(これは信濃愛蘭会報に投稿した記事です)

リカちゃんと遊ぶ

花咲村 熊虞蘭土

  長いこと、ひとつの看板で HP を出していて、メールフォームを載せていますと、メールが日に300は来ます。特殊な薬や時計などの宣伝、何かを大きくする機械なのか、薬なのか、そんなものの勧誘、出会い系、空メールなど迷惑メールが殆どです。中には付き合ってくれたら110万の謝礼をするという逆援メールも沢山届きます。「そんな中にリカちゃんが居たんです。」と申し上げれば、話は大いに盛り上がるんですが、申し訳ございません、私が遊んでいるリカちゃんは、ランランのリカちゃんなんです。

  今まで、リカちゃんと遊んでいて褒められたのは、世界ラン展日本大賞 ’98で、Angcst. Olympus ‘Honey’ (ハニー ; 私の可愛子ちゃん) がRed Ribbon 賞と CCM (Certificate of Culture Merit ; 栽培賞)、そして世界ラン展日本大賞 ’02で、Lyc. Shoalhaven ‘Miss Shonan’(湘南小町) が White Ribbon 賞、この2回だけでした。

  しかし、よそ様が名付けた個体で賞を戴いてもあまり意義が無いことを悟りました。 そりゃあ、栽培技術は認められたことにはなるんでしょうけど。 で、自分のネーミング (naming) で賞を戴くことに思い至りました。 例えば、‘Kmagland’ (クマグランド) とか、‘Alpinho’ (アルピーニョ ; ポルトガル語風に)とか、‘Sophia’ (ソフィア) とか、‘Primadonna’ (プリマドンナ) とか、‘Maria’ (マリア) などなど、自分の符丁でね。

  それには実生を育てて審査員が絶賛する花を咲かせなければなりません。2000年正月に、C. walkeriana forma semi-alba ‘Kmagland’ でSM/JOGAを戴きましたが、これは、‘Tokyo No. 1’ の self をたった1鉢だけ育成したものでした。 こんなことは極めて稀で宝くじに当るようなものです。 通常は良い子を生み出す良い親を把握していて、それらを親にした実生を育てるのが近道なんですが、同じ一腹の実生を2〜30株は育てないと、良い個体には巡り会えないみたいですね。

  リカちゃんには以前からべた惚れで、長いこと交際を続けてきましたが、非常に繊細で、我儘で、精一杯のホスピタリティで尽くしても、明るすぎたり、暑すぎたり、乾いたりすると、首を左右に振って、イヤイヤをするんです。 そして、次第に痩せ細ってしまう。 リカちゃんを喜ばせるのは非常に難しく、別れようかと半ば諦めかけていたところ、幸運にも、近くに、リカちゃんが笑顔を見せてくれそうな夏の栽培環境が見つかりました。 それに健康で、素直で、育て易いリカちゃんの赤ちゃんにも恵まれました。

  夏季はそこの適地で栽培。 陽射しも殆ど遮られ、湿度も高く、リカちゃんにはぴったりの夏越し環境だと思い込んでいました。 ところが、元気は良いんですが、晩秋、温室に取り込んでからバルブが太らないんです。 どうしたら良いのでしょう ?  山上げプラントの半分にも達しません。 日較差に関係があるのではないかと推測しています。 盛夏の最低温度のピークは19℃です。 軽井沢よりも 2℃ほど低いようです。 しかし、海抜1000mぐらいの山の明け方の最低気温は10℃前後まで下がるはずです。 この最低気温の差こそが、バルブの太さの差になるのではないでしょうか。 太った逞しいバルブには大きな花が沢山咲きます。 未発達の小さなバルブでは貧相な花が1〜2輪しか咲きません。 それにヨトウムシ (夜盗虫) には貪られるし。 理想的環境だと自他共に認めていたんですがね。

  晩秋から4月までは専用温室で栽培します。 しかし、悪しきことは重なるもので、ここにも問題があります。 南側直近に高い絶壁を建てられてしまいました。午前中は全然日が当りません。 反射板を検討しましたが、風のことを考えると踏ん切りがつかず、躊躇していました。 そんな時、植物育成灯を教えられました。 40Wの育成灯を3基設置し、タイマーで、午前中だけ点灯しています。 しかし、顕著な効果は感じられません。 Lycasteは殆どが交配種で、最近の大抵の交配種にはLyc. skinneriの血が流れています。 その自生地はグアテマラの鬱蒼としたジャングルです。 昼なお暗い原始林です。 ですから、あまり強い光は要らないだろうと考え、育成灯は天井近くに取り付け、その下にクレモナサンリッチを張っていました。 2年ほどして、そのクレモナサンリッチが煤けてきたので、不織布に張り替えました。 ついでに、育成灯も付け替えました。 今度は不織布の下で、棚上90pにして、プラントに近づけてみました。 肥料は、プロミックなどは意識的に控え、液肥を月1〜2回与えています。 冬でも施しています。 その結果、未だ山上げには及びませんが、バルブが少し太りました。 そして花も大きく丸くなりました。 更に又、花が咲く個体数も、一気に増えました。

  世界ラン展日本大賞 ’09 で、Lyc. Cherish ‘Kmagland’ Red Ribbon / JGP と Lyc. Cherish ‘Alpinho’ BM / JGP を戴きました。 Lyc. Cherishを最初に交配したのは五島さんで、[ Lyc, Shoalhaven × Lyc. Chita Melody] です。 私がフラスコ出しから育成したのは、[Lyc. Chita Melody ‘Star Fire’ 4N × Shoalhaven (‘Sophy’ 4N × ‘Hoi’ 4N)] で、2番煎じですが、全て4倍体の交配です。

  夏の栽培は SUGOI-neに生油粕を施したついでに、その他のプラントにも生油粕を与えたぐらいで、他は例年と手法は変えていません。 従いまして、成果の要因は温室での栽培にあると思うのですが、育成灯を植物に近づけたのが良かったのか、不織布が良かったのか、液肥が良かったのか、何が良かったのかは分かりません。 全ての相乗効果が出たのかもしれませんし。

  フラスコ出しは、いろいろやってみました。 CP (Community Pot)、SUGOI-ne植え、即単鉢上げ、カンテンを付けたまま砂植えなどなど。 今のフラスコ苗は依然とは違って、苗も大きく、根もよく張っています。 一番簡便で生長の良いのは、機械植えのためにレタスなどを播種する薄緑色のプラスチックのトレーに大きな苗を1本ずつミズゴケに包んで植える手法です。 1年でそのまま単鉢に植え込むことができます。 小さな苗はCPにします。 SUGOI-neは植え込みが簡単で助かりますし、夏場は生長が良好なのですが、私の場合、冬季は下の棚に置くためか、好結果が得られません。 最近、2〜3の会友から 「Lycasteのフラスコを買ったんだが・・・」 と話しかけられました。 フォーラムできたら、嬉しいですね !

3〜4月のLycasteの温室の一部