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Cattleya  eldorado

 

アマゾンの黄金の秘宝

 

原文・写真     A. A. Chadwick

 

翻訳   花咲村 熊虞蘭土

 

1800年代半ばは大輪系カトレヤ原種の発見に沸く華やかな時代だった。当初の原種は、ヨーロッパの園芸を愛する友達に植物を送るために南米に住んだり、一時的に滞在している私的個人とか公務員によって発見された。しかしながら、時が経つにつれ、大抵の原種は大規模な営利的ラン商会のために働く専門のプラント・ハンターによって発見された。

C. eldorado の色彩の濃い美しい個体

 

 新しいカトレヤ原種を導入し、最も繁栄したラン商会のひとつはベルギー王国のJean Jules Linden (ジャン・ジュール・ランデン) L’Horticulture  Internationale (ロルティキュルトゥル・アンティルナスィオナル) だった。Linden の最初の大成功はCattleya trianaei で、それはJosé Triana (ホセ・トゥリアナ)という名のコロンビア人が1854年に彼に送ったものだった。彼はその原種にTriana に因んで名前を付け 、Triana に感謝の意を表した。LindenC. trianaei 導入後間もなく、彼の山採り人Gustav Wallis (ギュスタヴ・ワリ)は、コロンビアからCattleya dowiana aurea (ドーウイアナ・アウレア)を、更にブラジルからCattleya eldorado (エルドラド)を初めて送り、これが端緒となった。

 商社が新しいCattleya 原種の荷を受け取った後、彼らの最大の問題は、それを買いそうな客にどのようにして知らせるかだった。そのランが公共競り市で売られれば、話は忽ち広まり、12週間もすれば殆どの趣味家が事の次第を知ることになる。人々が温室にやって来て、そのランについてラン園が説明する機会を待たなければならないとしたら、更に数週間、時には数ヶ月掛かるだろう。植物学者がThe Gardener’s Chronicle (ガーデナーズ・クロニクル)のような人気のある園芸新聞にその新種の記載をしてくれるのを、ラン園が待たなければならないとしたら、数年は掛かるだろう。Lindenは植物学者 H.G.Reichenbach (ハー・ゲー・ライヒェンバッハ)C. trianaei の植物学的記載を依頼し、承諾してもらうのに6年掛かり、あまつさえReichenbach はドイツ語の出版誌にその記載を載せたので Linden の顧客は誰も読めなかった。ラン園が運よく植物学的記載をThe Gardener’s Chronicle に掲載して貰ったとしても、そのランが新種として記載されるのか、単にそれ以前のC. labiata の新しい変種として記載されるのか、ラン園は不安だった。それによって利益に大きな差が生じるからだった。

 

  地味なものは別として、当時カトレヤには途方もない園芸的価値があったので、Cattleya 新種が発見された際、植物学者の煮え切らない品評は、ラン園にとっては悩みの種だった。自分の運転資金を守るために、こうしたラン園の社長は遂に植物学者を無視し、最新のカトレヤが新種かどうかを自分たちで決め始めた。彼らはそういったカトレヤに自分たちで名前を付け、それをヨーロッパ中に売り、植物学者がいけないのだと決めつけた。こんなわけで控えめに言っても1866年後に発見された大輪系Cattleya 原種の初期の記載には、簡単な概略だけの植物学的記載しかないものもある。勿論、園芸界がこれらの原種を完全に受け入れてしまってから、最後には、植物学者が、科学的にも園芸的にも理解できる園芸的流通名を用いて、適切な植物学的記載を出した。勿論、種名の再命名など、たとえそれが植物学的規定だとしても、誰にとってもありがた迷惑だったろう。

 新種として導入されて何の問題も無かったCattleya Cattleya eldorado だった。Gustuv Wallis は、1866年に、LindenC. eldorado700株余り送り、それらは、1867年のパリ国際博で、Linden の大展示の前のシーズンに届いた。このカトレヤはその年のうちによく知られ、開花も博覧会に間に合った。その夏 C. eldorado は園芸界で爆発的人気を博した。この新しいカトレヤの出展に当たり、Linden はそれらに名前を付けなければならなかった。それらをCattleya eldoradoと名付けた彼の英断は大当たりだった。その名前を知れば、そのカトレヤがCattleya 原種の全く新しい地域から届いたものだということが、彼の顧客には分かったが、商売敵にはどこでそれらを見つけたかについては何も教えなかった。洋々たるアマゾンとその数多くの支流はヨーロッパよりも広大な領域に及んでいたから。C. trianaei の導入以後見られなかった色彩領域の豊かな花々の百花繚乱は人々の目を奪い、C. eldorado の需要は博覧会の最中でさえかなり大きかった。

 

 

C. eldorado var. semi-alba

 

 

Linden は販売株を大量に持っていたので、この種で相当な利益を上げ、Cattleya 新種を意のままに普及させた。もっとも今でもなお植物学者たちは、時折、誰が最初にそれについて正しい植物学的記載をしたのかと、神経質に騒ぎ立ててはいるが。Cattleya eldorado1870年代に垂涎の的となり、その人気は20年以上も続いた。Lindenはこの原種で大儲けをしたので、しばしば壮麗な自書Lindenia (ランデニア)にそれを美しいカラー石版にして大きく取り上げ、彼の採集人も滞りなく販売株を送り続けた。

 

 Cattleya eldorado は育て易いカトレヤではなかった。なぜならば、その栽培手法は、コロンビア・アンデスの高い雲霧林で生々(せいせい)と自生しているC. trianaei, C. mendelii, C. warscewiczii のような立派な山もののCattleya 原種のようなよく知られている栽培手法とは全く違っていたからだった。Cattleya eldorado は暑いアマゾン盆地の熱帯雨林に自生していて、山岳地帯の夜間の冷える気温は好まなかった。しかしながら、色彩領域が広いばかりでなく、中にはCattleya 属全ての中で花持ちが最も長いものもあり注目に値する種だった。Cattleya eldorado はまた比較的小さなカトレヤで、バルブの丈は12.515 cmだった。しかしながら、そのバルブは、他のどんな種にも間違えられることのない特異なリップの模様を有する中型で昔ながらの形状をした1011.5 cmの花を何輪も生み出した。ヨーロッパの栽培家達は、やがて、その難しい栽培要件を会得するのだが、それまでには大量の株を枯らしてしまった。

 

 しかしながら、時が移り変わるにつれ、C. labiata, C. warscewiczii, C. mossiae, 及び C. trianaei などの豊富な大輪花が、より地味で、小柄な C. eldorado の美を凌駕してしまい、1900年代当初までに、C. eldorado は栽培上稀なランになってしまった。それでも1940年代中は多少は輸入されたが、その後この種は合衆国やヨーロッパでは趣味家の温室からも業者の温室からも殆ど姿を消してしまった。Orchids 20026月号に C. eldorado に関する記事を書くことになり、その記事に添付する写真撮影のために、撮影用のC. eldorado を見つけるのにとても苦労し、結局、その2年前に自分で何株かを輸入しなければならない羽目に遭ったが、何とか記事は仕上げることができた。

  幸運にも、C. eldorado は合衆国内のオーキッドゥ・コレクションの中から完全には姿を消してはいなかった。そしてデラウェア蘭友会のメンバーの一人Anthony Alfieri (アンソニー・アルフィーリ)医学博士が数年前C. eldorado のもっと素晴しいヴァラエティをいくつか集めようと意を決したとき、彼はブラジルからそれらを何度か輸入した。それらがこの前のシーズンに咲き誇ったとき、彼は愛想よく私にそれらの写真を撮らせてくれた。これらの写真をご覧になれば、1800年代後半の全盛期に、このカトレヤが、人々の心をどんなに惹きつけたかが、読者の皆さんにも想像できるでしょう。Alfieri 先生はまた他の大輪系Cattleya 原種すべてを幅広く収集していて、当地ではこれらの原種の人気が非常に高まった。

 

 

Anthony Alfieri, MD. デラウェア州、ウィルミントン市の自宅中庭で

 

 

 Cattleya eldorado は確かに育て甲斐のあるCattleya 原種で、今のところ合衆国の栽培業者からは入手できそうもないが、ブラジルのいくつかのラン園からは引き続き手に入れることができる。今までに見た販売用プラントは昔山採りされたヴァラエティの実生を育成したものだった。それらがCattleya eldorado の自生している国から出たものだとしても、自然保護の面で趣味家には受け入れられるであろう。

 

 

 

How to Grow Cattleya eldorado

 

 CATTLEYA eldorado は合衆国北部の温室ではCattleya 属の中でうまく育てるのが比較的難しいもののひとつだ。他の大輪系原種の殆んどよりも暖かい夜間温度が必要で、Cattleya 温室または栽培場の最も暖かな場所に置くべきだ。夜間温度1821 で最善の生長をすることが分かった。Cattleya eldorado は、うまく開花するには充分な日照を必要とし、日当たりが良いと1茎当たり4〜5輪は咲く。日照が不充分だと通常1茎に12輪しか咲かない。

 

 Cattleya eldorado は合衆国では通常早春に生長し始め、リードがまだ盛んに生長中に、蕾がシースの中に出現し、生長が完結する初夏に開花する。花後、根が動き始めるので、この時期に植え替えをするとよい。花後はできるだけ乾燥気味に管理し、新しい根を植え込み材の中に張らせるときだけ十分に給水する。ここが秘訣なのだが、日当たりが良く、乾かし気味に育てれば、しばしばおよそ2ヶ月で再び活動を始め、新芽が出、12月に開花する。開花後直ぐに新芽を出してしまうと、普通2番花は咲かず、生長完結後、早春に再び生長を始めるまで休眠してしまう。夏の高温と高湿度の恩恵を受け通常夏咲きが最善の花となる。

 

A.    A. Chadwick

 

 

 

外国語の発音について  種名、個体名、人名、誌名、カタログ名等は原語で表示し、発音はできる限り(   )内にカタカナで示すように努めた。また、全てを英語の発音とせず、ドイツ語、フランス語、スペイン語はその言語の発音を示した。

 

C. eldorado の年暦

1866年 Gustuv Wallisアマゾン盆地から700株余をLindenに送る

1867年 LindenCattleya eldorado と名付け、パリ国際博で大展示

1870年代 趣味家の垂涎の的となり、LindenC. eldoradoで大儲け

1940年代後 栽培上稀なランとなる

現在 ブラジルの実生が流通