ゴールデンバレエ of ロシア 2004 (プログラムA)

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04年7月10日(土)

東京文化会館

 

この公演は,チェルノブロフキナとガリムーリンの舞踊生活20周年記念公演と銘打たれていましたが,それにしては客席が淋しくて,LやRの席は1階も上のほうもがらがらだったのがかなり残念でした。

出演は,ガリムーリンが所属する(していた?)モスクワ・クラシック・バレエのダンサーたちで,それにゲストとしてモスクワ音楽劇場のチェルノブロフキナ,クラピーヴィナ,ザバブーリン,スミレンスキーが加わったという感じ。

 

天地創造 

音楽: A.ペトロフ 

振付: N.カサトキナ, V.ワシリョフ

アダム: イルギス・ガリムーリン     イヴ: エカテリーナ・ベレジナ

神様: アンドレイ・ロバレフ

悪魔: ニコライ・チェヴィチェロフ     魔女: 成澤淑榮

3人の天使(女): リュドミラ・ドクソモワ, アレクサンドラ・レージナ, オクサナ・テレーシェンコ

2人の天使(男): イオン・クローシュ, マクシム・ゲラシモフ

国立モスクワ・クラシック・バレエ

モスクワ・クラシックの芸術監督のカサトキナ+ワシリョフの振付。初めて見ました。(というか,日本初演だそうです)
プログラムによると「フランスの風刺画家ジャン・エッフェルの聖書にまつわる絵がモチーフになっている」とのことでしたが,その辺りは私は不案内なのでなんとも・・・。旧約聖書のアダムとイブの話を忠実にバレエ化した感じでした。

なのですが・・・神様とか悪魔とか天使の描き方が軽々しくてびっくり〜。
映像の断片を見たことはあって,堂々たる大作とはちょっと違うのかなー,とは思っていましたが・・・うーむ,ユーモラスというかコミカルというか・・・社会主義ソヴィエトで聖書の話をバレエにしたからああせざるを得なかったのだろうか? やはり「風刺画家」の絵がモチーフだからだろうか? それとも,そういう作風の振付家なのだろうか?

具体的にどう「軽々しい」のかというと・・・女性の天使は肩から肘を身体の脇につけて肘から手首は上に向けて,掌は肩の辺りでひらひら〜っとさせているの。男性の天使は,終始両手を胸の前で組んで,小首をかしげている。神(←かりにも創造主なわけですよね)は,白いかつらと白い髭で,何か思いつくたびに右手の人差指を立てる。で,ちょこちょこ歩いていたかと思うと,唐突に派手な跳躍を見せたりするんだわ。衣裳はギリシャの神様ですか? という感じだし,一方の悪魔は,赤いユニタードに縄にしか見えないしっぽをつけた衣裳だしー。

(旅公演だからかもしれませんが)装置も簡素で,天国の門(←禁断のリンゴを食べたアダムとイブはそこから追放されるわけです)なんて,舞台上での持ち運び機能を最優先にデザインしました,という趣で簡素のきわみ。『眠り』1幕の最初でコール・ドが花綱持って踊るじゃないですか。あの花綱をより簡素にした感じというか。

というようなことを含めて,とても面白かったです。感動につながる面白さではなく「ふむふむ,なるほど」の面白さですけれど,たいへん興味深いものでした。

「なるほど」の代表はアダムとイブの踊り。無垢なころはかわいらしくて,性愛を知ってからは大人の男女のパ・ド・ドゥになるの。わかりやすいですー。ただ,後半は,この二人だけの踊りの場面が続いて,少々飽きたのも事実です。
長すぎるのも悪かったのかもしれません。そもそも2幕の作品を今回の公演のために1幕ものにしたそうで,1時間20分くらいあったんじゃないかしらん。装置や衣裳の豪華さなどで楽しめない作品の場合,この長さはちょっとキツイなー。

イヴ役のベレジナは,小柄ですがとてもきれいなプロポーションで,足の甲が特にきれい。踊りは軽やかでしたし,ちょっとコケティッシュな感じのお顔が役に合っていたと思います。
アダムのガリムーリンは,日本国内の公演でいつでも見られるダンサーであるため,今ひとつ有り難味に欠ける気分になりがちですが,優れたダンサーなのだなー,と改めて思いました。最初のうちは愛嬌があってチャーミングで,イブと恋愛関係になってからは,男性的で頼もしいの。でも,正直なことを言えば,7,8年前のテクニック・体力全盛のころに見たかったなー,という気も。(もっと正直に言えば,モスクワ時代のマラーホフはさぞかわいかっただろうなー,とも思った)
あとは,悪魔のチェヴィチェロフが,キレがある踊りでとてもよかったです。

最後,「生めよ,殖せよ,地に満ちよ」という雰囲気で多数の(←というほど多くはなかったが)ダンサーが登場して大団円になったあと,総登場で技を披露する感じのフィナーレがありました。そもそもの作品にあるのか日本公演用のサービスなのかは不明ですが,これも楽しかったです。
ガリムーリンはお疲れのようでしたが,成澤淑榮@魔女はここで本領発揮。かつてほどの技の冴えはなかったですが,回転の安定感は変わりませんね〜。

 

カルメン組曲

音楽: R.シシェドリン

振付: A.アロンソ 

カルメン: タチヤナ・チェルノブロフキナ   ドン・ホセ: ドミトリー・ザバブーリン

エスカミーリョ: ゲオルギー・スミレンスキー   運命(牛): ナタリヤ・クラピーヴィナ   隊長: イオン・クローシュ

国立モスクワ・クラシック・バレエ

私はこの作品はあまり好きではありません。なんか古いなー,盛り上がりに欠けるなー,といつも思います。
でも,チェルノブロフキナのような魅力的なダンサーが踊れば,それなりにはよく見えるのね〜,というのが今回の発見でした。

チェルノブロフキナは美しかったです。プログラムによると最近二人目のお子さんを出産したそうで,少しふくよかになっていましたし,動きのキレも,(私の記憶している)彼女本来のものではなかったと思いますが,ほんとうに美しかった。

雰囲気としては,いつも自分の気持ちに忠実に生きている颯爽としたお姐さんかな。強さもあるしセクシーでもある。でも,その「セクシー」は妖艶とは違っていて・・・うーん・・・説明するのが難しいな・・・べたべたした感じが皆無の,品のいい色気と言えばいいのかしらん。ミステリアスな「ファム・ファタール」が感じられない,現実的な女性らしさ,というか。
そして,かわいげもありました。エスカミーリョが登場したあとに,ホセとの濡れ場があるでしょう? あそこはコケティッシュに振る舞ってホセを手玉にとるシーンだと理解しているのですが(違いますか?),そうではなくて,本気でホセだけに惚れている「かわいい女」に見えて・・・うーむ,この魅力に逆らうのはそりゃ限りなく不可能に近かろう,と感嘆しました。

ザバブーリンのドン・ホセは,ひたすらカルメンが好きですがっている感じ。「真面目な人が思いつめると怖い」というよりは,「お坊ちゃんが道を誤ってしまいました」みたいでしたが,情熱的な中に情けなさが感じられてよかったです。
それから,プロポーションがいいですよね〜。バレエでは風采は重要だわ〜,と当たり前のことを改めて思いました。(←ロシア国立バレエとつい比較した)

風采がよいのはエスカミーリョのスミレンスキーも際立っておりました。長身でプロポーションが見事で,彼の場合,お顔もよいです〜。踊り自体は「普通に上手」程度で動きのキレが今ひとつだとは思いましたが,かっこいいからいいわね〜,と。

男性で一番気に入ったのは隊長役のクローシュです。力強い動きで存在感もあり,役の雰囲気にふさわしかったと思いますし,ザバブーリン,スミレンスキーと同じ動きをするシーンでは,彼が一番上手に見えました。(『天地創造』の天使を意識して見られなかったのが残念だわ〜)

運命を象徴する牛の役はクラピーヴィナが踊ったのですが・・・ううむ・・・ミスキャストだったのではないでしょうかねえ。あまり見たことはないのですが,たしか愛らしい感じのバレリーナですよね。小柄なせいでしょうか,存在感がありませんでしたし,踊りも印象に残りませんでした。

コール・ドは,あまりよくなかったように思います。この作品でどの程度「揃えて踊る」ことが求められるのかわからないのですが・・・揃ってはいませんでした。特に,手拍子が全然揃っていないのには「やる気あんのか?」と言いたくなりましたが・・・揃わないほうがスペインの雰囲気が出るなどということもあるのだろーか?

作品の最後,4人が絡み合っての場面は,今ひとつ盛り上がりに欠けたと思います。「うーん,やっぱりこの作品つまんないんじゃ?」という気もしたのですが,もしかすると,チェルノブロフキナ以外の3人の力不足もあったのかもしれない,という気もするし・・・どうなんでしょうねえ?

 

全体としては,両作品通じて「冷戦時代のロシアバレエ」を見た,という感じでしょうかね。私としては面白かったからいいのですが,人に勧められるかというと・・・うーん,「チェルノブロフキナは一度見たほうがいいと思うけどー」程度かな。

(04.8.15)

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