ジゼル(東京バレエ団)

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01年9月5日(水)

文京シビックホール

 

振付:レオニード・ラブロフスキー(ボリショイ劇場版/コラーリ,ペロー,プティパの原振付による)

音楽:アドルフ・アダン

美術・衣装:ニコラ・ベノワ  衣装:宮本宣子  照明:高沢立生

指揮:福田一雄  演奏:東京ニューシティ管弦楽団

ジゼル:ジュリーケント アルブレヒト:ウラジーミル・マラーホフ

ヒラリオン:木村和夫 ミルタ:遠藤千春

バチルド姫:井脇幸江  クールランド公爵:芝岡紀斗  アルブレヒトの従者:森田雅順  ジゼルの母:橘静子
ペザント・パ・ド・ドゥ:早川恵子,大嶋正樹
ジゼルの友人:佐野志織,渡辺珠代,矢部亮子,市来今日子,大島由賀子,福井ゆい
ドゥ・ウィリ:福井ゆい,大島由賀子

 

すみません。最初に,悪口から書きます。

2幕では,ほとんど心が動かされませんでした。

ケントは,ポアントの音がしないのは,この世のものではない感じがして見事でしたが,テクニックが今一つ。
特に,墓から甦って最初の,片脚をスカートの中に隠しての回転の速度が遅かったため,ウイリーの異様さが感じられなくて・・・第一印象は,大きいですよね。

マラーホフは,若干不調だったと思います。もちろん平凡な一流ダンサーよりは美しいのですが,私の知る彼には見られなかった,動きの崩れが見えて,ちょっと「ううむ?」。
そして,1幕の,ほんとうにジゼルを思いやっていた紳士的な姿とは相容れない(と私には思えた)表現・・・マントに身を隠してゆっくりと舞台に歩み入った直後に,なぜ,そのマントをなびかせながら,舞台を駆け回るのか???・・・いや,美しいですよ,それはたしかに・・・でも,自分の悲しみに酔っているように見えてしまって・・・第一印象は,大きいですよね。

ウイリーたちの動きも,美しくないし,かといって不気味でもない・・・いや,これは,単に,私が東京バレエのクラシックが好きではないということかもしれませんが。(あ,でも,去年見たボルドーよりは上だったと思うわ。)

では,不満な舞台だったかというと,そんなことは全然ない・・・。1幕,特に,ジゼルが狂ってしまってから幕切れまでの2人の演技には,ほんとうに感動しました。
今まで見た「狂乱の場」のうちで,最高だったと思います。

 

1幕のマラーホフのアルブレヒトは,プレイボーイでも,考えなしのおぼっちゃんでもない,ジゼルに真摯な愛を捧げる,大人の貴族でした。

特に感心したのは,ジゼルがベルタにたしなめられて,家に入る場面。
たいていのアルブレヒトは,何とか彼女を引きとめようと,愚かな行為を繰返すのですが,マラーホフはそんなことはしない。いや,同じようなことはしているのだけれど,ほんとうにジゼルを思っていて,しばしの別れ(?)を惜しんではいるが,基本的には,彼女が家に入って休むべきだと納得していることが伝わってくる演技でした。(うーん,どこがどう違っていたのか説明できないわ・・・でも,違ったのよ。)

一方のケントは,村娘と言うよりお嬢さん風に見えないでもなかったですが,おとなしやかで,はにかみやで,品がいい。アルブレヒトは,単に野に咲く花を摘んでみたのではなく,この慎ましやかな少女の美質に惹かれたのだろうなあ,と思わされました。

 

そして,そんなジゼルが狂気に陥ったときの表現が,「すごかった」です。

例えば・・・
ジゼルは,花占いの動きを再現しながら,段々うずくまってしまう・・・。その彼女を,アルブレヒトが,後ろからやさしく抱きしめるのですが,それを,まるで,危害を加えられたかのように,はねつけ,振り払って,飛びのくところ・・・。

アルブレヒトにも,ヒラリオンにも,だれにも触れられたくない,といった様子に,傷つけられた乙女の潔癖さが現れていて,しかも,内に,内にと沈潜していく狂気には,大騒ぎする狂気よりずっと恐ろしいものが感じられて,ぞっとさせられました。

 

マラーホフのアルブレヒトは,そのジゼルから,決して目をそらさない。(普通は,従者にすがったり,天を仰いだりしますよね。)
最初のうちは,こぶしを握りしめて立ち尽くしていて,途中からは,何度も彼女に駆け寄ろうとしては,その度に従者に引き止められる・・・。(マラーホフはもちろんですが,ウィリフリードの森田雅順もうまかった。)
どんなにか見ているのがつらいだろうに,目をそむけることをしない(できない?)というアルブレヒトのあり方は,最高の愛情表現なのかもしれない,と思いました。

ジゼルが息絶えてからのヒラリオンとの一場も,やり場のない怒りの迫力でしたし,最後,舞台から走り去るときも,よろよろしていたかと思うと,次の瞬間,狂ったような勢いで駆け去っていく・・・もうこの場にいたたまれない,どうしたらいいかわからない,という切迫感が伝わってきて・・・(しかも,美しい)。
「最後に走り去るアルブレヒト」としては,今まで見た中で,一番感動的でした。

だからこそ,2幕での登場シーンで,「???」と思ってしまったのだけれど・・・うーん,でも,あの狂乱の場だけで,見る価値があったと思える,いい舞台でありました。

(01.11.11)

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