白鳥の湖(レニングラード国立バレエ)
03年1月9日(木)
イズミティ21(仙台市泉文化創造センター)
作曲: P.チャイコフスキー
台本: V.ベギチェフ, V.ゲルツェル
振付: M.プティパ/L.イワノフ 改訂演出: N.ボヤルチコフ
美術: V.オクネフ 衣装: I.プレス
オデット/オディール:スヴェトラーナ・ギリョワ ジークフリート:アルチョム・プハチョフ
ロットバルト:マルト・シェミウノフ 王妃:ユリア・ザイツェワ 家庭教師:アンドレイ・ブレグバーゼ
パ・ド・トロワ:アナスタシア・ロマチェンコワ, タチアナ・ミリツェワ, デニス・ヴィギニー
大きい白鳥:イリーナ・コシュレワ, エレーナ・フィルソワ, アリョーナ・コロチコワ, ユリア・カミロワ
小さい白鳥:ユリア・アヴェロチキナ, ナタリア・ニキチナ, タチアナ・クレンコワ, ヴィクトリア・シシコワ,スペイン:オリガ・ポリョフコ, アンナ・ノヴォショーロワ, ミハイル・シヴァコフ, アレクセイ・マラーホフ
ハンガリー:ナタリア・オシポワ, アンドレイ・クリギン
マズルカ:マリーナ・フィラトワ, ヴィクトリア・エフィーモワ, エレーナ・モストヴァヤ, ユリア・カミロワ, ワシリー・グリシク, アンドレイ・マスロボエフ, ミハイル・ヴェンシコフ, アントン・チェスノコフ2羽の白鳥:アリョーナ・コロチコワ, アリョーナ・ヴィヂェニナ
4羽の白鳥:アンナ・ノヴォショーロワ, オリガ・ポリョフコ, エレーナ・フィルソワ, ユリア・カミロワ
ギリョワの日本での初主役の舞台。
ほっそりとした身体,暗い色の髪と瞳を持つ静かな感じのバレリーナですから,白鳥向きだろうと楽しみにしていました。
オデットは,期待に違わず美しかったです。
長くて細い腕がゆっくりと動いて,神秘的な雰囲気。「逃げる姿が男を誘う」というようなところはなく,淋しげな雰囲気の美しさが王子(と観客)を引き込む感じで,正統派のオデットといった印象でしょうか。
「淋しげ」という形容詞をつけたわけですが,主役の回数を重ねて貫禄が出れば,それが「孤高」とか「気高さ」になるのではないかなー♪ と思いました。
オディールは,よく言えばオデットときちんと踊り分けているのですが,悪く言えば元気がよすぎるので,「今後に期待」ということで・・・。ただ,あまり甲が出ていないから足がきれいに見えないし,フェッテとか回転系は得意ではないみたいなので,オデットほどは向いていないのではないかなー。でも,(地味かも,と懸念していたので)ちゃんと場の主役らしさがあったのはよかったです。
プハチョフの全幕を見るのは初めてでした。失礼ながらお顔立ちが主役向きとは思えないため,全く注目したことがなかったのですが(ごめんねー),ところがどうして,なかなか立派な王子。
脚がきれいでプロポーションがいいですし,立ち居振舞いに品があって美しいです。手を差し伸べたり,乾杯したり,顔を覆ったりする動きが,完全にダンスールノーブルのそれ。サポートも悪くないですし,表現面もまずまず。例えば舞踏会での花嫁選び。王妃に対する挙措がエレガントなだけに,花嫁候補への素っ気ない会釈が効果的ですし,次々と踊るうちにますます嫌気が差してくる様子を全身で上手に見せていました。
黒鳥のパ・ド・ドゥは,見事とまでは言いませんが,けっこう大きな跳躍ときれいに止まる回転で,このバレエ団の中ではかなり上手なほうだと思います。
カーテンコールでのマナーも申し分ありませんし,いやー,立派なダンスールノーブルですよ,彼は! (もっと重用していいのではないだろーか?)
今回の会場でバレエを見るのは久しぶりだったのですが,どうもここは床が悪いらしくて,足音が大きくて困ります。1幕でコール・ドがステップを踏みながら登場しただけで大音響ですし,音楽が静かだとオディールや女性ソリストの跳躍の着地音も響く。パ・ド・トロワの男性や王子の着地は,なんというか,もう・・・(泣)。
そういう床でも上手なダンサーはなんとかするらしく,パ・ド・トロワのミリツェワは,着地音も気にならない程度に抑えながら,軽やかに踊っていてチャーミングでした。
私は,1幕1場でのコール・ドの上半身の美しさこそが白鳥たちの場面以上に「ロシアバレエでなければ表現できないもの」だと思っているのですが,今回は,その点が少々物足りなかったです。うーむ,東京公演より手を抜いているのではないか,キーロフの悪いところを見習っては困る(笑),とも思ったのですが,もしかすると,会館の舞台の大きさに合わせて調整しながら踊っていたせいかもしれません。
白鳥たちはよかったです。揃い方はさほどでなかったですが,伸び伸び踊っていたとも言えそう。きれいでした。
白鳥のソリストの中では,「大きな4羽」でのコシュレワがよかったです。彼女は私の好みらしくて,「この人いいわ」と思ってオペラグラスで確認すると彼女のことがけっこうあります。堂々として歯切れのいい踊りで,うーん,やっぱり彼女の主演の日も見たかったかな。
舞踏会での民族舞踊は,衣裳もきれいで楽しかったですが,キーロフほど専門性が確立されていないので,今ひとつの方も。
あー,具体的に言うとスペインのシヴァコフなのですが,もう1人のマラーホフがいかにもキャラクテールの踊りなので,えー,率直に言ってかなりつまらない(ごめんねー)。お髭を描いたりして努力しているのはわかりますが,うー・・・。
いや,むしろマラーホフがとーってもよかった,ということですね。ガマーシュとかガムザッティのお父さんとかの印象が強かったので,「うわっ,こんなにかっこよかったのか!」とちょっと驚きました。大柄で容貌魁偉という感じ。派手な踊り方で楽しませてくれました。
ロットバルトをソロヴィヨフ以外のダンサーが踊るのはたぶん初めて見たような気が・・・。で,「ボヤルチコフ版のロットバルトというのは本来はこんなに踊る役だったのか!」と仰天(笑)。
長身のソロヴィヨフの存在感もよかったのですが,私は踊って表現してくれるほうが好きなので,この日のシェミウノフはたいへん気に入りました。
全体としては,感動的なドラマというほどではなかったですが,装置も踊りも美しく,満足できる初バレエでした。
(03.1.11)