白鳥の湖(新国立劇場バレエ団)

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振付: マリウス・プティパ  レフ・イワーノフ
改訂振付: コンスタンチン・セルゲーエフ
  監修: ナターリヤ・ドゥジンスカヤ

作曲: ピョートル・チャイコフスキー

台本: ウラジーミル・ベギチェフ  ワシリー・ゲリツェル  

舞台美術・衣装: ヴェチェスラフ・オークネフ
照明: 梶孝三

指揮: ボリス・グルージン  管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

   5月24日  5月25日
オデット/オディール 西川貴子 宮内真理子
ジークフリート王子 逸見智彦 小嶋直也
ロートバルト 市川透 ゲンナーディ・イリイン
王妃 鳥海清子 堀岡美香
道化 グリゴリー・バリノフ 吉本泰久
家庭教師 石井四郎
王子の友人(パ・ド・トロワ) 遠藤睦子,西山裕子,マイレン・トレウバエフ 高橋有里,中村美佳,グリゴリー・バリノフ
ワルツ 大森結城,前田新奈,湯川麻美子,鹿野沙絵子,
奥田慎也,陳秀介,貝川鐵夫,中村誠
大森結城,前田新奈,湯川麻美子,鶴谷美穂
市川透,奥田慎也,陳秀介,中村誠
小さい4羽の白鳥 遠藤睦子,西山裕子,斉藤希,大和雅美
大きい4羽の白鳥 大森結城,前田新奈,湯川麻美子,楠元郁子
花嫁候補 西山裕子,鹿野沙絵子,川村真樹,鶴谷美穂,深沢祥子,丸尾孝子
スペインの踊り 湯川麻美子,楠元郁子,
ゲンナーディ・イリイン,マイレン・トレウバエフ
湯川麻美子,西川貴子
市川透,貝川鐵夫
ナポリの踊り 高橋有里,吉本泰久 中村美佳,グリゴリー・バリノフ
ハンガリーの踊り 遠藤睦子,奥田慎也
マズルカ 前田新奈,北原亜希,杉崎泉,堀岡美香
陳秀介,貝川鐵夫,高木裕次,冨川直樹
前田新奈,北原亜希,杉崎泉,鳥海清子
陳秀介,マイレン・トレウバエフ,高木裕次,冨川直樹
2羽の白鳥 大森結城,前田新奈
大きい4羽の白鳥 湯川麻美子,鹿野沙絵子,楠元郁子,鶴谷美穂

 

03年5月24日(土)

新国立劇場オペラ劇場

 

西川/逸見は昨年に続いて2回目の登場ですが,私は初見。

西川さんは,手脚が長いので白鳥の衣裳がよく似合っていましたし,ポール・ド・ブラがきれい。慎ましやかなオデットとメリハリの効いたオディールを踊り分けていたのがよかったです。ただ,踊り以外の場面(歩き方とか)でオデットやオディールでなくなってしまう瞬間があったのが残念でした。

逸見さんは,全身がエレガントで王子全開。すてきでした〜。彼についてはソロに若干不満が残ることが多いのですが,今回は踊りもよかったです。あんなに高く跳ぶのは初めて見たような気がするし,着地なども安定していました。

互いに愛が薄い印象があって,ちょっと残念でした。もっとも,逸見さんはいつもその傾向があって,だからこそ王子に見えるところがあるとは思いますが・・・。

 

この日は,2階正面から見ていたのですが,白鳥たちがコール・ド,ソリストとも美しかったです〜。1幕2場の悲しげな感じと3幕前半のつかのまの安らかさとで,醸し出す雰囲気が違っているのも立派♪
1幕1場のワルツなどはきれいではありましたが,もうちょっと上半身で歌ってほしいかな。

それから,花嫁候補の踊りに不満です。
私が思うに,あれはコール・ドのように揃えて踊るべきものではない。いわば6対1のお見合いなんですから,仲良く合わせていては困りますよぉ。もちろん音楽に合っていないのでは困りますし,下品になっても困りますが,それぞれが自分の魅力をアピールしながら踊ってほしいです。

 

ソリストでは,遠藤さんと前田さんが特によかったです。
遠藤さんはきちんとした踊りでいつも安心して見ていられる方ですが,パ・ド・トロワで見て,きれいになったなー,と感心。にこやかな奥田さんとのハンガリーも,エネルギーが感じられてよかったです。
白鳥のソリストで登場した前田さんは,ますます動きが洗練された印象。ほっそりとした長身に白鳥の衣裳がとても似合いますー。(いつかオデットも見たいな〜)

そして,バリノフさんの道化は,いや〜ん,なんでこんなにかわいいのぉぉ♪♪♪
去年もこの役で見たのですが,踊りも細かい演技も上達して,愛らしさもパワーアップ。「愛くるしい」という表現を使いたい感じで,見ていてとっても幸せになれました。

その他の主要な役もロートバルトの市川さん(メイクがビジュアル系ロックバンドのようだわっ)や王妃役の第一人者鳥海さんなど適材適所の配役でしたし,楽しめる公演でした。
土曜日にしては空いていた客席がかなり残念でしたけれど・・・。

(03.6.1)

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白鳥の湖(新国立劇場バレエ団)

03年5月25日(日)

新国立劇場オペラ劇場

 

宮内/小嶋の『白鳥』は4年ぶりの登場。
前回は,失礼ながら「かわいい白鳥姫とおとなしい王子」だったので,ほどほどの期待で見にいきましたが,とてもいい舞台でした〜。

 

小嶋さんが登場して片手を上げた瞬間は,ちょっと地味だと思いました。(もっとわかりやすく言えば「逸見さんの勝ち」と・・・笑) 
が,その後は立ち居振舞いすべてがノーブルでしたし,落ち着いた中にも,翌日の成人式を前に,はしゃいでみたり憂鬱になったりする様子を上手に表現していました。特に,メランコリックな音楽に乗せてのソロが,単に踊りを見せるための場面として突出するのではなく,椅子から立ち上がるところから下手の袖に入るまで場に溶け込んで,ジークフリートの心情表現になっていたのがよかったです。(踊りとしても,抑制が効いていて優美だしー)

宮内さんは儚げなオデット。小柄なせいもあるのでしょうか,白鳥の腕の動きなどに物足りないところもありましたが,雰囲気がとてもよかったです。大きな瞳が哀しげですし,乙女らしい清艶な情感もあるので,ジークフリートが「この人を助けてあげたい」気持ちになるのに説得力がありましたし,突然目の前に現れた見知らぬ男性に怯えていたのが,ジークフリートの真剣さにふれて,段々と心を開いていく表現も上手。
小嶋さんの迫り方もなかなか。舞台を大きく使って,美しく不思議な姫君を求めずにはいられない衝動を表現していました。

グラン・アダージオもよかったです。というより・・・客観的には「よかった」程度だと思いますが,個人的には,たいへんたいへん感激しました。
例えば踊りの始まり。ジークフリートが,オデットが身を伏せる前にあった手の位置を包み込もうとして果たせない振付での手の動きからして優しさがありました。そして,二人で踊る中に対話があって,深まっていく互いの想いがあって・・・。小嶋さんがこういう場面でこういう風にパートナーと愛を築けるとは思っていなかったから・・・。(あ,失礼でごめん)
ファンというモノは,こういうコトがあるからどんどん泥沼化していくのよね〜,としみじみ思ったことでした。

舞踏会は・・・宮内さんの黒鳥は,少々おとなしすぎたと思います。きれいだし上手ではあるのですが,きれいなだけ,上手なだけで物足りない,と言えばいいのかな。妖艶とか偽計とか小悪魔的とか強さとか・・・なんでもいいのですが,オディールらしい雰囲気が感じられなくて残念でした。
小嶋さんは,花嫁候補に対するときの無関心な典雅さとか,王妃に抱きつくときの勢いとか,表現面が進歩しておりました。踊りは,私の目には「もっとすごいときもあるんだけどー」でしたが,あれを見て文句を言ってはバチが当たるかもしれませんわね。オディールに目が眩んでの恋の高揚感が出ていたし,美しくもありました。

終幕は,感動的でした〜。
宮内さんには,登場したときから静かな諦念の雰囲気がありました。激しく悲しんだりしないし,華奢な身体は痛々しいほど悲しげ。ジークフリートの謝罪を受け入れていっしょに踊るけれど,ともすればその手をすり抜けて消えていってしまいそうな感じがすてきでした。(そういう振付があるのですが,彼女が踊るととても印象的)
小嶋さんの登場については,そんなにゆったり大きく跳躍している場合ではないだろーが? という気もしましたが,まあ,そういう振付なのでしょうし,「王子登場!」という感じではありました。その後の雰囲気は,後悔よりは愛が勝る感じで,オデットの悲しみに静かに身を添わせる感じ。
二人での踊りは明日がない切なさに満ちていましたし,ロットバルトが登場してからの,互いにかばいあう表現には感動しました。

そして,ロットバルトと対決するシーンでの小嶋さんは,自分の力で闘って愛を成就させる王子として,最上のものだったと思います。
力尽きかけたオデットを抱き上げて,視線を上のほうに向けて,一歩一歩しっかりとした足取りでまっすぐ後ろに下がっていく様子が,自分の身はどうなろうともこの人を救わなくては,という決意の表現になっていて,それはもうヒロイック。
ロットバルトの片翼を奪って,その取り戻そうとする動きに応じて身体を翻して翻弄する動きはかっこいいとしか言いようがないですし,最後,足下に横たわるロットバルトに翼を投げつけるときには,手首を返して見得まで切っていましたわ。(びっくり〜)

うん,小嶋さんはかなりの演技派になりました。たぶん,基本的には今までと同じ芝居をしていると思うのですが,それぞれのタイミングが格段に上達して全体の流れの中に溶け込んでいるし,見せ方も効果的になったのだと思います。
彼が,跳ぶだけで客席が息を飲むような踊りをあとどれくらい続けられるのかわかりませんが,これだけ演技が上手になって,最も苦手に見える愛情表現にも説得力が出てきたことでもあるし,サポートも大過なかったし(←小過はあった),この調子なら多少テクニックが苦しくなっても大丈夫だわね〜,あと10年は王子でいけるわ〜,と幸せな気持ちになりました。(いや,いくらなんでも気が早すぎるとは思うけれど,1年休演されたトラウマは大きいのよ)

 

コール・ドはこの日も好調。
特に目を引かれたソリストは,スペインの楠元さん。こんなに柔らかく身体が反る方だったのね〜。湯川さんと彼女は前日に続いての登場ですが,この日は男性二人が長身だったこともあり,見応えがありました。
一方,中村/バリノフのナポリは特に小柄なペア。愛らしく,軽やかさもあってよかったです。
そして,前田さんの白鳥は,前のほうの席で見るといっそうきれい。お顔立ちのかわいらしさも手伝って,いかにも「オデットとともに姿を変えられた娘」の雰囲気がありました。

全体としては,各場面それぞれに求められる雰囲気が出ていたと思います。
なにより,↑に延々と書いたように,小嶋さんが各場面でそれぞれ魅力的でしたので,たいへん満足できる公演でした。

(03.6.8)

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このページの羽根のイラストは,素材サイト Pearl Box から頂きました。