ドン・キホーテ(レニングラード国立バレエ)

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03年7月23日(水)

文京シビックホール

 

作曲:L・ミンクス

振付:M・プティパ  演出:A・ゴルスキー  改訂演出:N・ボヤルチコフ

美術:V・オクネフ  衣装:I・プレス

キトリ: ナタリア・レドフスカヤ(モスクワ音楽劇場バレエ)

バジル: ファルフ・ルジマトフ(キーロフ・バレエ)

ドン・キホーテ: シャルル・ジュド(ボルドー・オペラ座バレエ)

サンチョ・パンサ: デニス・トルマチョフ   ロレンツォ(キトリの父): アンドレイ・ブレグバーゼ   ガマーシュ: アレクセイ・マラーホフ   エスパーダ: ミハイル・シヴァコフ   大道の踊り子: イリーナ・コシェレワ   メルセデス: オリガ・ポリョフコ   森の女王: オクサーナ・シェスタコワ   花売り: タチアナ・ミリツェワ, アナスタシア・ロマチェンコワ   キューピット: タチアナ・クレンコワ   ファンダンゴ: アンナ・ノボショーロワ, ヴィタリー・リャブコフ   ジプシー: エレーナ・モストヴァヤ, アンドレイ・クリギン   酒場の主人: デニス・ヴェギニー   ヴァリエーション(3幕): スヴェトラーナ・ギリョワ, イリーナ・コシェレワ  

 

とてもよい公演でした。
主役も見事,ソリストも上手,コール・ドもすばらしい。次々と繰り広げられる踊りが楽しくて,思わずにこにこしてしまう感じ。

 

レドフスカヤのキトリは,快活でかわいげがあって色気もある下町娘で,それでいて品がいい。バジルとの恋も信頼感と幸福感に溢れ,「ロシア・バレエのキトリはかくあるべし」というお手本のようでした。

ルジマトフとの2度の共演ですばらしいとは聞いていたのですが,なるほど,聞いていたとおりすばらしかったです。跳躍はキレがよく,回転は滑らか。かなり高度な技もやっていたと思うのですが,あまりに安定しすぎているため派手な技に見えなくて損をしているような気がするくらい見事で,そして美しい踊りでした。(ほんとうに上手なバレリーナなら,腰に手を当てたままフェッテをしてもこれくらい無理なく回れるのね〜。クチュルクは見習うようにね〜)

ドルシネアを踊るときは,全く雰囲気を変えていて優雅で,しかも,そこはかとなく悲しげでもある。夢の中でこの姫に会ったキホーテであれば,続く酒場の場面ではキトリ=ドルシネアという思い込みが消えた感じで若い二人のために一肌脱いで,最後は未練気なく去っていくのも納得ですわ〜。

しかも,この場面でも跳躍は高いの。かなり小柄なダンサーだと思いますが,ジュテで上手奥から斜めに舞台を横切るところは,長身のシェスタコワと同じくらいの高さで跳んでいました。でも,もちろん,跳びかたというか跳んでいるときの雰囲気は,キトリと全く違う。う〜む,これぞ名人♪♪

 

ルジマトフはかっこよかったです。

えー,実は私,彼が『ドンキ』全幕向きのダンサーかどうか疑念を抱いております。だって,ほら,陽気な二枚目半のタイプじゃないでしょ? 1幕での古典舞踊(?)でキトリとキホーテが踊るのを見るときの表情とかには,おいおい,頼むからそこまでシリアスにならんでくれ,と言いたくなるし,床屋のマイムなんかは似合わないというか上手でないというか。

でも,私の目には,そういう似合わなさもかわいく見えるし,こと「かっこいい」という点については,まず異論はないでしょう。
今回は,「かなりの色恋沙汰を重ねてきたのではないかと疑われる」感じの大人のバジルで,ちょっとした仕草も見得の切り方も,うう,なんてすてきなんでしょ。いくら闘牛士が稼ぎがよくても目じゃないわっ,町中の女が惚れてしまうわっ,という感じでした。

正直言って,ソロでは,動きのキレや技術面に年齢を感じてかなり切なくはあったのですが,40歳になって『ドンキ』全幕を踊ってくれる(しかも似合う♪)ということ自体に感謝すべきで,四の五の言ってはいかんのでしょう。
踊っているときはもちろん舞台の隅にいるときでも全身に気を配った美しい動きとポーズでしたし,特に1幕や酒場のシーンでのレドフスカヤとの掛け合いでの弾むような動きには,やっぱりこの人はバジル向きかもしれん,と・・・。(←何年ファンをやってるんだか)

 

ジュドのキホーテは,このバレエ団のドン・キホーテの衣裳でメイクも普通の老け役。雰囲気としては,あまり素っ頓狂なところはなく,上品でモノの分かったおじいさんでした。二人の恋の成就に力を貸す様子や3幕で二人を見守るところなどは,「騎士物語の読みすぎで自分を騎士だと思い込んでいる人」というよりは,ほんとうの「諸国遍歴の騎士」のよう。
ううむ・・・「違うのでは?」と言うべきなのかもしれませんが・・・いいですよね。せっかくジュドが踊っているわけですし,頭のネジが緩んでいる人を強調したからといって舞台が感動的になるわけでもない。3幕で,袖に去るルジマトフとの間で視線の会話があったところなどは,非常にほのぼのした雰囲気があってよかったしー。

シヴァコフのエスパーダは初めて見ました。
最初闘牛士を従えて登場したときはマントさばきが今ひとつで,後ろのオレンジの衣裳のおじさん(←名前不知。体型の問題はあるものの達者)を見習えよぉ,と思いましたが,ソロではきちんと扱っていました。一生懸命色男をやっているのがかわいいなー。踊りはキレがよくてきれいで,彼,上達しておりますねー。

大道の踊り子は,私のお気に入りのコシェレワ。メイクは工夫しても持ち味は変えられないということでしょうか,色香が足りない感はありました。でも,おおらかできちんとした踊りでしたし,いきいきとしてチャーミング。やっぱり好きだわ〜。ほかにも,2幕で4人のドゥリアーダの先頭,3幕ではグラン・パ・ド・ドゥのヴァリエーションと大活躍だったのも嬉しかったです。
あ,でも,ヴァリエーションは,もう一人のギリョワのほうが印象的だったかも。きれいに踊るだけでなく,跳躍などもはつらつとしていて,輝きが出てきたなー,という感じでした。

シェスタコワの森の女王がすばらしかったです〜♪
長い手脚を柔らかく使って,傾けた首筋がとーっても優しげ。それでいて長身を生かした伸びやかな踊り方で女王らしい存在感も十分。この上ない適役だと思うわぁ。

それから,この場面のコール・ドもとてもよかったです。色違いの淡い色彩のチュチュが美しく映えて,ああ,ロシア・バレエだわ〜,こういうのを見ると幸せになれるのよ〜,とうっとり。

そして,マラーホフのガマーシュ♪♪
大柄な身体を藤色の貴族風の衣裳に包んで,ちょっとした仕草が全部気取りかえっていて・・・「バレエ特有のエレガント」を大仰にやるとこんな風に笑えるのね〜,という感じ。しかも,エレガントは通しているから嫌味がない。細かい芝居も楽しく,愛嬌もあってすばらしいです。
彼に集中して堪能できるように,バレエ団のダンサー主演でも上演してほしいなー,なんて思ってしまいましたわぁ。

他のソリストもみんな役にはまっていて安心しながら楽しめるし,コール・ドももちろん上手。最初に書いたコトの繰り返しになってしまいますが,とてもよい公演だったと思います。

 

ただ,なんというか・・・私はルジマトフのファンであるわりには,今回はあまりノリがよくなかったみたいです。
この舞台の価値はよくわかるんだけど,ファン仲間ほど熱狂できなかったというか,大切な思い出になる舞台ではなかったというか,幸せな気分にしてくれたのは上演全体であってルジマトフではなかったというか・・・。

なぜなのかなー? と悩んでいたのですが,うーむ・・・結局のところ,私にとって『ドンキ』全幕のルジマトフはマイ・ベスト・バジルではないというコトのようです。何回か見ていて(たぶん,今回が5回目じゃないかな)もちろん大好きですけれど,「コレ,コレ,コレが見たかったのよ〜!!」というほど熱狂したコトはないですから。
(なにしろ,↑で「向いていないのでは?」なんて書いちゃうくらいだもん。あ,『ドンキ』パ・ド・ドゥでは彼がマイ・ベストですよん。あと,全幕でも,初めて見たキーロフでの舞台のときは,それなりに感激した気はするけどー) 
で,今回がいい舞台だっただけに,それを改めて確認しちゃったんでしょうねえ,たぶん。

ま,いいわね。いくら彼が(私にとって)世界一のダンサーであるといっても,なにからなにまで私好みであるはずもない。そういう作品もありますよね,うん。

(03.9.6)

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