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百合のイラスト ジゼル (安田美香子バレエ団)

03年3月29日(土)

愛知県芸術劇場大ホール

 

脚本: テオフィール・ゴーティエ及びサン・ジョルジュ

作曲: アドルフ・アダン

原振付: ジュール・ペロー及びジャン・コラリ

改訂振付指導: 安田美香子

舞台監督: 藤森秀彦   照明: 御原祥子   音響: 山口清司

舞台装置: WATER MIND

衣裳: 村田幸子, 牧阿佐美バレエ団, 安田美香子バレエ団

ジゼル: 安田美香子

アルブレヒト(シレジー公爵): 小嶋直也 

ヒラリオン: トレウバエフ・マイレン

ウィルフリード: 高須佑治   クールランド公爵: 樋上修   バチルド姫: 桜井麻依子

ベルタ: 諸星静子   ペザント・パ・ド・ドゥ: 桜井英理子, 陳秀介   

ミルタ: 木田賀子   モイナ: 後藤芙由子   ズルメ: 澤田奈緒美

 

安田美香子バレエ団は,岐阜県関市に本拠地を置くそうで,89年にバレエ教室を開設,01年からはバレエ団として公演していて,今回が4回目とのことでした。
名古屋の友人にもらった新聞の切り抜きによると,安田さんは牧阿佐美バレエ団在籍中に当時10歳だった小嶋さんを教えたこともあるとか・・・。

 

予想以上にいい公演でした。

まず,コール・ド・バレエがきちんとコール・ド・バレエとして機能していました。人数は少なめですし,一人ひとりの動きを見れば柔らかさや伸びやかが不足しているとは思いますが,全体として見たときには,立つ位置や上半身の角度や動きのタイミングが揃っていて,かなり感心しました。
特に,2幕でのウイリーの場面は立派。有名なアラベスクでの交差の場面を含めて破綻がなく,作品の雰囲気づくりに大きく貢献していました。

1幕の狩の一行は公爵とバチルド姫を除いては若い団員の方(女性)と音楽大学の学生の方(男性)の出演らしく,貴族らしくは見えなかったですが,舞台慣れした男性を必要人数登場させたことだけでも評価していいのではないでしょうか。

衣裳や装置も本格的で,お話に浸ることができました。

 

ソリストもなかなか上手。

ペザントを踊った桜井さんは,かなり若い方のように見えましたが,腕の動きなどに「習った位置に置いている」感はあるものの,全身の動きにいきいきした感じがありましたし,技術的にも安定。

ミルタの木田さんもよかったです〜。ポワントでの移動がスムーズですし,ポーズを決めるところで顎をそびやかす動きや,倒れているアルブレヒトに踊るよう命ずる(魔力を使う?)マイムがとても上手。手の甲のほうを上にして,上半身を起こしながら腕も上げていくのが,とっても怖いミルタでした。

 

そして,一番印象に残るソリストは,ゲストのトレウバエフさん。
演出そのものが「踊れるゲストを呼んだから」ヴァージョンになっていて,わはは,もう,踊ること,踊ること。1幕の後半,ぶどう収穫のコール・ドの踊りの中に何回も登場して,その真中で回る,回る,跳ぶ,回る・・・。いや,とても上手なのですが,わははは,思い出す度に笑ってしまう。

しかも,ジゼルのヴァリアシオンがこの場面の始めのほうで踊られるのですが,そのとき,ヒラリオンは上手手前のベンチでジゼルの会釈を受けて,嬉しそうに彼女の踊りを見ているの。
あのー,なんだかこっちがジゼルの恋人みたいなんですけどー?

と突っ込みたくもなりましたが,でも,いい演出なのかもしれません。
今回の演出は「ヒラリオンも真実をジゼルに言って救ってあげたかった」善人という設定だそうで,こういう変更によって,彼が村人に人望がある人であったことや,ジゼルから拒絶された腹いせに真実を暴露するのではないことが伝わってきたとも言えましょう。

ただ,2幕の死ぬ場面でも派手に踊りまくっていて・・・ううむ・・・ダンサーの表現の問題なのか演出の問題かはわかりませんが,死にそうには見えなくて困ったものだなー,とは思いました。

 

主役の安田さんは・・・ううむ・・・失礼ながら年齢的なこともあるのでしょうか,軽やかさが不足している感があり,1幕では愛らしさが,2幕では精霊の感じがなかったと思います。大過なく踊ってはいましたが,率直に言って,優れたジゼルだとは思えませんでした。

でも,バレエ団の主宰者として,公演全体をこれだけのレベルに仕上げて,私のようなこうるさい観客に文句を言わせないだけで立派だよねえ(笑)。
(いや,ほんと,感心しました。だって,発表会を見にいく覚悟だったんだもん。そうしたら,きちんとした公演を見せていただいて・・・。自分の不明を恥じましたわ)

 

小嶋さんは「正しく育った公爵さまが村娘に恋してしまった悲運」のアルブレヒトの感じ。
プレイボーイの軽薄さも村娘を弄ぶ貴族の傲慢さもないけれど,身分違いの恋に賭ける情熱とも無縁。好きになってしまったから,自分にできる方法で恋を語っていただけの御曹司で,ヤバイことをしている自覚があった分後悔も深いアルブレヒトだったと思います。

 

踊りやポーズはもちろんちょっとした所作も美しいですし,ジゼルに対する態度は節度と気品のあるものでした。2人で組んだり,同じ動きを見せるときのパートナーへの合わせ方も上手。(つまり,自分だけ脚を上げすぎないとか高く跳びすぎないようものすごく配慮して,2人の姿をきれいに見せている。いや,当然ではありましょうが,でも,できていない人も多いよねえ。彼も数年前までそういう傾向があったし) 
一方ヒラリオンを追い払う様子などは「他人に命令することに慣れている」人のそれで,おお,正真正銘のダンスール・ノーブルになったのね〜♪♪

ただ,ジゼルに対する愛情表現も抑制のきいたもので,デジレ王子風とでも申しましょうか・・・愛が薄い感じはありました。
例えば,ジゼルの身体を心配したベルタが家の中に入るよう促すと,ジゼルの手をとって,実に礼儀正しく別れを告げるので,なんというか・・・拍子抜けしてしまいました。この場面,戯れの恋であれ真実の恋であれ,ジゼルと離れたくない様子に終始する普通のアルブレヒトを見慣れていると,小嶋さんの芝居はかなり面白みに欠けるものではあります。(演出がそうなのかもしれませんが)

でも,そういうアルブレヒトだからジゼルが夢中になるということもあるのかも。柔らかな挙措や穏やかな笑顔は彼女が今まで知っていた男たちにはないもので,そういう男性からまるで貴婦人に対するような接し方をされて有頂天になってしまうというのも,ありそうなことですわね。(と,考えておこう)

 

で,熱烈な恋でなくてもそれなりにマジメな恋ではあったようですし,プレイボーイではなくマトモな人柄なので,身分を偽っていることにかなり後ろめたさを感じているようでした。

ヒラリオンが最初に2人の間に割って入ったときには反射的に顔を隠してしまいますし,破局が近づきヒラリオンが剣を持ち出してくると,そこで既にして「万事休した」感じで俯いてしまう。ジゼルが「嘘でしょ?」と言うのに,彼女を安心させるどころか顔を見ることさえできない。

う〜む,正直と言うべきか打たれ弱いと評するべきか・・・? 「それなら最初から村娘に手を出したりするなよ」と言いたくもなるわけですが,でも誠実だというコトよね♪
・・・と自分を納得させながら見ていたら,急に思いつめた顔で彼女の顔を見たので,真実を告白しようとしたのかもしれません。でも,そのときまさに角笛が鳴り渡って悲劇の最後の幕が開いた・・・と。(←ちょっと妄想入っているかも)

 

ジゼルが死んだ後の芝居がとてもよかったです〜。
周りに訴えかけるのに顔をそむけられるシーンの行き場のない感じ,まるでそれが救いの護符であるかのように勢い込んで落ちていた剣を拾うところ,そしてヒラリオンが胸をさらしているのを見て激しい勢いでその剣を投げ捨てるところ,ジゼルの足元にすわりこんでしまってマントを着せかけるウィルフリードを振り払う様子・・・。
おお,立派な演技派にもなったのね〜♪♪

私としては,この場面に,この日の舞台で一番感動しました。

そうよね,こんなことになるとは思ってもみなかったのよね。
こんなことになるくらいなら何もしないで遠くからジゼルを見ていればよかった。もしかしたらまずいコトになるかなあ,という程度の軽い気持ちで,たかをくくって始めてしまったことがこんな結果を生むなんて・・・。悔やんでも悔やみきれない過ち。
悪いのはヒラリオンではなくて自分だと,本当はわかっているから認めたくない。何かしないではいられない。

うん,名演だったと思いますよ。特に変わった芝居をしたわけではないけれど,切迫感に満ちていて,見ていてとても痛々しかったです。

最後は,マントを翻して走り去っていきました〜。私,「最後に走り去るアルブレヒト」は嫌いなのですが,その前の表現にあれくらい説得力があると,許容できるものですねえ。(うふふ)

 

2幕の登場シーンはマントが立派でびっくりしました。(ちょっと立派すぎるのではないか,もう少し脚が見えたほうが嬉しいのにー,と思ってしまうくらい)
悔恨に打ち沈んだ歩き方も美しく,申し分ない登場ぶり。その後舞台を速脚で回るところのマントの扱いや上半身の使い方もなかなか。なんだか最近,こういうところに少しナルシスティックな感じが出てきたようで,我が目を疑ってしまうわよ。(うふふ)

全体としては・・・踊りもポーズも美しかったですが,1幕同様愛の雰囲気が足りなかったとは思います。もっとも,安田さんが雰囲気を出せていないせいもあったかと思いますけれど。

特によかったのは,消耗していく様子の表現。それを芝居だけでなく,踊りで上手に表現していました。
跳ぶ形は作って,でももう跳べないで,しかも,それでもきれいなの。倒れこみ方もなかなか迫力がありました。
一番最後は,180度のグラン・ジュテで前に進んできて倒れました。かなり珍しい踊り方のような気がするのですが,これは空中で完全に開脚できなければ成り立たないから,誰にでもできることではないのかもしれませんねー。最後の力を振り絞っている感じがして,とてもよかったですー。

ジゼルが消えた後,音楽は明るい感じで盛り上がる編曲でした。
小嶋さんは,これを朝の訪れと解釈していたんじゃないかしら。アルブレヒトが自分を取り戻し,現実を理解して,呆然とジゼルの墓の前に座り込んで幕になりました。
「彼はこれからどうなるのかしら〜?」という余韻が感じられる結末で,悪くなかったです。

 

というわけで,「見にいった甲斐があったわ〜。見られてよかったわ〜」という舞台でした。

それに,小嶋さんの1年間の休演で一番悲しかったのは,(最初に突然降板されてショックが大きかった『ロミジュリ』を別にすれば)『ジゼル』と『シンフォニー・イン・C』を見られなかったことだったので,思いがけず早い時期にアルブレヒトを見られて,とても嬉しかったです〜。(安田さん,ありがとう〜)

(03.4.26)

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百合のイラストは,素材サイト「幻影素材工房」から頂きました。