バレエの巨星(インペリアル・ロシア・バレエ)

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10月13日(土) 長岡市立劇場

10月20日(土),21日(日) 新宿文化センター

 

第1部

『カルメン組曲』  振付:A・アロンソ

カルメン:草刈民代   ドン・ホセ:イルギス・ガリムーリン

エスカミーリョ:ジャンベック・カイイール  隊長:ヴィタウタス・タランダ  宿命(牛) オレーシャ・バヤノワ

煙草工場の女たち:オリガ・チェルノブロフキナ,アリヤ・タニクバエワ,カテリーン・ペトロワ,アンナ・ジャブチェンコ

草刈民代は,非常に特異な解釈の,個性的なカルメンでした。

つまり,「自由に生きる女」ではなくて,「男に媚びる仔猫ちゃん」。
これは,なかなか魅力的で,ホセを籠絡し,エスカミーリョを誘惑するところまでは,「おお,なるほどー。うまいなー。こういうのもありかもー。」と,非常に面白く見ました。
が,この解釈の問題点は,中盤以降,話がもたなくなること(笑)。
物語が破局に向かって進み始め,シリアスになリ始めると,ううむ・・・全然つまらない。終盤のパ・ド・カトル(?)などは,本来緊迫感溢れる場面になるべきなのでしょうが,盛り上らないままに終わってしまいました。(ほかの3人にも責任はあるでしょうが。)

これはいっそ,最後まで徹底して,「男に媚びて,甘えて,生き延びよう」とする女性を見せてくれたらよかったのではあるまいか・・・でも,それではカルメンではないか。(笑)

ガリムーリンは,身体もシェイプアップして,最近にない(←失礼ですみません)好舞台。
ただ・・・ホセは,マジメな小役人が,宿命の女によって,道を踏み外していくのだと思うのですが,彼の「マジメ」な感じはよかったのですが,どうも「小役人」に見えないのが,ちょっと・・・。いや,つまり,大物すぎるというコトで,ご本人のせいではないのかもしれません。
あと,殺人まで行くからには,一種の狂気だと思うのだけれど,あまり,そういう感じは受けなかったなあ。

で,この「ホセが大物すぎる」印象を与えるのに大きく貢献したのが,エスカミーリョのカイイール。容姿も踊りも,失礼ながら,全然伊達男じゃないんだもの・・・ほかにもっと適任者はいなかったのでしょうかねえ?

というわけで・・・そうですね,「カルメン」に似て非なる物語でした。
もしかすると,振付や構成自体が古すぎるのかもしれません。

そうそう,宿命(牛)のバヤノワは,長身で長い手脚,白塗りのメイクが映えて,すばらしいインパクト。非常に役に似合っていました♪

 

第2部

「牧神の午後」  振付:ニジンスキー

ニンフ:マヤ・プリセツカヤ   牧神:アレクセイ・ラトマンスキー

ヴァレンチナ・フェチーソワ, ナタリア・チーシェンコ, ナジェジュダ・ザハロワ

プリセツカヤは,ニンフではないですね。貫禄ありすぎで芸術の女神とでも言うべきか・・・。衣装も,普通の「牧神」より立派でした。
床に落としたショールを拾う動きの,背中の辺りに年齢を感じたりする部分もありましたが,牧神とともに見せるポーズの美しさ,身体の表情の雄弁さには,感嘆しました。
存在感については,今さら語るまでもないですね。

ラトマンスキーは,非常に不気味な感じで,見事な半獣半人(半獣半神でしたっけ?)でした。常に笑っているのですが,それが人間の微笑ではなく,獣の笑いに見える。うん,脚には剛毛が生えていて,蹄もあるに違いない(笑)。
名演だったと思います。

 

「愛の記憶〜タンゴ〜」  振付:シガーロワ

ゲジミナス・タランダほか

全幕作品の一部上演らしいです。

港の酒場。たむろする人々の中に,一人だけ立派な格好(黒い三つ揃いスーツ)のタランダが椅子にすわっている。周りでは,いさかいとか賭博(カード)とか一晩の値段の交渉とかが進行している。
そうこうするうち,女の一人が,よってたかって陵辱されそう・・・という場面が長々と続いて,タランダが上着を脱いで,やっと割って入る。
遅すぎ!! 落ち着き払って見てないで,早く助けろよー。(怒)
その後,男性が二派に分かれて闘う。

というモノでした。
まあ,後半の舞台をいっぱいに使った乱闘の場面は,なかなか迫力がありましたが,わくわくするほどでもない・・・まあ,バレエを見にきて,こういうモノを見せていただかなくても・・・ねえ。

結論・・・落ち着き払って見ていないで,早く助けてほしかったです。

 

「海賊」よりグラン・パ・ド・ドゥ  振付:プティパ

イリーナ・スルネワ
セルジャン・カウコフ(13日)/イリヤ・クズネツォフ(20日,21日)

スルネワは,容姿もテクニックも立派な,安心して見ていられるバレリーナでした。フェッテの前半で,少しずつ回転角度をずらして,体の向きを変える技を織り込んだりしていましたが,超絶技巧を誇るという感じではないし,衣装も,趣味のいい濃紺のチュチュで,美しかったです。

カウコフは,東洋系の若手で,ハンサム。魅力的♪ 衣装が,白のハーレムパンツだけなのも成功の一因。浅黒くて,美しい上体でした。(やはり,アリ役は東洋系のモノか?)踊りは,テクニックは強いようでしたが,あまりきれいではなかったです。でも,それも,若さの勢いで,悪くない。

クズネツォフは,身体に自信がなかったのでしょうか(笑),上半身にも白い布を斜めに渡した衣装(うーん,記述困難・・・「アポロ」みたいと言えばいいのかな?)でした。こちらは洗練された踊りでしたが,その分つまらなかったなあ。(すみません)

 

「ガウチョ」  振付:アンドロソフ

ゲジミナス・タランダ,アルチョム・ミハイロフ,イリヤ・クズネツォフ(13)/キリル・ラジェフ(20)/ウラジミル・チュマチェンコ(21)

アルゼンチン(?)の民族衣装のタランダとミハイロフ,真ん中に,若手のノーブル系又はテクニック系ダンサー,という組み合わせで,観客を笑わせ,楽しませる作品。

タランダは,こういうサービスは上手ですよねー。しかし,見事に出たお腹で(失礼!),よくあれだけ踊れるものだ,と改めて感心しました。

ミハイロフのテクニック(というのか? 民族舞踊の脚の動き)は見事。

真ん中は・・・95年の「ルジマトフのすべて」のフィナーレ(アンコール)で,ルジマトフが後半だけ加わって見せてくれたのは,まあ余興だから置いておくとして(もしかすると,タランダは,あのとき,こういう作品に仕立てることを思いついたのかしら?),一昨年のこのカンパニーの公演で,ガリムーリンが踊ったのを見ているから,インペリアルのダンサーでは,不満が残りました。中では,「海賊」を踊れる実力の持ち主であるクズネツォフが,やはり一番よかったかな。

 

「イタリアン・カプリチオ」  振付:ペトゥホフ

マヤ・プリセツカヤほか総出演

マハリナとルジマトフ以外のダンサー総出演の,プリセツカヤを称えるフィナーレ。(この後に「シェヘラザード」があるのにフィナーレというのも変ですが,でも,そうとしか呼びようがない。前回のインペリアルの公演では,実際,これがフィナーレだったような気がする。)

いや〜,あの年齢にして,あの細いハイヒールでの見事な身のこなし! 辺りを圧する存在感! すばらしいです〜。

 

第3部

「シェヘラザード」  振付:フォーキン

ゾベイダ:ユリア・マハリナ   奴隷:ファルフ・ルジマトフ

シャリアール王:ゲジミナス・タランダ  シャーザーマン(王の弟):ユーリー・ヴィスクヴェンコ  宦官長:ヴィタウタス・タランダ  オダリスク:タチアナ・ゲンゲル, リュボフ・セルギエンコ, アナスタシア・ドリゴ 

「シェヘラザード」の金の奴隷は,ルジマトフの当たり役の一つですから,もちろん何回も見ています。
いつ見てもすばらしいのですが,今回は,ゾベイダがこの作品でのベストパートナーであるマハリナ,シャリアール王にタランダ,そしてコールドバレエ付きの全編上演ですから,言うことなしの充実の公演。足りないのは,コールドがキーロフではないことと音楽がテープのことですが,それを言っては,ルジマトフと私たちファンのために(?)この作品を日本で上演してくれたインペリアル・ロシア・バレエと招聘元さんに対して,恩知らずになってしまいますものね。

 

マハリナが,美しかったです。

シェヘラザードは,千一夜物語の発端,ハーレムの寵姫たちの奴隷との火遊びが王に露見して皆殺しになる,というお話ですが,今回は,この寵姫ゾベイダの美しさが並大抵ではありませんでした。
以前より少しふっくらしたような気がするのですが,それも奏効して,実に女っぽく,妖艶。それでいて,高貴さもあり,演技は,金の奴隷との情事が,ただの情事ではなく,刹那的なものであるとはいえ,真の愛情であることが伝わってくる名演。

そして,ルジマトフがまた美しい。

うーん,この方の身体は,年齢とともに,ますます美しくなっているような気がするわ。
官能的でありながら禁欲的,愛に溺れているようでありながら,孤独の影が漂うその表現。まさに奴隷にしか見えないのに,品格がある全身の表情。ニジンスキーを見たことがないので確言はできませんが(笑),彼の前にも,彼の後にも,これ以上の金の奴隷はあり得ないのではないか,と思うほどでした。

 

今回特に印象に残っているのは,パ・ド・ドゥだけの上演では見られなかったいくつかの場面です。

金の奴隷が牢から解き放たれて,舞台の中央に跳び込んでくる瞬間・・・
(これは,パ・ド・ドゥだけのときでもあるけれど,最初から出てくるのと,延々と(すみません・・・)お話の前段を見せられながら待っていたところへ,ついに登場するのでは,こちらの受けるインパクトが違う。セットもあるしね。)
終盤近く,他の奴隷たちを従えて踊るシーンの,圧倒的な迫力・・・。
ゾベイダが横たわる高い寝台に,腕の力だけでその身を引き上げ,転がり込む金の奴隷・・・
命乞いが受け入れられないと知って,(あるいは,自分自身がいかに金の奴隷に惹かれていたかを知って?)潔く死を選ぶゾベイダ・・・。

そして,なによりも,金の奴隷が王の弟に切り伏せられた瞬間,舞台に駆け入ってくるゾベイダ・・・そして,2人の手が一瞬結び合わされ,そして,離れてしまい,金の奴隷が息絶える瞬間・・・。

この場面を見ながら思いました。マハリナとルジマトフによる「シェヘラザード」は,ただの官能と愛欲の踊りではないのだ,と。これは,一つの,美しい恋の物語でもあるのだ,と。
だからこそ,これほどに観客を感動させるのだろう,とも。

(01.11.11)

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