01年10月12日(金),14日(日)
新国立劇場(オペラ劇場)
振付: サー・ケネス・マクミラン 演出:ジェリー・リンコン
ソリスト指導:ジョージーナ・パーキンソン 決闘シーン指導:テレンス・オール 監修:デボラ・マクミラン
作曲:セルゲイ・プロコフィエフ
舞台美術・照明:ポール・アンドリュース 照明:沢田祐二
舞台装置・衣装提供:バーミンガム・ロイヤル・バレエ
指揮:バリー・エドワース 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
配役 | 12日 | 14日 |
ジュリエット | ヴィヴィアナ・デュランテ | 志賀三佐枝 |
ロメオ | ロバート・テューズリー | デニス・マトヴィエンコ |
マキューシオ | 熊川哲也 | 吉本泰久 |
ティボルト | ゲンナーディ・イリイン | 佐藤崇有貴 |
ベンヴォーリオ | 山本隆之 | 奥田慎也 |
パリス | 佐藤崇有貴 | 逸見智彦 |
マンドリンダンス | 吉本泰久 陳秀介,グレゴリ・バリノフ, 小林由明,西梶勝,舩木城 |
グレゴリー・バリノフ 陳秀介,小林由明,佐藤禎徳, 西梶勝,舩木城 |
3人の娼婦 | 湯川麻美子 西川貴子 前田新奈 |
湯川麻美子 大森結城 楠元郁子 |
キャピュレット卿 | 本多実男 | 本多実男 |
キャピュレット夫人 | 豊川美恵子 | 豊川美恵子 |
乳母 | メアリー・ミラー | メアリー・ミラー |
モンタギュー卿 | 内藤博 | 内藤博 |
モンタギュー夫人 | 沢田加代子 | 沢田加代子 |
ロザライン | 真忠久美子 | 真忠久美子 |
ロザラインの友人 | 深沢祥子 | 深沢祥子 |
ロレンス神父 | 市川透 | ゲンナーディ・イリイン |
大公 | 京谷幸雄 | 京谷幸雄 |
ジュリエットの友人 | 遠藤睦子,高橋有里,高山優, 中村美佳,西山裕子,島添亮子 |
遠藤睦子,高橋有里,高山優, 中村美佳,西山裕子,島添亮子 |
日本のバレエ団による,マクミラン版初演。
「日本人がマクミランを?」と少々心配しながらも,1年以上前からとても楽しみにしていたのだけれど・・・マキューシオで出演の予定だった小嶋直也さんが,右膝の故障で休演した喪失感は大きく,一気にテンションが下がってしまいました。(すみません・・・)
◇ジュリエット
デュランテさんは,よく言えば熱演,悪く言えばわざとらしい。私は,後者の印象を受けました。
登場の瞬間は,うわぁ,かわいい,と思ったのだけれど・・・。
志賀さんは,ステキなジュリエットでした。
無邪気でおとなしいお嬢さんという感じで登場して,恋を知って大人になって,死を選ぶまでの演技が,とても自然。1幕は愛らしく,3幕はドラマチック,とても説得力がありました。
バルコニー・パ・ド・ドゥは,マトヴィエンコさんの熱演もあって,初恋の歓びに溢れ,墓場の場面の絶望は,その場の暗い冷たさが感じられるよう。
◇ロメオ
テューズリーさんは,印象が薄い。金髪だし,ハンサムだし,プロポーションもきれいなのに,なぜですかね?
踊りは,まあマクミラン版は初めてだそうだからねえ,という感じ。いや,マトヴィエンコさんよりは余裕があった(=練習してきた?)だったとは思いますが。
マトヴィエンコさんは,いやいやいやいや,かわいい,かわいい。(笑)
ソロもサポートも今一つ(彼も,マクミラン版は初めて)でしたが,20歳そこそこの今しか踊れないであろう「少年の輝きのロメオ」を見せてもらいました。
バルコニーに向けて全力疾走する初々しい恋の表現も,結婚させてくれと神父に迫る性急さも,マキューシオの死の直後の我を忘れた激昂も,キャピュレット夫人に必死に許しを乞う泣きそうな顔も,すべてが「青春の激情」そのもの。
ロメオはこうでなくちゃ♪(喪失感でいっぱいだったおねえさんの心が,少し明るくなりました。)
◇マキューシオ
熊川さんは,10日までイタリア(ナポリ)で公演が入っていたそうで,初日当日に,日本に到着したと聞きました。時差ぼけのせいでしょうか,動きが重かったですが,演技は上手で,存在感もある。何より,その侠気に,心から敬意を表します。
アンダースタディだったという吉本さんは,端正な踊りで,その分(?)インパクトが弱かったような・・・。
マトヴィエンコさんも,少年ぽいので,この日は,ベンヴォーリオ(奥田さん)が一番兄貴分に見えるという,妙なコトに。(笑)
◇ティボルト
イリインさんは,かっこよかったけれど,少々地味。舞踏会の踊りなどでの手の動きにうっとりしましたが,ということは・・・うーん,パリスのほうがよかったのでは?
佐藤さんは,強そうな悪役で,とてもよかったです。1幕の登場シーンでの,酷薄な笑いがすてき。マキューシオを「殺した」あとの,平然たる様子,そして往生際の悪さも,実に魅力的。
◇ベンヴォーリオ
山本さんは,踊りも演技も,「街の娼婦と馴染みになる程度には世の中を知っている良家の子弟」的でよかったですが,『リラの園』を見て,ロメオが見たい〜,と思わされたときほどの,強い印象はない。でも,ベンヴォーリオは,そういう役ですものねえ。
奥田さんは,明るい表情が魅力的で,街の喧騒や舞踏会でのいざこざを楽しむ様子がよかったです。
◇パリス
佐藤さんは,乙女にはとうてい受け入れられるはずもない「大人の男」のところがよかったですが,ううむ・・・貴族の御曹司には見えなかったなあ。
逸見さんのほうは,ひたすらエレガントな貴族の若様。気取った感じが,直情径行のロメオと対照的なので,ジュリエットの選択に得心がいきました。これに加えて,彼女に拒まれる場面で,誇りが傷つけられたときの「支配階級の怖さ」みたいなモノが出ると,理想的なパリスかもー。
◇マンドリン・ダンス
ダンサーがどーだこーだと言う以前に,衣装に仰天しましたー。いや,つまり・・・花火のように輝く,赤い雪男の群れなのよ。
愛敬があるから嫌いではないですし,悲劇の舞台を台無しにするほどのモノでもなかったから,絶対許せない,と力むつもりはないですが・・・ううむ・・・唐突であったコトは否定できない・・・。
いったい,なぜに,あのような・・・???
中世のイタリアには,ああいう姿の芸人でもいたのですかね?
◇3人の娼婦
実は,マクミラン版を上演すると聞いたときから,「娼婦は大丈夫か??」と心配していたのですが,皆さん上手だったので,安心&感心。
本家の英ロイヤルバレエのような猥雑さはないのですが,いきいきしていて,(日本人にも抵抗のない程度の)適度の色気があって,存在感があって,とてもよかったです。
中でも,湯川さんと西川さんが,「アバズレ」の感じが出ていて,特に上手でした。
◇全体
初日は「ううむ・・・マクミランは,やはり日本人には向かないのではあるまいか。なんだか借り物っぽいなー」と思いましたが,14日は「大丈夫! いける!」と・・・(笑)。
たぶん,初日は,硬かったのでしょう。(あるいは,私の精神状態のせいか?)
ただし,この作品を上演するには,男性ソリストが不足しているとは思います。(日本のバレエ団は,どこもそうかもしれませんが)
3人のロメオのうち2人がゲストダンサーで,残る1人は登録ダンサーだというのは,ファンにとってはちょっとねえ・・・。
マキューシオだって,(根岸正信さんの退団があったとはいえ)小嶋さん一人しかキャスティングできないような陣容だったから,彼の故障で,急遽強行日程のゲストを呼ぶことになったわけですし・・・。(いや,私としては,どの日に行っても彼が見られるというのは,単純に嬉しかったですし,故障がなければ,全日いい舞台を見せてくれたと信じていますけれど。)
何とかしてほしい,と言ったからといって,すぐに何とかなるものではないのは承知していますが,何とかしてほしいものです。
◇余談
初日のカーテンコールで,テューズリーさんが演出や指導の方々を迎えに行った隙に,デュランテ&熊川がキスしていたので,うーん,いくらなんでも,いかがなものか???
(01.11.11)
04.01.01から