バレエ・ガラ「THE CHIC」 (新国立劇場バレエ団)

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03年10月3日(金)〜5日(日)

新国立劇場中劇場

 

指揮:渡邉一正

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

ううむ・・・よくなかったとまではいいませんが,盛り上がりに欠ける公演でした。

率直に言って,このバレエ団は,所属のダンサーだけで「ガラ」と銘打った公演をできる陣容ではないのだなー(とほほ)と感じましたが,それにしてももう少しやりようはあったろうと思います。

たとえば,宮内さんが体調の問題で休演したのはしかたがないことですが,酒井さんと小嶋さん(とマトヴィエンコさん)が1演目しか出演しなかったのは,おそらく1か月後に『マノン』初演を控えているからでしょう。つまり,上演スケジュールの組み方が悪い。もし,志賀さんや山本さんも『マノン』に主演することになっていたら,いったいどうするつもりだったんですかねー??

第2部のパ・ド・ドゥの演目選定も今ひとつ理解に苦しみます。題名どおり「CHIC」ではありますが,暗い舞台で踊られる演目ばかり続いては,盛り上がらんですよねえ。
『眠り』とか『黒鳥』とか『ドンキ』とか,いやなんでもいいのですが,とにかくもっと派手なモノも取り混ぜていただかないと・・・。

それから,なぜ,『シンフォニー・イン・C』を最後に上演しないのでしょう? 上演として『ジャルディ・タンカート』とどちらが上だったかはわかりませんが,最後に物量作戦で盛り上げてくれたほうが終演後の気分は「♪」という感じになると思うのですが・・・?

まあ,どれも見る前からわかっていたことではあるのですが,実際に目の当たりにすると,改めて「・・・?」と思ってはしまいました。

 

第1部

シンフォニー・イン・C

振付:ジョージ・バランシン

音楽:ジョルジュ・ビゼー

《第1楽章》

酒井はな, マイレン・トレウバエフ

高橋有里, 西山裕子, 江本拓, 高木祐次

《第2楽章》

志賀三佐江, 奥田慎也

寺島ひろみ, 本島美和, 富川直樹, 中村誠

《第3楽章》

遠藤睦子, 富川祐樹

さいとう美帆, 島添亮子, グリゴリー・バリノフ, 吉本泰久

《第4楽章》

西川貴子, 陳秀介

大森結城, 前田新奈, 市川透, 貝川鐵夫

 

新国立では2度目の上演ですが,私は初めて見ました。

コール・ド・バレエは,きれいだし統制がとれているし,各楽章の音楽の雰囲気を表現していたと思います。
特に,ソロを踊ることもあるダンサーを含む第1楽章は見事。幕開きだから重要ですよね〜。
女性コリフェも総体的によかったですが,男性は,踊り以前にプロポーションとか立ち居振舞いとかが苦しいなー,という方も散見されて残念でした。

第1楽章の酒井さんは,おそらく休演の宮内さんの代役だったのだと思います。そのせいで準備不足だったのでしょうか,今ひとつ音楽的に見えませんでしたが,明るい感じが幕開けにふさわしかったと思います。
トレウバエフさんは,(たぶん)初バランシンの努力賞,という感じでした。

志賀さんの第2楽章は和風にしっとりとした感じというか・・・ちょっと変わった味わいのバランシンだなー,と思いましたが,抑制がきいた動きできれいでした。第4楽章でアレグロで踊っているときのほうが魅力的には思いましたが,このゆっくりしたパートを彼女以上に見せられるバレリーナはこのバレエ団にはいないように思うので,適材適所ではありますね。
奥田さんは,サポート中にサポートしていないほうの腕(面倒な説明で申し訳ない)の動きがきれいでないですし,サポートと自分自身のポーズが連続する部分で「決めていると間に合わないから,この際ポーズはおざなりでっ」感があるのが残念でしたが,逆に言えば,それはもう誠実なパートナーなわけで,花マルつきの努力賞だなー,と。

第3楽章の遠藤さんは,とーってもよかったです〜♪
安定して歯切れのいいテクニックのバレリーナですから期待していましたが,こんなに見事だとは思わなかったわ〜。音楽に乗って踊るだけではなく,アクセントのつけ方が上手で,音楽が見える感じ。躍動感はあるし,(失礼ながら,かなり驚いたのですが)プリマらしい華もあって,とても魅力的でした。
それに対して冨川さんは,(日々上達していたので)努力は認めるが賞は差し上げられないというか・・・。率直に言って荷が重かったと思います。さらに率直に言えば,この楽章のコリフェで出ていた吉本さんかバリノフさんが踊ったほうがよかったのではないか,と・・・(ごめんねー)。あ,でも,彼は跳躍が高いですねー。

第4楽章。
西川さんは,少々地味な感じはしましたが,堂々とした安定した踊りでよかったと思います。
陳さんは,身長差があまりない西川さんをきちんとサポートしていて,やはり努力賞でしょうか。

全体としてはとても楽しめましたし,特に,第4楽章の後半の総登場は「どこを見たらいいのかしら〜♪」状態でしたが,その一方で,ここのバレエ団の女性上位はなんとかならんもんかなー,とも思いました。男性のプリンシパル級が出ていないからしかたないのかもしれませんが(そもそも出せないようなスケジュールや演目構成がいかんっ,と話が戻るわけですが),12人で跳躍するときに「おおっ」がなく「ん?」があるのは困ったものです。

 

第2部

『ジゼル』第2幕よりパ・ド・ドゥ

振付: J・コラリ/J・ペロー/M・プティパ

改定振付: コンスタンチン・セルゲーエフ

作曲・アドルフ・アダン

ジゼル: さいとう美帆     アルベルト: 小嶋直也

うううむ・・・なんと言えばいいか・・・私にとっては悪くはなかったですが,いや,よかったのですが,堂々と誉めるのはためらわれるというか,はばかられるというか・・・。

そもそも『ジゼル』はガラ向きの演目ではないし,抜粋のしかたもあまりに短い。
その上,特に初日は,さいとうさんは踊るだけでせいいっぱいの感じだし,小嶋さんは調子が悪そうだし(彼にしては動きが重かった。あ,「彼にしては」の話ね),困惑してしまいましたよ。

でも,さいとうさんは初日より二日目,そして三日目とだんだんジゼルらしい雰囲気になってきたので安心しました。(う〜む・・・妙な鑑賞態度ではありますね)
動きそのものは端正でていねいでした。まだ21歳だそうで,きちんときれいに踊っているだけで立派なことかもしれませんし,プロポーションもいいですし,体格的に小嶋さんのパートナー向きのように見えるので(←重要チェックポイント)今後が楽しみです〜。

小嶋さんは,踊りは結局「今回は若干不調かしらん?」という感じでしたが(7月の新潟公演のときのほうがよかった),もちろん美しいですし,リフトや舞台から去る走り方までエレガント。静かに悔やむアルベルトだったのが,ソロの最後,倒れこむ直前だけ感情の迸りを見せるのが「きゃあああ」でしたわ〜♪

ただ,いつものことながら,愛は薄かったと思います。さいとうさんを気遣って踊っていたとは思いますが,でもそれは愛とは違うから・・・。
私はそういうところも含めて彼の舞台に惚れていますし,全幕でのこの場面に愛が必須だとは思いませんが,客観的に言って,パ・ド・ドゥとして上演するときには,これでは感動を与えられないでしょうなー。
(パートナーが若すぎるせいもあるでしょうが,でも,彼女から情感を引き出せないことを含めて,やっぱり彼に問題があるのよねえ,たぶん。表現力はあるのに,なぜ肝心の恋愛方面だけは苦手なんでしょう??)

 

『こうもり』第2幕よりパ・ド・ドゥ

振付: ローラン・プティ

音楽:ヨハン・シュトラウス2世     編曲:ダグラス・ガムレイ

ベラ: 真忠久美子(3日,5日)  湯川麻美子(4日)    ヨハン: 山本隆之

ええと・・・このパ・ド・ドゥだけ取り出して上演されても,私にはたいして面白くないです。べラの肌色レオタードという衣裳やこうもりの翼をはさみで切るところなども,全幕を見たことがなければ意味不明のような気がするしー。

真忠さんは,コケティッシュな雰囲気があり,美しかったです。全幕主演の成功で自信がついたのでしょうか,そのときより華があって輝いていました。
湯川さんは動きの美しさは真忠さんに及ばないものの,愛のある雰囲気は上。それから,冒頭の演技の場面など,ほんとにうまいわ〜。
山本さんもよかったです。この役に合っているなー,と思いました。(でも,デュアトのほうがより魅力的だったかな)

 

『ラ・バヤデール』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ

振付:マリウス・プティパ     改定振付:牧阿佐美

音楽:レオン・ミンクス

ニキヤ: 高橋有里(3日,日)  西山裕子(4日)     

ソロル: 吉本泰久(3日,5日)  マイレン・トレウバエフ(4日)

高橋/吉本は,踊りとしては二人とも上手でした。
高橋さんは安定していて存在感もあるし,吉本さんはきれいなテクニックを披露。ただし,ニキヤとソロルの場面にはなっていなかったように思います。でも,ガラだからいいのかも〜。

西山さんは傾けた首の角度などが美しく「薄倖のニキヤ」ではあるのですが,テクニックが弱いような。
トレウバエフさんはたいへん上手ですが,ううむ・・・ソロルというのは戦士ではあってもダンスールノーブルだと思うので,その辺に若干問題が・・・。

 

『ロメオとジュリエット』第1幕よりバルコニー・シーン

振付:サー・ケネス・マクミラン

音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

ジュリエット:志賀三佐江     ロメオ:デニス・マトヴィエンコ

よかったです〜♪
前の三つのパ・ド・ドゥと違って,これだけで一つの作品として鑑賞に耐え得る場面ですし,上演としてもすてきでした。

特に志賀さんは情感があるきれいな踊りだし,演技も上手。バルコニーに頬杖をつくところやキスされたあとバルコニーに駆け戻るところなんかほんとうに可憐で「恋の始まりのジュリエット」そのものでした。来年の全幕が楽しみ〜♪
マトヴィエンコさんは情熱的で一途な恋の雰囲気で,とてもかわいらしかったです。ただ・・・なんというか・・・あの・・・最近の彼は以前より踊りに品がなくなっているような気がするのですが・・・?

雰囲気的には大人の入口にいるジュリエットと少年のロメオでパートナーシップもよかったですが,技術的なパートナーシップは若干もたつきが・・・。リハーサル不足でしょうか?

 

第3部

『ジャルディ・タンカート』

振付:ナチョ・デュアト

音楽:アリア・デル・マル・ポネ

厚木三杏, 湯川麻美子, 寺島ひろみ(3日,4日),遠藤睦子(5日)

貝川鐵夫, 白石貴之, 山本隆之

この作品は,私の好みではありませんー。

無音で始まるのは苦手ですし,音楽も好きではないです。(だって曲調が演歌みたいなんだもん)
振付もデュアトにしてはつまらないというか,どこかで見たようなコンテンポラリーに見えてしまいました。それから,歌の意味に引きずられて動きをつけているような感じも受けてしまって・・・。(いや,もちろん,各場面ごとの歌詞の意味はわからないで見ていました。だから,印象にすぎませんが)
もっとも,プログラムの解説の「カタルーニャ語」とか「民衆詩」という言葉からメッセージ色を感じすぎて拒絶反応が出たのかもしれませんが・・・。

ダンサーは,みなさんよかったように思います。
特に白石さんは,身体の使い方が完全にコンテンポラリーになっているんじゃないかしらん,とても印象的でした。あと,山本さんもかっこよかったです。

 

まあ,そういうわけで,今ひとつ楽しめない公演でした。小嶋さんさえ見られればいいのよ〜,と割り切るには,あまりに出番が短かいですしねえ。
でも,3日間通うと,日々よくなっていくのが如実にわかりますので(ほんとうに舞台の数は重要なのね〜),そういう楽しみはあったから,まあいいかしら〜。

(03.10.5)

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