ロメオとジュリエット(新国立劇場バレエ団)

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04年4月24日(土)

新国立劇場(オペラ劇場)

 

振付: サー・ケネス・マクミラン   演出:ジェリー・リンコン   監修:デボラ・マクミラン

作曲:セルゲイ・プロコフィエフ

舞台美術・照明:ポール・アンドリュース   照明:沢田祐二
舞台装置・衣装提供:バーミンガム・ロイヤル・バレエ

指揮:アンソニー・トワイナー   管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

ジュリエット: 志賀三佐枝     ロメオ: デニス・マトヴィエンコ

マキューシオ: マイレン・トレウバエフ   ティボルト: ゲンナーディ・イリイン

ベンヴォーリオ: 奥田慎也   パリス: 市川透

キャピュレット卿: 長瀬信夫   キャピュレット夫人: 尾本安代   乳母: 大塚礼子

ロザライン: 真忠久美子   大公: 小原孝司   ロレンス神父: 本多実男

マンドリンダンス: グレゴリー・バリノフ   江本 拓, 陳 秀介, 冨川直樹, 佐々木淳史, 中村 誠

3人の娼婦: 湯川麻美子, 厚木三杏, 大森結城

モンタギュー卿: 内藤博   モンタギュー夫人: 尾原貴子   ロザラインの友人: 深沢祥子

ジュリエットの友人: 遠藤睦子, 高橋有里, 西山裕子, さいとう美帆, 寺島ひろみ, 本島美和

 

今回一番残念だったのは,町の広場の場面での活気のなさです。ダンサーたちは皆それぞれ場にふさわしい芝居をしたり踊ったりしているのに,ううむ・・・なぜか雰囲気が出ていない・・・。マクミランを上演するにはお行儀がよすきるのかなー???

それから,最初に登場したロザラインの護衛役の男性ダンサーは,歩き方を改善してください。暗くてどなたなのかわかりませんでしたが,あのシーンでは目立つ役なんですから,もう少し気を遣っていただかないと困ります。(いや,目立たないときでもバレエの歩き方でないと困りますが)

ロメオ・マキューシオ・ベンヴォーリオがいっしょに踊る場面で全然揃っていないのもいかがなものかと思いました。コール・ドではないわけですから(←当たり前)高さや回るスピードまで揃えろとは言いませんが,技のタイミングも位置関係もあまりにばらばらで・・・。なんというか,仲良しの若者たちの楽しげな高揚感が出ないのよ。

・・・と,いきなり文句から始めてしまいましたが,新国立劇場2回目の『ロメオとジュリエット』の上演は,今回も小嶋直也さんが休演するという,私にとってまことに悲しい状況だったのでした。
まあ,でも,当日降板だった初演のときと違って,ふた月前にわかっていたことだから,一応平常心で舞台を見ることができました。キャストについても,見に行くのは全部やめようかと悩んだ末に「それでも見たい」という日を選んだ甲斐あって,見た後も「うん,やっぱり見てよかったわ〜」という気分。
この作品を上演するにはこのバレエ団は男性の層が薄すぎるとは思いますが,それなりには見えましたし,女性ダンサーたちは立派。全体として,悪くはない上演だったのではないでしょうか。

 

志賀さんは,無垢な少女のジュリエット。恋を知ったあとは,もちろんお人形遊びをするような子どもではなくなっていますが,でも,最後まで少女の純粋さを保ったままに見えて,だから,とてもかわいそうでした。

踊りはたおやかで滑らか。
恋の場面での演技は,出会いにしてもバルコニー・シーンにしてもやりすぎがなく,日本人的な奥ゆかしさが感じられる自然なもので,好みはあると思いますが,私は感情移入しやすくて好きです。で,そういうジュリエットが,3幕でのロメオとの別れのときには,自分からキスの雨を降らせるのが,(用語が適切かどうか自信はないですが)とてもエロティックに感じられました。

その後の,パリスとの結婚を拒むシーンがとてもよかったです。
嫌で嫌でたまらないの。1幕で紹介されたときの,男性への接し方がわからなくて困っているのとは全然違うの。身体が拒絶するの。そして,それが,愛する人に操を立てているというよりは,少女の潔癖さに見えるの。
市川さんのパリスが「いい人(というよりいいコ)」に見えるだけに,「そんなにイヤなのね。どうしてもダメなのね」と思って,とても同情できました。

ベッドに座って決意を固めるまでのシーンやマントを羽織って走り去る場面などは特に印象的というほどではなかったですが,仮死薬を飲むまでの逡巡は痛々しく,墓場で目覚めてからの絶望には涙を誘われました。
うん,すてきなジュリエットで,見にいってよかったです〜。

 

マトヴィエンコさんもよかったです。
美しいプロポーションと少年の面影を残したお顔立ち,そして金髪♪ 立ち居振舞いはエレガントで,街中で友人や娼婦たちと戯れているときも(決してお高くとまっているわけではないのに)品を失わない。ジュリエットに対する優しげな態度もまっすぐな恋心の表出も申し分ありませんし,マキューシオの死に激昂する直情もキャピュレット夫人の裾にすがって許しを乞う真剣さも,うーん,ロメオだよねえ♪

ただ・・・3年前の彼が見せてくれた「少年の輝き」みたいなものは失われてしまったのだなー,とも思いました。もう,バルコニーに全力疾走したりはしてくれないのよね・・・。
いや,それは当然,というか・・・そのほうがいいんですよね。あれは,たぶん,彼がほんとうに若かったから(もっと率直に言えば,経験不足と準備不足で必死だったから)見せてくれたものだったのでしょう。今回のほうが,立派な舞台だったのは間違いないと思います。

えーと,問題点としては,リフトが弱すぎるように思いました。パートナーシップという点では前回よりずっと安心して見られましたが,少々力(腕力?)が足りないのではないかなー? ロメオが膝立ちして弓なりに身体をそらしたジュリエットをリフトする場面は,上がりきらないから恋の浮遊感がなくて残念でした。
跳躍や回転は絶好調ではなかったように思いますが,これは3日連続主演だからセーブしていたのかもしれません。十分きれいだったと思います。

 

マキューシオのトレウバエフさんは踊りがきれいで上手です。3人で踊る場面など見ると,マトヴィエンコさんより安定していましたし,(背は低いのに)高さで勝ったりもしておりました。
ただ,この方,演技力が今ひとつなんですよね。コミカルでもシニカルでも伊達男でもなく,なんか,マキューシオというよりは「ロメオの友人その1」みたいでした。(いや,たしかに友人ではあるが)

・・・と思って見ていたのですが,死のシーンがかっこよかったです〜。過剰な演技をしないから品がいいし,その中から「ストイックな男の美学」みたいな感じが立ち顕れて・・・。なじみの娼婦に別れを告げるところなんか感動的でしたし,最後にティボルトに続いてロメオを指弾するところの迫力もなかなかすてき。(で,それまでショックで棒立ちだったのが,にわかに「ぼ,ぼくのせい?」とショックを受けるロメオがかわいいのなんのって)

奥田さんのベンヴォーリオは普通によかったです。予想以上でも期待以下でもなく,「おおっ」もないががっかりもしない。若々しい表情の明るさがこの役に向いているのではないかしらん。(余計な話をすれば,小嶋さんが休演しても,こういうおなじみのダンサーの役が繰り上がる結果になってよかったなー,とほのぼのしました)

ティボルトはイリインさんでしたが,いやー,成長しましたねー。新国立の初演と今回の間の2年半で一番立派になったのはこの方です,たぶん。(いや,もしかすると,ベンヴォーリオからロメオに昇格した山本隆之さんのほうが進歩しているかもしれないですが,見ていないもので・・・。すみません) 
役に合わないわけではないがどうにもこうにも地味で困る・・・という感じだった3年前とは大違い。尊大で存在感のある,見事な敵役でありました。

今回一番「おおっ」と思ったのは,市川さんのパリスが「社交界デビューのお坊ちゃん」みたいでかわいらしかったことです。金髪はあまり似合わないし,ノーブルさも少々足りないし(←足りないのであって,ノーブルでなかったわけではない),1回だけの出演のせいか演技やサポートもこなれていないところがあったと思いますが,そういうところも全部,初々しい雰囲気につながっていたような気がするわ。

で,(これはけっこう珍しいと思うのですが)明らかにジュリエットに恋をしている。片手で胸を抑えて彼女を見つめる様子は,「かわいい娘だ」とかいうんじゃなくて「♪なんてかわいいんだろう♪」と思っていたに違いない,という感じ。(ジュリエットも紹介されたときは嫌そうではなかったから,ロメオさえ現れなければ二人で幸せになれて世の中まるくおさまったのにねえ。世の中うまくいかないもんですなー)
だから,3幕でジュリエットに拒絶されたときに混乱してむっとするのも気の毒ですし,最後にロメオにあっけなく殺されてしまうのはもっと気の毒でありました。しかも,志賀さんのジュリエットは,パリスの死体になんか気付きさえしないしー。

その他のダンサーでよかったのは,娼婦の湯川さん。このバレエ団では,この道の第一人者というか他の追随を許さないというか。気風のよさも蓮っ葉ぶりもお見事でした。
それからキャピュレット公の長瀬さんのノーブルな動きもよかったと思います。(あと20年したら小嶋さんにやってもらおう) その一方で,大公の小原さんは風格不足で今ひとつの感じ。

それから,顔ぶれを見れば当然ですが,ジュリエットの友人たちが皆愛らしく,しかもきれいに踊っていてよかったです〜。中でも寺島さんの上半身の優しげな感じが好きだわ。
いや,しかし,この友人たちを見るにつけても,バレリーナが余っていてもったいないなー,と思いました。なんだって,ジュリエット役にゲストを二人も呼んだりするんですかねえ,まったく。

(04.05.01)

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