Cattleya warscewiczii

夏の到来を告げる山の王者

原文 A. A. Chadwick

翻訳 花咲村 熊虞蘭土

 私の大好きな季節のひとつは初夏だ。 陽射しが最も輝き、日が延びて、長い暖かな夏の夕べがゆったりと流れていく。 しかし、そんな理由からではなく、この季節はお気に入りのカトレヤ原種・Cattleya warscewiczii が咲くからだ。

 この原種はあまりにも勇壮で、ただ単に大きさだけでも、そしてその素晴らしい花茎の迫力でも、カトレヤ属の他の種がみんな小さく見えてしまう。 この種はランの中でも超弩級だ。

Cattleya warscewiczii NS 30 cm もの、カトレヤ属最大の花を咲かせる種であるばかりか、花茎ごとにこうした巨大な花を10輪も咲かせる最大の花茎を伸ばす。 水平に開花する他のカトレヤ原種の殆どと違って、作が良いと、花茎は殆ど垂直に立つ。 この花の垂直配置は花茎の堂々たる威容を増幅させ、そのため、C. warscewiczii  は正にカトレヤ原種の王者となる。

 およそ50年前、初めてこの君主を栽培し始めた頃、それを C. waescewiczii と呼ぶ人はいなかった。 実際、それをそのように呼んでも、何の話をしているのか分かる人は殆どいなかったものだ。 経験豊富な栽培家はそれを Cattleya gigas と呼んだ。( ジーイグスと発音して )。  gigas という名は、特大植物を意味し、1873年に Jean Jules Linden によってそれに付けられたのだが、その時彼は自分が初めてその植物学的記載をしたのだと信じ込んでいた。 勿論、彼は最初の記載者ではなかった。 H. G. Reichenbach が、ドイツの植物学専門誌 Bonplandia (ボーンプラーンディーア)に19年前の1854年に記載していたのだから。  その中で彼は彼の親愛なる友 Josef Warscewicz (ヨーゼフ ヴァルツェヴィッツ)に敬意を表して Cattleya warscewiczii と正式に名付けていたのだ。 しかし、Reichenbach は正式に C. warscewiczii と命名したのだが、Linden は Cattleya gigas の名で積極的にその販売を促進した人物だった。 そして C. gigas は直ぐに、今日同様、C. warscewiczii に代わる流通名となった。

 私達は多くのランの原種発見という Josef Warscewicz の功績に対しては本当に恩恵を受けているが、warscewiczii という名を用いるのに何か外国語学者的なものを感じるに違いない。 その学名は “w” “v” のように発音され、発音と綴りが英語には馴染まない。 そんな訳で、今でも  Linden が付けた名前・gigas の方が使いやすいと感じている人が殆どだ。  学名が難しかったり、発音しにくい場合、往々にして、関連のある別の使いやすい言葉を用い、やがてその言葉が一般用語として流布、定着していくケースで彼らは gigas を一般的な園芸上の名称として用いているのだ。

  Cattleya warscewiczii には主要なタイプがふたつある。 ひとつは合衆国では6月下旬から7月上旬に咲き30 cmないしはそれ以上のバルブを持つ。 Cattleya warscewiczii ‘Firmin Lambeau’ (ファーミン・ランボー), ‘F.M.B.’, 及びラベンダーの “Imperialis”(インピァリアリズ ; 堂々とした) 系はこのグループに入る。  もうひとつの主要なタイプは7月下旬から8月上旬に咲く。 バルブは丈が更に高く、花はもっと大きく、リップもより大きくてより色が濃い。  C. wascewiczii “Sanderiana”系はこの第2グループに入る。

 C. warscewicziiには、1940年代末以来、栽培しているところを見たことがない第3タイプがある。 そのバルブは丈が長く、花茎ごとに12輪も咲く。 花はかなり色が濃いが、サイズは前2者の半分にすぎない。 比較的小さな花のため、第3タイプは営利栽培家や趣味家にはあまり関心を持たれなかった。 そんな訳で私たちはもうこのタイプは見かけない。

 Cattleya warscewiczii はリップに大きな黄色い「目」が入るとしばしば言われている。 しかし、大きな目が確かに入る個体群も多少はあるが、大抵は比較的小さな黄色い目だ。 濃淡の無い濃い紫のリップに全然目が入らないプラントも時々出た。 こうした2種のプラントは何年も前にRHSの賞を受けた。 ‘Rothschild’s’(ロスチャイルズ), AM/RHS (1895)‘Saturata’ (サツラータ), FCC/RHS (1906) だ。

 Cattleya warscewiczii は大輪系カトレアのうちで最も識別しやすいもののひとつだ。 それは花期と生育生態の違いばかりでなく、色の変異が比較的少なく、大抵のラベンダーのC. warscewiczii はどこかしら類似しているからだ。 この点は、時には他との違いを識別しがたいほど非常に多くの異なった色調がある他の大輪系カトレヤ原種の多くとは全く異なる。

 Cattleya warscewiczii Sanderiana について

 Cattleya warscewiczii に言及するとき、“Sanderiana” という特殊用語にはここ何年かかなりの混同があった。  “Sanderiana” C. warscewiczii 1つのタイプであり、特定の個体ではない。  しかし、今でも ‘Sanderiana’ という言葉をまるで個体名ででもあるかのように使う著者や栽培家がいる。   皮肉にも、Sander 自身もSander’s Orchid Guide ( サンダーのラン案内書 )1927年版で“var. Imperialis” “var. Sanderiana” という言葉の記述によってこの今日の混乱に貢献したのだった。 サンダーはこれを書いたとき、“clone”の意味で “variety” を指すつもりはなかったが、ときにはそれを意味すると誤解されることもある。

 更にまた事態を一層混乱させるかのように、RHSは 、1893年、 ‘Sanderae’ という個体名の C. warscewiczii にAMを授与した。 SanderaeSanderiana と著述してきた著者もいたけれど、RHS‘Sanderiana’ という個体名のC. warscewiczii にはその後今日まで何の賞も授与していない。 だからプラントに “Cattleya warscewiczii Sanderiana,” と書いてあるラベルが付いていたら、それは大輪遅咲きタイプの C. warscewiczii を指すのであって、あのいつも欲しいと思っている傑出した個体を示しているのではないと理解しなければならない。

 名前が付けられた個体が何百とあるCattleya mossiaeCattleya trianae とは違って、C. warscewiczii には名の付いた個体は比較的数が少ない。 しかしながら、名前が付けられている個体はランの年歴の中で最も有名なものもある。 中でも最も有名な個体は、C. warscewiczii ‘Firmin Lambeau’ (ファーミン・ランボー) FCC/RHS (1912)で、最初に見つけられた本当のアルバだ。 Sanderだったら、ベネズエラの自社の採集人に C. mossiae alba を 1〜2 ケース送れと命ずることはできただろうが、alba C. warscewiczii はとなるとそうはいかない。 ‘Firmin Lambeau’ が届くまで、それを見たことがある人はいなかった。 ‘Firmin Lambeau’ は、1910年に 、5,000ドルで、今なら25,000ドルに相当するが、そんな途方もない値段で売られた。(現在は円が高騰し、当時と現在では為替レートが全然異なるので単純には円に換算できない 。)  John Lager は、Lager and Hurrell という 確固たる商会の設立者の一人で、そのランを発見した人物だが、彼はそのカトレヤが間違いなく新しい持ち主に届くように大西洋を渡ってひそかにそれを入手した。

  ‘Firmin Lambeau’ C. mossiae,  Cattleya gaskelliana Cattleya warnerialba との初期交配ではラベンダーしか出なかったので、 ‘Firmin Lambeau’ の遺伝子については書かれてきたことが多い。 白花が出たのはC. trianaei alba と交配された‘Firmin Lambeau’ が初めてだった。 遺伝学者たちはカトレヤ原種の白化現象には二つの異質なタイプがあることに気がついた。

 最近セルフの方はもっと評判になったが、‘Firmin Lambeau’ (ファーミン・ランボー) は今でも特に優れた白いC. warscewiczii だ。  大きくて、形が良いので、たとえそれがラベンダーでも、優れたC. warscewiczii だと見なされるだろう。

 C. warscewiczii semialba alba ほどは珍しくはないが、それらは他の殆どのカトレヤ原種に比べれば現在でも珍しい。最も有名なのは間違いなく ‘Frau Melanie Beyrodt’ (Mrs. Melanie Beyrodt) FCC/RHS (1904) だ。 この個体は普通“F.M.B.” という省略語で呼ばれていて、semi-alba のカトレヤ交配種を作出するのに最も巧みにそして最も幅広く使われている C. warscewiczii だ。 C. warscewiczii ‘F.M.B.’ C. mossiae reineckiana ‘Young’s variety’ との交配は1940年代及び1950年代に H. Patterson & Sons によって販売されたCattleya Enid alba の特に優れた資質を生み出した。 それが秀逸だったので、Patterson は 鉢物販売と切花用に年々再々この交配を繰り返した。 Patterson C. Enid alba は variety ‘Orchidhaven’ (オーキッドゥへヴン) が受賞した FCC/AOS (1951) ひとつを含め数々の賞を受賞した。

  Cattleya warscewiczii にはカトレヤ属の中で紫の最も鮮烈な色調を生み出すものもあり、Cattleya dowiana aurea との自然交雑種 Cattleya Hardyana (ハーディアナ) のリップが同様に素晴らしい色調だというのは不思議なことではない。  有名な色彩の濃い C. warscewiczii ‘Lows’ (ローズ) FCC/RHS (1910) の遺伝子は、Blc. Norman’s Bay (ノーマンズベイ), Blc. Memoria Crispin Rosales (メモリアクリスピンロザレス) そして Blc. Oconee (オコ−ニー) を含め、今日の最も色彩の濃いカトレヤ交配種の殆どに伝わっている。  もうひとつの有名な色の濃い個体はC. warscewiczii ‘Meteor’ (メ−ティァ ; 流星) だが、他にも名付けられていないだけで色彩の濃い素晴らしい個体は多い。

 また C. warscewiczii には、ペタルは比較的狭いが はっと息を呑むような花茎を形成する ‘Rosslyn’ (ロスリン), AM/RHS (1904) のような美しく懐かしい真っ赤な個体もあり、 そして、勿論、ブルーの個体中で最も有名なのは問題無く C. warscewiczii ‘Helena de Ospina’ (ヘレナデオスピーナ) だ。

 C. warscewiczii は大輪系カトレヤ原種全てのうちで花茎ごとに最多の花を咲かせるので、カトレヤ交配種の花数を増やすのが目的の交配ではこの上なく貴重だった。 実際、こんな訳で、C. warscewiczii の初代交配はみんな歴史上貴重だった。

 C. mossiae C. warscewiczii との初代交配種、Cattleya Enid は、C. mossiae の大きさや花上がりの良い点での貢献と相まって、今日の最も花上がりの良いカトレヤ交配種の多くにとっては不可欠な根幹となってきた。  年中何時でも咲き、両親の花期に制約されないので、Cattleya Enid はとりわけ興味深い。

 最も美しい初代交配種は自然交雑種・Cattleya Hardyana で、唇弁がひときわ鮮烈な色調だ。 これは初期のカトレヤ交配種の作出にひろく使われたが、昔からある色の濃い美しい個体は今はもう存在しない。

 C. warscewiczii には素晴らしいことがありすぎて筆舌に は尽くし難い。  John Lager は、合衆国のラン収集家の先生で、カトレヤ原種のエキスパートだったが、何年もコロンビアのジャングルを探索し、C. warscewiczii にはとりわけ強い関心を持っていた。 1907年のマサチュセッツ園芸会での講演の中で、コロンビアの山脈の支脈、尾根、谷、渓谷、絶壁などの迷路へと聴衆をいざない、北東へ流れるマグデレナ川を渡ると直ぐに、クンディナマカ州に Cattleya gigas Sanderiana はあります。 このカトレヤは間違い無く南米のカトレヤ全ての中で最大です。 並外れて大きい花と花茎ごとに10輪も咲く花は一見に値します。』 と彼は述べた。

 Jean Jules LindenC. gigas を発見したとき、虹の端に黄金の壷を見つけたと感じたのも無理は無い。 しかしながら、Linden『 Cattleya gigas は文句無しに世界一美しいランです。』 と言って、端的にその真髄を指摘しただけだった。

 花茎も驚異だが、C. warscewiczii はその強靭な生命力でも認められている。 このカトレヤが、なんと寒さで生息が不可能になる限界まで、山を登るのを見たことがあります。 そんな場所でのこのランは、通例、生長を妨げられますが、生存しようと必死に頑張るのです。  とにかくこのランの先頭は繰り返し新芽を押し出します。 後部のバルブは葉を落とし、枯れていきますが。』 と述べたのは前述のLager だった。 この種は柔らかくも、無脊椎のランでもないが、様々な点でランの中では巨大だ。

  夏は1年のうちで素晴らしい時節で、ビロードのような紫の鮮烈な色調の私の夏のカトレヤは、今も、そしてこれからも、永遠に、山の王者であろう。

 

How to Grow Cattleya warscewiczii

 大抵の人はCattleya warscewiczii をうまく栽培したり、うまく咲かせることができない。  本当に逞しい花茎を享受したければ、1月の終わりか2月の初めにできるだけ早くC. warscewicziiの手入れを始めると良い。 日光に充分当て、晴れた日には軽くシリンジをして育てる。  ” (生長点)が現れて、生育が始まったら、軽いシリンジを続け、日焼け寸前まで充分日光に当てる。  葉 が黄緑色になるぐらい日照を強くするが、葉が熱しないように周りの風通しを良くする。 それでもなお、触ってみて、葉が熱を帯びているようなら、日焼けを防ぐために遮光を強めねばならない。

 Cattleya warscewiczii は新芽が少なくとも10 cm程度になるまではあまり水を受け付けない。 新芽が小さいうちから水を与え過ぎると、花上がりを 助長させるどころか、生育を妨げてしまうようにみえる。 Linden のような初めの頃の栽培家でさえ、このことは重要なことで、顧客に注意を促さなければならないと感じていた。

 新芽が伸びるにつれて、徐々に水量を増やし始めるが、たっぷりと水を与えているときでも、再び水を与える前には常に 乾き切っていなければならない。 古いバルブは新しい葉が出始めるまでには丸々と太っていなければならない。

 見事な力強い花茎を伸ばしたければ、蕾がシースを破ったとき、プラントを暖め過ぎないように注意すべきだ。 さもなければ、正常の美しい垂直の雄姿というよりはむしろ花茎は倒れ、花を水平に広げてしまう傾向がある。 夏の外気が32℃以上にもなるとき、C. warscewiczii を熱がらせないでおくのは難しいだろう。 私たちは、しばしば、蕾が出てきたら直ぐに、温室から涼しいポーチへ C. warscewiczii を移し、蕾が全て開くまで、そこに置く。

 C. warscewiczii を植え替えるタイミングは花が 終わった直後だ。 この時期は、通常、最新のバルブから新しい根が続々と出てくるから。 生長し始める直前には決して植替えはしない。 新芽や花茎を司るのに付いている根は全て必要とするから。

 生長し、根を張り、渾身の力を振り絞って、 こ んな短時間に巨大な花茎を立ち上げるのだから、翌年もまた素晴らしい花を咲かせたければ、C. warscewiczii は花後ゆっくりと休息させてあげなければならない。 花後、新芽を出させるのは避けるべきだ。 本当に逞しく生長している株を見たことはあるけれども、必ずしも誰もがうまくいくとは限らないであろう。

A.A. Chadwick.

 

  訳者熊虞蘭土の感想

  この著作をを翻訳するまで、C. warscewiczii も他のカトレヤ原種と全く同様の手法で栽培していた。 新芽が出てきた時には、いそいそと植え替えをして、水もざぶざぶ、それに液肥も与えていた。 葉先が腐るのはそこに原因があったのだと 今更ながら思い知った。 輪数も4〜5輪が精一杯。 花が終わって鉢いっぱいの株は早速植替えをしなければならない。 そして夏季は涼しい置き場へ持っていこう !

 

訳者熊虞蘭土が栽培した C. warscewiczii の画像

C. gigas forma albescens ‘Ruchelesis’     NS 204 × 187,  PW 46,  LW 60  mm

花茎はほぼ垂直に立っているが、輪数が少ない。 10 輪にチャレンジしよう !

 

 

C. gigas forma semi-alba ‘Sensation’   NS 145 × 160,  PW 50, LW 60 mm

花茎が倒れ、花が水平というよりは横に広がっている。 輪数も少ない。

日本のC. warscewiczii の画像は殆どこのように横に広がっていて、花も2〜3輪だ。

花仕立てを変えねばならない。