ノートルダム・ド・パリ (牧阿佐美バレエ団)

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03年8月23日(土)マチネ,ソワレ,8月24日(日)

オーチャードホール

 

振付・台本: ローラン・プティ  振付指導: ルイジ・ボニーノ

原作: ヴィクトル・ユーゴー

音楽: イヴ・サン=ローラン

装置: ルネ・アリオ
衣裳: イヴ・サンローラン

カジモド: ジェレミー・ベランガール

エスメラルダ: 上野水香(23昼,24),   ルシア・ラカッラ(23夜)

フロロ: 小嶋直也(23昼,24),   ベンジャマン・ペッシュ(23夜)

フェビュス: アルタンフヤグ・ドゥガラー

横山薫, 金澤千稲, 坂西麻美, 平塚由紀子, 佐藤朱実, 清水美貴, 酒向葉子, 橋本尚美, 藤田淑, 櫛方麻末, 館野若葉, 橘るみ, 吉岡まな美, 山井絵里奈, 奥田さやか, 小橋美矢子, 笠井裕子, 柄本奈美, 加藤裕美, 駒崎友紀, 貝原愛, 竹下陽子, 関友紀子, 坂梨仁美, 山中真紀子, 寺内直子, 山口恵理子, 山岸沙希, 青山季可, 大野智子, 海寳暁子, 伊藤友季子
加茂哲也, 飯田伊奈美, 相羽源氏, 逸見智彦, 山本成伸, 塚田渉, 秋山聡, 保坂アントン慶, 伊藤隆仁, 京當侑一籠, 武藤顕三, 徳永太一, 今勇也, 菊地研, 阿南誠, 笠原崇広, 中島哲也, 高橋章, 中村一哉, 栗竹徹, 清野邦宏, 芝崎健太, 和泉沢信行, 石田亮一

 

ううむ・・・小嶋直也がすばらしかったので私は満足しましたが,しかし,全体としては,よい公演だったとは言えないような・・・。

『デューク・エリントン・バレエ』と並行して準備を進めなければならないということもあったのでしょうか,コール・ドが迫力不足でした。男性コール・ドに人数が必要なため,普段は踊らない役に退いている方々まで踊らなければならない場面があるのも,(心意気は多としますが)見ていてつらいものがあります。
装置が簡略版なので,奇跡小路(赤い人が登場する場面)とかフロロがエスメラルダとフェビュスの逢引を盗み見るシーンなどで今ひとつ雰囲気が出ないのも残念。(「オーチャード・バレエ」だからしかたないと思いつつも,初演と同じ新国立劇場でやってよぉ,と)
それから,公演日程がタイトすぎるせいだと思うのですが,好調ではないソリストが多かったように思います。

 

べランガールはひたむきで純真な少年のようなカジモドでした。メイクが白っぽく不健康感はあるもののあまり醜さを強調していなかったせいもあるのでしょうか,不幸な容姿と恵まれない生い立ちからくる屈折した雰囲気がないのが物足りなかったですが・・・でも,「孤独な魂」とか「生きる悲しみ」などとコピーをつけたいような詩的な感じがあったから,これはこれでいいのかな。
踊りは,少々疲れているように見えましたが,連日公演なのでセーブしていたのかもしれません。24日はまずまずでしたから。

 

ラカッラは頭が小さく手脚は長く実に見事なプロポーションですし,動きも柔らかくて美しかったです。
演技も上手でしたが,なんか場面場面で演技しているだけで,人柄が今一つ伝わってこないというか・・・。特に,カジモドとのデュエットが,「陰惨な全編の中の唯一の心温まる場面」の役割を果たしていなかったのが不満です。なぜか最初から笑顔全開で登場するし(いや,チャーミングではあるんですけれどね),その割にカジモドへの感謝とか思いやりが足りなく見えました。中盤辺りにカジモドが彼女を連れてにこにこして上手奥のほうに引っ張っていこうとする振付があるのですが,これを断るところなんか冷たかったわぁ。

上野水香は,色気がかなり足りないですし,演技は発展途上のレベルでしたが(したがって,2日目のほうがよかった),心優しいエスメラルダでチャーミングでもあり,悪くはなかったです。
でも,彼女は動きが美しくないなぁ。ラカッラには及ばないものの普通の外国人ダンサーより見事なプロポーションと柔軟性があるのに,なぜなんでしょう? 勢いがありすぎてていねいさが足りないのかしら?

 

小嶋直也のフロロは,気持悪さも邪悪さも迫力もヴァージョンアップ。だいたいメイクからして悪相だもんねえ。エスメラルダを見る眼つきの白目が,それはもう怖かったですー。
カジモドとの関係は完全に主従関係ですし,街の人々に対しては高圧的。エスメラルダに対しては・・・なんて言ったらいいんだろう・・・恋とか嫉妬であるはずもない。邪恋でさえなく「物」として見ているというか・・・。あ,そうか。カジモドも「物」なのよね,彼にとっては。
う〜む,なんとも歪んだ人柄で,カジモドよりよっぽど「怪物」だわ,こりゃ。

おどろおどろしい悪役につくっているので,やりすぎに近いかもしれませんが(最初に女性コール・ドの中で踊る「祈り」の場のソロなどは,こりゃ聖餓魔IIのミサか? と),そうならないのは,踊りに品格があるからだろうなー,と思います。
あ,それから,今回は,全編で重要な役割を果たす「手の動き」が上達しておりました。そのことに感心したせいか,踊り自体は23日のほうが好調だったように見えましたが,エスメラルダとの演技のかみ合い方などは24日のほうがよかったです。

ペッシュのほうは,これに比べるとたいそうマトモな人柄に見えました(笑)。十字架メイクも似合ってかっこよく,冷酷ではあってもスマートさがあり,邪悪ではない感じ。
登場した直後にカジモドの肩の辺りに手を置く動きがあるのですが,その動きが小嶋のほうは「支配者」で彼は「保護者」。十字を切って人々に祝福を与えるところもありがたい聖職者に見えます。フェビュスを殺すためナイフを取り出す直前もかなり苦悩していたし,慈悲深くもあった聖職者がジプシー女にとらわれて道を踏み外してしまうのねー,魔性の女に出会って気の毒だわー,という感じさえしました。

この作品のフロロ像としてはペッシュのほうが正しいのだろうとは思いますが,印象がより強烈なのは,たぶん,小嶋直也のほうでしょう。
踊りは二人とも見事でしたが,技のキレと大きさは小嶋のほうが上。もっともペッシュについては,日連続出演の最後の日だということもあったかもしれません。

 

ドゥガラーのフェビュスは,サポートは上手でしたが,踊りには明らかに疲れが見えました。昨年『ホフマン物語』のソロを見たときは,もっとはつらつとしていたし,大きくて柔らかい踊りで私の好みだったのですが・・・。あ,でも彼も,24日は比較的よかったかも。
衣裳も似合っていませんでしたが,アレは,映像でマニュエル・ルグリが着ているのを見ても「?」なモノですから,そこを問うてはいかんでしょうなあ。
演技には颯爽とした雰囲気がありよかったとは思うのですが・・・色気は不足しておりました。若いせいもあるでしょうが,正統派の王子タイプで軽薄な美男子の柄ではないのかもしれません。

 

1幕冒頭のコール・ドが踊る中のソロ(黄色い上着で紫のタイツ)は,たぶん相羽源氏だと思いますが,ううむ・・・今ひとつ,かな。
この場面のコール・ドの中で目立ったのは,目の周りが黒くてもやっぱり爽やかな逸見智彦(上が青でタイツは赤)と上がオレンジでタイツの色は忘れてしまった・・・けれど,たぶん今勇也。小柄だけれどキレがよいです。
それから,上が赤でタイツが緑のダンサーが,きれいではないけれど大きくて元気のいい動きで目を引くなー,と思ったのですが,たぶん菊地研だったのではないでしょうか。(フェビュス降板は残念。現時点ではドゥガラーのほうが上手だとは思いますが,色気があるダンサーだから見たかったのになー)

女性コール・ドは,酒場の場面でフェビュスと絡む6人(?)がよかったです。(たぶん,平塚由紀子,橋本尚美ほか)
日本人にしては色気がある,と言っては失礼かもしれませんが,ノリノリでしたわ。もっとも,その結果,日本人以上に純朴な感じの容貌のドゥガラーがウブな坊やに見えてしまうという弊害があった気もしますが・・・。

 

客席は,かなり空席が目立ちました。
日本人キャストの(予定だった)日のほうは,この演目で2日同じキャストならこの程度でしょうし,ゲストのほうは,今回程度の人気や知名度の方々で4回公演すればこうなるでしょうから,驚きはしませんが,残念ではあります。
それにしても,6回公演という志はよしとしても,世界バレエフェスティバルの直後に公演するというセンスとテープ演奏なのに普段の公演より高いチケット代設定には首を傾げますなー。

(03.8.24)

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