くるみ割り人形(キーロフ・バレエ)

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音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

台本:マリウス・プティパ
振付:レフ・イワーノフ
改定振付:ワシーリー・ワイノーネン

装置・衣装:シモン・ヴィルサラーゼ
照明:ウラジーミル・ルカセヴィッチ

指揮:ボリス・グルージン  管弦楽:キーロフ歌劇場管弦楽団

 

  12月8日(香川県県民ホール) 12月10日(フェスティバルホール)
マーシャ マヤ・ドゥムチェンコ ディアナ・ヴィシニョーワ
王子 ファルフ・ルジマートフ
シュタールバウム ウラジーミル・ポノマリョフ  
シュタールバウム夫人 アレクサンドラ・グロンスカヤ  
ドロッセルマイヤー ピョートル・スタシューナス  
祖母 ナターリヤ・スヴェーシニコワ  
祖父 ウラジーミル・レペーエフ 
乳母 エレーナ・マカロワ  
フリッツ ポリーナ・ラッサーディナ 
ルイザ ナターリヤ・ラルドゥーギナ クセーニャ・オストレイコフスカヤ
道化 デニス・フィールソフ  
人形 イリーナ・ジェロンキナ  
黒人 アントン・ルコフキン
ネズミの王様 ウラジーミル・ポノマリョフ
雪片の精 ヴェロニカ・パールト,ダリア・パヴレンコ
スペインの踊り ガリーナ・ラフマーノワ,アンドレイ・ヤコヴレフ 
東洋の踊り エレーナ・バジェノワ アレクサンドラ・グロンスカヤ
中国の踊り ユーリヤ・カセンコーワ,イスロム・バイムラドフ
トレパック ポリーナ・ラッサーディナ,リーラ・フスラモワ,アントン・ポイツォーフ  
パ・ド・トロワ ナターリヤ・ソログープ,イリーナ・ジェロンキナ,アントン・クラスノフ(?) ナターリヤ・ソログープ,イリーナ・ジェロンキナ,アントン・コールサコフ
花のワルツ クセーニャ・オストレイコフスカヤ,クセーニャ・ドゥブローヴィナ,ヤナ・セレブリャコーワ,ヴィクトリア・クテーポワ,ニコライ・ゴドゥノフ,ドミトリー・プィハチョフ,セルゲイ・サリコフ,デニス・フィールソフ

00年12月8日(金)

香川県県民ホール

 

何回も見たルジマトフ主演の『くるみ割り人形』ですが,この日は「おっかけの旅・日本四島制覇達成」の記念すべき公演(笑)。

 

ドゥムチェンコは,おとなしくて甘えっ子のマーシャでした。
1幕の人形劇のシーンは,お母さんの膝の上で見ているのですが,闘いが始まると怖くなってしまってしがみついてしまいますし,どことなく淋しげでフランツには「いじめられている」感じ。2幕でネズミたちが登場すると,椅子の後ろに隠れて,恐ろしそうに覗いていました。
プリマの「華」とかテクニックの面では物足りないのですが,それだけに,この内気な少女が奇怪なネズミの王様にスリッパを投げつけるのには,どんなに勇気が必要だったことか,だからこそ王子も心から感謝したに違いない,と思わせてくれます。そして,クララにとって,ステキな王子様に優しく導かれて訪れる情景の数々は,ほんとうに胸躍るものだっただろうなあ,と見ていて嬉しい気持ちになれました。

髪に銀粉をつけたルジマトフは,これに応えて,完璧なマナーを備え,包容力のある大人の王子様。
調子もいいようでソロも一際美しかったですし,雪の場面やグラン・パ・ド・ドゥのコーダで,二人で左右対称に動くところのタイミングの合わせ方などは,見事の一語。何より,すっと腕を伸ばして,ちょっと首を傾けて,優しくマーシャに微笑みかけながらエスコートする姿にうっとり〜〜♪♪♪

3幕でキャラクターダンスを踊り終えたダンサーが舞台上で私語(←だと思う)を交わすなど,キーロフの地方公演はあい変わらず不真面目だと思いますが,まあいいです。
ルジマトフの王子が見られれば満足です。
雪の場面のコール・ドは少々の乱れと大きな足音がありましたが,花のワルツはステキ。こういう場面の上半身の柔らかな美しさがキーロフなのよね〜〜♪

 

会場の香川県県民ホールは,2000席くらいの立派なホール。(幕がちゃんと左右に別れるのが嬉しい。)
1階,2階はほぼ満席。3階も半分くらいは埋まっていた感じだから,9割弱の入りだったでしょうか。
最初のうちは,拍手が少なかったのですが,段々盛り上がって,最後は,何回もカーテンコールがありました。
ああ,来てよかったわ〜,と思える,いい雰囲気の公演でした。

(02.6.18)

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くるみ割り人形(キーロフ・バレエ)

00年12月10日(日)

フェスティバルホール

 

いよいよキーロフ日本公演も最終日。
いろいろ文句は言いましたし,ルジマトフの『白鳥の湖』主演がなくなったのは残念でしたが,合計4回,初日も最終日もルジマトフを見られて,その他の舞台も入れると8回も見られて,幸せな3週間でした。

 

さて,最後のヴィシニョーワ/ルジマトフの『くるみ割り人形』ですが,ヴィシニョーワが圧倒的な輝きを見せました。

登場の瞬間は,「げっ,メイク濃すぎ・・・。マーシャは人形遊びをする子どもなんだぞー」と怒りたくなったものの,いやー,元気な少女というか,イキイキしているというか,チャーミングのかたまりというか・・・そう,まさに,「華がある」というのがこれだ!! という感じ。
とにかく,この人が主役だというのが一目瞭然。何をしているときでもそこに目が行って,彼女がいるところが常に舞台の中心。
彼女はデビュー当時から非常に華のあるダンサーでしたし,『くるみ』でも,大先輩のルジマトフを向こうに回して堂々たる舞台を見せてきたわけですが,この日はいっそう輝きを増したように見え,非常に感心しました。
(ええと・・・「向こうに回す」と書いたのでは,パートナー同士が争っているかのようで,正しい日本語ではないとは思うのですが,彼女は,そういう表現を使いたくなるバレリーナなので,見逃してね。)

 

2幕に入り,ネズミたちとのシーンでは,その勢いに感嘆したというか呆れたというか(笑)。
舞台に駆け込んでくるときのスピードもすごかったし,逃げ出そうとする前にネズミが立ちふさがるところなど,勢いがありすぎて,ネズミを追い越してしまうのよ。あの迫力があれば,そのままネズミの脇をすり抜けて,ラクラク逃げ出せちゃうよねー(笑)。
そして,群れになったネズミたちから逃れるために椅子の上にジャンプするその大きさ! すばらしいですー。
ネズミ軍団対人形たちの戦いが始まってからは,椅子に浅くちょこんと腰かけて,人形たちを督戦。これが,とってもかわいい♪
そして,ネズミが自分にちょっかいを出してくると,クッションで,頭をばんばんとはたきつけて堂々たる抗戦ぶり。いや,これなら,くるみ割り人形も王子も必要ないのではなかろうか?(笑)

さて,ネズミたちは退散し,くるみ割り人形が王子の姿に変わってからのパ・ド・ドゥでまたびっくり。
う〜ん,ヴィシニョーワのテクニックはすごい! 踊りが大きいというのかしら,伸び伸びとして,男性顔負けの動き。ルジマトフの回転のサポートも,ドゥムチェンコのときは,より多く回れるように助けているように見えたのですが,ヴィシニョーワに関しては,むしろ,回りすぎないように止めに入っているようにさえ見えました(笑)。

うん,ほんとうに見事でした。テクニックと華がそろって,生命力の象徴のようにチャーミング。

このパートナーに対してルジマトフの王子がどうだったかというと・・・
きゃあああ,情熱的な王子さまが帰ってきました〜〜♪♪
恭しく感謝の意を表しながら踊り始めた王子が,段々と恋の雰囲気を漂わせ,パ・ド・ドゥの終わり近くには,膝の上にすわったマーシャを強く抱きしめる・・・熱烈でありながら,どこか孤独の陰を漂わせたその表現♪♪

キーロフは93年から98年までの6回にわたり,毎年冬に『くるみ割り人形』を日本で上演しました。その度に,「なんで毎年『くるみ』なの?」と文句を言いながら,ルジマトフ主演の舞台を見たのですが,彼の踊る王子は,最初のうちは「情熱的な恋人」で,その後「ダンスールノーブルの踊る王子」に段々と変わりました。
ワイノーネン版は,グラン・パ・ド・ドゥで4人のカヴァリエが登場することに象徴されるように,マーシャと王子の恋物語ではなく,少女の憧れの物語だと思いますから,たぶんその表現の変化は正しかったのでしょう。
でも,私は,ルジマトフの王子がより抑制のきいたものになるとともに,情熱的な恋の雰囲気が失われていったことを,少し残念に思っていました。

それが,この日は,その情熱的な表現が復活していました。
正直に言って,この日の彼はあまり調子がよくないようで,2日前の高松に比べて技術的には安定していなかったのですが,でも,久しぶりにマーシャを熱愛する王子を見せてもらえて,ほんとうに嬉しかったです。

翌年,キーロフは『くるみ割り人形』を新しい版に変え,ルジマトフはそのプロダクションでは踊っていませんから,この時の舞台が,この作品で踊る彼を見る最後の機会だったのだと思います。
最後に,ただのダンスールノーブルでは表現できない,ルジマトフならではの王子を見せてもらえたことは幸せでしたし,数年ぶりに彼のそういう表現を引き出したのは,この日のヴィシニョーワの,(美しく気品があるが熱さには欠ける)キーロフの踊り方におさまりきれない輝きだったのではないかと思います。
ありがとう,ディアナ♪♪

 

グラン・パ・ド・ドゥでも,ヴィシニョーワのテクニックと華はすばらしかったです。
↑に書いた「向こうに回す」的に言えば,彼女の勝ち,ルジマトフの負け(笑)。まあ,奔馬のようなパートナーを制御して美しく見せるのに精力を使ったせいもあるのかもしれませんが,たぶん多くの観客には,ヴィシニョーワのほうが印象に残ったのではないかと思います。

でも,この敗北の味わいは,ファンとして,決して苦いものではありません。
バレエの舞台でのパートナーシップというものが実力が拮抗した2人によって生まれる相乗効果だとするならば,これまでのルジマトフは,決してパートナーに恵まれてきたとはいえないでしょう。今までのパートナー,クナコワやアユポワやマハリナに不満があるわけではないですが,でも,彼女たちはルジマトフのようなスーパースターではなく,(彼はパートナーをより美しく見せる名人でもありますが)舞台の中心は,常にルジマトフでした。そのルジマトフが,30歳台の後半になった今,(ザハロワと)ヴィシニョーワという,見る度に成長し,国際的キャリアを築けそうなパートナーを得たことを,心から喜びたいと思います。
うん,もしかしたら,この若いパートナーとともに,新しい世界を見せてくれるかも♪♪
ヴィシニョーワにはそう思わせてくれる魅力があります。ロシアバレエの優雅さはそのままに,内面から迸るものを感じさせる・・・これって,なんとなく,若い頃のルジマトフに似ているではありませんか!!!

とヴィシニョーワを絶賛しながらも,このグラン・パ・ド・ドゥの間も,ルジマトフばかり見ていました(笑)。
だって,とってもステキなんだもん。
カヴァリエたちにマーシャを任せているときも常に意識は彼女のほうに向いていて,しかもその姿にはどことなく翳があるから,切ない恋の雰囲気が舞台に漂っていて,別れの近さを予感しているかのように見えます。そして,ポーズや歩き方や立ち方や・・・すべてが美しい♪♪♪
うっとりしながら,この王子がこれからは見られないかもしれないと思い,(また『くるみ』かぁ,と文句を言ったことなどすっかり忘れて)淋しい気持ちになりました・・・。

 

ええと,その他の出演者については,特段これといって・・・(すみません)。
そうそう,パ・ド・トロワにはコルサコフが出演。(この役は,ブロンズアイドルほど体力を必要としないのでしょうか)最後まできちんときれいに踊っていました。今回の地方公演で『くるみ』の王子を踊ったそうですし,次の来日が楽しみです〜。

カーテンコールは,たいへん盛大でした。大阪のお客さまは,東京に比べて盛り上がるとは思いますが,う〜む,『くるみ』でスタンディング・オベーションとは・・・(笑)。やはり,この日のヴィシニョーワのインパクトに,多くの観客が感銘を受けたのだろうと思います。
日本公演の最後を飾るにふさわしい,いい舞台でした。

(02.6.21)

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