世界バレエフェスティバル プログラムA

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03年8月2日(土)

東京文化会館

 

指揮: ミッシェル・ケヴァル, アレクサンドル・ソトニコフ

管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

 

第1部

『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』

振付:ウィリアム・フォーサイス   音楽: トム・ウィレムス

グレタ・ホジキンソン, ロベルト・ボッレ

ふむふむ,この作品はパリ・オペラ座とフランクフルトの専売特許ではなく,一流ダンサーなら誰もが踊るような現代の古典になったのですね。
それと同時に,見る側にとって,衝撃的なモノではなくて,平常心を持ってアレコレ言える作品になってしまったのだなー,としみじみ思いました。なにしろ,こういう催しの冒頭に上演されて全く違和感がないのですから。

ホジキンソンは,先日Kバレエのオディールで初めて見て気に入ったダンサーでした。小柄ですがプロポーションがよくて,チャーミングな方。今回のフォーサイスも,スピード感と力強さがあり,腕や脚をよじるような普通のバレエと違う動きも上手でした。
ボッレは,もうちょっとキレがほしいところ。
ちょっと体格が違いすぎたせいもあってでしょうか,二人での動きには,もっとぎりぎりまで引っ張って〜,という感じを受けました。

 

『ロメオとジュリエット』より“バルコニーのパ・ド・ドゥ”

振付:レオニード・ラヴロフスキー   音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

マリーヤ・アレクサンドロワ, セルゲイ・フィーリン

ラヴロフスキー版はあまり好きではありませんが,ロシアのダンサーが踊ると「古きよきロシア・バレエ」の典雅な趣があって,悪くはないと思います。ただ,ロメオの衣裳はさすがに古すぎたかも。

アレクサンドロワを見るのはずいぶん久しぶりでしたが,伸びやかな踊りで美しかったです。ファニーフェイスもチャーミングで,可憐で初々しいジュリエット。
フィーリンはきれいですが・・・ロメオではないなぁ。若々しい情熱が感じられない・・・というか,私には,恋をしているようには見えなかったです。恋心の振付を美しく見事に踊れるからといって,ロメオになれるわけではないのだなー。
ボリショイではあまり組んでいないのでしょうか,パートナーシップが今ひとつに思われました。

 

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』

振付:ジョージ・バランシン   音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

アリーナ・コジョカル, アンヘル・コレーラ

二人とも初めて見たのですが・・・いやー,ひどかったですー。
明らかにやりすぎで,あれは『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』ではないですわ。おまけにきれいでないしー。

コジョカルは動きが今ひとつ音楽的でなくてポーズ(有名なパ・ド・シャとか,最後のリフトの空中姿勢とか)が美しくないだけですが,コレーラのほうは,それに加えて,アダージオでは妙な見得の切り方をして品が悪いし,振付も変えていたと思います(特にコーダの前半。後半もグラン・ピルエットしながら跳躍したりして,『ドンキ』でも踊っているつもりなんでしょうかねえ)。踊りが気に入らないせいか,笑顔が過剰すぎるように見えるし,プロポーションも難があるような・・・。あ,ヴァリアシオンのマネージュのスピード感は見事でした。(余計なコトもしてなかったしー)

・・・・・・・・・・バランシン財団に通報したろーか。

 

第2部

『リーズの結婚』

振付:フレデリック・アシュトン  音楽:フェルディナン・エロール

フィリップ・バランキエヴィッチ

あの振付は,たしか,2幕でのソロじゃなかったかしら。みんなでピクニックに行って,リーズの友人たちも交えながら(コール・ドとして加わりながら),恋人二人で踊る場面。

初めて見るバランキエヴィッチは,元気がよくてチャーミングで衣裳も似合って,とてもよかったのですが・・・なんとも短くて・・・。コンクールじゃないんだから,ヴァリアシオン一つというのは,いくらなんでも気の毒なような。
プログラムの写真もこの作品で,「このコのコーラスで全幕見たいかも〜」とは思いましたが,まさかシュツットガルトの次の来日公演がアシュトン作品だということもないでしょうしねえ。

 

『ジゼル』

振付:ジャン・コラーリ/ジュール・ペロー   音楽:アドルフ・アダン

アリシア・アマトリアン, フリーデマン・フォーゲル

二人とも初めて見ました。というか,去年の日本公演で見ているようですが,認識できるような大きな役ではなかったようです。

シュツットガルトのダンサーがクランコ作品でなく『ジゼル』を披露するからにはよほど自信があるに違いない,と思ったのですが・・・うううむ・・・凡庸というか,全然きれいでなかったというかというか・・・。
招聘元の選択かダンサーあるいはバレエ団の希望かわかりませんが,いったいどういう基準で演目を選んだのか不可解なことです。
なお,フォーゲルについては,踊り以前に,貴族に見えるようヘアスタイルを整えることが必要ではないか,と・・・。

 

『ゲッティング・クローサー』

振付:ジョン・ノイマイヤー   音楽・ネッド・ローレン

シルヴィア・アッツォーニ, アレクサンドル・リアブコ

とてもよかったです〜♪

ハンブルクのダンサーが日本初演のノイマイヤー作品を踊る・・・これこそ正しい世界バレエフェスティバルのあり方ですわ〜。こういうモノを見たいからチケット代を払っているのよ,私は。(シュツットガルト・バレエ団は,その辺をよく考えるように)

黄色いショートパンツに黄色いシースルーのランニングのリアブコのソロも,シルバーグレイのパンタロンスーツ(死語?)のアッツォーニが登場してのデュエットも,振付が音楽の雰囲気にぴったり合って,すてきでした〜。
どういう意味のある踊りなのか,あるいは意味はないのかはわかりませんが,心地よく舞台に身を委ねることができました。

アッツォーニは,以前『椿姫』でマルグリットの友人を踊っているのを見て,「娼婦仲間にしてはちょっとかわいらしすぎかも」と思ったのですが,華奢な感じはそのままに大人っぽい艶が出ていていました。
リアブコは(当時はコール・ドだったようです),たくましい体格と無邪気な笑顔のミスマッチが魅力的でした。かわいいわ〜。

 

『エスメラルダ』

振付:マリウス・プティパ   音楽:チェーザレ・プーニ

アニエス・ルテスチュ, ジョゼ・マルティネス

楽しめました。
このペアで見るのは2回目か3回目かな。

パートナーシップがよくて,ソロも上手で,衣裳も趣味がよくて(黒と白なの),細かい見せ方もチャーミング。
特に感銘を受けるようなコトはなかったですが,安心して見ることができる,よい上演だったと思います。

 

第3部

『シルヴィア』

振付:ジョン・ノイマイヤー   音楽:レオ・ドリーブ

オレリー・デュポン, マニュエル・ルグリ

初めて見た作品。(というか,たぶん,日本初演でしょう)

えーと,そもそもの古典の『シルヴィア』全幕も見たことがないのですが,たしかシルヴィアとアミンタが結ばれるハッピーエンドだったと思います。それを,「年月を経て,再会するが,別れて行く(プログラムの解説より)」という話にして,オレンジ色(茶色?)のロングスカートのスーツの女性とくたびれたオフホワイトのスーツ(麻? 中はグリーンのTシャツ)の男性を登場させて,しかも,音楽は,あの耳慣れた単純で甘い曲なんですから,もう,もう,ノイマイヤーってなんてかっこいいんでしょう♪ 大好きだわ〜。

デュポンは美しいですねー。衣裳のせいかバストが豊かに見えるのも(単なるお姫さまではない)「生身の女」らしさがあってよいです。
3年前にこのフェスティバルで見て以来だと思うのですが,(トランクを傍らに)立っているだけで雰囲気が出せるダンサーになったのだなー,と思いました。

こういう作品でのルグリは,ほんとうにすてき♪
ちょっとたそがれたおじさんなんだけど,詩情があって,大人の男の色気があって,手を差し出す仕草が雄弁に感情を語っていて,堪能しました〜。

そして,サポートがうまいっっ。上手なのを知らないバレエファンはいないでしょうし,私ももちろん十分知っていたつもりでしたが,それでも感心しました。いや,感動しました。片手をデュポンのウエストに回しただけの姿勢で,宙に浮く彼女を何回も何回も回して,スカートが美しく広がっていくところとか。他にも「うわ〜」と思ったシーンがたくさん♪
彼こそ,真のパ・ド・ドゥ・ダンサーなのだなー,パートナーを美しく見せて輝かせて,それによって自分も輝くダンサーなのだなー,と改めて感じ入りました。

 

『パヴァーヌ』

振付:ジョージ・バランシン   音楽:モーリス・ラヴェル

アレッサンドラ・フェリ

白い簡素なロングドレスの女性ダンサーが白い大きな布を動かしながら,歩いたり走ったりちょっと踊ったりする作品。初めて見ました。

バランシンにもこういう作品があるのかー,と勉強になりましたが,ううむ・・・こういうモノは,マヤ・プリセツカヤとかカルラ・フラッチのような方が踊るというのであればありがたく見せていただきますが・・・フェリは,そういう境地に入るのはまだ早いのではないでしょーか?

 

『マノン』より“寝室のパ・ド・ドゥ”

振付:ケネス・マクミラン   音楽:ジュール・マスネ

ディアナ・ヴィシニョーワ, ウラジーミル・マラーホフ

ヴィシニョーワはマノンに向いているだろうと期待していましたが,期待以上に向いているようでした♪
無知で無自覚で無責任で・・・そして無垢な少女。冒頭,ベッドの柱に手を置いて,デ・グリューを見ているシーンだけでそれがわかりました。誘おうなんて全然していないんだもの。まるでオーロラみたいに,愛らしく輝いて立っているだけ。その魅力には逆うことなんかできないし,そして,その瞳に見つめられたら最後,男はどこまでも堕ちていく・・・。
これぞマノンだ。そう思えました。

それから,ほんとうに上手なダンサーなのだなあ,と感心しました。どこの動きか覚えていないので説明できないのですが,うわっ,ココをこんなに易々と踊る人を初めて見たわっ,と2回ほど思いました。もしかすると,もしかして,ギエムより身体能力が高いのかも?

マラーホフは・・・ええと・・・地味でびっくりしてしまった。
いや,こういう作品でのマラーホフって,いつもパートナーより美しくて,熱烈じゃないですか。それなのに,アラベスク(? アチチュード?)で伸ばした脚の美しさなどがいつものようでなかったですし,情熱的な表現も抑え目。ううむ・・・調子がよくなかったのかな???
それとも,大人の表現になりつつあるとか? でも・・・もしそうだったとしたら,私は残念だなー。彼には,包容力ある大人の男になんかならないでほしいんだけどー?

というわけで,「この二人だから・・・」という事前の期待ほどではなかったですが,ヴィシニョーワは「♪」,マラーホフは,いつもほどではなくても普通のダンサーよりはきれいですから,かなりよい上演だったとは思います。

 

『海賊』

振付:マリウス・プティパ   音楽:リッカルド・ドリゴ

タマラ・ローホ, ホセ・カレーニョ

ロッホは初めて見ました。小柄ですし,プロポーションに恵まれていないせいか,あまりきれいな踊りには見えませんでしたが,落ち着いた顔立ちで品がよく見えました。濃い水色基調の衣裳もすてきでしたし。
跳躍は弱いようですが,回転はたいへん上手。グラン・フェッテは音楽をゆっくりにして回っていたし,シングル・シングル・トリプルを規則的に続けていたような。で,私はスレちゃってる観客なので,トリプルくらいでは驚かないのですが,最初はトリプルでなく4回転に見えて,さすがに「おおっ」と思いました。なので,数えてみたら,あとはトリプルだったような感じ。果たして4回転だったのかなー? どうなのかなー?

カレーニョは,衣裳がちょっと・・・。いや,ABTの衣裳がああいう柄なのでしょうが,ハーレムパンツにしては細すぎるような・・・?
彼は,もっと伸びやかに大きく跳躍する方だと思っていたのですが・・・調子が悪かったのかしら,それとも年齢的にかつてほどではないのかな。最後のア・ラ・スゴントも,ロッホ同様ゆっくり目で,しかも緩急をつけていましたが,その緩急の変わり目で,ちょっと滞っていたしー。
でも,ガラ向きに誇張された恭しさの表現で,それでいて端正さは保っていましたから,よかったのではないでしょうか。

 

第4部

『アダージェット』

振付:モーリス・ベジャール 音楽:グスタフ・マーラー

ジル・ロマン

ブラヴォー♪

優れたダンサーによる優れた作品の上演。感動的。
これ以上なにを言うことがあろうか。

 

『ラ・バヤデール』

振付:マリウス・プティパ   音楽:ルードヴィヒ・ミンクス

ガリーナ・ステパネンコ, アンドレイ・ウヴァーロフ

影の王国でのニキヤとソロルを踊りをつないで上演されました。

えーと・・・この作品をガラで上演するのは難しいですね。コール・ドがないと,どうも雰囲気が出ない。最初のデュエットのあとソロルが下手に去らずに,通常コール・ドの踊りが入る部分でもウヴァーロフが踊ったりしてうまくつないではいましたが・・・でも,あそこの去っていくソロルってすてきだから,なくなって残念だし・・・う〜ん,他もなんとなく細切れ感があって,今ひとつ舞台に入り込めませんでした。(←決して,東京バレエ団のコール・ドをつけろと言っているわけではない)

ステパネンコはニキヤにしては情感が少し足りないような気もしましたが,上手ですし,静謐にプリマの風格を見せて踊っていました。特に,ベールの踊りの安定と端正が印象に残ります。

ウヴァーロフは,優雅で美しいソロルでしたが・・・彼のハーレムパンツも少し細すぎませんかね? あと,上半身にボタンが付いていて,あのー,なんだかパジャマのような・・・?
それと,こういう機会に,マラーホフに着地で音を出さない踊り方を習ってほしいと思いますー。(あ,フィーリンもいっしょにね)

 

『優しい嘘』

振付:イリ:キリアン  音楽:クラウディオ・モンテヴェルディ,カルロ・シェズアルド,クレゴリオ聖歌

シルヴィ・ギエム, ニコラ・ル・リッシュ

初めて見ました。(たぶん,日本初演)
映画『エトワール』でルグリが舞台で踊る様子がちょっと映って,見てみたいわ〜,と思っていたので,とても嬉しかったです。
(もしかして,ギエムは,この映画が日本でヒットしたことなんかも市場調査して,上演作品を選んだりしているんですかね? 彼女ならそれくらい戦略的かもしれない,とか思ってしまいますが・・・考えすぎかしらん)

実際に見てみたら,期待以上でした。びっくりするような動きが続いて,しかもこの上なく詩的・・・。キリアンの振付は,私には「?」なモノもありますが,これはすばらしいと思いました。
短かすぎたのだけが残念です。もっと見せて〜,また見せて〜,と思いました。

もちろん,ダンサーもよかったのだと思います。
髪を伸ばして髭も蓄えたル・リッシュはたくましくて精悍な感じ。ギエムは,いつもどおりかっこよかったです。

 

『ドン・キホーテ』

振付:マリウス・プティパ   音楽:ルードヴィヒ・ミンクス

バルボラ・コホウトコヴァ, イナキ・ウルレザーガ

世界バレエフェスティバルだと思うと輝きが足りませんが,『ドンキ』パ・ド・ドゥとしては普通に盛り上げてくれました。

コホウトコヴァは,前回のこの催し以来ですが,可憐さが減ったかわり貫禄が出た感じ。驚くような技はなかったですが,それなりに見せてくれました。ヴァリアシオンはキトリではなく,普通はキトリの友人が踊るもの。
衣裳が,黒を基調に白と金で飾りをつけていて(赤が入っていない),すてきでした。

ウルレザーガは,歩き方がきれいでないですし,リフトが全然物足りなかったので,アダージオのときは,「いったいなぜこの人が出演しているのだ??」と思いましたが,ソロはまずまず。
ヴァリアシオンの最後,跳躍2回転とピルエット2回転を連続しながらまっすぐに前に進んできて,最後は跳躍2回転×2で終わったのが上手でした。

 

まあ,↑でいろいろ文句も書きましたが,そういうコトを言うのもバレエを見る楽しみのひとつ。
私にとって特に印象深い公演だったわけではないですが,それなりに楽しかったです。

(03.8.3)

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世界バレエフェスティバル プログラムB

03年8月9日(土)マチネ

東京文化会館

 

指揮: ミッシェル・ケヴァル, アレクサンドル・ソトニコフ

管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

 

第1部

『海賊』

振付:マリウス・プティパ   音楽:リッカルド・ドリゴ

バルボラ・コホウトコヴァ, イナキ・ウルレザーガ

コホウトコヴァは,基本的にお姫様タイプなのでしょう,Aプロのキトリよりはメドーラのほうがよかったです。水色基調でスカートが白いチュチュも美しかったですし。(ティアラは立派すぎ?) もっとも,もっと彼女に合う作品があるんじゃないかとは思いましたけどー。
ヴァリアシオンは,キーロフ版と同じ音楽だったかな。振付は違うように思いましたが。フェッテの前半では60度ずつ多く回って,身体の向きを変える動きを見せていました。

ウルレザーガは,見るべきは回転のテクニックだけで,そのテクニックも今ひとつ作品の雰囲気に合っていないことをしている,という感じでした。衣裳はなんとも形容しがたい暗めの色だし,アダージオなんか「このパ・ド・ドゥを踊るのは今日が初めてですか?」とか嫌味を言ってみたくなるくらい立ち位置とかポーズとかがぎこちないし。

まあねえ・・・ルジマトフのせいでこうるさくなっているのは自覚していますが・・・でも,それにしても,これくらい私の美的尺度とかこのパ・ド・ドゥに求めるものからかけ離れたモノを見せられると・・・怒るべきか悲しむべきか呆れるべきか・・・???

 

『小さな死』

振付:イリ・キリアン   音楽:ヴォルフガング・A.モーツァルト

オレリー・デュポン, マニュエル・ルグリ

すばらしかったです。美しかったです。

正直言って,3年前に初めて見たときほどの衝撃はありませんでした。というか,記憶に残るイメージよりは普通のデュエットに見えました。でも,二人が一体となって作り出す流麗な動きの美しさは,それだけで感動的ですし,ほの明るい照明も見事。

衣裳もある意味かなり際どいし,振付もそう見えなくもないけれど,ベタついた男女間の物語性は皆無で,かといって組体操にもならず,清潔な官能性のようなもの(←妙な日本語だとは思うが)が感じられるのがすばらしいなー,と思いました。

 

『白鳥の湖』より“黒鳥のパ・ド・ドゥ”

振付:マリウス・プティパ   音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

タマラ・ローホ, ホセ・カレーニョ

ローホは,緊張していたのかそういう解釈なのかわかりませんが,無表情というか無愛想というか・・・。よく言えば,王子への悪意に満ちているのかもしれませんが・・・あのオディールに騙されたり誘惑されたりするジークフリートがいたら,私は驚きますね。
それなのに,カレーニョは,にこにこしたり,ふと悩んだり,くらくらしたり,きちんとジークフリートを演じていて(いや,それが仕事だから当然だけどー),なんだか気の毒なようでした。

それから,小柄なせいもあるのでしょうか,腕の動きが『白鳥』向きではないです。オデットの動きを模して王子をペテンにかけるところなど,頭を抱えたくなりました。
フェッテは,今日もトリプルなどを入れていましたが,そんなところに力を入れるより,コーダの最後でアラベスクで下がっていくところなどを美しく魅力的に踊ってほしいです。

カレーニョは,やはり今回は調子が悪かったのではないでしょうか。身体が今ひとつ伸びていないというか・・・。でも,ていねいに踊っていて王子らしかったとは思います。
ただ,衣裳はなんとかしてほしかった。上半身に光る飾りが付いてはいるものの,全身黒っぽくて地味・・・。というか,白いタイツを着用するのは,王子の最低限の身だしなみなのではないでしょーか??

 

第2部

『ラ・シルフィード』

振付:オーギュスト・ブルノンヴィル   音楽:ヘルマン・S.レーヴェンスヨルド

マリーヤ・アレクサンドロワ, セルゲイ・フィーリン

うううむ・・・アレクサンドロワはミスキャスト・・・? 踊り自体はどこが悪いということもないのですが,大柄すぎて妖精に見えないというか・・・。ロシアのバレリーナに時々見受けられる顎(首?)を前に突き出した感じの姿勢も気になりました。

Aプロの『ロミジュリ』にしてもこの作品にしても,ルンキナ出演を前提に選んだ演目のままという感じで,彼女には少々気の毒というか,主催者もバレエ団も(フィーリンも?)もう少し考えてほしいというか・・・。
もっと堂々たるバレリーナ役のほうが似合うんじゃないのかしらん? (ガラのライモンダはすてきかも〜)

フィーリンは,3年前のラコット復元版に続けてのジェームス。たぶん,この役が得意なのでそれを選んでいるのでしょうが・・・私には,彼は全くジェームスには見えません。もっとシルフに夢中になってくれないと,ウキウキ踊っているように見えないと・・・。シルフが踊るのを見るとき,切り株(だったか岩だったか)に片足を乗せたりするなんて,アルブレヒトじゃないんだからさー。

あ,でも,細かい脚さばきは見事でしたし,ロシアのダンサーにしてはブルノンヴィルっぽく見えました。
(実のところ,どういうふうに踊るのが正しいブルノンヴィル・スタイルなのかわからないのですが,ロシア人が踊ると上半身を使いすぎて違和感が大きいことが多いのよ。しかしさー,そういう意味でも,この催しで『ラ・シルフィード』を上演するなら,デンマーク・ロイヤルのダンサーで見せてほしいものですわ)

 

『夏』

振付:ジェームス・クデルカ   音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ

グレタ・ホジキンソン, ロベルト・ボッレ

初めて見ましたが・・・すみません,かなり飽きました。

ゆっくりの音楽のときは,それぞれが夏の気だるい雰囲気を踊り,曲調が速くなると,組んで「夏の情熱(←プログラムより)」を踊るという感じでしょうか。
二人での動きはかなり難しそうな感じで,そのスムーズさには感心しました。

 

『レ・ブルジョワ』

振付:ベン・ファン・コーウェンベルグ   音楽:ジャック・ブレル

フィリップ・バランキエヴィッチ

ちょっとくたびれた白のワイシャツの腕をまくって(ネクタイは黒),メガネにおヒゲ,煙草を小道具に使ってのユーモラスな踊り。

振付は特に目新しいものはではないですが,シャンソンの軽い味わいを上手に使って演出しながら,ダンサーのテクニックや演技力を披露できる,よい小品だと思います。これを目当てに公演会場に足を運ぶようなものではないと思いますが,ガラを見にいって演目に入っていたら「わ〜い」と嬉しくなってしまうような感じかな。

バランキエヴィッチは,ノリもよくて,とってもチャーミングでした♪

 

『ライモンダ』

振付:マリウス・プティパ   音楽:アレクサンドル・グラズノフ

ガリーナ・ステパネンコ, アンドレイ・ウヴァーロフ

ウヴァーロフが長いマントを着けていなかったので,とってもがっかりしてしまった・・・。
ボリショイのダンサーだからグリゴローヴィチ版での上演だと思っていたのですが,違ったのかな・・・? ステパネンコの衣裳もボリショイより明るめのブルーだったし,振付や音楽も一部違うような気もしたし・・・??
(補記: ボリショイのファンの方からメールを頂きましたが,グリゴローヴィチ版の2幕のパ・ド・ドゥを中心にして3幕のヴァリアシオンを加えて上演されたのだそうです。なるほど,そういえばアダージオは,結婚式というよりは夢の中の雰囲気でした〜)

アダージオがとてもすてきでした。
ステパネンコは髪を耳隠しに結って,ロマンチックな雰囲気。しっとりとした落ち着きを見せながら,優美に踊っていました。ウヴァーロフも,揺るぎないサポートを見せながら自身も美しく,うっとりしました。

ソロは,ステパネンコは堂々たる風格でよかったですが,ウヴァーロフはAプロのほうが動きがよかったかも。ハンガリー風の動きが似合っていない感じもしました。あと,難しそうな技を織り込まないで,単純に大きくきれいに跳ぶほうが,スケールの大きいダンスール・ノーブルという彼の魅力が伝わると思うんだけどー?

(03.8.10)

第3部

『パキータ』

振付:マリウス・プティパ/ピエール・ラコット   音楽:ルードヴィヒ・ミンクス

アニエス・ルテスチュ, ジョゼ・マルティネス, 東京バレエ団

ルテスチュが地味でびっくりしてしまった・・・。

ええと・・・パキータ役は,東京バレエ団のコール・ドがひとしきり踊ったあとに満を持して登場してくるわけです。で,これはつい先日新国立劇場にヴィシニョーワがゲスト出演したときと極めて状況が似ていますから,あのときのヴィシニョーワのように,登場した瞬間舞台の明るさが倍になって,動き出した瞬間格の違いを見せつける・・・そういうモノを見ることになるだろうと予想していました。
ところが,なぜか,そういう華が全然なくて・・・。衣裳が彼女もコール・ドも同じ白系統だったせいもあるのかしらん? まあ,華がありすぎて浮いているよりはよかったかもしれませんが・・・。

踊り自体は上手だった,というか私が見た日のヴィシニョーワより安定していてよかったと思いますが,彼女は,「趣味は手芸」とか言いそうな優しげな雰囲気だから,この作品には向いていないのかなー?

マルティネスは,ショルダーリフトで「ん?」という感じはあったものの,とてもよかったです。「うわっ」も「きゃああ」もなかったですが,余計なコトをしないのが非常によかった。
今回,古典のパ・ド・ドゥを披露するダンサーが,難しそうなわりに効果的に見えない技巧or少々妙な衣装or今ひとつ不調,という感じなので,白いタイツが似合うプロポーションで折り目正しくきれいに踊っているということ自体が貴重に感じられ,心が和みました。(もっとも,この作品での彼の衣裳も,袖の形が不思議だとは思ったけどー)

ラコット復元版ということでしたが,コール・ドの動きなどはキーロフで上演しているものとほとんど同じように見えました。グラン・パ以外の失われた部分を復元したということなのでしょうか? いや,コール・ドは東京バレエ団だから復元版ではなかったという可能性もあるか? だとしたら,コール・ドつける意味ないよねえ。う〜む,どうなんでしょ?
男女それぞれのヴァリアシオンは上演されなかったような気もするのですが,記憶が不鮮明・・・。どうでしたっけ? 全幕ではほかのシーンで踊られるものをグラン・パだと入れているから,今回はなかったというコトなのかな?

 

『葉は色あせて』

振付:アントニー・チューダー   音楽:アントニン・ドヴォルザーク

アレッサンドラ・フェリ, マルセロ・ゴメス

今回と同じパートかどうかは覚えていませんが,前にも見たことのある作品。地味で盛り上がりがなくて,私は苦手です。

フェリにはたいへん感心しました。
例えばちょっと首を傾げるような仕草一つだけで,濃厚な雰囲気とか物語性とかが感じられる。この作品で,あれだけ雰囲気を出して見せてしまうのはスゴイ! と思います。
おかげで,前に見たときほどは飽きないですみました。

ゴメスは,たぶん初めて見たダンサー。
がっちりしているので私のタイプではないですが,安定したサポートと感じのよい笑顔,という感じでした。

 

『ロメオとジュリエット』より“寝室のパ・ド・ドゥ”

振付:ジョン・ノイマイヤー   音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

シルヴィア・アッツォーニ, アレクサンドル・リアブコ

このシーンを見たのは初めてですが,とってもよかったです〜♪

ロメオが目覚めて,幸福感の中に去ろうとして,でも,立ち去り難くてジュリエットにキスをする。それで彼女も目覚めて,二人は一夜明けての愛を再確認するが,彼は夜明け前に街を去らなければならない。ドアから出たロメオはふと立ち止まるが,振り返らず毅然として走り去る。泣き崩れるジュリエット・・・。

別れを前にした切なさはもちろんあるんだけれど,それが濃厚すぎなくて(「死」の予感なんかなくて),初夜の翌朝の恋人たちの幸福感に満ちた爽やかなデュエットでした。
これが今生の別れであることは見る側が知っていればいいことで,二人が予感していなくてもいいことなのだな〜,むしろ,そのほうが悲劇的で感動的なのかも〜,なんて思いました。

以前バルコニー・パ・ド・ドゥを別のダンサーで見たのですが,転げまわる振付を多用したロメオが印象的で・・・つまりは子供のようなロメオに見えました。それが,殺人者となり,愛する人との一夜をすごして,凛々しい大人の男になったのかしら〜,とも思いました。

いずれにせよ,ノイマイヤー版も全幕で是非見てみたいです〜♪

アッツォーニははかなげで透明感のあるジュリエット。リアブコは,私のロメオのイメージとは違うのですが(大柄だし,髪が黒くて硬そうなのよ),信じてついていっていいと思わせてくれる雰囲気でした。
パートナーシップもすばらしく,難しそうなリフトも流れるよう。(振付そのものが,難しさが突出しないように作ってあるのかも)

 

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』

振付:ジョージ・バランシン   音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

ディアナ・ヴィシニョーワ, ウラジーミル・マラーホフ

衣裳の色の取り合わせが「?」でした。ヴィシニョーワはいつもの彼女のオレンジ色で,マラーホフはいつもの彼のパープルなの。和服での色合わせならあるかもしれませんが,バレエの衣裳としてはいかがなものか?
どちらかがどちらかに合わせて新調してもいいのではないでしょうかねえ。

ヴィシニョーワは,音楽を自在に使う踊り方もステップから漂う色香も伸びやかな身体の動きもよかったけれど・・・2月の「バレエの美神」のときのほうがずっと輝いていたように思います。もしかすると,こっちが見慣れてしまって驚けないというコトもあるのかもしれませんが・・・。

マラーホフはですね・・・表情も硬く,明らかに不調に見えました。AプロとBプロの間に踊った『ジゼル』全幕はすばらしかったと聞きましたから,故障などではなく単なる体調の問題だと思いますが,あんなに輝きのない彼は初めて・・・。我が目を疑う思いでした。
ミスがあったというようなことではないけれど,動きが重いし,跳躍が全然ふわっとしていないのよぉ。(泣)
もっとも,そういう状態でも跳躍の着地音がないところなどは立派だと思いますし,優美な雰囲気はさすがでしたが。

(03.8.12)

第4部

『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』

振付:ウィリアム・フォーサイス   音楽: トム・ウィレムス

アリシア・アマトリアン, フリーデマン・フォーゲル

やれやれ,『ジゼル』の次は『イン・ザ・ミドル』かいな,一つくらいクランコ見せろよぉ・・・とグレていたのですが,いやいや,とってもよかったです。たいへん失礼をいたしました。
うん,攻撃的で勢いがあって,Aプロの二人よりずっと「らしかった」と思います。

特に,アマトリアンはかっこよかった。
普通の歩き方をするときやその辺で待っているとき(←というのか,あれは?)は,かなり演技をしている感じで,蓮っ葉というか・・・フォーゲルを誘惑したりじらしたりしている感じ。踊りまくるときはキレがあるし,押しが強い。髪を下ろしているのも「女」感を強めて,かなり煽情的でした。

フォーゲルは,柔らかい踊り方で「フォーサイスと違う」感じはあったものの若さの勢いがありましたし,サポートがちゃんと「サポートというより闘争」風だったのがよかったです。
腕の筋肉のつき方がきれいだから衣裳が似合っていたし,この際関係ないような気はしますが,かわいらしいハンサムだったしー♪(Aプロと違って髪を固めていたので判明したのであった)

 

『マノン』より“沼地のパ・ド・ドゥ”

振付:ケネス・マクミラン   音楽:ジュール・マスネ

シルヴィ・ギエム, ニコラ・ル・リッシュ

6年前,ギエムがこういうガラ公演でこのパ・ド・ドゥを踊ると知ったときは驚きましたし,上演には感動し,その結果フィナーレにあの衣裳で登場したということにも感銘を受けました。
そして,3回目となる今回は,ガラ・プロではデュポン/ルグリもこのパ・ド・ドゥを踊るようになったわけで,一見ガラ向きとは思われないシーンをこの催しの定番にしてしまったギエムの先見の明と力量には感嘆するばかりです。

今回も,上演は見事なもので,感動的だったと思います。

ただ,こういう見方は不毛だとは思いながらもそれでも再び感じてしまったのは,デ・グリューはジョナサン・コープで見たかった,ということです。
この場面だけ見れば,ル・リッシュの野性的な狂おしい愛情表現は説得力があります。ガラだからそれでいいのかもしれません。でも,道を踏み外した神学生の文字どおり「地の果てまでも」の恋の物語だと知って見てしまう以上,私は6年前に見たコープの表現の悲痛さを上におきます。あるいは,私のそういう既成概念を覆すだけの魅力はこの日のル・リッシュにはなかった,とも言えるかもしれません。

 

『ヨカナーン』(世界初演)

振付:モーリス・ベジャール   音楽:リヒャルト・シュトラウス

ジル・ロマン

下手前方に大きな切株があって,青竜刀のようなモノが立てかけてある。断頭台なのでしょう,たぶん。上手奥には等身大(?)のピアズリーによる「サロメ」の絵。
中央では,白のワイシャツ(七分袖なのか長袖をまくっているのか?)に黒紐のネクタイのロマンが,「うん,ベジャールだなー」という感じのソロを踊ります。
最後,切株の辺りにいた(頭を断頭台に載せていた?)ロマンが,突如身を翻して,絵を突き破って舞台の外へと消えました。

えーと・・・私には,なにがなんだかさっぱりわかりませんでした。「サロメ」の話を当てはめようとするからいかんのかしらねえ。(悩)

 

『ドン・キホーテ』

振付:マリウス・プティパ   音楽:ルードヴィヒ・ミンクス

アリーナ・コジョカル, アンヘル・コレーラ

衣裳は,コジョカルはロイヤルの白レース地(?)の長袖チュチュ,コレーラは,黒でしたが装飾の類が足りなくて,結婚式のバジルには見えない感じ。
踊りのほうは,超絶技巧見本市というか・・・覚えているのは,アダージオ前半の片手リフト180度開脚の長さ,後半の女性バランスの前のコレーラのあざとい見得切り,コジョカルのフェッテでの扇の開閉。ほかにも派手で難しそうな技をいろいろ披露していました。

コレーラは似合っているから面白かったですが,コジョカルは,あどけない笑顔と華奢な身体で「お嬢さんが無理している」ように見え,痛々しい感じがして楽しめなかったなあ・・・。

 

プログラム全体としては,それなりに楽しみましたが・・・う〜む,やはりマラーホフの不調は残念でありました。

(03.8.13)

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