マシュー・ボーンの「Nutcracker!」

サイト内検索 04年一覧表に戻る 表紙に戻る

04年4月10日(土)

イズミティ21 大ホール

 

演出・振付: マシュー・ボーン

共同翻案: マシュー・ボーン, マーティン・ダンカン, アンソニー・ウォード

音楽監督: ブレット・モリス    録音: ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ

音響デザイン: ポール・グルースイス    照明デザイン: ワハード・ハリソン    美術デザイン:アンソニー・ウォード

クララ: シェルビー・ウイリアムズ    フィルバート/くるみ割り人形: アダム・ガルブレイス

シュガー/プリンセス・シュガー: ノイ・トルマー    フリッツ/プリンス・ボンボン: ニール・ペンリントン

マトロン/キャンディ王妃: アナベル・ダリング    ドロス博士/シャーベット王: ジェームズ・リース

エニド/キューピッド1: 友谷真実    エドウィン/キューピッド2: リー・スマイクル

 

1幕
孤児院の虐げられた子どもたちが,変身したくるみ割り人形の助けを借りて逃げ出す。主人公クララは,くるみ割り人形(互いに想いを抱いていた少年の姿)と互いの気持ちを確かめ合う。皆でスケートをして楽しく踊るうち,くるみ割り人形の頭に大きな雪玉が当たり,記憶喪失になった彼は,プリンセス・シュガー(孤児院の院長のわがままな娘の姿)に心変わりしてしまう。

 

上手に作ってあったと思います。
前奏曲の音楽で,クララ以下の子どもたちが一人,また一人と幕前に現れて,それぞれのキャラクターに応じた表情を見せる冒頭シーンに始まって,音楽の使い方(古典と同じ音楽を使っての場面の当て方)が「なるほど,ボーンだ」でありました。

ただですねー,前半は,「大人が子どもを無理して演じている」感じが強くて,見ていてかなりきつかった。そこに文句を言っては作品自体が成り立たないのはわかるのですが・・・でも,立派な身体の男性がこれだけそろっていて,なんだって唯々諾々と院長夫妻に従っているわけ? という感じはつきまといました。
これは,院長(ドロス博士)夫妻の振舞がコミカルで,あまり怖くなかったせいもあるのかも。(もっとサディスティックな感じを想像していた) 院長先生さまのお嬢さまとお坊ちゃまに対しても,なんだか皆でけっこう意地悪している感じで,あとで言いつけられるのを恐れたりしないんですかねー? あと,衣裳があまりみすぼらしくなくて,孤児院というより全寮制寄宿舎のように見えたのも悪かったかも。

でも,そこを気にしなければ,楽しかったです。舞台のあちこちでいろいろな演技が同時進行していてそれぞれ楽しいし,その中で子どもたちの人間関係がいろいろ描かれていて,うまいなー,と感心。
子どもたちが(クリスマスだから)おもちゃを貰うときに,人形を選ぶなりスカートめくりをして取り上げられてボールを押し付けられる男の子が面白かったわ〜。あ,あと,剣玉の玉の部分を口でくわえるなんて,ああいう技があるとは寡聞にして知らなんだ。

で,夜中になって等身大になったくるみ割り人形が登場。ここは,「怪力くるみ割り男現る!!」とでも見出しをつけたい感じで,「おおおっ」と思いました。
つまり,くるみ割り人形がぎくしゃくした動きで壁をたたくと,壁のあちこちに大きな割れ目ができて,「子どもたちが閉じ込められていた世界から外の世界への風穴が開いた」という感じになるの。音楽はネズミの王様が登場する場面だから,荘重な盛り上がりも感じられ,感動的でした。

で,人形たちとネズミの戦いの音楽で,子どもたちが院長親子をやっつけて(←ここはくるみ割り人形は出ていなかったから,「ほら,やればできるんじゃないの。今まで何をしてたのよ」と言いたくなった),大きな割れ目を通って,子どもたちが次々と逃げていく。
なんとなく機を逸した感じでクララだけが残ると,割れ目のところにくるみ割り人形が登場。自分でマスクを取ると,それはクララと仲良しの少年(青年?)で,あらあら,上着を脱いで上半身剥き出しになってくれるじゃないの。いや〜ん,「少女の夢の王子さま」は,ボーン版ではこういう姿なわけね〜♪ 

が,しかし,さらに6人の同じ姿の男性が現れたのには呆気にとられました。
うーむ,そういうもんですかね? ボディービルのような拳を握ったポーズの集団を楽しめるので,おばさんの観客としては特に苦情はないわけですが,クララには周りは邪魔なんじゃないのぉ? なんか,キーロフ=新国立のワイノーネン版のグラン・パ・ド・ドゥがカヴァリエたちの登場でパ・ド・シス状態になってしまうのと同様,恋の雰囲気を薄めてしまうと思うんですけどー???
えー,なお,くるみ割り人形役のガルブレイスについては,もう少し上半身が引き締まっていてほしいなー,と思いました。

古典での雪の場面は,アイススケートで楽しむシーンになっていました。なるほど,という感じの振付でもあり,孤児院から解放された喜びもあり,その中でくるみ割り人形がライバルとともに去っていくというストーリーは順調に(というのも変だが)進み,ボーンの演出はなかなか見事なものでありました。

 

2幕
プリンセス・シュガーはくるみ割り人形をお菓子の国に案内し,両親である国王夫妻(孤児院長夫妻の姿)から結婚の許しを得る。入国許可書(結婚式の招待状?)を持たないクララがやっと潜入に成功したときには結婚式は最高潮。くるみ割り人形はクララを見ても気付かないまま式は終わってしまう。
舞台は再び孤児院に戻り,夢から覚めたクララが悲しみの中で再びベッドに戻ろうとすると,そこには大好きな男の子(=現実のくるみ割り人形)が待っていた。二人は孤児院を逃げ出すことに決め,新しい世界に出発する。

 

えーと,あまり面白くなかったです。

最初のほうで天使が出てきて,クララを連れてお菓子の国の入り口に来るあたりまでは楽しい演出でよかったんだけど,その後が・・・。各国の踊りは,クララがなんとか門番の目をごまかして宮殿(結婚式場?)に入り込もうとする試みの場面になっているのですが,結局はディベルティスマン。で,いろいろと楽しませるための工夫はあるんだけど(ひと言で言えば,性的な感じを持ち込む,というか),こういうふうに踊り自体で見せるシーンになると,ボーンの振付とこのカンパニーのダンスのレベルは私には物足りないのですわ。

で,舞台が式場の中(?)になると装置として巨大なウエディングケーキがあって,ケーキの上にもダンサーがいて総登場の踊り。(花のワルツの音楽) 
これも,腰をくねくねしたりして,一応怪しげな踊りにはしてあるのですが・・・すみません,別にセクシーには見えませんでした。いや,むしろ笑うべき場面なのかもしれないけれど・・・面白くもなかったわ。

グラン・パ・ド・ドゥのアダージオは,定石どおりシュガーとくるみ割り人形によって踊られますが・・・この途中でウエディングケーキの上にクララが現れて,くるみ割り人形に想いを訴えるシーンはとても切なくてよかったです。音楽の最高潮(古典の『くるみ』だとクララが高々とリフトされるところ)で,高いところからくるみ割り人形に向かって手を差し伸べる。で,それを見たくるみ割り人形は「あれ? どこかで会ったような? 親しい人のような?」という感じに戸惑いを見せる。でも,思い出せないの。定石のような気はしますが,でもうまいよねー。

そのあとは,またあまり楽しめませんでした。えーと,お菓子の国の基本コンセプトは「舐める」ことらしく,踊りの中にもそういう動きが出てきます。これはおそらく,少女の夢の中には性的な面もあるということを踏まえて,そういう意味を与えているのでしょう。で,何もわからないお子さんは「お菓子が甘いから舐める」と理解できるから,よい考えだとは思います。そうは頭では思いますが,でも,私には楽しくもなかったし,いやらしくも見えなかった。というか,アホくさー,と思ってしまったのよ。

唐突ですが・・・30年くらい前に,ザ・ドリフターズの「8時だヨ! 全員集合」というTV番組があって,私はこれを愛好しておりました。その中に,突然場内が暗くなって,加藤茶がストリップ様の動きをしながら「ちょっとだけよ」という台詞を言うお約束のコントがありました。コントですから,そういう性的な風俗をお笑いにしているわけで,子どもだった私には,とても楽しいものでした。
えーと,で,今回の『くるみ割り人形』2幕におけるセクシュアルな側面は,このドリフターズのコントに似ているなー,味付けとしては悪くないかもしれないけれどそればかり続くと飽きるよなー,大人が見て楽しめるモノではないなー,というのが私の意見です。

ラストは,ふむふむ,なるほどー,でありました。
場面が孤児院に戻ったところで,そうかー,古典と同じく夢の中の話だったのだなー,とわかる。で,英ロイヤルの以前のライト版のように,目の前には現実のくるみ割り人形が現れて相思相愛であったことがわかる。うーん,ハッピーエンドだわ〜。
しかも,二人で孤児院から脱走するんだもの。今までの生活から逃げ出すんだもの。いいよねえ。クララのウイリアムズは賢そうな印象だし,フィルバート(=くるみ割り人形)のガルブレイスは優しくて頼もしそうな感じだし,うん,きっと二人で幸せになると思います。
・・・というわけで,1幕では抵抗があった「大人が子どもを演ずる」無理がココでは逆の効果を生んで,このコたちならきっと大丈夫,と思わせてくれ,「めでたし,めでたし」という気分になれました。

 

ダンサーについては,特に感心はしませんでしたが,最初からわかっていたことで特に不満もないです。中では,恋敵のシュガー役ノイ・トルマーが上手だったかな。
演技はよかったと思いますが,子どもらしさを出すためでしょうか,楽しい表情のときに口を大きく開けるのはいただけないなー,と思いました。なんか・・・私の苦手な松山バレエ団的笑顔でした。(って,突然引き合いに出したりして松山に対して不調法だとは思いますが,でも,すごく似ていたのよぉ)

(04.4.29)

サイト内検索 上に戻る 04年一覧表に戻る 表紙に戻る