ルジマトフ&ロシア国立バレエ団(Aプログラム)

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04年6月26日(土)

オーチャードホール

 

初めて見るバレエ団。お目当てはもちろん第2部の『シェヘラザード』でしたが,プログラムには珍しい演目も入っていて,それも楽しみに見にいきました。

が,しかし,後者に関しては,かなり期待外れでありました。
まず,バレエ団のレベルはあまり高くはなかったと思います。そうねえ・・・ノヴォシビルスク・バレエより下,インペリアル・ロシア・バレエよりは上,という感じでしょうかねー。もちろん下手ではないのですが,ダンサーの容姿(プロポーションとかお顔とか)が,ロシアの一流バレエ団に比べてかなり劣る印象で,そのためクラシック作品を魅力的に見せられない感じでした。
それから,「珍しい演目」の代表『オンディーヌ』が,えー,めったに上演されないのはもっともだなー,と納得してしまうようなモノでありました。

でも,前半の最後の『ワルプルギスの夜』がよかったし,後半は「すばらしいに決まっている」マハリナ/ルジマトフの『シェヘラザード』でしたので,終わったあとはよい印象が残りました。

 

第1部

『ベニスのカーニバル』 よりグラン・パ 

振付:M.プティパ   音楽:C.プーニ

ナタリア・アシキミナ, アレクサンドル・スモリャニノフ, ロシア国立バレエ団

4組のコール・ド(?)つきで上演されました。アダージオとコーダは4組のカップルがいっしょにいて,男性は黒い仮面で目の周りを覆っていて,あ,なるほど,カーニバルなのねー,と。たしか,男性ヴァリアシオンでは女性4人が,女性ヴァリアシオンでは逆に男性4人がついていたんじゃなかったかな。(←記憶不確か)

上演としては,ううむ・・・ヌルいというか重いというか,踊るのにせいいっぱいで,カーニバルらしい楽しげな感じが不足していたような。テクニック的にかなり難しい踊りだと思うので,そこまでの名人ではなかったという感じでしょうか。

 

『くるみ割り人形』 よりパ・ド・ドゥ

振付:V.ワイノーネン   音楽:P.チャイコフスキー

アンジェリカ・タギロワ, ユーリー・ブルラーカ

カヴァリエ4人がつかないワイノーネン版グラン・パ・ド・ドゥ。

ブルラーカは頭が小さいので白いカツラが似合っていましたし,腕も脚も長く細く,見事なプロポーションでした。マラーホフやマトヴィエンコもびっくり! のプロポーションというか。
王子にしては線が細すぎる気もしましたが,優美な踊りで,このカンパニーの中ではよかったと思います。
タギロワのほうはですね・・・技術的には悪くないのでしょうが,容姿と雰囲気が,たいへん失礼ながら「おばさんくさい」感じ。このパ・ド・ドゥを踊るバレリーナとしては,私の許容範囲外でありました。

 

『オンディーヌ』 (『ナイアードと漁夫』より)

振付:M.プティパ   音楽:C.プーニ

マイヤ・イワーノワ, イリーナ・アブリツォーワ, アントン・グエイケル, ロシア国立バレエ団

セットつきの上演で,けっこう長かったです。初めて見る作品なので楽しみにしていたのですが,うううむ・・・つまらなかったですなー。
バレエ史に造詣の深いプリンシパルのブルラーカ(プログラムの写真も,そういう学究的な雰囲気を漂わせていてすてきです〜。ちなみに,ロシア功労芸術家だそうで)がプティパの作品を復元したという話なのですが,ふーむ,これ,ほんとにプティパなのかなー??? という印象の振付で,そういうマニアックなことを考える楽しみはありましたが,作品としては,話も踊りも盛り上がらないというか,冗長というか,プログラムであらすじを知っていなければ意味不明というか・・・。

水の妖精ナイアードとスキップしながら出てくる漁師マテオとの出会いがあって,網を使ってナイアードが見えたり見えなかったりするような感じの動きがある。その後,村人8人(女性6,男性2)が出てきて,ひとしきり踊って,マテオも婚約者ジャンニーナといっしょに加わって楽しく踊るところにナイアードが出てきて,マテオにしかその姿は見えない。しかし,マテオはナイアードに執着している様子もなく,ナイアードも割合あっさり姿を消し,10人は楽しく踊り続けて去る。ナイアードはマテオを追って舞台に現れ,照明も暗く音楽もドラマチックになる中,彼女は自分が影を持つ身体になったことを知りショックを受ける。(動くと影が出るのは,不死を失い肉体を得たことを現すそうです) しかし,すぐに立ち直り,楽しげに踊りだし,ほかの10人も現れて彼女を受け入れてハッピーエンド,という感じでした。

ナイアードが不死を失っても肉体を得たことを喜ぶほどマテオに恋しているようには見えないという基本的な「?」がある上に,最後も彼は婚約者連れで現れていて,ナイアードの恋が成就したようにも見えない。いったいぜんたい,どういうお話だと考えればいいのだろうか??? 
うーむ,うーむ・・・あれですかね? この後に続きがあって,とりあえず人間になって,村で暮らすうちに三角関係になって・・・と,話が続くのかしらん?

普通のクラシック風のリフトがないし,群舞のフォーメーションが横一列の感じだし,全員でアントルシャ・カトル(シス?)の連続をする動きなどもあり,なんとなく,プティパというよりブルノンヴィルを思わせる感じでした。衣装がクラシック・チュチュでなく,『ジゼル』1幕や『ナポリ』風のスタイルだったせいもあるのあるのかなー。1874年の作品ということだから,プティパとしては初期の作品で作風が完成されていなかったのかなー。

 

『盲目の少女』

振付:V.ゴルデーエフ   音楽:L.リッチ

千野真沙美, ドミトリー・プロツェンコ

足首まであるグレー(ブルーだったかも)のレオタードの女性と白いタイツのみの男性による短いデュエット。

特に心動かされたわけではないですが,ロシアの現代作品にありがちな「悪趣味としか言いようがない」ものではなく,叙情的な感じの作品でよかったです。まあ,一番よかったのは短いことだったかも〜,という気がしないでもないですが。

 

『パガニーニ』

振付:V.ゴルデーエフ   音楽:G.F.ヘンデル

ユーリー・ブルラーカ, ヴィターリー・マニン

白い足首まであるレオタードの男性がパガニーニらしく,もう一人の赤の総タイツで頭までおおった衣装に黒いマントの男性が,ヴァイオリンになったり,キリストの受難の十字架になったり,パガニーニに襲いかかる芸術的苦難や世俗的困難を体現したりしているみたいでした。
よい振付かどうかはよくわかりませんが(少なくとも,ゴルデーエフには,「独自の舞踊言語」的な振付の才はなさそう),男性どうしのデュエットならではの迫力があり,(ありがちな手法ではありますが)黒いマントの使い方なども効果的で,私は気に入りました。

赤い衣装のブルラーガの細くて長い腕と脚は,ある意味異様な印象を与えるほどで,その異様さが人間の力ではどうにもならない「宿命」とか「不吉」とかそういったものを象徴している感じがして,非常に印象的。
マニンがもう少し上手なダンサーだともっとドラマチックになったんじゃないかなー。

 

『ゴパック』 (『タラス・ブーリバ』より)

振付:R.ザハロフ   音楽:V.ソロヴィエフ=セドイ

ドミトリー・ムラヴィネツ

ムラヴィネツは小柄な金髪。威勢がよくてかわいくて,とってもよかったです♪

 

『ワルプルギスの夜』 (オペラ『ファウスト』より)

振付:L.ラブロフスキー/V.ゴルデーエフ   音楽:C.グノー

エレーナ・オソキナ, コンスタンチン・テリャニコフ, コンスタンチン・アヴェリン, ロシア国立バレエ団

物量作戦だし,いろいろな傾向の踊りが盛り込まれているし,大好きな作品です。なかなか上演されないので楽しみにしていましたし,よい上演だったと思います。うん,ロシアバレエだなーっ,という感じ。(なお,詳しい方によると,全編上演ではなかったそうです)

ダンサーもそれぞれ魅力的というか適材適所の感じ。軽やかで愛らしいプリマ(バッカスの巫女?),磐石のリフト係(バッカス?),愛嬌ある回転担当(パーン?)と元気のよい子分たち(サチュロス?),たおやかな3人のバレリーナ(ニンフたち?)・・・みんなよかったですし,全体としても盛り上がって終わりました。

さらに,アンコールで終曲の後半を上演してくれるというサービスもありました。バレエ団だけのコンサートのときは,この作品で終わるのが恒例になっているのかな?

 

第2部

『シェヘラザード』

振付:M.フォーキン   音楽:N.リムスキー=コルサコフ

ユリア・マハリナ, ファルフ・ルジマトフ, ロシア国立バレエ

えー,『シェヘラザード』というのは,王の寵姫と奴隷が王の留守中に不義をはたらいて,あげく殺されてしまうというとんでもなくとんでもないお話なわけですが,ひとたびマハリナとルジマトフが踊れば,それは背徳的な話ではなく,真実の恋の物語になる・・・と私は信じておりました。

ゾベイダは,(今回のプログラムには「王妃」と表記されていましたが)しょせんは寵姫なわけです。王の愛を一身に受けて,ハーレムの女主人として栄華をきわめていても,生殺与奪は完全に王に握られている身で,その意味では奴隷と同じ身分にすぎない。そういう,いわば同じ立場にある男女だからこそ,純粋に惹かれあい,求めあう・・・そういう恋物語だと思っていました。

が,この日の舞台を見ていて,その確信が揺らぎました。なんか,「女王様が少年奴隷を弄ぶ」話に見えてしまったのよね。

 

マハリナは,体型が少しふっくらしたせいもあるのか,ますます妖艶度が高まっておりました。「豊満」という形容詞をバレリーナに対する賛辞として使うのが適切かどうかわかりませんが,そういう感じの美しさで,その結果,「女王様度」も上がっていたように思います。

で,このゾベイダが金の奴隷をじらすのですわ。大きく身体を反らして金の奴隷に身体を預けた次の瞬間には,権高な女主人に戻って,足もとの奴隷を見下ろしている。いつもは,対等な恋人どうしになって「かわいい女」に見える瞬間がけっこうあったと思うのですが,この日はそういう感じではなくて,主導権は常に彼女が握っているように見えました。

そして,ルジマトフのほうは,畏怖と憧れが入り混じった上目遣いの視線で,ひたすら彼女を見つめているし,彼女の身体に触れているときも,これはなにかの間違いではないか,と恐れているような感じで・・・ものすごく若くて無垢に見えました。(いや,この作品を見て,それもルジマトフのような年齢のダンサーを見て,「無垢」というのも妙だとは思います。でも,そう見えたんだもん。なんというか・・・若いというより少年ぽいと言いたいような感じ)

さて,「無垢」と言えば誉め言葉なわけですが,逆に言えば,フェロモンというか,大人の男の色気がかなり減じておりました。
いや,やっていることはもちろん濃厚なのですが,なんか,コドモが「うわ〜,世の中にはこんなにきれいな人がいるんだ〜」と夢中になってしまった感じ。TVもないような田舎育ちの少年が都会の垢抜けた女性を初めて見たときのような感じというか。いや,ちょっと違うな。(というか,この例じゃあんまりですわね) えーと,中年以上の女官しかいない後宮で純粋培養で育った王子が初めて妙齢の姫君を見たときのような感じかな。

話が横道にずれますが・・・私は貴種流離譚にはあまり興味がないので,ルジマトフのファン仲間が「金の奴隷(又は『海賊』のアリ)はどこかの国の王子がさらわれてきて奴隷にされたのではないか」などという説を述べるのを聞いても,「うーむ,奴隷は奴隷として理解しておいていいんじゃないのぉ?」などと思っていたのですが,今回は,こりゃたしかに「実は王子」なのかもしれんなー,と思いました。

 

ゾベイダと金の奴隷がそういう印象だったので,私には,二人は今日初めて会ったように見えました。少なくとも,密会するのは初めてだったんじゃないかしらん。ゾベイダの手練手管からみて,彼女のほうは,今までもけっこう奴隷相手に楽しんできたのかもしれませんが,金の奴隷を相手に選んだのは,この日が初めてだったに違いない。

で,さらに言うと,この日の二人は,最終的に一線を越えてはいなかったのではないか,という気がしました。金の奴隷は,待たされて,じらされて,誘われて,撥ね付けられて,また誘われて・・・結局最後まで憧れの人を得られないまま空しく死んでいったんじゃないのかなー。ゾベイダにとっては,彼は「今宵はそなたに伽を命ずる」程度の存在で,だから王に命乞いもしたし,死んでいくときも,彼のほうなんか見なかった。そんなふうに見えました。

初めての恋が恋とも呼べないようなもので,その恋のために殺された金の奴隷も哀れだし,どうでもいいような若い男との逢瀬が原因で死を迎えたゾベイダも哀れ。
この日私が見た『シェヘラザード』は,そういう物語でありました。

 

ゴルデーエフの改訂演出は,前奏曲の中で幕が上がり,薄明の中で奴隷たちとハーレムの女たちが愛欲にふける場面を見せるところから始まりました。おお,なるほどー,話の背景を見せているわけねー。(でも,一瞬,いきなりマハリナとルジマトフが出てきたのかと思ってびっくりしたじゃないのよぉ)
そして,王の弟がその辺に落ちていたターバン(?)から事情を察して王に報告,それを聞いた王は,ゾベイダの不義の現場を抑えるべく(それとも,単に,宮廷の風紀の乱れの現場を抑えるべく?)唐突に出発を決める,という非常にわかりやすい伏線もあって,ますます,なるほどー。
(こういう理屈の通った演出というのはなんとなくグリゴローヴィチを思い起こさせますが,ゴルデーエフはボリショイで活躍したダンサーですから,やはり影響があるのでしょうかね?)

装置と衣裳は・・・ううむ・・・野暮ったいというか・・・まあ,『シェヘラザード』のそもそもの話から言えば,多少色彩的に垢抜けなくても,それはそれで「欲望の饗宴」らしくていいのかもしれませんねー。
でも,シャリアール王の衣裳の,紫基調に緑を加えた妙な色遣いだけは勘弁してほしかった。ぜーんぜん「お金も権力もあり余っている」存在に見えないんだもん。

脇のダンサーは・・・はて・・・あまりよく見ていなかったので割愛します。すみません。あ,王は貫禄不足だったと思いますが,まあ,相手(じゃなかった,ゲスト)が悪かったということで。

 

今回個人的に一番嬉しかったのは(って,いつももちろん個人的な感想を書いているわけですけどー),ルジマトフが最初に舞台に飛び込んできて,両手を広げてポーズをとり客席を見据えた瞬間に,「きゃあああ♪」と思えたことです。
3年前にインペリアル・ロシア・バレエへの客演のときに,こちらの事情でついに「きゃあああ」も「うっとり〜」も来なかったのは,それはもう悲しい思い出。実を言うと,もし今回もダメだったら,それまでの幸福な記憶を大切にするために,もう彼の『シェヘラザード』は見ないほうがいいかもしれないなー,と考えてしまうくらい不安だったのよ。でも,とりあえず大丈夫みたいで,安心しました。

あ,肝心のことを書いていませんでした。
ルジマトフは,それはもう美しかったです。なんかねー,形容のしようがないわ。とにかくなんだかわかんないけど美しい。跳躍がどうしたとか音楽性がこうしたとかはどうでもよくて,ただひたすら美しかったです。

そうそう,この日はルジマトフの誕生日だったので,何回目かのカーテンコールのときに,舞台前面の天井近く(オペラの字幕の位置?)に「HAPPY BIRTHDAY FARUKH RUZIMATOV 」という文字が映し出されました。「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー」(←曲名不確か。あの一般的な曲です)の音楽も流れて,舞台上には天井から紙テープが♪
舞台上のダンサーたちは,事情が今ひとつ飲み込めないようでもありましたが,客席は大いに盛り上がり,いつもに増して多くの花束がルジマトフに渡されておりました。(え? いつもあれくらいの数の花束は出てるって?)

(04.7.17)

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