01年12月16日(日)
ゆうぽうと簡易保険ホール
作曲:P.I.チャイコフスキー
演出・改訂振付:三谷恭三(プティパ,イワノフ版による)
美術:デヴィッド・ウォーカー
照明デザイン:ポール・ピヤント
指揮:堤俊作 管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団 合唱:東京少年少女合唱隊
金平糖の精:上野水香 雪の女王:吉岡まな美 王子:逸見智彦
シュタールバウム:保坂A.慶 シュタールバウム夫人:豊川美恵子 娘クララ:織山万梨子 息子フリッツ:八幡祐輔 祖母:横山薫 祖父:山内貴雄 執事:鷲崎圭一, 岡田幸治
ドロッセルマイヤー:本多実男 ドロッセルマイヤーの甥:根岸正信
ハレーキン:相羽源氏 コロンビーヌ:橘るみ おもちゃの兵隊:武藤顕三 ヴィヴァンデール:小西さくら
くるみ割り人形:邵治軍
ねずみの王様:塚田渉
スパニッシュ:金澤千稲, 鈴木規緒美, 藤田淑, 岡田幸治, 三國典央, 中村一哉
アラブ:坂西麻美, 保坂A.慶
チャイナ:青山季可, オリバー・リドー
トレパック:塚田渉, 徳永太一, 今勇也
棒キャンデー:岩本桂, 佐藤朱実, 橘るみ花のワルツ(ソリスト):田中祐子, 平塚由紀子, 橋本尚美, 笠井裕子, 相羽源氏, 山本成伸, 正木亮羽, 邵治軍
芸術監督三谷恭三さんの演出・改訂振付による新制作の初演。
去年までのカーター版を見たことがないので,どこがどう違うのかはわかりませんが,特に突飛なところはない,家族で楽しめる普通の「くるみ」でした。
クララやフリッツを始めとする子どもたちは,橘バレエ学校の生徒さんが踊ります。くるみ割り人形が王子の姿に変わるときに,ダンサーが交代。雪の場面には雪の女王が登場。グラン・パ・ド・ドゥを踊るのは,お菓子の国の女王である金平糖の精と王子。
「お?」と思ったのは,「ドロッセルマイヤーの甥」がキャスト表にあること。たしか原作では,甥がくるみ割り人形の姿に変えられているはず・・・それを踏まえた演出なのかしら,しかも踊るのは根岸さんだから重要な役割に違いない,と注目して見ていました。
そうしましたらですねー,甥は,ドロッセルマイヤーと一緒ににこやかにクララのおウチを訪問するのでした。ううむ・・・とすると,くるみ割り人形が甥の姿に戻るのではないのだな・・・?
たいへん人柄がよさそうな青年で,大人たちとは礼儀正しく談笑し,楽しげに子どもたちの相手をしてやっていますし,ドロッセルマイヤーと一緒に人形を運んできたりする働き者でもあります。しかし,何のために登場したか不明(笑)。
クララの夢の始まりにも伯父さんと一緒に登場するのですが,いつのまにか消えてしまって二度と現れないの。いったい彼はなんだったんですかねー???
と思っていたら,後日(12月23日)「劇場へ行こう!」のきたみなみさんが,ご自身のサイトの掲示板で「クララの夢の世界では、甥がくるみ割り人形に、さらに王子に変身します。せっかく根岸さんが、暖かく包み込むような好青年を演じているのだから、王子がクララの漠たる理想を体現していることが、はっきりわかるような演出になればもっといいのになと思いました。この点は来年に期待。」と書かれているのを読んで疑問が氷解(笑) なるほど,そうだったのね♪(でも,あの演出じゃわからんぞー。) それにしても,根岸→邵→逸見と変身するとは,なんと贅沢な・・・クララちゃん,いーなー。 |
ほかにも演出に言いたいことはあって,そもそも最初に雪が降っとらんではないか,東京のクリスマスじゃないんだからさー,とか,人形から王子への変身シーンで,邵さんは舞台奥下手に消えたのに,逸見さんは,実に礼儀正しく,お部屋のドアを開けて登場したのは,ありゃなんだね? とか・・・。
いや,深遠なテーマのバレエではなく「くるみ」ですから,多少そういうツッコミどころがあったほうが楽しめますけれどね。
第1幕,クララの家は,豪華というわけではないですが,お金持ちそうだし,暖かい雰囲気。くるみ割り人形をクララだけがかわいがるのではなく,女の子たち皆で楽しそうにしているのがほほえましいですし,人形を壊したフリッツをお父さん(保坂さんは伊達メガネがお似合い)が叱ったり,女の子たちのじゃまをした男の子をその子のお父さん(中村一哉さん。軍服姿がステキ)がつかまえてお尻を叩いたりしているのも,健全な家庭の感じがあって気持ちがいい。
大人たちの踊りは舞台いっぱいを使ってなかなか見応えがありました。
織山さんは,眉がくっきりとした顔立ちで,品もよく,賢そうなクララ。演技も上手でした。
フリッツの八幡くんのプロポーションにはびっくり。腕が長い。しかも,手が大きい。将来はサポートが上手な長身ダンサーになるかも〜。
パーティーが終わり,眠り込んだクララは,背後のドロッセルマイヤーに導かれるようにして,夢の世界の中に入っていきます。
この辺りは,ツリーが大きくならないのはがっかりとか,ネズミ(王様除く。)も兵隊も女性ダンサーなので迫力に欠けるとか,クララが隠れる椅子が粗末だとか,いろいろ言いたいことはありますが,邵さんが,白い衣装でなかなかかっこよかったので,許すことにします。
変身した王子は,銀系の白の衣装で登場。逸見さんの優しげで甘い雰囲気は,少女の憧れの王子さまにぴったり♪ クララと王子がここでけっこう本格的なパ・ド・ドゥを踊るのが,(身長差があって,サポートがたいへんそうではあったけれど)いかにも少女の夢らしくてステキでした。(その後,クララはそりに乗り,王子に導かれて雪の国に出発するのですが,このそりが貧弱なので,また少々怒る。)
雪の女王の吉岡さんは,背が高いのでプリマらしい雰囲気があり,女らしい色香もあって,ステキでした。
ただ,雪の場面自体は,フォーメーションが今一つでしたし,踊りもあまり美しく感じられませんでした。牧のダンサーの硬質な感じの踊りは,雪の場面向きだろうと思って,これを楽しみに2階席を選んだのに,残念。新しい振付で,リハーサル不足だったのでしょうか? また,舞台の上が少々すかすかだったような感じもして,雪の精が16人では少なすぎるのかもしれませんねえ。
2幕は,すぐにお菓子の国になります。ここで,王子が金平糖の精に,マイムでクララの武勇伝を物語るのですが,逸見さんが床の上に丸まってネズミのマイムとかをするので,うふふ,思わず笑ってしまいました〜。
さて,クララは,下手の椅子に腰を下ろし(多少立派な椅子なので,今度は安心する。)次々と披露される踊りを鑑賞します。
キャラクターダンスの中では,坂西さんと保坂さんのアラブがよかったです。坂西さんは,腕や首がほっそりと長いので,リフト多用の振付が効果的で,ゴージャスな美女でした。
その他のダンスもよかったのですが,ケーキボンボンという中学生くらいの踊りはちょっと・・・。生徒さんの出演も,小さいお子さんならかわいらしくて楽しいのですが,これくらいの年頃の方々だと発表会になってしまうのよねえ。ううむ・・・。
花のワルツは,キャストも豪華で見事。うっとりしました。衣装が,アース系のグリーン,イエロー,オレンジで,これもステキ。4組のソリストの中でも,田中さんと正木さんがリーディングカップルという感じの振付で,変化があるのもよかったです。田中さんの大人の雰囲気には,お花をつけたヘアスタイルはかわいらしすぎて少々違和感がありましたが,踊りが大きくて,まるで主役のような存在感があり,しかも確実。
さて,グラン・パ・ド・ドゥで,金平糖の精と王子が再び登場。
いやー,驚いたことに,王子がお召し替えをなさっていました。そ,そ,それも,金平糖の精のピンクに合わせて,胴がエンジ色で袖がピンクなのよー(笑)。
いや,逸見さんに関しては,びっくりはするけれど,ちゃんと似合っていましたが,ううむ,他のキャストもこの衣装なのかしら・・・?(頭の中で森田さん,相羽さん,正木さんと,次々に着せ替え人形をして,少々不安になる・・・いや,失礼かもしれませんが,でもねえ・・・。)
上野さんは,最後に登場するバレリーナにふさわしい堂々とした感じがありました。ただ,上半身の動きにていねいさ・柔らかさが足りないのかしらん,少女の憧れの象徴としては,女性らしさや優しい感じがもっとほしいなー,という感じが。
逸見さんは,もう甘くて甘くて,これぞお菓子の国の王子さまよ〜という感じで,非常にステキ。
アダージオは,上野さんの勢いがありすぎたのでしょうか,逸見さんがちょっとぐらつく場面もあったのですが,全体として,「グラン・パ・ド・ドゥ」という言葉にふさわしい華やかさはありました。
最後,舞台の上にはクララが1人残ります。生徒さんに最後を任せるのは冒険だろうと思いますが,織山さんは,実に立派。ただ幸せなのでもなく,夢が覚めて悲しいのでもない,甘酸っぱい表情を見せて,幕が降りました。
全体としては,ドロッセルマイヤーの甥の扱いに代表されるように,演出上の疑問もありましたが,衣装や装置もきれいだし,逸見王子ははまり役だし,楽しめる公演でした。
(02.2.17)
04.01.01から