シンデレラ (キーロフ・バレエ)

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03年11月24日(月・休)

神奈川県民ホール

 

音楽: セルゲイ・プロコフィエフ

台本: ニコライ・ヴォルコフ(シャルル・ペローの童話に基づく)

振付: アレクセイ・ラトマンスキー

美術: イリヤ・ウートキン, エフゲニー・モナーホフ
衣裳: エレーナ・マルコフスカヤ   照明: グレプ・フィルシチンスキー

初演: 2002年3月5日,サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場

指揮: ミハイル・アレグスト   演奏: キーロフ歌劇場管弦楽団

シンデレラ: ナターリア・ソログープ   王子: アンドレイ・メルクーリエフ

継母: アレクサンドラ・イオシフィディ   フディシカ(シンデレラの義姉): ヤナ・セレブリャコーワ   クブィシカ(シンデレラの義姉): エレーナ・シェシナ

妖精: ナターリア・スヴェシニコーワ   シンデレラの父: イーゴリ・ペトロフ

四季の精〈春〉: アンドレイ・イワーノフ   四季の精〈夏〉: ドミトリー・ピハーチェフ   四季の精〈秋〉: マクシム・ズージン   四季の精〈冬〉: イワン・ポポフ

ダンス教師: リュウ・ジ・ヨン, アレクセイ・セメノーフ
美容師: イーゴリ・ニキーチン, アレクセイ・ネドヴィガ, アレクセイ・ミロシニチェンコ

男女の踊り手: ナデージダ・ゴンチャル, イスロム・バイムラードフ

 

次期ボリショイ・バレエ芸術監督であるラトマンスキーによる新振付作品。

装置や衣裳は現代的でしたが,ストーリーはごくオーソドックスで,いわゆる「読み直し」とか「新解釈」のようなものはなかったように思います。振付も現代的ではありますが,あくまでもバレエで,ごく素直に見られました。その代わり,「ラトマンスキーの舞踊言語は・・・」と語りたいような目新しさはなかったですが。
なお,女性はもちろんトウシューズでした。

でも,登場人物の行動はかなり現代的でしたね。たとえば・・・

シンデレラのソログープは,長い腕が柔らかく動いて,きれいに踊るバレリーナでしたが,虐げられた娘でもなければ健気な働き者でもなく,ごく普通の女の子という雰囲気。
衣裳は,グレイのワンピースの上に同色のカーディガンを羽織って両脚にはレッグウォーマーというもので,地味ではありますが,みすぼらしいという感じはない。

継母や義姉たちは意地悪というほどではなく,かといってコミカルでもなく・・・そうねえ・・・「騒々しい人たちだなー」という感じ。(振付者や出演者は笑わせる意図だったのだとは思いますが,ロシア人のユーモア感覚は私には合わないのよ)
イオシフィディは大柄な美人という個性を生かして印象的。セレブリャコーワは踊りが上手だし,愛嬌もありました。こちらに比べるとシェシナは,踊れていないなー,という気はしましたが,「小太りのほうのおねえさん」という役の雰囲気には合っていたからいいのかも。

父親はアルコール中毒なんですかね? こきたないお仲間と登場してシンデレラに気弱にお金をせびって断られていました。(自己犠牲の親孝行な娘ではないのが好ましいですー)
たしか1幕の最初のほうで,亡母の幻が一度現れて父親と抱き合っていたと思うのですが・・・その後は出現しませんでした。(うーむ,あんまり効果的ではないですねえ)

一番「???」だったのは妖精。
最初は手提げ袋を両手に持って,前かがみの姿勢,地味な服で登場。袋を下げたその姿から,もしかしてshopping-bag lady,つまりホームレスかとも思ったのですが・・・それにしては着ているものがこざっぱりとしているのですわ。(作ったばかりの衣裳だからだろうか?)
で,「おや,おばさん,荷物が重くてたいへんそうですね」くらいには見えるけれど,特に貧しくて哀れな老女という感じでもない。シンデレラのほうも,この人に椅子を勧めるくらいはするけれど,荷物を持ってあげるわけでもなく,ほかにも特に恩に着なくてはならないほどの親切な行いはしないのよ。

でも,妖精だから,定石どおり,シンデレラを変身させてくれて,舞踏会に送り込んでくれるわけです。
そして,2幕の最後,12時が近づく音楽のときには,なぜかオレンジの入った網袋を下げて登場。(やはり『シンデレラ』にオレンジは欠かせないらしいですなー) 落とした袋からオレンジが転がり広がる舞台の上で,跳躍など交えながら「ロシアのおばさん」らしく力強く踊るのでした。

うーむ,謎の人物であったなあ・・・。いや,面白かったからいいですけどー。

 

その他の人物もなかなか珍しく,特に1幕は「ほほー」と思いながら楽しみました。

まず幕が開くと,継母と義姉が髪のお手入れ中。現代ですから,床屋ではなくて男性美容師なわけです。というより,本人たちの主観ではヘアデザイナーと呼ぶべきなのかもしれませんねー。
ダンス教師は男女のペアで手本を見せるのですが,この踊りはなんなのだろう? この方面に疎いのでよくわからないのですが,ジルバとかなのでしょうかね? もっと新しいモノのようでもありましたが。

シンデレラの踊りがうまいので継母などが気分を害するというシーンも特になく,シンデレラは床を磨く(なでる?)くらいはするものの身を粉にして働くわけでもなく,皆が出発した後のソロは哀れな境遇というよりは「つまんないなー」という趣。

そうこうするうち妖精登場。続いて現れた四季の精は,おお,全員男性でありました。
四季らしく,黄緑,赤,黄色,薄い水色の衣裳。衣裳だけでなく,顔もその色に塗って髪も染めておりました。で,髪型が,ふた昔前に流行したパンクロックのバンドのよう。

それぞれのソロは女性コール・ドを従えてのものでしたが,その人数が2→4→6→8と増えていきます。四季の精まで足すと24人になるから,これが1日24時間を現しているのだろーか? と頭の中で数えましたが,あまりそういう感じの演出でもなかったですね。
シンデレラは,春の精の芽生えを現しているかのように色分けされた髪を触って嫌がられたり,夏の精に脅かされたりしておりましたです。(・・・どうもよくわからん)
なお,夏の精のピハーチェフの踊りが,きれいでキレもあってよいと思いました。

この幕の最後は記憶が定かではないのですが・・・ええと・・・かぼちゃの馬車が出なかったのは絶対間違いないと思いますが・・・はてな,どんな感じだったかな・・・?

 

2幕はもちろん舞踏会なわけですが・・・いや〜,ココはすばらしかったです〜♪♪

女性は赤系のロングドレスで,男性は黒の燕尾服なのよ。
で,男の子たちが,背は高い,頭は小さい,脚は長い,身ごなしは洗練されている・・・それはもう壮観でしたわ。振付は少々「なんじゃこりゃ?」もありましたが,とにかく,あれだけ身体の線がきれいな男性ダンサーをずらーっと揃えられることだけですばらしいですわ〜。
私にとっては,この辺りが全編の白眉でございました。はい。

さて,キーロフの男性ダンサーは白タイツだけでなく黒燕尾でも世界一美しいのだな〜,と陶然とする中に現れたメルクーリエフ王子ですが・・・ううむ・・・すみません・・・私には全然すてきに見えませんでした。白いタキシードという衣裳が燕尾服に負けるということもあったとは思うのですが・・・失礼ながらプロポーションがよくないんだもん。(オペラグラスで見たらハンサムではありましたが,遠目ではお顔よりプロポーションが重要なのよぉ) 
踊りは上手だとは思いましたが,それほどきれいでないというか,テクニックを披露しているだけというか・・・。(・・・振付のせいかなぁ?)
現代の王子なのでしょうから優美でないのはかまわないのですが,もう少しかっこよくないと,シンデレラが恋に落ちるのに説得力がないじゃん,私だったらその辺に立っているコール・ドの誰かを選んじゃうぞー,と非常に不満に思いました。

まあ,冷静に考えれば,多少垢抜けていなくてもいいのかもしれませんねー。この王子はいわゆる「いい人」という雰囲気で,ロングドレスの女性たちに遊ばれているようにも見えましたから。(あら,お坊ちゃまのお出ましだわ〜,なんてね)

シンデレラは登場したとき,ここがどこなのかよくわからない風でした。それが段々と自分が美しい令嬢に変身していることに気付く。そして,回りに促されてちょっと踊ってみると皆が拍手してくれるので,もうちょっと長く踊ってみる。ますます誉められるので嬉しくなって,確信に満ちて見事な踊りを披露する。(このシンデレラは「慎ましさ」とは無縁なわけですねー)

ところで,シンデレラの衣裳は,ミディ丈の白のスリップドレスでした。衣裳自体は決して悪くはないけれど,肩の辺りがたくましく見えてしまって・・・王子のタキシードといい,主役がもっと魅力的に見えるように工夫してほしいものです。

ええと・・・前後関係などは忘れてしまったのですが,もちろん王子とシンデレラはパ・ド・ドゥを踊ります。

これはとてもよかったです。ソログープは,華は少々足りないかもしれませんが,空間を大きく使えるというのかしらん,伸びやかで美しい踊りだなー,と思いました。メルクーリエフのほうはとても嬉しそうで,「赤いお姐さんたちの群れに囲まれる日々にかわいいコが現れてよかったねー」と喜んであげたい気持ちになりました。うん,これは,王子のほうは明らかに恋だな。

一方,シンデレラが恋をしていたかどうかは疑問です。どちらかというと,きれいな姿で舞踏会のヒロインになっていることに夢中になっていたんじゃないかな。(しつこくて恐縮ですが,王子はたいしてかっこよくないしー)
たぶん演出の意図がそうなのだと思いますし,考えてみると,原作(?)だって,シンデレラは王子に見初められたのであって,王子と恋愛をしたというのとは違うかもしれないから,こういうのもよいとは思いますが。

この幕の最後,観客の目の前で装置がせり出して舞台転換が行われ,あっという間にシンデレラの家。
舞踏会のざわめきは去り,もとの姿に戻ったシンデレラが一人取り残されます。背後の壁にとりすがって嘆く姿はとても哀れで,心動かされました。(装置を生かした優れた演出だと思いますー)

 

3幕のお国めぐりは,王子は臙脂色のトレーナーと白いパンツといういでたち。メルクーリエフはこの衣裳のほうが魅力的みたい。衣裳が衣裳であるだけに王子らしくは見えなかったですが,とてもかわいかったです。
行った先の異様な人たちにおっかなびっくりなのも微笑ましいですし,(2幕と違って)好感を持って見ているせいか,踊りも「おお,上手♪」に見えました。軸が多少傾くところはありましたが,跳躍も回転も無理がない感じでよかったです。

さて,最初の国は女性ばかりですが・・・気圧されながらウエストポーチからおずおずとガラスの靴を取り出して・・・馬鹿にされていました。(気の毒ぅ)
続いて男性ばかりの国。(男色の国?) いかがわしい感じに顎に髭を描いたバイムラードフほかの「たくましい」系の男性ダンサー(たぶん皆さんキャラクテールダンサーなんじゃないかな)がくねくね〜,という踊りを踊ったあと,ガラスの靴が取り出され・・・王子は嘲笑されておりました。(ますます気の毒ぅ)

シンデレラのほうは,家でもとの生活に戻っていましたが・・・舞踏会を思い出す踊りの激しさがスゴかったです。はかない夢だったと淋しがるとか現実の境遇を悲しむとか,そんな生易しいものではなく・・・そう,怒りのように見えました。

演出なのかソログープの解釈なのかはわかりませんが,私は,この踊りに感銘を受けました。シンデレラにとって舞踏会での体験が「真実の恋」であったにせよ「虚栄心の満足」だったにせよ,一度禁断の味を知ってしまった以上,以前の生活に戻れるわけはないですもんね。
現代の物語として『シンデレラ』を見るとき,そして2幕の幕切れと併せて見るとき,「怒り」という表現はとても説得力があるものです。「よい子は報われる」なんて,そんな説話はクソ喰らえだわっっ!!(お下品な用語で申し訳ございません) 

・・・と,戦闘的な気分になって見ている中,シンデレラがなにをしたかというと・・・工事現場の足場のようなセットの中段に上って,義姉たちの靴試しの間にカーディガンを脱いで・・・わはは,スタンバイしておりました。で,狙い定めて王子の足下にもう片方の靴を落とすのよん。
いやー,いいねえ♪ こうでなくちゃ♪♪ 

この後の演出がとてもすてきでした。
工事現場ですから(←違うって)パイプが組んであって,階段もついているわけです。王子はシンデレラを求めて階段を上り,シンデレラは王子に向かって別の階段を駆け下りる。今度は逆に王子は下りてきてシンデレラは上っていく・・・。何度か繰り返されたこの「すれ違い」は,へたに演じられたら笑ってしまったと思うのですが,二人とも一心に相手を求める雰囲気を上手に出していて,うっとりしました。(うーむ・・・今回主役カップルにうっとりしたのはココだけだったかも〜)

継母たちは穏当に去り,父親も登場。
あらあら,お父さんはまたシンデレラにお金をせびっていました。シンデレラは今回は優しい。王子からもらったお金を渡していました。ほのぼのしますね〜。(←ちょっと違うか?)

そして二人の踊り。私としては衣裳を替えてほしい気はしたのですが,まあしかたないですね。普通にきれいなパ・ド・ドゥで,恋の成就の雰囲気があってよかったと思います。

 

全体としては,どんなかなー,と好奇心いっぱいで見にいって,その期待は裏切られなかった感じ。驚くような新しいモノではなく,一方「どこが新作だ?」と不審に思うようなこともなく,私には程よい現代バレエでした。シンデレラが泣くところなどダンサーに声を出させる演出は私は嫌いですが,それ以外はなかなか興味深く,大いに楽しめました。

もっとも,何回も見たいかと聞かれると返事に窮しますし,世界中のバレエ団の『シンデレラ』が全部この調子になっては困りますが・・・キーロフがたまにこういうモノをやるのもいいわね〜,と。
だいたい,この演出が長くバレエ団のレパートリーに残るかどうか怪しい気もするから,見ておけてよかったですわ〜。

・・・・・・・・・あら,私,結局貶しているのかしらん?

(03.12.12)

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