。
でも,Aプロのほうが,誉めるにせよ貶すにせよ,新鮮な気分でアレコレ言いたくなるようなプログラムだったんじゃないかなー?

(04.8.3)

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