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 それでも、愛しいと思った女達は、大半が腕の中からするりと抜け出て行ってしまう、強かさ
があったけれど。
 壬生にはそれがない。
 若さ、という物が一番だろうが、もしかすると壬生も。
 人恋しいのかもしれない。
 人肌が恋しいまで、経験は積んでいないからこそ。
 俺の温みを拒絶しきれないのではないか、そんな風に推測もする。
 「もりと、さんが。そんなっつ、に……自意識過剰な方、だとは思いませんでした」
 「俺も正直戸惑ってる」
 苦笑のままに唇を寄せれば、抵抗もなく極々薄く唇が開く。
 舌を吸い出して深く絡めながら、その根元を犬歯で扱く。
 背中がのけぞるほど感じるらしいので、タイミングを合わせて中を擦りあげれば、舌がぴく
ぴく痙攣した。
 慣れない快楽を必死に耐えているのだろう。
 何時も体についた、数多の傷を一人。
 歯を食いしばって耐えるように。
 舌先を軽く噛みながらキスをとく。
 途端、ぷはあと息をするのに思わず苦笑してしまった。
 「笑う、場面ですか?」
 「悪いな。あんまりにも……可愛らしかったもんでな」
 「僕のどこが、かわいっつ。ひゃうん!」
 指先が拾ったざらざらしている箇所の中でも、一際硬くしこった部分を擦れば、抗議の声も
途切れがちだ。
 「……ああ、膨れてきたな」
 「ど、して。そう、いうんっつ!」
 「ん? 言葉攻めって奴だろ」
 頭の回転が良い奴ほど、言葉攻めに弱いと言われるが、少なくとも壬生はそれに該当する
ようだ。
 頭も良いし、言葉攻めにも弱い。
 言葉から、自分の痴態をリアルに想像してしまうのだろう。
 受身になったことはないので、イマヒトツよくわからないのだが。
 「あ! や! や! やっつ!」
 「ん? どうした」
 「おねがっつ、それ。とめっつ」
 「ああ…イきそうなだけだ。もっと集中しろ」
 「ちがっつ。これっつ。だめっつ」
 頑なに拒否をする瞳は涙目。
 男として、止めるべきか止まらざるべきか。
 かなり迷ってから、止める。
 「何が、駄目なんだ。言ってみろ」
 「いあっつ。やあっつ」
 「ほら、壬生……紅葉。いい子だから何が駄目なんか教えてくれ。なぁ?」
 視点の定まらない瞳を拾い、噛んで含めるように問う。
 「だって。だって」
 「うん?」
 「漏れそうなんです」
 「小便か」
 漏れそうと言えば、それしかないだろう。
 「っつ! ……はいっつ」
 壬生は真っ赤な顔をして、瞳を新しい涙で潤ませながらも、肯定した。

 「漏らせばいいだろう?」
 「はぁ?」
 「俺しか見てない」
 「それが、嫌なんですっつ。ちょ! 嫌だって、ひぃ! あ、はあっつ」
 華奢な指先が必死に俺のワイシャツを握り締める。
 爪先の白さが美しかった。
 ぐんと弓なりになった壬生は、ぴしゃ、ぴしゃと体液を吐き出した。
 俺の手の甲をべっとりと濡らしたそれは、しかし。
 独特のアンモニア臭がしない。
 「ああ、そうか。おい、大丈夫か?」
 「……も、信じられません……」
 「や。これは漏らしたんじゃない。潮吹きだ」
 「潮吹きって、ああ……これが?」
 「俺も初めての経験だから、断言はできないが、十中八九そうだろう」
 確認もかねて手の甲に飛んだ体液を舐め取る。
 壬生は、耐え切れないというように、両手で顔を覆った。
 「間違いないようだ。アンモニア臭が薄い」
 「しない、訳ではないんですか」
 「医学的には同じ水分だぞ? 保健体育の授業になるから、詳しい話は今度しよう」
 「しなくて良いです……」
 太股を閉じて身体を捻ろうとするのを、指の力だけで固定する。
 抵抗が続くようなら、同じ事を繰り返すつもりだったが、初めての潮吹きには、思う所がある
らしい。
 疲れてもいるのだろう。
 諦めたようにくったりと身体を投げ出した。
 「喉渇かないか?」
 「……そういえば、少し」
 「良い子で待ってろ。水を取ってくる」
 涙の滲む眦にキスをして、台所へ足を運ぶ。
 水道水は、カルキ臭さが鼻に付くのでミネラルウォーターは常備してる。
 意外です、とか言われそうだなと封の切っていない一本を取り出す。
 さすがに逃げる算段はできないだろうと、しかし足早に戻れば、壬生は枕を抱き締めて
はふーと溜め息をついている所だった。
 「ほら、水だ。口移しが良いか?」
 「……今の貴方を龍麻達に見せてあげたいですよ。蓬莱寺さんならきっと、適切な突込みを
  入れてくれそうです。って! 口移しは! うんっつ」
 生意気な口が減らない壬生の口を塞ぎ、水を流し込む。
 深く寄った眉根も、水を嚥下する頃には元通りになった。
 「SEXの最中は、きちんと水分補給しないとな」
 「らしいですね」
 「特に潮吹いたとなっちゃあ、切実だろう?」
 「……しつこいですよ。いちいち言わなくても結構!」
 「いいじゃないか。剥きにならんでも」
 「なりますよ!」
 「……今度は小便漏らすまでするか?」
 「ごめん蒙ります!」
 ああ言えばこういうやり取りは、生徒相手では滅多にしないので新鮮だ。
 「じゃあ、普通に続きだな……」
 「もぅ、お腹いっぱいですよ……」
 はぁ、と溜息をつくものの、唇がキスを誘っている。
 俺の勘違いでもないはずだ。
 頭の良い壬生は、これだけの時間の中でも俺を喜ばせる旨を随分と学んでいる。
 薄く開かれた唇を塞げば案の定、やわく唇が食まれた。
 食べるのはこちらの専売特許だと思っていただけに、思わず眉根を寄せるが、すぐに拙い
……ただ、唇を食むだけの……所作に、顎に指をあてて唇をより大きく開けさせて、何度目
になるかわからないディープキスをする。
 口腔内を舌先でなぞれば、壬生の舌先も俺の舌を上手に避けながら必至に口の中を嘗め
回して応えて寄越す。
 SEXの基本は、模倣だ。
 自分を気持ち良くさせようとする相手の動きをなぞらえるのが、一番手っ取り早い。
 攻め手も大概は、自分がして欲しい愛撫を無意識の内に施すからだ。
 まぁ、ある程度SEXを楽しめるようになってくると、自分を制御して本来自分は好かないが、
相手が好く愛撫を率先して与えたりもするが、そこまでする人間はあまりいない。
 相手の反応を見て盛り上がれる性質ならば別だが。
 「んっつ、ちゅ」
 キスを返すのに夢中になっている壬生は、自分が俺の胸に縋っているカ格好になって
しまったのにも気がついていないのだろう。
 よく鳴滝が、犬のような忠誠を! と謳っていたが、今の壬生の愛撫はまさしく、飼い主の
愛情を純粋に欲しがる犬が懸命に頑張る様とだぶった。




                                     何故だろう。
                             壬生の喋り口調が日っ様とだぶるよ……。





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