くるみ割り人形(松山バレエ団)

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00年10月9日(祝)

岩手県民会館

 

台本・演出・振付 清水哲太郎

クララ:森下洋子  くるみ割り人形・王子:清水哲太郎

ドロッセルマイヤー判事:金田和洋  市会議員シュタールバウム:桜井博康  シュタールバウム夫人:吉田昭子 老シュタールバウム:箕輪初夫  老シュタールバウム夫人:大胡しづ子  フリッツ:久保阿紀

ハレルキン人形:鈴木正彦  コロンビーヌ人形:鎌田美香  カピタン人形:近藤徹志
七つの頭のネズミの大王:佐藤良寛
雪の女王:倉田浩子  雪の王:村山亮  雪の精(ソリスト):中村千絵, 山川晶子, 小菅紀子, 久保阿紀, 藤原夕子, 鎌田美香

スペイン(チョコレート):藤原夕子, 藤沢レナ, 鎌田美香, 鈴木正彦, 村山亮, 関根清
アラブ(コーヒー):吉田昭子, 近藤徹志
中国(お茶):中村千絵, 小菅紀子, 石井瑠威
トレパック(大麦糖):多家康江, 塩沢美香, 入沢みちる, 成田雄四郎, 近藤隆史, 橋本達也
ギゴーニュおばさん:佐藤良寛
あしぶえ(砂糖菓子):倉田浩子, 平元久美, 久保阿紀, 鈴木正彦, 石井瑠威, 村山亮
花のワルツ(デコレーション・クリームの精):山川晶子, 鄭一鳴  

 

恥ずかしながら,松山の『くるみ』を見るのは初めてでした。

さすが,森下さんは,すばらしい♪
どこがすばらしいかというと,優しい,感じやすい心を持ったクララ像の造形が,何よりも。

1幕で珍しい人形たちが次々登場するシーン。
ハレルキンが踊り終えて動かなくなると,クララは心配そうに覗き込みます。「大丈夫かしら」というふうに,おそるおそる・・・。ほかの子どもたちも大人も,次の人形に夢中になっているのに。

そして,ドロッセルマイヤーがくるみ割り人形を取り出すと(これがまた,見事に不細工な人形),それを見たとたん,クララは一目で惹きつけられます。まるで,ロミオに出会ったジュリエットのように・・・。

私,かねがね,クララ(マーシャ)がなぜ醜いくるみ割り人形を気に入るのか,非常に不審に思っていたのです。かなり不自然ですよねえ。
あまりにほかの子に人気がないので,かわいそうに思ったのかしら,クララってやさしいのね,と解釈してはいたものの,どうも釈然としない・・・。
それが,今回,森下さんのクララを見て,初めてわかりました。

あの人形は,「だれかぼくを助けてー。もとの姿に戻してー」と叫び続けていたのですね。でも,誰も,その必死の叫びに気付かない。感受性の強いクララだけが,その声にならない声を感じとって,(なぜかは自分でもわからないままに)その人形をいとおしく思って抱きしめる・・・。

そうだったのか!!! (知らなかったのは,私だけ?)
とても,とても感動しました。
バレエにはまって15年。『くるみ』みたいなおなじみの演目で,こんなに新しい発見があるなんて・・・。これだけで,見に行った甲斐があったというもの。

 

清水さんの演出は,よく練られたもので,とてもよかったと思います。
この『くるみ割り人形』は,ただの少女の夢のお話ではなく,クララとくるみ割り人形の,恋愛の物語。

くるみ割り人形とネズミの王様との戦いのシーンで,クララは単にスリッパを投げつけて側面支援をするのではなくて,ネズミを必死にくるみ割り人形から引き剥がそうとします。ほんとうに一途な少女で,そして,くるみ割り人形をこのときから愛しているんだなあ,と思わされました。
王子だから好きになるのではなくて,一目見た瞬間からなぜか惹かれる,そういう恋。内面の何かを感じれば,外見なんか問題ではない,という恋。

グラン・パ・ド・ドゥも,完全に愛のパ・ド・ドゥとして踊られます。
こういう見せ場での,森下さんのアクセントのつけ方(見得の切り方?)は,実は私はあまり好きではないのですが,プリマバレリーナらしくて,たいへん見事だと思います。かつてのような技術の冴えはありませんが,その貫禄と輝きは圧倒的。

続いての,このプロダクションならではの「別れのパ・ド・ドゥ」は,とてもステキなアダージオ。さすがこの二人で踊るために作られただけある,と思わせる,しっとりとした,別れの哀しさが心に染み入るような踊りでした。
「なぜ,あなたはそんな悲しそうな顔で私を見るの・・・?」「あなたは帰らなければ,もとの世界へ・・・。」
音楽は,「眠りの森の美女」の間奏曲。あの,バイオリンソロが活躍する美しい曲。

そして,クララは目を覚まします。
玄関前,パーティーの客たちが帰り,ドロッセルマイヤーも帰路につこうとするところに,目覚めたクララが駆け出してきます。
「おじさま,私,夢を見ていたの?」
そのクララの肩に,ドロッセルマイヤーが白いショールをかけます。それは,雪の王国の場で,クララがもらったショール・・・。
「え? これは,あの,雪の王国で私がもらったショール? じゃあ,あれは夢の中ではなくて,ほんとうのこと? そしてこの人形は・・・?」

・・・クララが王子を思うシーンで,幕になりました。そう,ただの楽しい夢を思い出すのではなくて,失った恋を追憶しながら。
その場面を見ながら,初めての恋は成就しないものなのよね,だからこそ美しい思い出になるのよね,などとセンチメンタルなことを考えてしまいました。

 

とてもいい舞台でした。
清水さんは,あの年齢で(←失礼ですみません)白いタイツが似合うのは驚異的だがソロは苦しいとか,女性はソリストもコール・ドもいいけれど,男性はなんとも人手不足だとか,例によって文句もあるのですが,そんなコトはどうでもいいわよね,という気分にしてもらえました。

最後にもう一度。
さすが,森下さんは,すばらしい♪

(01.12.15)

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