眠れる森の美女 (日本バレエ協会)

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04年2月7日(土)

東京文化会館

 

音楽: ピョートル・イリィチ.チャイコフスキー

原振付: マリウス.プティパ
改定振付: コンスタンチン・ミハイロヴィチ・セルゲイエフ  ヴロスニラヴァ・ファミニチナ・ニジンスカ

再改訂振付: アンナ=マリー・ホームズ

芸術監督: 谷桃子     振付指導: 橋浦勇

指揮: 堤俊作   演奏: ロイヤル・メトロポリタン管弦楽団

照明: 沢田祐二     衣裳: 緒方規矩子/合田瀧秀     舞台美術: 牧野良三

オーロラ姫: 西田佑子   デジレ王子: 李波

リラの精: 浅見紘子   カラボス: マシモ・アクリ

フロリナ王女: キミホ・ハルバート   青い鳥: 恵谷彰

フロレスタン14世: 本多実男   王妃: 大塚礼子   カタラビュート: 福山誠   カタラビュートの従者: 秋月新也

クリスタルの泉の精: 津下香織   魅惑の花園の精: 小林啓子   森のしじまの精: 守屋光英   歌鳥の精: 宮嵜万央里   黄金のつる草の精: 樋口みのり

各国の王子: 今村泰典, 柴田英悟, 山田秀明, 益田真也

伯爵夫人: 尾本安代   ガリフロン: 大谷哲章

パ・ド・トロワ:  奥田花純, 田中晶子, 江本拓

白い猫: 中川美代子     長靴を履いた猫: 柴田英悟

赤ずきん: 中村麻弥    狼: 井上浩二

 

この団体の『眠れる森の美女』を見るのは初めてでした。
プログラムの解説を抜粋すると,「セルゲイエフの演出をそのまま受け継いだアンナ=マリー・ホームズ版・・・に橋浦勇さんがさらに独自のアイディアを加えての上演」ということですが・・・キーロフ=新国立劇場のセルゲイエフ版とはけっこう違っていたような。
↓でいろいろ書いていますが,それ以外にも,例えば,プロローグの妖精たちにカヴァリエがついている,2幕で登場した王子はその場でソロを踊るのではなく,一人になってから間奏曲(の始めのほう?)でソロを踊る,場内から失笑がもれがちな矢投げのシーンはない,3幕のグラン・パ・ド・ドゥではフィッシュ・ダイブがある,等々。

 

プロローグで登場したリラの精の浅見さんは,とても役に合っていました。たいへん背が高い方で存在感がありますし,長い腕を使ったマイムもきれいで貫禄十分。優しく暖かい雰囲気もあって,とてもいいなー,と思いました。ただ,肝心の踊りになったら,マイムのときほど腕の使い方が伸びやかでなくなったのが残念。まあ,この役では踊りが肝心とも言い切れないかもしれないし,イタリアンフェッテを確実に決めるなど決して悪くはなかったですが。

で,一方のアクリさんのカラボスがお見事。妖しげで女らしい雰囲気,執念深さも悪意も強く・・・いいわぁ。
特に「おおっ」と思ったのは,舞台から去るときに,いったんは手下の引く車の席におさまったものの,立ち上がって一同を振り返り,なおも呪詛の言葉を投げつけながら消えていくところ。うん,おとなしく退散したりしちゃつまらないですよね。

 

西田さんは,法村友井バレエ団のプリマですから名前は知っていましたが,見るのは初めて。小柄で愛らしい感じの方で腕の動きも柔らかく,見せ方も心得ている感じ。すてきなバレリーナだと思いました。跳躍は苦手そうに見えましたがバランスは得意なようで,ローズアダージオもヴァリアシオンも立派なでき。(ん? があったのはサポートしていた王子役の方の責任でしょう)

雰囲気的には,1幕はたいへんあどけない感じ。もしかすると彼女の役づくりではなく演出がそうなのかもしれませんが,4人の王子と踊りだす直前まで恥ずかしがっているし(「恥じらっている」のではない),王子たちが花を取り出すと王妃に相談しにいく。その後のヴァリアシオンも,王妃が「さ,そこに立って」と位置を示すという過保護ぶり。
16歳ではなく12歳くらいに見えるというか,婿取りはいくらなんでも早過ぎる印象というか。いや,たいへんかわいらしいし踊れば堂々としているから,文句を言っているわけではないのですが・・・演技というか解釈としてどんなものかなー,とは少し思いました。

 

2幕でデジレ王子が登場するわけですが・・・こちらはかなり大人の雰囲気。李さん本人の年齢や雰囲気もあるでしょうが,演出自体がそうなのですね。

つまり,伯爵夫人との関係が完全に恋愛に見える。それも,かつては愛し合っていたが,最近は「年上の女の深情けに辟易していて距離を置きたがっている」風情。デジレらしからぬアンニュイさで登場して腕組みをしてつまらなそうにしているし,伯爵夫人のほうは,彼の様子が気になって気になってしかたがない様子。なにしろ,王子が一人になった直後に彼の上着を手に戻ってきて,あらぬほうを見ている彼をしばし見つめて淋しげに去っていったりするのですわ。

ふーむ,これは面白い♪
が,しかし,1幕のオーロラがやけに幼く見えたこともあり,経験豊富な王子が「結婚するなら無垢なコにしよう」と今度はロリコンに走ったように見えたらどうしよう・・・と心配してしまいましたよ。

でも,それは杞憂。幻影の場で現れた西田さんは,今度はちゃんと大人のオーロラになっておりました。それどころか,淋しげとか哀しげという雰囲気ではなく,むしろ,かすかな微笑を浮かべて王子を誘っているふうに見える。そういうオーロラは私の好みではないのですが,でも,踊り分けていて立派だなー,と思いました。

そして,そういうオーロラ像は,この版の大人のデジレを救出活動に向かわせるには向いているのではないか,とも思いました。若々しい「理想の王子さま」だったら,悲しげな乙女の姿に義憤に燃えて救出に乗り出すほうがふさわしいと思いますが,成熟した魅力の年上の恋人との恋を経験している青年にとっては「憂い顔の美女の触れなば落ちなん風情」のほうが魅力的ですよね〜。(って,私には男性の気持ちはわからないけれど・・・いかがでしょうかね?)

話が後先になりましたが,1場での村人たちと貴族たちの描き方にちょっと特徴があったかも。
一行が登場する前に村人たちは,「なんだかエラソーにした人たちが来るよ」と噂したり,ちょっと面白がったりしています。で,登場した貴族たちは,村人の群れを見て「あら,なんでございましょう。なにやら汚い人たちが・・・」という感じ。でも,村人たちは許可を求めてファランドールを披露するわけですが・・・この後がよくわからない。貴族たちはお義理に拍手してすませていたような。ごほうびのお金でも渡すのかと思ったんですけどねー。ボランティアで踊るほど良好な関係には見えなかったんですけどねー。

目覚めの場面への段取りはですね,まずカラボスは何回もリラの精と王子に向かっていっては魔法の棒(?)で退けられる。リラが王子にカラボスと戦うように勧め,王子は素手で向かっていって負けそうになり,リラから剣を受け取り,互角の戦いになる。そして王子が勝つ・・・のかと思ったら,リラが「今のうちにキスしてしまいなさい」と命じて,再度魔法の棒でカラボスを防ぐ間に王子は奥に進み,目覚めのキス。カラボスは部下にかつがれて去っていく,という感じでした。
うーむ,折衷的というか不徹底というか・・・。対カラボス一味はリラに任せてキスだけ担当する王子というのも情けないと思いますが,この版もなんか・・・「こいつじゃ勝てないな」とリラに見切りをつけられたようで,やっぱり情けないと思うんですけどー。

目覚めたあとの演出はとてもよかったと思います。まず,オーロラと王子の対面があって王子の自己紹介とオーロラからの感謝があって,それから彼女が両親を起こして彼を引き合わせて・・・婚約に至る,という感じ。

 

3幕のディベルティスマンで珍しかったのは,宝石の精たちの踊りが女性二人,男性一人のパ・ド・トロワだったことです。女性だけ4人とか男女合計で4人というのが多いと思いますが・・・3人って見たことあったかなあ? あ,踊りは普通。

青い鳥のパ・ド・ドゥですが・・・ハルバートさんは,少しテクニックが弱かったし,もう少したおやかさがほしいかも。でも,チャーミングではありました。
で,青い鳥の恵谷さんは,すっごくよかった♪ 柔らかく跳んで音もなく着地するし,空中での脚さばきもきれいだし,最後まで安定している。ハルバートさんが小柄なのもよかったのかリフトは軽々だし,なにより全体の雰囲気がエレガントなの〜。ちょっと首を傾げてパートナーをエスコートする挙措なんか,おお,これは王子ではないかっ,鳥なんぞにしておくのは惜しいっ,と。まあ,青い鳥の正しい踊り方がこういうエレガント系なのかどうかわかりませんが(元気な踊りが多いよね),私はとーっても気に入りました。

さて,グラン・パ・ド・ドゥですが・・・踊りの話になる前に,白いカツラをかぶるヴァージョンでしたよ。あらまー,なんだってそんな大胆な。まあ,二人ともおかしくなかったので感心したというか安心しましたが,いかがなものでしょうかねえ。

西田さんは,ここも安定した踊り。愛らしさもあり,プリマらしい華もあってよかったです。
ただ,雰囲気が結婚式の若妻とか近い将来の女王というよりはお姫様にとどまっている感があったのですが・・・1幕のあどけなさに比較すれば成長していましたから,これはこれでいいのかも。

李さんは,優しそうでもあり頼もしい雰囲気もあるのですが,かなり身体が硬いのでしょうか,ポーズや動きにバレエ的な美しさがなかったし,技術的にもかなり物足りなかったです。
でも,プロポーションがいい(頭が小さい)からでしょうか,白いカツラが似合うのはスゴイと思います。あと,サポートでの見せ方がうまかったです。サポート自体も安定しているし,アクセントをつけて派手に見せられる方だなー,と。もちろん西田さんも上手だからでしょうけれど。

最後は,舞台奥の高いところでリラの精がリフトされ,主役二人は長いローブを引いて前方でポーズして幕となりました。

 

コール・ドはコール・ドとして機能していなかったと思いますが,公演の性格上しかたのないことでしょう。形は揃っていなかったと思いますが,動きのタイミングなどは揃っていました。ただ,リラの精のおつきたちとかオーロラの友人たちなど4人や8人で踊る方たちの不揃いは,見ていてちょっとキツかったかも。
それから,貴族たちが貴族らしい歩き方ができていないのは困るなー,と思いました。

1幕でソロを踊る妖精たちについては,もう少し上手な方を出してほしいです。
それから,3幕で長靴を履いた猫を踊った柴田さんについては,こういうダンサーをキャスティングすることに問題がある,と強く言いたいです。失礼ながら体型的にも難がありますが,それはコミカルな役だからむしろ愛嬌と考えるにしても,ううむ・・・リフトが弱すぎて・・・。
よかったのは,カタラビュートの従者の秋月さん。1幕冒頭の編物をする女たちの場面での演技がとても楽しかったです。

装置と衣裳はなかなか豪華でありました。
幻影の場のコール・ドが緑色の衣裳で・・・「森の妖精達」という設定ですから,緑なのはもっともなのですが,色調が緑すぎるというか鮮やかすぎるというか・・・。髪につけたスカーフ(?)も少々うるさい感じでしたし。で,オーロラは淡いグリーンのチュチュで,これは結構なのですが・・・リラの精はやっぱり藤色なのですわ。いや,リラだからしかたないとは思うし,この役まで着替えるのも不自然ですが・・・でも,舞台上の色合わせとしてどうも妙でした。
うん,でも,この場面以外はパステル調の色遣いで上品な感じ。

 

全体としては,特に感激したわけではないですが,西田さんと恵谷さんという関西で活躍しているから滅多に見る機会のないダンサーを見られましたし,きちんとした全幕で(間奏曲はなかったですが)初めて見た演出にアレコレ言う楽しみもあり,楽しめる公演でした。

(04.2.8)

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