くるみ割り人形/ベジャール版 (東京バレエ団)

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01年01月30日(火)

宮城県民会館

 

振付:モーリス・ベジャ−ル

音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー
アコーディオンのオリジナル曲:イヴェット・オルネ
編曲:ジョゼフ・ムーテ
オリジナル曲:「1本の鈴蘭のために」:ジャゼフ・ムーテ

舞台装置:ロジェ・ベルナール

衣裳:アンナ・デ・ショルジ/宮本宣子(日本版再デザイン)

照明:クレマン・ケロル/高沢立生(日本版再デザイン)

ビデオ映像:ミカエル・ピエラール

マジック演出:プリンセス・テンコー
マジック・コーディネーター:澤村正一,湊敏宏

ビム:吉田和人
母:遠藤千春
猫のフェリックス:古川和則
M...:首藤康之

妹のクロード,プチ・ファウスト:高村順子  光の天使:高岸直樹, 芝岡紀斗  妖精:井脇幸江, 佐野志織  マジック・キューピー:飯田宗孝  グラン・パ・ド・ドゥ:吉岡美佳, 後藤晴雄

 

ベジャール版は初めて見たのですが,アイディアというか小技がいっぱいで,面白かったです。でも,正統派の『くるみ割り人形』の本歌取りとして楽しんだので,この作品自体が気に入ったのかどうかは,自分でもよくわかりませんでした。

ベジャールの少年時代(ビム)の思い出をテーマにした作品らしく,中心は,7歳のときに亡くなったお母さんのこと。
ママがいない淋しいクリスマスに始まって,(普通の『くるみ』でのパーティーの場面では,)バレエのレッスン,本(ファウスト),ボーイスカウトなど,少年時代の体験が続きます。
レッスンのシーンでは,赤と白の衣装で舞台いっぱいにダンサーが登場。見応えがありました。中では,荒井祐子さんがきれいな動きで印象的。
ボーイスカウトの仲間は,『バヤデルカ』のパロディーなのかしら,アラベスクの連続で登場。なぜか皆さん(首にスカーフを巻いてはいましたが)上半身裸でした。ベジャール作品ですから,男性のこういう姿は全然珍しくはないわけですが,ボーイスカウト活動というのは,服装などもきちんと整えるものなのではないですかね?

夜になったらしく,皆寝袋に入って,ビムの夢の場面に。
夢の中では,二人の「光の天使」が登場。この「光の天使」というのは,この後も折々登場するのですが・・・なんというか,たいそう印象的ないでたちで・・・ああ,説明不能だわ・・・1人は金色で1人は赤。いっしょに行った知人は,「あの髭のある女装の人たちはなんなの?」と言っていました。私には女装には見えませんでしたが,たしかにシナを作って踊ってはいたかな・・・いや,とにかく印象的で・・・(笑)。
それから,やはり金と赤の「妖精」も登場。マリリンモンローみたいな鬘の井脇さんがセクシーでチャーミング。

そして,目が覚めると,巨大な聖母像(?)の上半身が上手奥に現れています。
(ネズミとの戦いの音楽の中)ビムは,この聖母像に苦闘しながらよじ登ります。音楽が最高潮に達したところで,ついに像にくちづけ。盛り上がりました〜♪
そして,像から滑り落ちたビムはM...(父親?)に抱かれ・・・と思いきや,突き飛ばされてしまいます。うーむ,父親とはそういう存在なのでしょうか?
さらに,(くるみ割り人形が王子に変身する音楽のところで)この像がゆっくりと180度回転。像の裏は空洞になっていて,その中には白いユニタードの母さんが。おおっ!なるほど!!!
何に「なるほど」と思ったのか自分でもわかりませんが(笑),非常に感心しました。ベジャールってうまいなー。

そのままお母さんとビムのパ・ド・ドゥになるのですが,遠藤さんの優しそうな雰囲気がとてもよかったです。
ただ,パ・ド・ドゥというのは,特に白いユニダードと肌色パンツ姿で踊られるパ・ド・ドゥというのは・・・ううむ,すみません・・・母と子というより恋愛関係のように見えなくもなくて,見ていて落ち着かない心持ちにもなりました。まあ,ビム少年のママへの気持ちは,恋愛と共通するものなのかもしれないから,それでいいのかもしれませんが。

続いて,普通の『くるみ』での雪の場面。
ええと・・・ココは,音楽がアコーディオンで,雪が降って,手品がありました(←なんのこっちゃ)。つまり,そりに乗って「マジックキューピー」なる人物が登場。手品をしたあとサンタに変身。ビムとお母さんは,そのそりに乗って,どこかに去っていきました。ほほー,ちゃんと『くるみ割り人形』の筋には沿っているのだなー。

 

2幕は,ビムがお母さんのために楽しい一場を設営,お母さんが,各国の踊りを鑑賞するという趣向。子役がクララを踊るヴァージョンみたい。ビムが踊りに参加するところは,ライト版やノイマイヤー版みたい。あれ,クララはお母さんでもあり,ビムでもあるのね。

踊りの設定にもやはり少年時代の思い出が入って,最初の「スペイン」は闘牛。M...が,牛頭を付けた手押し車を押して登場したので・・・すみません,苦笑してしまいました。
続いて,「中国」では,人民服の自転車3人組が登場。戦争中のマルセイユの街が自転車だらけになったという記憶にちなむようです。ふむふむ,ヨーロッパでも,中国のあの道いっぱいの自転車は印象的なのねー。あと,同じく人民服の早川恵子さんのバトンもありましたが,こっちはよくわからない・・・もしや中国って,バトントワリングの世界一だったりするのかしらん?
「アラブ」はマジック。大きな箱が引き出され,アラブ風ターバン(白い布を黒いヘアバンドで止める)のM...が荘重な手つきで剣を3本刺す・・・すみません,また笑ってしまいました。箱を開けると臙脂色のユニタードの市来今日子さんが登場,M...と踊った後再び箱の中に。
「ソ連」は,荒井祐子さんと大嶋正樹さんのパ・ド・ドゥ。ビム少年のロシアバレエへの憧れについての場面らしいのですが,衣裳の感じからいくと,これは『ディアナとアクティオン』のイメージなのかな?
フランスの踊りと呼ばれることもある曲(葦笛のほうが一般的?)で猫のフェリックスなどが踊り,あ,フランスではないのね,と思ったら,シャンソンによる「パリ」がありました(井脇幸江,森田雅順)。なるほど,フランス人にとってもフランスはシャンソンなのかー。

続いて,タキシードの男たちが登場して,お母さんやビム,光の天使も登場する「花のワルツ」の後でグラン・パ・ド・ドゥが踊られるのですが・・・,原典どおりの振付だそうですが,これはいただけなかったなー。

吉岡さんはきちんと踊っているしきれいではありますが,プリマらしいふくらみが感じられないし,後藤さんは印象が薄い・・・何より,衣裳がなぜ黒なの???。
黒いチュチュというのは,悪魔の使いのオディールにはふさわしいかもしれませんが,その場合だって赤いビーズで模様を入れたりすることがあるわけで,このパ・ド・ドゥで黒くてデザイン的にも豪華さがないチュチュで登場するのは,全くもって理解に苦しみます。男性のほうも,よく言えばハムレットみたいだけれど,悪く言えば身分の低い牧師みたい。ううむ・・・・???
ベジャールの少年時代の思い出をテーマとしたこの作品の中で,将来高名な振付家になるビム少年にとっての「バレエの象徴」として,プティパの振付どおりに踊られる場面と理解したのですが,だとしたらもっと盛り上がってほしいと思うのですが,なぜ,クラシックバレエらしい,華やかな衣装とか清楚な白でではなくて,黒い衣装なのでしょうか?
幼いころ死別した母を悼む喪服なのかしら? それにしては,タキシード軍団が登場してバレリーナばかりちやほやするという演出はワケがわからんし・・・。

ベジャールの意図が奈辺にあるかの忖度をさておいて素直な感想を言えば,古典バレエ好きの私の気分はかなり傷つきました。何だか古典をおちょくっているみたい・・・。
こういうグラン・パ・ド・ドゥは見たくなかったです。

さて,終幕の曲が流れて,出演者が皆順番に登場します。
お,ここで新たな発見♪
ベジャールの全幕作品って,ラスト近くに各エピソードの人々が総登場するのが結構あるじゃないですか。あれって,クラシックの『くるみ』とか『眠り』のラスト前にそっくりだわ〜。

そして,目覚めの音楽。
ビムは,冒頭の衣裳を着込み,始まりと同じ登場人物が舞台上に残り・・・ああ,ママに会ったのは夢だった!・・・うつむくビムのところにスーツ姿のママがプレゼントを持って現れます。
そう,ママの面影は,いつでも心の中にあるのだから・・・。

 

全体として,なかなか楽しめる作品でした。
ただ,あのグラン・パ・ド・ドゥがあると思うと,もう見なくていいなあ。

ダンサーでは,お父さんやバレエの先生(プティパらしい)の複合像らしい「M...」の首藤さんが,やはり一番存在感がありました。髭をはやしていて,ちょっといかがわしく見えるのもよかったです〜。
遠藤さん(ママ)は,はまり役♪
高岸さん(光の天使の1人)のカーテン・コールでの楽しそうな様子というかサービス精神がたいへん立派でしたが・・・私はついていけなかったかも・・・。

テープの音楽が貧弱で寂しかったですが,ベジャール作品はいつもテープだから,たぶん,築30年以上経つ会館の設備のせいだったのでしょう。

(02.5.31)

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