04年6月12日(土)
新国立劇場(オペラ劇場)
振付: マリウス・プティパ 改訂振付: コンスタンチン・セルゲーエフ 演出: オレグ・ヴィノグラードフ
作曲: ピョートル・チャイコフスキー
台本: マリウス・プティパ, イワン・フセヴォロジスキー (シャルル・ペローの童話に基づく)
舞台美術・衣装: シモン・ヴィルサラーゼ 照明: ウラジーミル・ルカセーヴィチ
指揮: ボリス・グルージン 管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
オーロラ姫: 厚木三杏 デジレ王子: 逸見智彦
フロリナ王女: 西山裕子 青い鳥: グリゴリー・バリノフ
カラボス: マシモ・アクリ リラの精: 真忠久美子
国王: 長瀬信夫 王妃: 深沢祥子
優しさの精: 大森結城 元気の精: 湯川麻美子 鷹揚の精: 鶴谷美穂 呑気の精: 高橋有里 勇気の精: 遠藤睦子
カタラビュート: 小原孝司 カタラビュートの従者: 串田光男花婿候補: 市川透, 奥田慎也, 冨川祐樹, 貝川鐵夫
女官: 本島美和, 川村真樹, 楠元郁子, 鶴谷美穂
踊り子: 遠藤睦子, 西山裕子, 丸尾孝子, 大和雅美伯爵夫人: 湯川麻美子 ガリフロン: 石井四郎
村の娘: 高橋有里 猟師: 吉本泰久ダイヤモンドの精: 遠藤睦子 サファイヤの精: 川村真樹 金の精: 楠元郁子 銀の精: 寺島ひろみ
白い仔猫: 本島美和 長靴をはいた猫: 陳秀介 赤ずきん: 中島郁美 狼: 貝川鐵夫
プロローグ
私にとって『眠れる森の美女』の基本は,キーロフがアスィルムラトワ/ザクリンスキーで見せてくれたときの舞台です。新国立のプロダクションは,装置や衣装も含めてこれと寸分違わないものなので(←たぶん),幕が開いただけで,「ああ,『眠り』だわ〜」と幸せな気持ち。
そして,コール・ド(リラのおつき)がすばらしかったです。
揃っているのはもちろんのこと,一人ひとりがふんわりと優しい腕の動きで,お姫様の誕生を祝っています〜,幸せな一生を願っています〜,という雰囲気を醸していました。
それに比べると妖精のソリストたちは今ひとつ。でも,よくわからないのですが・・・単に踊り方がロシア風でないから私にはきれいに見えないだけなのかもしれません。
中では,遠藤さんの勇気の精が,歯切れがよく,安定していてよかったです。鶴谷さんのソロは(たぶん)初めて見るので期待していたのですが・・・悪くはないけれどもうちょっと柔らかく踊ってね〜,という感じ。
リラの精の真忠さんは,ううむ・・・よくなかったと思います。ポーズはきれいなのですが,動きが安定感に欠ける感じ。もしかすると,テクニックが弱いのかな?
それから,貫禄とか威厳の類が欠けておりました。彼女の個性や劇場でのキャリアから言って(初役だし),包容力とか母性的とか,そういう雰囲気がないのはやむを得ないと思いますが,「妖精の中の第一人者」だということは感じさせてくれないと・・・。周りに埋もれてしまって「妖精さんが6人いるのね〜」としか見えませんでした。
誉めている方も多かったから好みの問題かもしれませんが,私はミスキャストだったと思います。
1幕
この日を選んだのにはいくつか理由がありますが,「厚木さんのオーロラだから」という要素は非常に大きかったです。ただ,実のところ「楽しみだわ〜♪」というより,シャープで硬質な美しさの彼女がオーロラを踊ると果たしてどういうことになるのか? という興味本位というか・・・ええいっ,はっきり言ってしまおう・・・つまり,失礼ながら「怖いもの見たさ」でありました。
で,登場したオーロラは,やはりオーロラらしくはなかったです。初々しいとか無邪気とか愛らしいとか可憐とか恥じらっているとか幸福そうとか・・・そういう,通常この場のオーロラに与えられる形容詞とは無縁の感じ。(そもそも,ピンクのチュチュが似合ってないしー)
が,しかし!! お姫様ではありました。要所要所で見得を切り,むしろ「姫君」と言いたいような感じ。それも,不始末をしでかしたら首を刎ねられてしまいそうな,権高な美しさの姫君。(ガムザッティが見たいです〜。ライモンダも似合いそうです〜)
というわけで,多少の違和感はありましたが,こういうオーロラもあっていいのかな,と思いました。かわいらしくても庶民的なオーロラよりは,むしろいいかも〜。
踊りは,硬くなっていたんじゃないかな。大過なく踊っていましたが,伸びやかさが足りないなー,という感じ。でも,キャリアのあるバレリーナとはいえ初役ですもんね,と思って許せる範囲の硬さでした。
コール・ド・バレエは1幕ほど感激はしませんでしたが,普通によかったと思います。(女性だけで踊るほうが水準が高いということでしょう,たぶん)
2幕
当然のことですが,この幕からデジレ王子が登場しました。で,この日私の目の前に現れたのはオーロラの幻影ではなくて,小嶋直也さんの王子の幻影でありました。(しくしく)
(精神状態が非常に悪化したので,この幕については以上で終わり)
3幕
まず,宮廷の人たち(サラバンダ?)の入場を,もう少し上品に優美にお願いしたいなー,と思いました。
日本のバレエ団の中ではいいほうだとは思いますし,なまじキーロフと同じ装置と衣裳だから要求水準が高くなるのかもしれませんが,チュチュの場面は全体としてきれいに踊れるのですから,こういうところももうちょっとレベルを上げていただきたいものです。
ディベルティスマンは,全体によかったと思います。
特に,バリノフさんの青い鳥はよかったです。心配していたサポートもまずまずでしたし,ヴァリアシオンは軽くて上手。かわいい小鳥ちゃんでした。
それから,赤ずきんの中島さんは,愛らしい顔立ちが役にぴったり。可憐だわ〜。
ダイヤモンドの精の遠藤さんもうまい。この方は,華や容姿が際立っているわけではないですが,ほんとうに上手だと思います。テクニックが安定しているから安心して見られるし,なにを踊ってもそれなりにその役にふさわしい踊りを見せるのが立派だと思うわ〜。勇気の精は力強いし,ダイヤモンドを踊れば,キラキラとはいかないまでも真珠くらいには美しく光る。1幕で踊り子に配役されれば,ちゃんと周りに合わせてさらっと踊る。当たり前のことなのかもしれませんが,優れたダンサーだなー,と思います。
さて,キラキラ光るべき主役ですが・・・いやー,厚木さんはすばらしかったですー。
まず,この幕の登場シーンのドレスが似合うというのがスゴイ。(あれは,日本人には難しいよねえ。というか,ロシア人でも似合わない人がいるもん)
グラン・パ・ド・ドゥも,きれいでしたし,庶民の結婚式の幸福感とは違う,儀式としてのロイヤルウエディングの幸福感(祝祭感というか)もあって,とてもよかったです。特にヴァリアシオンは見事でした。指先まで,爪先までていねいで,しかも日本人離れしたプロポーションと水準以上の美貌。美しくて,気品があって,華もある。この幕に関しては,紛れもないオーロラ姫だったと思います。というか,めったに見られない極上のオーロラ姫だと思いましたし,今まで見た日本人バレリーナのオーロラの中で,一番輝いていたような気がします。(つまり,森下洋子さんや吉田都さんより輝いていた,という意味)
厚木さんがこんなにこの役が似合うなんて,思ってもみなかったわ〜。(「怖いもの見たさ」なんて言っちゃって,ごめんなさい)
逸見さんもすてきでした。鷹揚な王子らしさがありますし,彼にしてはパートナリングが安定していたのも結構でした。
踊りはいつもどおりというか,私には物足りないけど実力は発揮してるんだからしかたないよね,というか。あ,決して悪くはなかったです。それにしても,この方,単独の跳躍(=ヴァリアシオンの最初)は見事なのに,なぜ,続けて跳ぶと(=ヴァリアシオンの最後)不安定になってしまうのでしょうか?
全体としては,よい舞台だったと思いますよん。↑に書いたように,一部気に入らないところもありましたし,こっちの事情で「なにを見てるかわからん」状態の幕もありましたが,古典の王道『眠れる森の美女』を主役からコール・ドまで納得のいく水準で見せてもらえた感じでしたもん。
うーん,それにしても,厚木さんの3幕はすごかった。
そして,次の機会には,1幕も含めてもっとすてきなオーロラを見せてくれるのではないか,という期待もわきました。いつになるかわからないけれど,実現してほしいな〜♪
(04.09.05)