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  動かない瞳



 段々と行為が正常とは言えない物になって来ている、覚えがないではなかった。
 最初は、あれだ。
 ルードヴィヒを挟んで、ヴェネチアーノと三人で並んで寝ていた時だ。
 幾らヴェネチアーノが、一度寝入ってしまったらぐっすり朝まで起きないからといって、彼が
すやすや眠る隣で『今、ここで、したい』と、言われて。
 受け入れてしまったのが、いけなかったのだろう。
 何時も以上に感じ入ってしまった自覚はあった。それに気がつかない彼でもない。
 たぶんルードヴィヒの中では、本田は異常なくらいのSEXに感じてしまう性質なのだという、
認識ができてしまったのだ。
 愛されていると、感じる事が多かった。
 自分の快楽よりも、本田の快楽を優先させているのだと、日々実感させられている、深い
愉悦。
 抱き合うのが嫌なのでは、決してない。
 好きな人と自分の意志で抱き合える事が、これほど自分を満たすのだと、この年になって
やっと知った本田だ。どうあってもルードヴィヒを手離したくはなかった。
 もし、本田が異常な行為は止めて欲しいと言っても、彼はこう解釈するだろう。
 菊は恥ずかしがりやだから、本当は良いけど、嫌だと嘘を言っているのだと。
 実際に体は、淫乱としかいいようがないくらいに感じてしまっている以上。
 彼の思考は間違いでもない。
 だが、しかし。
 通常ではない性行為に嫌悪があるのは事実。
 そしてそれを受け入れてしまう自分に、更なる嫌悪を抱くのも現実。
 このままでは、何時か。体と心のバランスを欠いてしまうかもしれない。
 そんな不安が、拭いきれなかった。

 余り感情が表に出ない性質である事も、生真面目過ぎる気質である事も重々承知している。
 自分よりも遥か同傾向にある恋人に対して、それではいけないと思って、日々努力をしてい
るが、なかなか上手くいかない。
 「はぁ」
 「どうしたの?深い溜息なんかついて」
 のほほんとした口調でヴェネチアーノが話しかけてくる。
 「……や。どうしたら菊を幸せにできるかな、と考えていたんだが。いいアイディアが浮ばな
  くてな」
 「はは!真面目だなぁ。ルードヴィヒは。そんなん考える事じゃないでしょ?」
 「……お前と一緒にするな」
 びっくりするほど簡単に本田の中へ入っていけるヴェネチアーノに言われたところで、何の
説得力も慰めにもならない。
 「うーん。相手が菊なんだからさ。簡単だと思うよ。ルードヴィヒが幸せになれば、いいだけ
  のこと じゃん」
 「あ?」
 「僕もそうだけど。菊もそういう性質なんだよね。好きな相手が幸せでいてくれれば、自分も
  すっごく幸せになれる。ルードヴィヒもどっちかっていうとそうだよねー」
 さすがに恥ずかしくて返事が出来ない。本田の笑顔に癒され、満たされているのは間違い
ない事実なのだとしても。
 「だからさ。菊が悦ぶこと、してあげればいいじゃん?痛いこととかしなければ、きっと。ルー
  ドヴィヒが何したって、菊。嬉しいと思うよ」
 能天気な面を終始晒しても、その洞察は深い。簡単に真実をついてゆく。しかし。
 「それが、難しいんだよ。ヴェネチアーノ」
 本田が悦ぶ事を見極めるのは困難を極める。ただ最近、変わったシチュエーションのSEX
に感じてしまう体質なのだというのは、わかってきた。
 ヴェネチアーノの言う所の、痛い事。も、本田が好む行為の中に含まれる。
 一生跡が残るような怪我を欲しがるのではなくて、数日薄い跡が残る程度のものではある
けれど。
 されたその瞬間は、鋭い痛みが走るんだろう行為に、敏感なくらいに感じていた。
 「そっかなー。菊が相手なら、僕でも頑張れるよ」
 「それは、勘弁してくれ」
 ベッドの上で全裸のヴェネチアーノの頭を抱え込んでぐしゃぐしゃにした。
 それこそ友人関係を逸脱したようにも視える行為だが、自分達にはこれが普通だ。
 ルードヴィヒと本田とを、まるで家族のように大事にしているのを知っている。
 不遇を囲ってきた時間が長かったから余計。
 損得勘定が薄い友好関係を大切に思っているのだろう。
 ルードヴィヒと本田が恋人同士になったのだ、そっと告白した時も我が事のように喜んで
くれたものだ。
 以来積極的に二人の間に入っては、どうにも言葉が足りなくなりがちな所をフォローして
くれたりもしている。
 「二人ともご飯が出来ましたよ」
 だからノックもせずに、本田が入ってきた所で驚きもしない。
 「あ!菊。おはよう。ハグしてハグ!」
 すっぽんぽんのままベッドから飛び降りて、しぱたたたっと駆け寄ってゆくヴェネチアーノを
苦笑する本田が、ゆるく抱き締めた。
 「今日はエーデルシュタインさんが、ご一緒なの忘れましたか?せめて、下着は穿いて下さ
  い」
 ちゅ、ちゅと、本田の両頬にキスをするヴェネチアーノの頬に軽くキスを返す本田の後に、
朝からきっちりと衣服を着こなしたエーデルシュタインの姿があった。
 「……ヴェネチアーノ君は、もぅ今更ですが。貴方までどうしたんです?ルードヴィヒ。ハレン
  チ過ぎますよ!」
 「……ああ、悪い」
 古い知り合いであるエーデルシュタインも、本田とルードヴィヒが付き合っていることを知っ
ていた。だからこそのお説教だろう。
 最も二人が付き合っていたのを知らなかったのだとしても、同じセリフを言ったであろうが。
 「菊君も甘やかし過ぎです。ヴェネチアーノ君の手綱を握れるのは君ぐらいなんですからね。
  しっかりなさい」
 「手綱って。酷いよぅ、ローデリヒ。僕は馬じゃないのに」
 「似たようなものでしょう?人の恋人に必要以上に懐くような真似をして。そういうのをね、何
  と言うか知っていますか。でばがめ、というのですよ。出歯亀!ですよね?菊君」
 「はい。正しい使い方です」
 本田がくすくすと可愛らしい笑顔を見せながら頷いている。




                                    続きは本でお願い致します♪
              どこが独日?とかいう冒頭ですが、これからめくるめく(笑)です。
                 基本的に日は、どの国にも愛されている点はデフォルトで。




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