バヤデルカ (キーロフ・バレエ)

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音楽: レオン・ミンクス

台本: マリウス・プティパ, セルゲイ・フデコフ

振付: マリウス・プティパ  改訂振付: ウラジーミル・ポノマリョフ
振付増補: ワフタング・チャプキアーニ, コンスタンチン・セルゲーエフ, ニコライ・ズプコフスキー

装置: アドルフ・クヴァップ(第1場), コンスタンチン・イワーノフ(第2場), ピョートル・ラムピン(第3場,第5場), オレスト・アレグリ(第4場)
衣装: エフゲニー・ポノマリョフ

指揮: ボリス・グルージン  管弦楽: キーロフ歌劇場管弦楽団

  11月18日
(神奈川県民ホール)
12月3日
(東京文化会館)
12月4日
(東京文化会館)
ニキヤ
(寺院の舞姫)
ディアナ・ヴィシニョーワ ウリヤーナ・ロパートキナ  スヴェトラーナ・ザハーロワ
ソロル
(戦士)
ファルフ・ルジマートフ イーゴリ・ゼレンスキー ファルフ・ルジマートフ
ガムザッティ
(藩主の娘)
エルヴィラ・タラーソワ イリーナ・ジェロンキナ
ドゥグマンタ(藩主) ピョートル・スタシューナス
大僧正 ウラジーミル・ポノマリョフ
トロラグワ
(戦士)
アンドレイ・ヤコブレフ
奴隷 イリヤ・クズネツォーフ  
マグダヴェヤ
(托鉢僧)
ニコライ・ズプコフスキー イーゴリ・ペトロフ
アイヤ
(ガムザッティの召使)
アレクサンドル・グロンスカヤ 
金の仏像 アントン・コールサコフ
ジャンペの踊り ヤナ・セーリナ,クセーニャ・オストレイコフスカヤ
舞姫たち
(バヤデルカ)
ヤナ・セーリナ,スヴェトラーナ・イワノーワ,エレーナ・クミル,ユーリヤ・カセンコーワ
グラン・パ・クラシック ナターリヤ・ソログープ,ヴェロニカ・パールト,ダリア・パヴレンコ,クセーニャ・オストレイコフスカヤ,セルゲイ・サリコフ,ニコライ・ゴドゥノフ ナターリヤ・ソログープ,ヴェロニカ・パールト,ダリア・パヴレンコ,アレクサンドラ・イオシフィディ,セルゲイ・サリコフ,ニコライ・ゴドゥノフ
インドの踊り ガリーナ・ラフマーノワ,イスロム・バイムラードフ ガリーナ・ラフマーノワ,ニコライ・スプコフスキー
太鼓の踊り ワシーリー・シチェルバコーフ
精霊たち ユーリヤ・カセンコーワ,イリーナ・ジェロンキナ,ナターリヤ・ソログープ ユーリヤ・カセンコーワ,ナターリヤ・ソログープ,マヤ・ドゥムチェンコ

 

00年11月18日(土)

神奈川県民ホール

 

キーロフ日本公演初日。
『バヤデルカ』全幕を見るのは,96年夏の怒涛のキーロフ公演以来だから4年ぶりだし,ルジマトフのソロル全幕も同じく4年ぶり。
当初予定のキャストでは,初日はアスィルムラトワ/ルジマトフだったのですが,「アスィルムラトワというのは,どうも怪しい・・・」とはキーロフ通なら誰でも思うところ。(笑)  案の定,全体のキャストが二転三転する中で,この日は,ヴィシニョーワのニキヤデビューの舞台となりました。

 

ヴィシニョーワは,登場シーンが非常に印象的でした。しずしずと歩み出て音楽の高まりとともにベールが上げられるという演出そのものが効果的なわけですが,ベールの下から現れた彼女の美しさといったら・・・。
妖艶にして高貴,黒い髪と濃い目の顔立ちがエキゾチックな美しさ。これぞインドの神殿の奥深くに隠れている美女だわぁ。

全体としては,神に仕える聖なる舞姫というよりは,一途な恋に賭ける踊り子の趣が強く,特にガムザッティとの対決の場が印象的。タラソワ(4年前に続いて好演♪)が,ご大家の大事にされたお嬢さま然としており,しかも落ち着いた柔らかい女性らしさも見せているだけに,幼くて無謀な恋が際立ちます。
そして,「藩主さまのお嬢さま」に畏れ入る風がないほどの烈しさに,これではガムザッティが怒りに燃えて暗殺を図るのは無理もないよなー,と思わせてくれました。

奴隷のパ・ド・ドゥは妖艶さが勝って宗教的な有り難味はなかったですが,柔らかい身体が印象的ですし,何より上手ですよねー。婚約式での踊りは・・・すみません,ソロルに気をとられて全然見ていません・・・。(汗)

影の王国は・・・残念ながらよくなかったですねえ。彼女はいきいきとした生命力溢れるバレリーナで,白いバレエ向きではないと思いますが,それが無理をしてたおやかな女らしさを出そうとしている感じ,と言えばいいのかな。(初役の準備不足もあったのかもしれませんね)
いっそその個性を生かして,2幕までの続きで勁さと烈しさの精霊を見せてくれたらよかったのかも,と思ったりはするものの,そうなったらそうなったで,「キーロフのニキヤではない」と文句を言いたくなるでしょうし・・・ううむ・・・難しいものです。
一言で言えば,「現段階ではミスキャスト」ということになってしまいますが・・・。

 

ルジマトフは・・・こちらは一言で言えば「精彩がなかった」ということになるでしょうか。
おそらく体調が悪かったのでしょう(4日後の『白鳥の湖』は休演),ソロは簡単な動きに変えていたように思いますし,それ以上に,予定外の初役のパートナーを立派なニキヤに仕立て上げることに精力を使ってしまったのかもしれませんねー。

もちろん平凡な一流ダンサーよりは美しいですし,少しやせたのかしら,険しい表情が戦士らしくてすてきなのですが,演技が少々中途半端で・・・。
例えばガムザッティとの結婚を命じられてトロラグワに相談(?)するところの芝居。この第一の部下を頼りにしているのか,それとも相談などしない孤高の武人なのかがわからない。
そして引き合わされたガムザッティへの反応からも,気持ちが伝わってこない・・・。彼女の美しさに惹かれてしまったのか,それとも主君の命に逆らえないので表面的に愛想よくしているだけなのか?
ファルフ,お願い,どっちでもいいからはっきりしてよー。(泣)

・・・と思ったのですが・・・この「はっきりしない」というのが,ルジマトフのソロルの真骨頂なのかもしれません。

婚約式でのガムザッティとのグラン・パは,二人で並ぶとき,離れているときの動きの揃い方が非常に見事ですし(ルジマトフのパ・ド・ドゥは,これがすばらしい♪),婚約式の晴れやかさがあるのですが,彼の表情は全然幸せそうではない。ニキヤが登場すると,暗い表情で腕組みをして,彼女を見ようとはしない。
これについては,幸せそうだったり,平気でニキヤを見ていたりしたら「裏切り者! 何というヒドイ男だ」になるわけなので,ここまではよろしい。(笑)

しかし,ニキヤの踊りの途中で,救いを求めるかのように2度ほどガムザッティの方に両手を差し伸べたのは,いったいなんなんですかねー? 彼女は,その手を優しく包み込むのですが,まもなく二人の手は離れ,ソロルは自分の苦しみの中に戻ってしまいます。いや,苦悩しているのはわかるし,その暗い表情もとてもすてきなのではありますが,あまりニキヤを思っているようには見えない・・・ううむ・・・???

そして,花篭に隠された蛇によってニキヤが倒れ伏すと・・・駆け寄りたそうなのに,そうはしない・・・それが,藩主やガムザッティに止められたからではないので,決断力がないように見えて,とてもイヤ。
そして,大僧正に渡された解毒剤を手にすがるようにニキヤが近づくのに,情けなくも顔をそらす・・・その直後,彼女が息を引き取ると,にわかに駆け寄り抱きしめる。それも相当長く嘆いてとりすがる・・・。

今さらなんなのよ。遅すぎるんだよ!!!(怒)

・・・嘆きぶりが真に迫っていて美しいだけに,非常に腹が立ちました。

それで・・・ここに至って思い出したのですが,4年前に見たときも,こういう感じのソロルだったんですよねえ。
あの時も「結局どっちなのよ。なんでこう優柔不断なのよっ」と怒りに燃えたのよ,私・・・。
ゼレンスキーとのダブルキャストで,ゼレンスキーのほうはひたむきにニキヤを愛するけれど周囲に引き裂かれるソロルで,感動的で・・・ルジマトフは煮え切らない男だったので,この作品がなぜルジマトフの代表作と言われているのか,不審にさえ思ったのだったわ・・・。

ううむ,困った。私はルジマトフのソロルは嫌いらしい・・・。どうしたものか。とほほ。(深刻)

3幕の冒頭,部屋に入ってきて苦悩するソロルは,たいへん美しかったです。そして,この踊りを見て,美しすぎてけしからんと思ってしまう私・・・。(困惑)
影の王国での悔恨に満ちた踊りはそれなりに美しかったですが,やはり彼にしては動きにキレがなく,「見せ方」も普通で,体調が悪いのに無理して踊っているように見えて,正直言って切なかったです。

幕切れ近く,ソロルは両手を合わせてわびる動きを見せました。これで,一応ハッピーエンドを迎えるわけですが,なぜこの優柔不断な男がいわば報われるのか,どうも音楽的・演出的に少々無理があるような・・・。ううむ,このシーンで作品が終わるのはやはりヘンなのではなかろうか・・・。
というわけで,結局,私の気持ちは晴れないままに終わりました。

カーテンコールでのルジマトフは険しい表情のままでしたから,本人としても不本意な舞台だったのかもしれません。

 

大僧正は4年前と同じポノマリョフが登場。もう少し身体に厚みのある人のほうがいいかも,とは思いましたが,最初のニキヤとソロルの密会を覗き見するところが非常に怖くて見事。カーテンを開けて,閉めて,また開けて・・・いやいや,根暗で,変質狂的で,とても怖かったですー。

2幕では,太鼓の踊りは楽しめましたが,ブロンズアイドルには不満が残リます。
コルサコフは98年卒業で次代のスター候補らしいのですが,体力が足りないのでしょうか,最初は「おおっ♪」,終わるころはよれよれ。(ごめんねー)

影の王国のコール・ド・バレエは,きれいではあったのですが,少々バタバタしているように見えて,たいして感心はできませんでしたし,3人のソリストも,さすがはキーロフのバレリーナではありますが,4年前に見たヴィシニョーワ,ドゥムチェンコ,アモソワほどの強い印象は受けませんでした。

それから,多数出演したエキストラには困惑。
バレエの舞台に乗るにふさわしくない体型や動きの日本人がたくさん・・・この作品が大人数を必要とするのはわかりますが・・・でも練習も足りないようで,失礼ながらモタモタ。あんまりじゃないかしら? 興ざめでした(怒)。

そうそう,どうでもいいことかもしれませんが,大僧正と藩主の密談中にソロルが後ろを走って横切るのは,なんなのでしょうか??? 4年前も不審に思ったのだけれど,わき目もふらずに走っていくルジマトフ・・・。ふーむ,ガムザッティから逃げ出したのか?(笑)

 

というわけで,なんだか盛り上がらないでしまったキーロフ初日だったのでした。とほほ。
もちろん久々のルジマトフの『バヤデルカ』でしたから嬉しかったですし,ヴィシニョーワの初ニキヤも見られましたから,それなりに楽しみましたけれど。うん,彼女が将来ニキヤ役でも定評を得たときには,これもいい思い出になりますものね。そう期待したいです。

(02.3.30)

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バヤデルカ (キーロフ・バレエ)

00年12月3日(日)

東京文化会館

 

当日券で見たのですが,売り場が長蛇の列で驚きました。『白鳥の湖』でのロパートキナが絶賛の嵐だったので,急遽見にいくことにした方が多かったのでしょうか?
4階席にしたのですが,上から見下ろすと,満席ではなかったものの,まとまって空いている場所がない感じ。日曜日ということもあったのかもしれませんが,「バランシン・ガラ」のときとは全然違っていて,さほどポピュラーでないこの演目でこの入りはすばらしい♪ 幕間のロビーも熱気があって,ロパートキナの人気に感心しました。

ロパートキナのニキヤは4年前に続いて2度目。前回は暑い中で11日間に11公演を見て(しかも,合間に仕事もして)見る側が疲労困憊していたせいか,あまり強い印象は残っていません。ルジマトフとの共演で,身長の釣り合いがよくなかったせいもあったのかも。

ゼレンスキーのソロルも同じく2度目。こちらは,前回はとても感動的なソロルでした・・・ということは↑でも少し書きましたね。
彼は,ルジマトフと役が重なっている分,私に関しては「分が悪い」ダンサーで・・・。
何しろ出会いが不幸だったのよねえ・・・。91年のキーロフ来日公演『海賊』でルジマトフへの恋に落ちた私は,どうしてももう一度見たくて大阪まで行って・・・そして舞台に登場したのは《体育会系新人》ゼレンスキーくんだったのでした。(今思い出しても,とほほ)
その後も何回も見ていますが,たいていその前後に同じ演目でルジマトフを見ることになるので,たいして印象に残らないでしまうという,誠に損な役回りの方。それが『バヤデルカ』だけは,同じ日のソワレでルジマトフを見てなお「とってもよかったわ〜」と思えたという稀な体験(笑)でしたので,この日も非常に楽しみにしながら見にいきました。(←と言いながらも当日券の4階席)

 

ゼレンスキーのソロルは,さわやかに登場しました。そして,1人になるなり,いきなり神殿の階段を勢いよく駆け上り,そして,入口で思いとどまる! それは終始抑制がきいている大人の恋のルジマトフとも違うし,誠実だけれど不器用な戦士の恋の小嶋直也とも,天真爛漫な初恋の喜びのカルロス・アコスタとも違う「好きで好きでたまらないけれど,許されない恋」。
この最初の場面だけで,「そうそう,ソロルはこうでなくっちゃ♪」と思わせてくれました。

 

一方,ロパートキナのニキヤの登場シーン。
ベールをとった瞬間の,美しいといったらいいのか神秘的といったらいいのか,満場を引き込む存在感がすばらしかったです〜。
ヴィシニョーワがエキゾチックな美しさで惹きつけるのに対して,こちらは「神がかりの巫女」の宗教的な雰囲気があって,うん,これこそがキーロフのニキヤなのだろうなあ,と思いました。

ただ,その・・・宗教的すぎるというか,威厳がありすぎるというか・・・大僧正を拒むときの態度が毅然を通り越して,「偉そう」すぎて少々疑問。「私のようなバヤデルカを」という水がめを持つマイムが「わらわは神に仕える高貴な身なるぞ」に見えてしまって・・・ここの神殿では,大僧正より舞姫が偉いのだろーか?(笑)

この印象は終始つきまとっていて,奴隷のパ・ド・ドゥなどは宗教的で有難い感じがあって非常にいいのですが,ガムザッティとの一場は,高貴で堂々としすぎていて,哀れさが足りないような・・・。箱入り娘の一途さのタラソワ(♪)のほうに感情移入してしまいました。「プリマの輝き」と誉めるほうが妥当なのかもしれないですが・・・。

 

さて,これに先立つシーンでは,ジャンペの踊りについて,新しい発見がありました。
この踊りは,ガムザッティが登場する前,男だけの場で踊られるわけですが,ほほー,軍人たちがこの踊りを実に好色そうな感じで見ているのですねえ。なるほど,ソロルの出自はこういうところであって,恋を,それも舞姫との恋を貫くのは困難だったろうなあ,と大いに納得しました。
こういう社会の雰囲気があるからこそ,結婚を命じられて困惑し,相談を持ちかけたソロルに対して,トロラグワが冷たく肩をすくめたのでしょう。なぜ,そんなことを言うのか,願ってもない良縁じゃないか,いったい何を悩むことがある,と言うように。
この辺りのゼレンスキーの演技,ガムザッティの手をとるところが全然嬉しそうでないところなどは,非常に説得力があって,「いいねえ♪」。

ところで,大僧正と藩主の密談中,やはりソロルが背後を横切っていきました。ゼレンスキーは,走りながら,2人のほうをちらっと見る演技をしたのですが・・・ルジマトフの一目散よりはいいように思いますが,これでは,2人の話の大筋を知っていたように見えなくもない・・・??(いや,どうでもいいシーンだとは思うのですが,どうにも気になって・・・)

 

2幕でも,ゼレンスキーの表現はとてもよかったです〜。
彼は,踊りは王子なのに笑顔が硬いので「?」と思うこともあるのですが,ガムザッティとのグラン・パではこの個性も効果的だったのでしょう,婚約式らしく一応にこやかにふるまってはいるものの,全然嬉しそうには見えない。想いは他の人にあるんだなー,ということが見ていてよくわかりました。

踊り終えた後も,ソロルは上の空の様子。そしてニキヤが登場してからの落ち着きのなさといったら・・・いや,すばらしかったです〜。
ニキヤを見るなり立ち上がろうとして,ガムザッティに目で制せられしまいますし,その後は下を向くのが基調なのですが,がまんできなくて,許しを求めるかのようにニキヤを見たりして・・・。たぶん,定石どおりガムザッティの手に口づけするくらいの演技はやったと思うのですが,全然そういうシーンは印象に残らない。そして,花篭が持ち出されると立ち上がって,トロラグワに助けを求めたりして,いても立ってもいられない様子。
そして,その全身から,この人は,ニキヤしか目に入っていない,主君への忠誠心と当時の社会の常識に妨げられてはいるが,ひたすら恋人を思っている,ということが伝わってきます。(うーん,書きながら困っているのですが,この半月に見た他の3人のソロルとそんなに違うことをやっているわけではないんですよねえ。でも,でも,違ったのよ,絶対!)

そして,このソロルの純愛の真価が現れたのは,ニキヤの死のシーン。
大僧正から与えられた毒薬を手にニキヤがソロルを見た瞬間,彼ははっきりとニキヤを選び,両手を彼女に差し伸べます。(ニキヤの輝くような笑顔!)2人が互いに駆け寄り,抱き合おうとした瞬間,力尽きたニキヤは彼の腕の中に倒れ込んで死を迎える・・・。彼女が解毒剤を飲まなかったのは,ソロルに拒絶されたショックで薬を取り落としたのでもなく,絶望して薬を自ら投げ捨てたのでもなく,ただ,愛する人のもとに飛び込もうとしたから・・・。

死んでいく瞬間,ニキヤは幸福だったに違いありません。

これはもちろんゼレンスキーだけの功績ではなく,ロパートキナと2人で作り出した物語だとは思いますが,でも,「そうなのよ,私はこういうソロルが見たかったのよ〜♪♪」。

とても感動的な幕切れでした。すばらしかったです。

 

ただ・・・この解釈の結果,3幕は盛り上がりに欠けたものになってしまったような気もします。
いわば愛を貫いたソロルにとって,ニキヤの死は悲嘆に暮れるべきものではありますが,自分を責め苛むほどのものではないようで,影の王国は,遠い追憶の場面のように見えました。
あるいはこれは,ロパートキナが哀しみや愛よりは美しさが勝り,ゼレンスキーもやはり悔恨や愛よりも美しさが勝る,そういう踊り方をするダンサーだということなのかもしれません。動きもポーズも見事なので,文句を言うのは不当かもしれませんが,でも・・・ただの美しいバレエ・ブランになってしまったような気がするなあ・・・。(いや,この場面は,それが正しいのか??)

 

ガムザッティのタラソワを初め,その他のダンサーも,全体としてこの日のほうが横浜公演よりできがよいように思われました。
特に,「影の王国」でのソリストの1人,ソログプが小柄でしたが伸びやかな踊りで印象的。
コルサコフには,やはり体力増強をお願いしたいなーと思いましたし,「コジマに学べ,クマカワを見習え」と言いたくもなりましたが・・・。

それから,影の王国のコール・ドについては,なぜバタバタして見えるのかが腑に落ちました。
坂を下りてくるときに,アラベスクとアラベスクの間で,なぜか小走りになっていて,ううむ・・目を疑いたい気分でした。(怒)  音楽のテンポのせいだったのか,そういう演出振付だったのか・・・???

 

全体としては・・・物語として見たときは,ソロルという人はもっと許せない男のほうがドラマチックになるのか? でも,この半月に見た4人のソロルの中で,一番人間としてマトモなのは,どう考えてもこの日のソロルだよなー?? と非常に悩ましくはあったし,会場で会った友人たちが口をそろえて誉めるほどにはロパートキナに熱を上げられなかったけれど,2幕の幕切れで感動できたからよかったわ〜,横浜のときより皆できがよかったわ〜,さすがはキーロフよね〜,と思える舞台でした♪

(02.5.16)

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バヤデルカ(キーロフ・バレエ)

00年12月4日(月)

東京文化会館

 

感動しました。とても,とても感動しました。
ルジマトフは,今回,初日の『バヤデルカ』が不調,『白鳥』はキャンセル,「ガラ」の『海賊』パ・ド・ドゥも見た方によると大不調だったとのこと。さらに,バレエ団全体としても「最も印象に残るのはコール・ドの足音」状態の舞台が続き,かなり困惑していたのですが,この日はほんとうにいい舞台でした。

 

ルジマトフは,作品の冒頭で登場したときから,いつも以上に,一つひとつの動きやポーズが鮮明なように見えました。そもそも動きのそれぞれがドラマチックなダンサーですが,この日は格別。
舞台に駆け入ってきて片手を上げて部下に何かを命ずる姿は威令が増し,1人になって神殿への階段の下でそっとニキヤへ愛を送る姿からは彼女への想いが際立ち,そして,手を打ってマクダヴェヤを呼ぶ音さえ,なぜか横浜公演のときよりよく響いたような気がします。
(お,ファルフ,今日は気合入ってる♪・・・と書いては,他の日はやる気がなかったかのように読めるかもしれませんねえ。・・・もちろん決してそんなことはないのですが・・・でも,やっぱりこの日は違ったと思う。)

ザハロワのニキヤは深窓のお姫様の趣で登場しました。巫女のような神秘性は感じられませんでしたが,穢れのない存在には見えました。宮殿の奥深くで育てられ,汚いことをいっさい知らない王女のようと言ったらいいのかしら。
ソロルとの逢引のシーンでは恋する女性らしい情感もあり,よかったです。
このシーンのルジマトフは,とても抑制がきいていて,でも動きの端々からニキヤへの想いが溢れ出る・・・美しかったです,とても。(うん,やっぱり今日は好調だわ〜♪)

この日のガムザッティはジェロンキナでした。彼女は何を踊ってもきちんと見せてくれる,手堅いバレリーナだと思うのですが・・・ガムザッティはちょっと荷が重いのかなあ。表現も踊りも今一つ魅力がなかったですし,あの・・・すみません,ちょっとオールドミス風のお嬢様に見えてしまいました。性格がキツそうな感じはよかったとは思うのですが,高貴さが不足していたような・・・。

さて,このお嬢様を紹介されたソロルですが・・・ううむ・・・やっぱり優柔不断でした(笑)。
結婚を命じられると困惑した様子ですし,断ろうと一応は努力したようですが,ガムザッティの手をとらされると,完璧なマナーで応じてしまう。(ま,そういう振付ですからね。しかたないとは思うんだけど,もう少しイヤそうにしてくれればいいのに,とは思ってしまう。だって,あまりに美しいエスコートぶりなんだもの。)
ニキヤと奴隷の踊りの間は,憮然として腕組みをして立っているのですが,ガムザッティが彼の方を向くと,律儀に1歩進み出て対応しているし・・・。(動きが好調だからといって,役づくりまで変わるものではないらしい・・・笑)。

さて,先日来気にしている,藩主と大僧正との密談中のソロルの舞台横切りですが,あらま,この日はありませんでした。そうだよね,あの行動に意味があるとは思えないもの,やめたということはルジマトフもあの場面には納得いかないものを感じているのだろうか・・・などと考えるうちに,舞台はニキヤとガムザッティの対決シーンに・・・。

ううむ・・・ここはあまりよくなかったです。
ザハロワは,ちょっと若いというか勢いありすぎではないでしょうかねえ。ヴィシニョーワは彼女以上に激しかったけれど,「烈しいニキヤ」というふうに見えたから,それはそれなりによかったのですが,彼女の場合,ここまでの雰囲気はお姫様だったから,少々違和感が・・・。
しかも,彼女のほうがジェロンキナよりプリマらしい風格があるので,なんだかニキヤのほうがわがままなお嬢様に見えてしまって・・・ううむ・・・。

でも,これは,ダンサーの責任というより,キーロフのキャスティングの問題なのかもしれません。
キーロフは,ガムザッティ役を軽視しすぎなのではないでしょうか。タラソワもジェロンキナも立派なソリストで,私は好きですが,どちらかといえば小柄ですし,圧倒的なプリマの華は持っていないですものねえ。ニキヤと同じくらいのスターを出すか,あるいは,もっと大柄でエラソーな雰囲気のバレリーナを起用すべきなのでは?

 

2幕のルジマトフは,さらに見事でした。踊りと演技が渾然一体となって,それはもう見事な,悩めるソロル。
そして,ザハロワもとてもよかったです。

その前に,太鼓の踊りについて,ちょっとだけ。
ズプコフスキー(太鼓を持たない男性ソリスト=インドの踊り)が,キーロフにあるまじき(?)動きの乱れを気にしない迫力で,たいへんすばらしかったです。

さて,ルジマトフですが,まず,象の上での表情が美しい。なんと形容したらいいのかしら・・・孤独の翳があって,でも,あの高い場所がこの方ほど似合う人はいないという気高さもあって・・・そこから藩主とガムザッティに向けてあいさつを送るときの厳しい表情といったら・・・。

そして,グラン・パ!!
ジェロンキナをサポートしているときは完璧なマナーのパートナーなのですが,サポートしなくていい間は,後ろのほうで,暗い表情で腕を組んで立っている・・・。アダージオの途中,上手の前のほうでふっとニキヤを思うときの表情には,ぞくぞくしました。水がめを持つ「バヤデルカ」を象徴するポーズを見せながら,その瞳は遠くを見つめる・・・。
ヴァリアシオンもよかったです。やはり調子が戻ったのでしょう,身体のキレが横浜のときとは違って,実に美しかったです。

ニキヤが登場してからは,横浜より,優柔不断の度が増していました(笑)。「この場にいたたまれない」度が増していたと言うほうがいいのかな。
終始暗い顔をして下を向いていて,ガムザッティを一顧だにしない。ガムザッティが心配げに彼を見つめ,手を差し出すと,その手を握るし,つと口付けたりもするけれど,でも,心ここにあらず。
では,ニキヤを思っているのかといえば,そうは見えない。踊る彼女を一度も見ないで,ただひたすら苦しんでいる。
それは,ニキヤを思って苦しんでいるとも言えるかもしれないけれど・・・たぶんそうではなくて・・・自分がどうしたらいいかわからなくて,「出口なし」の状況にいる・・・そういう姿に見えました。
ニキヤが花篭を受け取ったときには,もう耐え切れず立ち上がってしまうのですが,ガムザッティに促されると再び座に戻ります。ニキヤを見ることはできないままに。

・・・この日は,見ていて腹は立たなかったです(笑)。困った男だなー,とはやはり思いましたが,あの迫真の苦悩ぶりを見ていれば,怒るわけにはいかない。

ニキヤが蛇に噛まれた瞬間,ソロルは立ち上がり,彼女に駆け寄ろうとしました。間近で,彼をじっと見つめて,それを妨げるガムザッティ。それでも,彼はついに動き出すのですが,藩主に制止されてしまいます。(ジェロンキナもスタシューナスも間の取り方がうまく,たいへんな緊迫感!)
大僧正から渡された薬を手に,ニキヤがソロルを見たとき・・・彼は,顔をそらして,下を向いてしまいます。(タイミング,実に見事!)

そして,そして,その後のザハロワがすばらしかったです。彼女のニキヤは,それでもなお,彼の愛を信じて,自分の愛に殉じて,彼に両腕を差し伸べる・・・。
これは,すごい! と思いました。こういうニキヤは初めて見たと思います。

ずっと裏切られ,最後の瞬間にも裏切られてなお,この不実な恋人を信じる・・・。

こういうニキヤに対して,ソロルが優柔不断を続けられるわけはありません。ついに彼は,ぱっと顔を上げて正面から彼女を見,決然と自分も手を伸ばし,駆け寄ります。
が,まさに彼が彼女をその腕に抱きしめようとした瞬間,彼女は力尽きてしまいます・・・。

感動しました。
ザハロワはすばらしいです〜〜♪♪
この日の彼女については,↑でわかるとおり,また↓でも言っているとおり,必ずしも絶賛モードではないのですが(また,ルジマトフに集中しているため,花篭の踊りなどはほとんど見ていなかったのですが),極端な話,この2幕の最後だけで名演の名に値する,そう思いました。

で,その一方,幕切れのルジマトフには文句が・・・(笑)。
あのねー,ファルフ,なぜ,彼女を抱きとめたあと,両手を上げて天を仰いだりするの??? そのまま抱きしめていてあげてほしいのにー。あなたをあんなに愛してくれたニキヤから,一瞬でも手を離しちゃだめじゃないの!!!

・・・というわけで,私は結局また,彼のソロルに怒ってしまいました。(あ,もちろん,そのあと,彼女を抱きしめたんですけれどね。)
どうも,彼のソロルは,この場面の嘆きぶりが激しすぎて,私に拒絶反応を起こさせるようです。一言で言うと,「今さら嘆いてみせたって,どうなるものでもなかろうに!」
・・・やっぱり,私はルジマトフのソロルは嫌い・・・。

 

「影の王国」でのニキヤとソロルは,それはもう美しかったです。
まさに幻影の中,神秘的な世界で踊る2人でした。そして,愛がありました。

チュチュで踊るザハロワの身体は,実に美しいです。長い手脚が信じられないくらいしなり,しかも若い乙女らしい品がある。1幕のバヤデルカの衣装では,細すぎて,正直言ってちょっと異様な感じを受けたのですが(ごめんなさいね),この幕の装飾のない白い衣装で踊る姿はほんとうに美しく,まさに精霊でした。
もうちょっとていねいに踊ってほしいなー,と思うところもありましたし,特にベールの扱いにはかなり不満もありますが,でも,咎めないことにします。これだけ清らかで愛のある雰囲気を見せてくれれば。そして,ルジマトフにこれだけの踊りを踊らせてくれれば。

ルジマトフは,ほんとうに美しかったです。
特に印象に残るのは,最初のアダージオの最後,下手に消えたニキヤを追うところ。
踵を上げたアラベスクの長いこと,微動だにしなかったこと・・・。まだザハロワが舞台中央にいるところから始めて,去っても,まだ続けていて・・・。そして,そのポーズからは,ニキヤに対する想いが溢れていて・・・。
それから,もちろん,短いソロ。
間のとり方がルジマトフならでは,と言えばいいのかしら,跳躍で膝を着いて着地して,そのままのポーズをしばらく見せたりして・・・。マネージュも見事で,最後は・・・見事に身体を反らして決めてくれました。

ああ,これがルジマトフ・・・。彼ならではの踊り・・・。
これは,かつての彼の踊り方。ケレンというか,あざといというか,かつて満場を熱狂の渦に巻き込んだ,あのころの踊り方。感情が迸り出る,バレエから外れそうで外れない,あのぎりぎりの踊り。
そういう踊りを,以前より洗練を加えた雰囲気で見せてもらえたのは,涙が出そうなほど嬉しかったです。どんなに完璧なダンスールノーブルになろうと,やはりルジマトフはルジマトフ。私が10年近く熱愛しているのは,ただ美しいだけではない,品格ある正統派であると同時にある意味では異端でもある,このダンサー・・・。

「影の王国」の最後・・・もちろん全編の最後でもあるわけですが・・・ソロルはニキヤに対し,跪いた姿勢で両腕を広げ,頭を垂れました。自分の胸を無防備にさらけ出すその姿勢・・・それは,自分の生殺与奪の決定権を相手に与える姿勢。許しを乞う姿であり,同時に変わらぬ愛を告げる姿でもあったのだろうと思います。そしてニキヤは,そのソロルを受け入れる・・・。

ニキヤは彼を受け入れました。この許せない男を。
この場面は,ソロルがアヘンで見た夢だということになっていますから,考えようによっては,ソロルにとって(男というものにとって)都合のいい幻想なのかもしれません。
でも・・・私はそうは思いたくない。愛の成就のシーンだと思いたい。
なぜなら,死に瀕していたニキヤが,それでも最後までソロルを信じていたから。そして,そのニキヤの愛によって,ソロルは自分を取り戻したと思うから。だからこそ,この日の「影の王国」のシーンは,あんなにも美しかったのだと思うから。

ええと・・・↑でルジマトフのソロルは嫌いだと書きましたが,やっぱり嫌いではあります。でも・・・ニキヤを見習って許すことにします(笑)。
ルジマトフに3幕であんなに美しく踊られたら,それは許さぜるを得ませんものね。それと・・・嫌いなソロルであればあるほど,それを信じたニキヤの愛はすばらしいなー,凡人の私にはとうていできないコトだよなー(当たり前だが),とも思うので・・・。

 

とても感動的な,美しい舞台でした。

横浜公演の感想で書いたように,「影の王国」で話の終わるこのポノマリョフ版は,美しい場面で終わるところは魅力的ですが,演出としては,中途半端で困ったものだと思います。
前日のロパートキナ/ゼレンスキーは,物語の本編を2幕までで終わりにし,「影の王国」を回想シーンのようなものにして,この問題の解決を図ったように見えましたし,ルジマトフは,3幕を悔恨と許しの場面(あるいは,改めての求愛とその応諾の場面)にすることで,全体を一つの物語に仕立てようとしているように思います。このルジマトフの構想(?)は,いわばかなりの力技で・・・横浜公演のように失敗に終わることもあるわけです。(ごめんねー)
でも,この日のザハロワとルジマトフは,全体をそのような一貫した物語として描き出すことに,見事に成功したのだと思います。ほんとうに,すばらしかったです。

カーテンコールのルジマトフは,この日の舞台に心から満足していたのでしょう,手放しで喜んでいるような,幸せそうな笑顔で・・・私もとても幸せな気持ちになりました。
よかったね,ファルフ♪ そして,ありがとう,ファルフ♪♪♪

(02.7.14)

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