ローラン・プティ・グラン・ガラ

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03年4年12日(土)ソワレ

赤坂ACTシアター

 

すべてプティ作品からなるガラ・コンサート。

会場や演奏がテープだったことなど「?」の点はありましたが,充実した内容で楽しめました。

 

『アルルの女』よりパ・ド・ドゥ

初演:国立マルセイユ・ローラン・プティ・バレエ団(1974年)

音楽:G.ビゼー

装置:R.アリオ

衣裳:Y.サン=ローラン

エレオノーラ・アバニャート/ジェレミー・ベランガール (上野/ベランガールから変更)

熱演でしたし悪くはなかったけれど,今ひとつ・・・かな。

アバニャートは,私には,許婚者に正気を取り戻させようと努力するいじらしい娘というよりは,男を誘惑しているように見えてしまいました(ごめんなさい)。ベランガールも,最初のうちは「実は存在しない何かが彼には見えている」と思わせる説得力がなかったように思います。(こういう印象は,抜粋のしかたのせいかもしれませんが・・・。)
その結果,フレデリが幻の「アルルの女」にとらわれているというよりは,ヴィヴェットを嫌っているように見えてしまって・・・ううむ・・・。

フレデリがシャツを脱ぐあたりにきて緊迫感が高まり,私にも「アルルの女」の存在が感じられたと思ったのですが・・・最後のソロ(ファランドール)が少々迫力不足だったので・・・ううむ・・・。

 

プルースト『失われた時を求めて』よりモレルとサン・ルーのパ・ド・ドゥ

初演:モンテカルロ・オペラ座(1974年)

音楽:フォーレ「チェロと管弦楽のための悲歌」

装置・衣裳:R.アリオ

マニュエル・ルグリ/マッシモ・ムッル

若く美しい貴公子サン=ルーをこれも美貌の蕩児モレルが悪徳の道に引きずり込む場面だと思います。(というか,私はそういう予備知識を前提に見ました)

今回の一番のお目当てだったのですが・・・率直に言って期待はずれだったなー。

ルグリは,失礼ながらプロポーションが見事とまでは言えないので,ユニタードはあまり似合いませんねえ。雰囲気的にも,堕天使モレルではないなあ。いや,誘惑する者ではあったと思いますが・・・。
ムッルはお顔とプロポーションは優れていましたが,ルグリのほうがきれいに踊るため,貴公子に見えない・・・。
これはもしや,役を逆にしたほうがよかったのではなかろうか?

一番不満だったのは,背徳的な雰囲気が全然なかったこと。あれじゃ,ただの愛のパ・ド・ドゥだわよぉ。

でもまあ,期待しすぎ,というか間違った期待だったのかもしれません。
バレエ初心者のころ何も知らずに全幕を見て,後で原作を読んだり映像を見たりして,そうか,そんなに意味深のシーンだったのか,知らないで見て損したわ(笑),とずーっと思っていたもので,妙な期待が膨らみすぎていたのよね。
素直な気持ちで見れば,清冽で流麗なパ・ド・ドゥだわ〜,と感激できたような気もします。

 

『ダンシング チャップリン』よりソロ「ティティアナを探して」「小さなバレリーナ」

初演:国立マルセイユ・ローラン・プティ・バレエ団(1991年)

音楽:バッハ,チャップリン,フィオレンツァ・カルピ(上演部分の作曲者はわかりません)

装置・衣裳:L.スピナテッリ

ルイジ・ボニノ

椅子を使ったチャップリン風の踊り(というよりマイムか?)と手にトウシューズをはめての踊り(というより・・・なんだろう?)

見事な名人芸だったと思いますが・・・私,この種のプティ作品は苦手なのですわ。すみません。
特に「小さなバレリーナ」は,周りのお客様がなぜあんなに笑うのか理解できませんでした。

 

『ノートルダム・ド・パリ』よりエスメラルダとカジモドのパ・ド・ドゥ

初演:パリ・オペラ座(1965年)

音楽:M.ジャール

装置:R.アリオ

衣裳:Y.サン=ローラン

上野水香/ニコライ・ツィスカリーゼ (ルンキナ/ツィスカリーゼから変更)

いや〜,ツィスカリーゼはメイクがうまいねえ♪
あの髪型! ルージュの塗り方! うまく描写できないので説明は省略しますが,自分の容貌を生かしていて,汚くなくて,でもまさに「異形の者」なのよ。うん,感服いたしました。

踊りは,きれいすぎたような気がします。演技の部分はカジモドだけれど,跳んだり回ったりすると王子になってしまうというか・・・。カジモド・ア・ラ・ダンスール・ノーブル?(笑)
でも,全体としては抑圧された境遇を感じさせてくれましたから,カジモドだったとは思います。

上野水香のエスメラルダは初めて見たのですが,堂々としていたので安心し,かつ,感心しました。(いや,失礼だとは思いますが,相手がボリショイのスターですから,やはり心配してしまった・・・)

ただ,愛らしくはあったけれど,カジモドに生命を救われた感謝とか,それとも彼の醜悪な容姿にもかかわらず彼を1人の人間として見ていることとか,あるいは身分はジプシーでも精神は高貴とか・・・なんでもいいのですが,そういうエスメラルダらしい何かが全く感じられなくて残念。
パ・ド・ドゥだけ見る分には差し支えないような気もしますが,ううむ・・・夏に彼女で全幕見るのよねえ,私・・・。でもまあ,逆に,全幕で見ればもう少し物語性が出てくるかもしれませんわね。うん,期待したいですー。

それから,パートナーシップの問題とは違うと思うのですが,2人の踊り方が違っていて多少の違和感がありました。どこがどう違うのかわからないのですが,ツィスカリーゼはロシアバレエだし,上野水香は・・・プティ風? それとも日本風?
でも,牧阿佐美バレエ団で踊っているときと違って彼女がポアントで立ってもパートナーの身長を超えないのは,可憐さが増す感じで嬉しいことだなー,と思いました。(ニコライさん,ありがとう)

 

『マ・パヴロワ』より「タイス」パ・ド・ドゥ

初演:バルセロナ・リセオ劇場(1986年)

音楽:マスネ

装置:J.スヴォボダ

衣裳:L.スピナテッリ

エレオノーラ・アバニャート/ジェレミー・ベランガール (ルンキナ/ベランガールから変更)

とてもよかったです〜。うっとり〜♪

この音楽については,アシュトン作品よりプティ振付のほうが音楽の雰囲気を表現しているんじゃないかなー。

去年ノイマイヤー版『シンデレラ』パ・ド・ドゥを見たときも思ったのですが,アバニャートはリフトされているときの手脚の動きがきれいですね〜。流麗だわ〜。
ベランガールは,リフトや回転のサポートがいかにも「ただいまサポート中です」の感じで,(例えばルグリのような)名人の域には達していないことが窺われましたが,難しそうな技も全部成功させて立派でした〜。

 

『枯葉』−ソロ

初演:東京文化会館(2000年)

音楽:J.コスマ

マッシモ・ムッル

黒のシャツと黒のスラックス(タイツだったかも)で踊られるソロ作品。初めて見ました。

えーとですね・・・振付のせいか音楽のせいかダンサーのせいかは不明ですが,私にはつまらなかったです。すみません。

 

『チーク・トゥ・チーク』

初演:ボビノ座(1977年)

音楽:A.バーリン

上野水香/ルイジ・ボニノ

よかったです。

この作品は,去年の「ルグリと輝ける仲間たち」公演で見ていて「大人の恋の駆け引き」のデュエットだと思っていたので,正直に言って「??なぜ上野さんに踊らせるのか??」と非常に不審に思っていました。
ところがどうして,「ステキなおじさまによる恋の手ほどき」の一場になっていて楽しめました。私は,ノヤとルグリで見たときよりこちらのほうが,雰囲気としては好きだなー。

これはもちろん,初演者であり上野水香と何回も踊っているボニノの力が大きいのでしょうが,彼女のほうもまずまず。ちょっとした手の使い方などに,「そうか,プティはココはこういうふうに見せてほしかったのか」と思わされるところがありました。「一生懸命挑戦している」感じではありましたが,それも「大人の世界に興味があって背伸びしている少女」の雰囲気につながって悪くない。
ふむふむ,プティの目は確かですねー。

 

新作,世界初演 『カルメン−ソロ版』

音楽:G.ビゼー

マニュエル・ルグリ

まず・・・ソロを4曲続けて見事に踊ったルグリに対して,心から敬意を表します。

で,感想ですが・・・見終わったときには感動して,熱い拍手を送りました。しかし,途中までは「?」な上演でもありました。

最初は黒のTシャツ(?)と黒いスラックスでのホセのソロ。たぶん,普通のプティ版と同じだと思います。(プログラムにもそう書いてある)
で,この踊りに関しては,ルグリは素の肉体よりちゃんと衣裳を着たほうがステキなダンサーなんだなー,これでは今ひとつだよなー,と思いました。

次に,下半身だけ白タイツになって登場。扇を持って,カルメンのソロを踊りました。多少振付は変えてあるそうですが,たしかにカルメンのソロってこういう動きがあったかも・・・という感じ。
ですが,カルメンには見えないというか,女性には見えないというか・・・。いや,踊っているのが男性だから当たり前ではありますが,でも,この場合,それでは困るわけですよねえ? もうちょっと手の使い方とか頭(首?)の角度とかでなんとかなるのではないだろーか? と思ってしまいました。
間違った要求ですかね?

続いて,エスカミーリオのソロ。舞台の上でタイツの上に赤いスラックスを着けた後に踊りました。
これは楽しかったぁ。自意識過剰のユーモラスな振付でそもそも楽しい場面ですが,ルグリはほんとうに上手だから,動きが明瞭でおかしさが伝わるし,それにとてもチャーミング♪ (なぜお客様は笑わないのだ???)

そして破局へのソロ。これは上半身裸になって,赤いスラックスだけで踊られたもの。
普通のプティ版でどのような振付だったか記憶がないのですが,これは,すばらしかったです〜。
ホセの懊悩や焦燥,逡巡や決意が優れた技術とここまでの3曲で消耗したダンサー自身の肉体で見事に表現されていて・・・それはもう感動しました。

ところで,(黒子はいたけれど)1人しか登場しない版でどうやってカルメンを殺すのかなー? と思ったら,おおっ,自分の腹にナイフを突き立てるではありませんか! なるほどー!! カルメンの死は,同時にホセの破滅(精神の死?)でもあるわけですもんね。おおいに納得。

 

日本初演 『スペードの女王』よりパ・ド・ドゥ

初演:ボリショイ・バレエ団(2001年)

音楽:チャイコフスキー

装置:J.M.ヴィルモット

衣裳:L.スピナテッリ

イルゼ・リエパ/ニコライ・ツィスカリーゼ

たぶん,ですが・・・
主人公ゲルマンが秘密のカード必勝法を知る伯爵夫人を舞踏会を見かけ,彼女から秘密を聞き出すことを夢想する場面,夫人の寝室に忍び込んであらゆる手段を講じて秘密を聞き出そうとし,ついに銃で脅したために彼女が心臓発作で死ぬまでの場面,自分の部屋に戻ったゲルマンのもとに夫人の亡霊が現れて(偽りの)秘密を告げる場面のパ・ド・ドゥが続けて上演されたのだと思います。

すばらしかったです〜♪

ツィスカリーゼは,登場したときから,異様なほどの集中力(というか,観客を自分の中に引きずり込む磁力?)を見せました。彼の身体から暗い情念が発散されていて,う〜む,やはり彼はただものではないですな〜。
演技も見事で,野心から発した,なんとしてもカードの秘密を聞き出そうとする妄執が動きのすべてから感じられました。感嘆。
跳躍や回転の技術もたいへん上手ですが,踊れる人には踊れるだけ踊らせる人遣いの荒いプティだけあって振付がたいへんすぎるためでしょう,迫力はあるものの『ノートルダム』ほどきれいには踊れないようで,それがまた効果的。(あまりきれいすぎると,また王子になってしまって,悪人に見えなかったかもしれないもの)

リエパの伯爵夫人がまたすごかった。権高で傲慢で,人を人とも思わない偏屈な老婦人で,とっても怖かった〜。
髪は白く染めているものの(それともカツラ?)顔にしわなど描かないで美しいまま,顎を突き出した立ち方で年齢を表現していました。
彼女の動きについては演技というべきか踊りというべきか判然としないのですが,たいへんな存在感。さすが彼女に当てて振り付けた役だけあります。すばらしい迫力でした。

最後は,カードの秘密を聞いた(と信じている)ゲルマンが自室のベッドを跳び越えて上手に去って幕となりました。この後賭博場で最後の最後に彼が破滅する場面があるそうですが,コール・ドなどが必要なので上演できなかったのでしょうか。
続きを見たい,見たかった,いつか是非見たい・・・と思わされる上演でした♪

 

最終日ということもあってでしょうか,カーテンコールが何回も続き,プティもご機嫌の様子。『カルメン』に出ていた黒子の方にブレイクダンスを踊らせたりしてサービスしていました。ついには,なぜか音楽が流れ,とまどう出演者・・・。上野水香がプティを誘ってジルバ(?)を踊りだしたところを見ると,彼女だけは知っていたのかな? その後,プティのパートナーはリエパ,ベランガール(!)と変わり,最後には,上野通訳を即席任命(笑),あいさつもしていました。

面白かったわ〜♪

(03.4.13)

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