眠れる森の美女 (新国立劇場バレエ団)

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作曲: ピョートル・チャイコフスキー

振付: マリウス・プティパ  改訂振付: コンスタンチン・セルゲイエフ  演出: オレグ・ヴィノグラードフ
振付指導:ナターリア・スピーツィナ, ゲルマン・ヤンソン

舞台美術・衣装: シモン・ヴィルサラーゼ

指揮: ヴィクトル・フェドートフ  管弦楽:新星日本交響楽団

   4月28日  4月29日
オーロラ  志賀三佐枝 酒井はな
デジレ王子 小嶋直也 デニス・マトヴィエンコ
カラボス マシモ・アクリ
リラの精 田中ルリ 前田新奈
フロリナ王女 高山優 宮内真理子
青い鳥 逸見智彦 根岸正信
国王 長瀬信夫 
王妃  鳥海清子 深沢祥子
カタラビュート 小原孝司
カタラビュートの従者 串田光男
優しさの精 柴田有紀 大森結城
元気の精 湯川麻美子 西川貴子
鷹揚の精 島添亮子 高橋有里 
呑気の精 中村美佳 岩本桂
勇気の精 遠藤睦子
花婿候補 山本隆之,奥田慎也,山口章,逸見智彦 山本隆之,ゲンナーディ・イリイン,奥田慎也,山口章
女官 鹿野沙絵子,川村真樹,楠元郁子,鶴谷美穂
踊り子 斉藤希,真忠久美子,丸尾孝子,大和雅美
伯爵夫人 湯川麻美子
ガリフロン 石井四郎
村の娘 中村美佳 高橋有里
猟師 小林由明 根岸正信
ダイヤモンドの精 高山優 西山裕子
サファイヤの精 鶴谷美穂 西川貴子
金の精 鹿野沙絵子 大森結城
銀の精 川村真樹 前田新奈
白い仔猫 柴田有紀
長靴をはいた猫 奥田慎也
赤ずきん 中村美佳 高橋有里
市川透

 

01年4月28日(土)

新国立劇場(オペラ劇場)

 

今回は,開演までが大騒ぎのキャスト変更で,疲れきりました。

でも,会場に着いたとたんにすっかり回復。多少の心配はありましたが,わくわくしながら,幕の開くのを待ちました。
セルゲーエフ版の「眠り」は大好きですし,それに,これは,新国立の開場のときの演目。あれから3年半,バレエ団も小嶋さんもずっとステキになっているので,楽しみ〜♪

そして,始まった舞台は,期待を上回るものでした。

開場記念公演のときは,キーロフ直輸入のセットや衣装の美しさに感心しつつも,「ロシア人に合わせてデザインした衣装やカツラが,黄色人種に似合うわけがないだろうが!!」と文句を言いたかったのですが,今回見たら,ほとんど違和感がありませんでした。
一人ひとり見ると,やはり似合ってはいない方も多々見られるのですが(笑),全体としては全然おかしくない。これが,「作品を自分のものにした」ということなのでしょうか。

コール・ドの踊りも,初演のときもきれいだと思いましたが,今回はいっそう。ワガノワ・スタイルと言えるのかどうかはわかりませんが,それぞれの場面の雰囲気を表現していて,とてもよかったです。
プログラムで「女官」や「踊り子」と表記されている1幕での役(オーロラの友人みたいな,4人組で踊る方たち・・・コールドでもソリストでもないけれど,なんと呼べばいいの? コルフェ?)の踊りもたいそう美しく,セルゲーエフ版の「古きよき時代の宮廷」の雰囲気を味わうことができました。

それから,新国立劇場のダンサーが,私にとっておなじみになっていることも,以前より楽しめた理由の一つではありましょう。プロローグの妖精たちも,おヒゲをつけた4人の王子も,一人ひとり名前がわかるようになると,楽しさが違いますよね。

 

さて,急な代役で主役を踊った志賀さんは,失礼ながら,容姿的には「これぞオーロラ」という華はないのですが,楚々として品がよく軽やかですし,事情を知らなければ,当初からの予定キャストと思えたのではないかと思われる立派さ。
バランシンやドラマチックな作品で輝くタイプで,お姫様向きではない,という印象を持っていたのですが,ふんわりとした雰囲気があって,感嘆しました。

テクニックはもちろん見事な方ですから,ローズアダージオなんて,キーロフ版の上品すぎるバランスの長さ(短さ?)ではもったいない,あの長々としたロイヤル版でやってほしいわ,と思ったりして。

それから,花束の中の針で指を刺して,倒れるまでのシーンは,たいへんドラマチックでありながら,品を失わない表現で,引き込まれました。

まあ,グラン・パ・ド・ドゥでのパートナーシップは「大過なく」程度で,「何があろうと任せておけ」タイプではないパートナー(ごめん)と,たぶんほとんどリハーサルなしで踊らなくてはならなかったのは,やっぱり気の毒だったなあ,とは思いましたが。

 

小嶋さんは,エレガント〜。

初演のときは「王子の動きをしている」感じだったのが,今回は王子が舞台の上にいたので,かなり感激しました。
彼も,失礼ながら,容姿やスター性の点では,「これぞ王子」とは言いがたいと思いますが,狩の一行を去らせて一人になって踊る場面や,幻影の場など,「跳ばない」場面の動きにも品があって,美しい純白の王子さまでした。

特によかったのは,リラの精に導かれながら,城の奥へと進んでいく場面。
旅公演用のキーロフの簡略セットでは,リラの精と王子は,長々と船の上にいるわけですが,新国立では,この場面で下手に階段が現れます。
彼が,辺りを見回しながら,ゆっくりとこの階段を登っていく様子,そして次に下手から舞台に後ろ向きに歩み入ってくる様子には,いかにも,憧れの姫君を求めて,深い森の中に突然現れた城の中へ,見知らぬ世界へ入っていくのだなあ,という感じが出ていて,王子の内面への旅のような感じさえして,うっとりしました。

ああ,でも,それだけに・・・
オーロラへの目覚めのキスの前後は,もう少し何とかしてほしい(泣)。
リラの精の助けを借りたとはいえ,群がる敵を退けて,やっとたどり着いたのだから,さあ,彼女を百年の眠りから引き戻そうという場面なのだから,ほら,ねえ,こう,なんというか・・・ううむ・・・。
いや,もっと情熱的であれとは言いませんよ。王子にそれは不要です。
でも,もう少し,思い入れのようなものがあってもいいのでは,と思ってしまいました。淡々としすぎ,というか,予定調和的すぎだったわ。

「跳ぶ」場面は,もちろん見事♪♪♪
その高さにはびっくり! (ほんとに高かったですよ〜。いつも見ている私が言うんだから,間違いありません!) もちろん,高いだけではなくて,爪先まで,指の先まで見事にコントロールされていて,ああ,美しかった〜〜。
私,彼は,世界中で二番目に美しく跳ぶダンサーだと思っているのですが(あ,一番はマラーホフ王子ね),この日は,今ではこっちが世界一かも〜(♪)と思いましたー。

 

リラの精は,登録ソリストの田中ルリさん。
初めて見ましたが,なるほど,存在感があるし,女性的な魅力があるなあ,と思いました。ただ,踊りは,もう少し音楽的であってほしいような感じも・・・。

アクリさんのカラボスは,もちろんお上手。彼のような方が,(たぶん)日本を拠点に活動してくださっていることは,ほんと,ありがたいコトですー。(←拝んでいる。)

プロローグの妖精では,遠藤睦子さんの勇気の精が秀逸!
音楽的で優美なのに,力強くて,ほんとに勇気を与えてもらえるよう。

3幕では,西山裕子さんのダイヤモンドの精が,伸びやかな踊りですてきでした。
いつも思うのですが,頭は小さいし,首が細くて長く,手脚も長くて,美しいバレリーナ。4人の中で,一番小柄なのに,一番華が感じられました。
西川貴子さん(サファイアの精)の,柔らかな指先の動きにも,感心。

特筆すべきは,鳥海清子さん演じる王妃♪
オーロラを心から愛しているけれど,庶民的な愛情表現ではなくて,ちょっとよそよそしくて,王侯貴族の親子関係は,こうだったのだろう,という感じ。領民たちに対しても慈悲深いのですが,権高な感じもあって,すばらしかったと思います。

 

指揮は,キーロフの老巨匠,フェドートフさんでした。
いつもカーテンコールで盛り上がる方ではありますが,この日はたいへんな喜びよう。志賀さんを抱きしめる,志賀さんが前に出てオーケストラにあいさつしている間には,小嶋さんと握手している,主役二人が前に進み出ると,今度は逸見さん(青い鳥)に握手を求める,という調子(笑)。
その姿を見ながら,うーん,今日は,ほんとうにいい舞台だったなあ,と改めて,嬉しくなりました。

(01.12.9)

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眠れる森の美女(新国立劇場バレエ団)

01年4月29日(祝)

新国立劇場(オペラ劇場)

 

この日も,とてもよかったです。

まず,プロローグで登場した,リラの精の前田さんがよかった〜。
カラボスに対する毅然とした仕種のタイミングがステキ。ヴァリアシオンも,長い手脚を生かして,美しく見せていました。

妖精たちの中では,この日も遠藤さんの「勇気の精」だったのが嬉しい♪ 失礼ながら,あまりプロポーションに恵まれていないため,舞台映えが今一つなことがある方ですが,とても上手なんですよね。今回は,ほんとうに魅力的でした。
高橋有里さん(鷹揚の精),岩本桂さん(呑気の精)も,役柄(というか,象徴している美徳)をよく表現していて,感心。

1幕で,オーロラが登場。
酒井さんは,華やか〜♪
登場した瞬間から華があって,たいへん,たいへん,すばらしかったです。初々しいというよりは,コケティッシュな感じでしたが,実に魅力的で,観客の目を引きつけます。
ローズアダージオも余裕があり,見事。開場記念公演のときの,緊張気味だった姿を思い出して,ああ,立派になったなー,貫禄が出たなー,としみじみしてしまいました。

 

2幕の狩の場面では,まず,女性キャストの豪華さにびっくり。伯爵夫人の湯川麻美子さんだけでなく,西山裕子さんや大森結城さんなど,ソリストが惜しげもなく投入されていて,思わずオペラグラスで一生懸命確認したりして。

そして,マトヴィエンコさんの登場。
彼の全幕主演は初めて見たのですが,う〜ん,「出てきただけで王子さま」でした〜♪
背は高いし,脚が長くてきれい。金髪を後ろで束ねておリボンをつけて,そう,紅顔の美少年。
最初のヴァリアシオンも,一人になっての踊りも,上半身の使い方が柔らかく,いかにもロシアバレエの王子で,なるほど,キーロフから声がかかるわけだよなー,と納得。(プログラムによると,01年4月に,キエフから移籍)

幻影のシーンに移って,酒井さんが優しく微笑んでいたのには,驚きました。この場面での表現としては,かなり珍しいですよね。普通は,哀しげですから。

うーん,この場面のオーロラは,いったい何歳なのかしら?
オーロラは,初々しい16歳の少女として100年の眠りについて,100年後に目覚めたときには,成熟した女性としての美徳を備えて結婚式の場に現れます。眠っているだけなのに,どうして成熟するのか? というコトは非常に疑問なわけですが(笑),まあ,そういうコトになっている。
では,幻影シーンでは,少女なのか? 大人なのか?
今までは,少女だと思っていました。でも,酒井さんのオーロラはそうではない。明らかに大人の女性で,だからこそ王子を惹きつけることができて,王子は,(ただの愛らしい少女ではなくて)理想の女性を救い出すために冒険の旅に出る,そういうオーロラでした。

で,これに対してマトヴィエンコさんがどうだったかというと,ただ「きれいな人だなー」と,ぼーっとみとれている坊や(笑)。いや,かわいいし,オーロラがいかに魅力的か伝わってくるから,これはこれでいいんですけどね。ポーズなどもたいへん美しいですし。
でもねー,日本の誇るドラマチック・バレリーナ(になるであろう)酒井さんの相手役として,わざわざ海外から招聘したパートナーとしてはいかがなものか? 
いや,私が思うに,ずっと組んでいた酒井さんと小嶋さんが,最近それぞれ別のパートナーと踊っているのは,身長などの釣り合いの問題などもあったとは思いますが,何を踊ってもドラマを作る酒井さんと,端正だがドラマには欠ける小嶋さんとでは,表現の質が違いすぎる,というコトがあったのではないか,と。で,新しく呼ばれたパートナーが,童話の世界から抜け出してきたような,ひたすら美しいだけの王子さまなのでは,(それ自体はすばらしいコトですが,)あまり意味がなかったのではないか,と,そう思ったわけです。

でも,目の保養になるような,実に美男美女のカップルではありましたし,「眠り」だから,それでいいのかもしれません。

 

3幕での登場シーンも,2人ともきれいだな〜,とうっとり。酒井さんは,肩から胸のあたりが細すぎないので,外国人と組んでも舞台映えするのがすばらしい!
続いて招待客を迎えるわけですが,ここでのデジレ王子のお振舞い(笑)は,ロイヤルウエディングとしては,少々問題が・・・。招待客に応待するよりも,美しい花嫁と仲良くお話しするほうに気を取られていて,立場をわきまていないのよねえ。(←私は,小姑か?)
ま,そういう王子もいいでしょう。嬉しくてたまらない様子が,たいそうほほえましいものね。

「青い鳥のパ・ド・ドゥ」は,宮内さんと根岸さんが踊ったのですが,たいそう愛らしかったです。前日の高山/逸見もよかったのですが,この日の二人のほうが,童話の登場人物らしく見えました。
宮内さんの,華奢で透き通るような美しさ,品のよさは,かつて見たキーロフでのレジュニナの同役と並べて,ガラスケースに入れて保存しておきたいようでした♪
根岸さんは,滑るように跳ぶ! 滞空時間(?)も長く,小柄なのも幸いしてでしょうか,とても機敏でかわいらしい。ただ,衣装はちょっとね・・・。いや,アレは,ロシア人が着ても似合わないから,しかたないか(笑)。

他のソリストの中では,市川透さんの狼が,なかなかのエンターティナーでした。

そして,グラン・パ・ド・ドゥでの,酒井さんの輝くばかりの美しさ!
彼女については,華もあるし,パワーもあるけれど,女らしい気品が足りないかなー,と思うこともあったのですが,この日は,とてもよかったです。
若妻の,品のいい色気が匂いたって・・・。動きも,見事に抑制された,高貴な姫君のそれ。貫禄も備わって,立派なプリマ・バレリーナでした。

マトヴィエンコさんも,柔らかく,かつ,鋭いテクニックが見事で,客席もおおいに盛り上がりました。2幕のヴァリアシオンに比べると,もうちょっとだけていねいにね,王子なのを忘れないでね,と意見したいような気もしましたが,でも,とにかく若々しくてチャーミングなので,許してあげてしまいましたわ。

最後に主役のグラン・パ・ド・ドゥで盛り上がった,とてもいい舞台でした。

 

さて,カーテンコールでは,フェドートフさんが仕切ること,仕切ること(笑)。
「さあ,全員で前に出ましょう!」,「ほら,主役だけ前に進んで!」,「次は青い鳥の二人!」という感じで,たいへん楽しかったです〜。

(01.12.9)

《補記》
指揮者のフェドートフさんは,12月4日に逝去されました。
バレエを愛し,ダンサーを愛してくださった,ステキなマエストロでした。
この日が,私が見た(聞いた)フェドートフさんの最後の舞台・・・。
楽しそうだったお姿を思い出しながら,キーロフ来日公演と新国立劇場での多くの舞台に,心から感謝を捧げます。

 

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04.01.01から