白鳥の湖 (K-Ballet Company)

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03年6月15日(日)

オーチャードホール

 

演出/再振付: 熊川哲也   原振付: マリリス・プティパ, レフ・イワーノフ

音楽: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

美術: ヨランダ・ゾナベント,  レズリー・トラヴァース   照明: 足立恒

指揮: アンソニー・トワイナー
コンサートマスター: ロバート・ギブス   オーケストラ: 東京ニューシティ管弦楽団

オデット: ヴィヴィアナ・デュランテ

ジークフリート: 熊川哲也

ロットバルト: スチュアート・キャシディ

オディール: グレタ・ホジキンソン

王妃: 天野裕子

家庭教師: サイモン・ライス

ベンノ・王子の友人: ジャスティン・マイスナー

王子の友人達: 神戸里奈, 小林絹恵, ヒューバート・エッソー

アッパークラス貴族: 芳賀望, マーティン・ホーランド, クリスティアン・メリクティ, ダニエル・クラウス, アントニー・カート, 吉田恵, 三宅智子, 佐藤麻弥, 近藤真由美, 松岡梨絵, 鈴木祐子

ミドルクラス貴族: アルベルト・モンテッソ, 小林由明, ロリアン・スローター, リッキー・ベルトーニ, ジョエル・モリス, イアン・バードン, 田中一也, マシュー・パウエル, 進士梨乃, 山田麻利子, 荒井望, 笠井千愛, 阿部幸香, 石川寛子, 副智美, 立花京子

4羽の白鳥: 小林絹恵, 石川寛子, 副智美, 神戸里奈

2羽の白鳥: 榊原有佳子, 長田佳世

6人の姫: 長田佳世, 榊原有佳子, 松岡梨絵, 近藤真由美, 鈴木祐子, 佐藤麻弥

ナポリタン: 吉田恵, アルベルト・モンテッソ, 小林由明

スペイン: ヒューバート・エッソー, 芳賀望, マーティン・ホーランド, アントニー・カート, 三宅智子, 柳井美紗子, 山本萌生, 山口美果

 

感動はありませんでしたが,たいへん楽しかったです。
以下,どのように楽しかったかを,舞台の順を追って(というより,だらだらと?)書いてまいりますー。

 

幕開き,紗幕の向こう。人間の娘の姿のオデットにロットバルトが背後から近づき,彼女は白鳥の姿に変えられてしまいます。おお,ブルメイステル版によっていると聞いていたとおりだわっ。
(えー,ところで,のっけから文句を言って悪いのですが,変身後のオデットを踊るダンサーは,もっと腕の動きが美しい方にしてほしいですー)

そして舞台が明るくなると,宮殿の中庭で祝宴の準備中。現代的な感覚のセットでしたが,衣裳は割合普通だったかな。白黒基調のパ・ド・トロワ(王子の友人達)の衣裳がすてきでした。

ベンノがいて道化がいないところなどは,ロイヤルの演出を踏襲しているのでしょうか。ワルツや乾杯の踊りの振付はよくわかりませんが,パ・ド・トロワなどは,一般的なものに近かったと思います。(全体に,ブルメイステル版とは全然違いました。やはりロイヤル風なのかな?)

道化が回転技を見せたり,家庭教師が皆にからかわれたりする音楽のところでは,家庭教師がソロを踊りました。簡素すぎる衣裳だなー? と不審に思っていたのですが,なるほど,ここで踊るためだったのね。(これはたぶん,熊川版独特の演出じゃないかしらん。ライスさんは振付もすると思いますから,自身の作かも)

熊川さんは,白いタイツが似合いませんし,王子の気品が足りないと思いますが,マイムが上手ですし,貫禄がすばらしかったです。舞台の上で飛び抜けてエライ人だというのが一目瞭然ですし,彼がいるところが常に舞台の中心。やっぱりスターですし,以前より風格も出ましたわ〜。
演技は現代的といいましょうか・・・弩で喜んだり,結婚話で落ち込んだりの喜怒哀楽がはっきりしていてわかりやすかったです。
ジークフリート王子というものはもう少しお高く止まって,「自分でもなぜなのかわからない憂鬱感」とか「何かが待っている予感」とかを表現すべきなのではないだろーか? と思ったりもしましたが,演出全体がわかりやすさを追及している(と私は思った)ので,たぶんあれでいいのでしょう。

 

2幕も続けて上演されたのですが,オデットがマイムで身の上を語るし,ベンノとアッパークラス貴族(←もう少しかっこいい役名にしてはどうなのか?)の男性が白鳥たちを撃とうとしてジークフリートが止める場などもあり,やはりロイヤル風ですねー。(ダウエル版もそうだったと思うし,牧阿佐美バレエ団が上演しているロイヤル系のウエストモーランド版がそうです)
白鳥たちのコール・ドのフォーメーションで客席に向かって逆三角形になるところやこの幕の最後が頭上リフトのところなどもウエストモーランド版と似ていました。(ダウエル版は覚えてないの・・・)

この版独自かな? と思ったのは,ジークフリートがロットバルトを撃とうとして,反撃されて弩を奪われるところ。
なるほどー。オデットが立ちはだかって彼を止めて,「殺してしまっては,私は元の姿に戻れないのです」云々と説明するよりは,わかりやすいですもんね。

白鳥たちの衣裳は,膝下丈のチュチュでした。張りのない細い布を重ねたモノで,あまり広がらないで脚の周りで垂れていて・・・それで,あの・・・AMP版『白鳥』に非常に似ているので,つい笑ってしまいましたわ。(すみません) 後から確認したら,同じゾナベントが担当したダウエル版もそうだったらしいのですが,あの時はAMPを見たことがなかったからねえ。(マシュー・ボーン畏るべし!)
あ,白鳥独特の頭飾りもなくて,簡素な感じのヘアスタイルでした。これは,ダウエル版の近未来的お帽子状態よりはいいと思うわぁ。(うーむ,でも,余計AMPに似ているかも・・・)

デュランテさんは,マイムが流麗でかつ意味が伝わってきますし,踊りも上手でしたが,私の苦手なタイプのオデットでした。
演技しすぎで情感が損なわれる感じと言えばいいでしょうか・・・。たぶん,彼女はドラマチック・バレエ向きのバレリーナであって,白いバレエ向きではない,ということだろうと思います。
あと,一人だけ衣裳が普通の白鳥風(←装飾はけっこう派手かも)だったせいもあるのかしら,浮いている感じも受けました。よく言えば,格の違いを見せて「白鳥の女王」の雰囲気があったということでしょうが・・・なんか周りと関係なく踊っているというか・・・不幸な身の上には見えなかったなぁ・・・。

熊川さんも白いバレエ向きとは思いませんが(←男性にこの表現はヘンか? えーと,つまり・・・ダンスール・ノーブル向きではない,という意味です),王子らしく振る舞っていましたし,その中にも「この人を好きだっ」感が出ていたのがよかったと思います。
ただ,その・・・最後に去っていくオデットを引き止めるときの演技が・・・両手を交互に何回も差し出して彼女の手を握ろうとして・・・いや,必死に止めている感じはよく出ているのですが,やりすぎというか・・・ううむ・・・ジークフリートはそんなことをしてはいけないと思いまーす。

そういえば,オデットと王子が出会ってまもなくの大きな頭上リフトで,オデットが腕をバタバタさせるのもいただけないなー,と思いました。振付か演技かわからないですが,たぶん,「あーれー,助けてー」という意味なのでしょう。(4幕でロットバルトにリフトされるときもそういう動きがあったし) たしかに,そういう場面ではありますが・・・オデットはそんなことをしてはいけないと思いまーす。

キャシディさんのロットバルトは,衣裳とメイクにたいそう迫力がありますし,存在感も見事。舞台狭しの大活躍で,印象的でした。

 

3幕の舞踏会は話の進み方が合理的でしたし,緊迫感も盛り上がりもあって,たいへんいい演出だったと思います。

装置や衣裳はちょっと怪しげ。健全な宮廷の舞踏会というよりは,魔窟めいた雰囲気があって魅力的でした。ただ,それが,このバレエ団に合っていたかという問題はあるかも・・・。
最初に出てくる貴族・貴婦人たちの衣裳が,なんというか・・・そうねえ,オペラ『トゥーランドット』風なの。特に頭に着けるモノがそう。(←ゾナベントは日本と中国を混同しているのではあるまいか?) で,男性は欧米人が多いからそれなりに似合うのですが,女性はちょっと・・・。まあ,純粋ドイツ宮廷風(?)の衣裳でも貴族は日本人には難しいから,衣裳のせいではないかもしれませんが・・・。

さて,続いてベンノ,家庭教師,ナポリタン,スペインなどが入場しました。うーむ,ベンノや家庭教師が1幕と同じ衣裳なのはいかがなものか? と考えるうちに王妃とジークフリートも登場。
王妃の衣裳はひじょーに丈長い赤紫で,貴族たちと共通するテイストがありました。天野さんは少々お顔がかわいらしすぎる感はあるものの,かなりの長身でこういう大きな衣裳が似合うのがすばらしい♪ 坂東玉三郎みたいでした〜。
ジークフリートの衣裳は,グレイ系で,もちろん光る装飾はあるものの地味でした。自分の誕生祝いであり,花嫁選びの場でもあるはずなのになぜだろう? でも,黒っぽいタイツのほうが熊川さんには似合うようでしたね。

花嫁候補の6人の姫は,仮面を持って登場しました。(顔に着けるのではなくて,棒がついていて,顔の前に仮面をかざすタイプ)
そして,一人ずつ仮面を外して顔を見せる度に・・・ジークフリートががっかりするの〜。いやーん,わかりやすいわぁ。嬉しくなっちゃう。

この辺りは記憶が不確かなのですが,なぜか6人のうち3人だけ普通の音楽で何小節か踊り,音楽が止まったような気がします。そして,普通だとオディール登場のファンファーレ(?)が鳴って,あとの3人も真中に。で,仮面を外して・・・の場が繰り返されたんだったかな? さらに記憶があやふやですが,6人で1曲踊ってから,別の曲で王子との踊りだったかもしれません。
とにかくジークフリートがすっごく嫌そうなのよ。いっしょに踊ることさえ受け入れ難い風で・・・そして,花嫁選びを拒否します。

怒る王妃に困惑したジークフリートは,家庭教師にオデットが残していった羽根を見せ(←ブルメイステル版風に2幕の最後で拾ってこの場にも持ち込んでいた),事情を説明。家庭教師はとりあえず話を先延ばしするためにナポリの踊りを始めさせます。
要領を得ない顔で,ひと固まりになって立ったまま待たされる姫君たち。(あはは,名演出!)

さて,踊りが終わると花束が持ち出され,お決まりの花嫁選びの場面に。(やはり,これくらいではごまかせないのねー)
花束は渡されないまま貴婦人の一人に下げ渡され(?),ますます憤る王妃。そのときロットバルトとオディールが登場。
「もしや・・・?」と期待するジークフリートにロットバルトは白い羽根を見せます。「自分の持っている羽根と同じ・・・?」と尋ねるのに大きく頷いたとたん,ジークフリートの顔には満面の笑みが・・・。わははは,参ったね。なーんて素直に育った王子様なんでしょ。(別のダンサーだから全然似てないのにっ) これじゃ黒鳥のパ・ド・ドゥなんかいらないんじゃないのぉ?

続いてスペイン。これはブルメイステル版を踏襲して,踊っている間からオディールがちらちら姿を見せてジークフリートを幻惑する振付でした。(いいよね,コレ♪)

そして黒鳥のパ・ド・ドゥ。
アダージオは普通の音楽でしたし,振付も一般的なものだったと思いますが,それぞれのヴァリアシオンとコーダはブルメイステル版と同じ音楽で,振付も基本的にはブルメイステル版だったんじゃないかしら。
アダージオの前か後かは忘れましたが,ロットバルトのヴァリアシオンもありました。ロットバルトが踊るときいつも使われる音楽ですが・・・「ロットバルトが踊るとき」ってなにで見たんだろ? やっぱりブルメイステル版だろうか?

ホジキンソンさんは,美しかったですー。
プロポーションがよくて,特に頭が小さいのが印象的。踊りも,技術的にもそれを通しての表現もうまい。悪巧みの雰囲気というよりは(そちらはロットバルトが担当している感じ),小悪魔的な魅力で,美しく輝いていました。
衣裳はグレイから黒にかけての濃淡で,これもすてき。(だから,ジークフリートもグレイ系なのかな?)

熊川さんは,アダージオでの腕や手の動きがきれいでないのは気になったものの,さすがのテクニック。
コーダでは,まず『ドンキ』のような空中で姿勢を変えて止まるマネージュ。これはまあ,驚くほどのモノではなかったと思いますが,最後の超高速回転がすごかった。ピルエットというよりスピンと呼びたいよう。しかも,ただ速いだけでなく滑らか〜。さらに,そのまま跳躍するという離れ業を見せて「おおおおっ」でした。最後は乱れていましたが,まあ,あれだけ難しいことをしていればそういうこともあるでしょうから,愛嬌の範囲かな。

そして,笑顔全開で踊るのがとってもかわいいっっ。
彼に対して全く思い入れのない私でさえそう思うのですから,この笑顔を見たファンの方の幸福感はさぞや,という感じの天真爛漫な笑顔でした。

このジークフリートは,オデット=オディールということについては全く疑いを持っていないわけです。したがって,スペインやパ・ド・ドゥのアダージオは,彼を騙すためにあるのではなく,じらすためにあるのでしょう。
待たされて,待たされて,やっと得た美しい人。
ジークフリートが幸福感でいっぱいなのは当然ですし,超絶技巧の披露も,その有頂天を表す文脈の中にあるから,違和感はなかったです。

真実の暴露は普通でした。(というか,この場面は他に演出のしようもなかろう)
熊川さんのあわてふためいた演技は,ここまで見せられてきた素直というよりは単純と呼びたいようなジークフリート像に非常にあっていたと思います。

 

休憩なしで4幕になり,グレイ(←黒ではない)の衣裳も混じったコール・ドが幕開きの1曲で踊ると,すぐオデットが登場しました。

その後は,やはりロイヤル風なのかな,と思いました。細かい動きはわかりませんが,最後が2人とも身投げだったし,ロットバルトはウエストモーランド版同様に,白鳥たちに殺される感じだったから。
オデットが死を選ぶあたりが少々唐突な感じはしましたし,流れがまさに後追い心中なので「ともに死ぬ」という感じがなかったのがちょっと物足りなかったですが。

珍しかったのは,ジークフリートがロットバルトに投げ捨てられる場面。ほんとに床にどさっと倒れるの。
こう頼りなくてはオデットが絶望して身投げするわけだよねえ,というようなツッコミ方もできるわけですが・・・演出家として自分の役をかっこよくしようと思えばできるのにそれをしない熊川さんは偉い♪ と感心しました〜。
そういえば,1幕や2幕で意味もなく自分のソロを増やすようなファンサービスもしていなかったし,当たり前かもしれないけれど,立派だなー,と思います。

最後,紗幕の向こうには乙女の姿に戻ったオデットが現れます。続いて(衣裳を変えていない)ジークフリートが登場。楽しげな2人の姿で幕となりました。
これはまあ,来世で結ばれるロイヤル風と人間に戻るブルメイステル版の折衷ですね。私は死後の世界なら静かに寄り添うほうが雰囲気があると思いますが,ここまでの全体の流れがジークフリートの無邪気な恋だったから,こういう形のハッピーエンドがふさわしいのかもしれませんねー。

 

全体として,ストーリーが首尾一貫していて非常にわかりやすい,よい演出だったと思います。

たとえばセルゲーエフ版では,オデットを王子が追っていったあとに,祝宴の余興の民族舞踊が延々と続くわけで,これらの踊りにいったいなんの意味が? という気もしないではない。そういう「踊りを見せるための踊り」をやめて数を絞って意味を与えたのは一つの見識だと思いますし,4幕前半の白鳥たちの踊りをカットしているのも,3幕の最後の緊迫感が続いている中で話が次に進むわけで,もっともなことです。最初と最後にオデットが娘姿で登場するのが,白鳥の姿に変えられていたことを伝えているのはもちろんですし。

その分詩情や余韻が足りないと思いますが,日本にはたくさんバレエ団があるわけですから,こういう現代的で明快な『白鳥』を上演するカンパニーがあるのはよいことだと思います。

 

コール・ドは,えーと,えーと・・・こういう表現はプロに対して失礼だと思うので使いたくはないのですが・・・がんばっていた,と思います。
ソリストは,えーと・・・ううむ,やっぱり,がんばっていた,ということですね。印象に残ったのは,パ・ド・トロワの神戸さんとナポリタンの吉田さん。2人とも軽やかで,チャーミングでもありました。
あと,このカンパニーも日本のバレエ団の通弊にもれず,男手不足のようで・・・。1幕も3幕も量は足りていましたが,質については「難あり」だったと思います。

で,演出の話に戻るのですが,そういうバレエ団の力量にあっている,という意味でもよかったと思います。3幕の民族舞踊を減らすのも,4幕のコール・ドだけの場面を短くするのも,全体のレベルを考えた賢明な判断だと思うなー。

うん,熊川さんは,優秀なディレクターですね〜♪

 

というわけで,誉めているのか貶しているのか自分でもよくわかりませんが,たいへん楽しめる公演だったことは確かです。
そのことと,このバレエ団の次の公演を見にいきたいと思うかは,別の話ではありますが・・・。

(03.6.24)

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