白鳥の湖 (新国立劇場バレエ)

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作曲: ピョートル・チャイコフスキー

台本: ウラジーミル・ベギチェフ  ワシリー・ゲリツェル

振付: マリウス・プティパ  レフ・イワーノフ
改訂振付: コンスタンチン・セルゲーエフ  監修: ナターリヤ・ドゥジンスカヤ

舞台美術・衣装: ヴェチェスラフ・オークネフ
照明: 梶孝三

指揮: ヴィクトル・フェドートフ  管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

 

オデット/オディール: 高橋有里

ジークフリート王子: 小嶋直也

ロートバルト: ゲンナーディ・イリイン

王妃: 鳥海清子

道化: 根岸正信

家庭教師: 石井四郎

王子の友人(パ・ド・トロワ): 高山優,遠藤睦子,左右木健一

ワルツ: 西川貴子,湯川麻美子,楠元郁子,鶴谷美穂,奥田慎也,山本隆之,冨川祐樹,佐藤禎徳

小さい4羽の白鳥: 斉藤希,高山優,難波美保,大和雅美

大きい4羽の白鳥: 大森結城,西川貴子,前田新奈,湯川麻美子

スペインの踊り: 西川貴子,湯川麻美子,山本隆之,冨川祐樹

ナポリの踊り: 西山裕子,法村圭緒

ハンガリーの踊り: 楠元郁子,市川透

マズルカ: 北原亜希,杉崎泉,堀岡美香,遠藤睦子,佐藤禎徳,左右木健一,奥田慎也,冨川直樹

2羽の白鳥: 大森結城,前田新奈

大きい4羽の白鳥: 鹿野沙絵子,楠元郁子,西川貴子,湯川麻美子

 

高橋さんは,この日がスコティッシュ・バレエから新国立に移籍しての最初の舞台で,いきなり主役でした。しかも,『白鳥』主演は初めてだということで,正直に言って「期待半分,不安半分」の感じ。「日本での初めての全幕主役だから,硬くなっているかもしれない。暖かく見守ってあげよう」などと思っていたのですが,いやー,たいへん失礼をいたしました(笑)。立派なプロフェッショナルだったのね〜。

オデットが登場した直後の身を震わすような動き。身体についた水滴を払い落とすかのような,あるいは白鳥が人間に戻るかのような,この動きの印象的なこと! うまいわ,この方!

それから,黒鳥のパ・ド・ドゥのアダージオで,ふとオデットを思ってあちらのほうを見ている王子に近づいて,自分に注目させようとするところ。
普通は,王子の肩をぽん,とたたくと思うのですが,彼女のオディールは,王子の肩に手を置いて,その手が段々と王子の腕のほうに下りていく・・・。おお,妖しくてセクシーで,誘惑者の面目活躍♪

テクニックやプロポーション,あるいは舞台での「華」という点で彼女以上の方は,日本のバレエ団にもたくさんいると思いますが,「自分ならではの表現」がある大人のバレリーナだという点で,彼女は出色だな〜,と感じました。

 

そして,小嶋さんもたいへんよかったのでした。

彼で『白鳥』を見るのは5回目だったのかな。
それまでは,なんというか・・・ジークフリートとしては誉めかねると言えばいいのでしょうか・・・。感情を表現しようとすればするほどジークフリートから遠ざかるし,王子らしく振る舞おうとすると,おとなしすぎるだけになってしまう・・・そんな印象でした。

いや,文句は言いますが,それを補って余りある美しい踊りに見惚れることができるから毎回見にいったわけで,見て後悔した舞台はないです。
でも,これだけ見事に踊れるなら他ももう少しなんとかならんものだろーか? と思うのが人情というもの。その一方で,これだけ回数を重ねれば,この方のジークフリートに過大な期待は抱かないようにしようと考えるのも,ファンの自衛本能なわけです。

そういう微妙な心境で待っているところに現れたのは,客観的には「なかなか風格あるダンスールノーブル」だったと思いますし,主観的には「うわっ,ジークフリートだわっ♪ きゃああ,これはジークフリートだわっ♪♪」と・・・(笑)。

例えば,オデットと初めて出会って,彼女を追い求めるのに,逃げられ続ける場面。
並のダンサーが踊ると,段取りの芝居になってしまって全然つまらないのですが,(そして,これまでの彼もそうだったのですが,)ここの動きの大きさとタイミングが実に見事で,ほんとうに,捕まえようとして,逃げられて,捕まえようとして・・・というふうに見えました。

そして,湖畔の場面の最後。
去っていくオデットと王子の手が一瞬固く結ばれ,そしてすぐ離れてしまうところ。彼のジークフリートから,こんなに別れの切なさが伝わってきたのは初めて・・・。

この場面での彼にうっとりさせてもらえるなんて・・・と喜んでいるところに,追い討ちをかけるように(?)2幕がまた・・・。

花嫁選びの憂鬱さがオディールの登場でぱっと明るくなり,段々と彼女に惹かれていくときの全身の表情と,下手に去った彼女を追っていくときの勢い,そして,グラン・パ・ド・ドゥの恋の喜びは・・・舞台を大きく使って美しく踊るということがそのまま王子の内面の表現になっていて,たいへん見事でした。
ヴァリアシオンの始まりは,彼にしては珍しくバランスを崩すところもあったのですが,それも前へ前へと常に進んでいくからで,若くて性急な恋の勢いに見えて決して悪くない。(←これがひいき目なのは認めますけどー)

真実の露見後の芝居やロットバルトを倒すシーンなど,「あ,もうちょっと・・・」と注文したいところもありましたが,全体として,踊りと演技が渾然一体となって,何かを求めて悩む王子→恋に落ちる王子→欺される王子→愛の力で勝利を得る王子,と教科書に載せたいような立派な表現。
(逆に言えば,教科書どおりでそれ以上ではないわけですが,そういう,余計なモノとは一切無縁の正統派であるところが,彼の最大の個性であり最大の魅力なのだと,私は思っているわけです。)

ええ,それはもう感激しました。

この日の舞台とそれまでの彼の『白鳥』と何が違ったのかは,よくわかりません。
でも,たぶん・・・それまでは踊りとお芝居が別々のモノだったのが,このときは結びついていて,踊ることがそのまま感情表現になっていたし,(言い方が変かもしれないけれど)舞台の上にいるときは,ただ立っているときも,歩いているときも,ずっと踊っていたんじゃないのかなー,と思います。
それから・・・愛がありました。(それまでなかったのかと聞かれると困るが・・・かなり少なかったような気が・・・ごめんねー。)

そして,なぜ違ったのかは,もちろん全然わからないのですが・・・たぶん,経験とか年齢とかご本人の努力とかいろいろあったのでしょうが,高橋さんの力もあったのではないのかな〜,パートナーが大人のオデット/オディールだったからではないのかな〜,と思いました。何となく,ですけれど。(高橋さん,ありがとう♪♪)

 

この日の道化は根岸さん。
いつもどおりのチャーミングさでした。パ・ド・ドロワの女性(遠藤さん)に決定的にふられた後,舞台袖で(ほんとのほんとにはしっこで)固まっていたのが,おかしいだけでなく,とってもかわいらしかったです。

白鳥たちは,最初は,なんだかバタバタしているなあ,と思いましたが,終幕では,集団としての感情が伝わって美しかったです。

そして,舞踏会のキャラクターダンス♪♪
スピード感があって,楽しそうで,とてもとてもよかったです。うーん,新国立のキャラクターダンスもここまで来たのか! という感慨が・・・。

 

このときの小嶋さんの出演はこの日だけ。
平日だからどうしようかな,『白鳥』は年1回くらいは見られるから今回は見送ってもいいかな,でも高橋さんのデビューでもあるし,やっぱり見ておこうかな,という思考過程を経て見にいくことにしたのですが,見逃さなくてよかったです〜。

(02.12.21)

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