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  大切にします!



 
ある日。
 本田さんから電話があった。
 『思う所ありまして、ジョーンズ君を捨てました。けれど彼。どうにもそれが認められないよう
  なのです。申し訳ありませんけれど、ご助力願えますか?』
 
 「よろこんで!」
 ウィリアムズは即答した。
 『……当然の不躾な申し出に快諾頂きまして、とても嬉しいです』
 何時聞いても耳に心地良い穏やかな声に、紛れもない喜びの色を見出してウィリアムズは
有頂天だった。
 「それで、僕はどうしたらいいんでしょう? そちらへ伺えば良いんでしょうか?」
 『いえ。できればそちらへ伺いたいのです。彼はよもや、私が貴方を訪れているとは思います
  まい』
 「……ですね。では、準備をしておきます。大体の予定を教えて頂けますか?」
 『そう、ですね。三日後の夕刻辺りには、伺えると思います。大丈夫でしょうか?』
 「今すぐ着て頂いても大丈夫です!」
 日本からバンクーバーまでなら直通便も出ているが、一番繋ぎの良い物を選んでも最低
九時間。
 普段から家を整えて置くのが好きなウィリアムズなのだ、慌てて大掃除をする必要もない。
 気安く訪れる者も少なくないので、基本的なお客様セットは常に準備されている。
 せいぜい急いでやる事と言えば、食べる事が大好きな菊の為に新鮮な食材を用意しておく
ぐらいだろう。
 『ありがとうございます。それでは、正確な時間が決まりましたら、一報入れますね』
 「はい。お待ちしています!」
 時計を確認したウィリアムズは、受話器を置くと早速、新鮮で美味な食材の扱いがある市場
へと車を走らせた。

 「いらっしゃいませ、本田さん! わぁ! 凄い荷物ですねぇ……」
 「そうでしょうか?」
 訪問着という種類に分類されるのだろう着物を着た本田は、背中に大きめの風呂敷を一つ
背負い、両手に小さな風呂敷を一つづつ持っていた。
 「持ちますよ!」
 「いえいえ。軽い物ですし。あ! それではこちら受け取って下さい。些少ではございます
  が……」
 玄関を潜った所で、本田が風呂敷包みを一つ差し出してくる。
 「ええ? もしかして、お土産ですか? そんなの全然気になさらなくて良かったのに!」
 「そうは、いきません。何日もお世話になるのですから、きちんとして置かないと」
 正確な時間を伝える電話と共に、告げられた数日以上のの滞在。
 ジョーンズの動向を見て長くもなり、短くもなるらしい。
 曖昧で申し訳ありません、としきりに恐縮する本田だったが、ウィリアムズとしては、
一生居てくれても構わないと思っているので、全く問題はなかった。
 「うわー。この風呂敷も素敵な図柄ですね」
 中へ通して、メープルシロップ入りのコーヒーを淹れて、これまたメイプルクッキーを出して
から、本田の土産物を開ける。
 中には、ちまちまとした土産が入ってたが、それを包んでいた風呂敷の鮮やかさに目がいっ
た。
 日本では有名な『赤富士』と呼ばれるモチーフがメインだ。
 「あ。そちらも差し上げます。日本で赤富士は目出度い物の象徴なのです。それに、ほら。
  この鮮やかな赤は、メープルシロップの原木の、サトウカエデが紅葉した色に似ていま
  せんか?」
 「……ああ。そうですね。鮮やかで、穏やかで、優しい色ですね」
 ウィリアムズの大好きな色だ。
 真紅。
 真赤。
 その己にはない鮮やかな華やかさに、憧れて久しい。
 「ええ! 同感です。ぜひ。マシュー君に差し上げないと! と思いました。貴方に良く似て
  いる色でしたから……」
 「僕は、こんな風に鮮やかでは、ありませんよ?」
 鮮やかというのは、それこそジョーンズやカークランド、ボヌフォワのような存在をいうのだ。
 「いいえ。鮮やかですよ。私、毒々しい鮮やかさをたくさん存じ上げておりますけど、優しい
  鮮やかさは、貴方にしか感じません」
 「本田さん……」
 彼は何時だって、他の誰もが口にしない、ウィリアムズが望む言葉を惜しみなくくれるのだ。
 兄であるジョーンズが溺愛しているのを承知していても、尚。
 欲しくなってしまう。
 国の象徴として生きてきて、コレほどに何かを、誰かを欲したのは初めての経験だ。
 「……今回は、本当にご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありません。ジョーンズ君のストー
  カー行為が悪化してしまって……」
 「いえ。僕の方こそ、ごめんなさい。紛れもない、兄であるはずの彼を止める事が出来ない。
  アルは、僕の言葉など言葉として認識すらしないから……」
 長い間、ウィリアムズはジョーンズの玩具であった。
 彼の好きなように言葉の、圧倒的な力での暴力を振るわれても、ひたすら耐え続けてきた。
 カークランドも、ボヌフォワも気付いていたはずなのに、止めてはくれなかった。
 国の象徴たるもの、そんな軟弱では駄目だと思ったのかもしれないが、きっと。
 彼等の目にはウィリアムズの姿は映っていなかったのだろう。
 二人に取ってウィリアムズは、ジョーンズの影でしかなかった。
 かろうじて、ボヌフォワは時々、ウィリアムズを庇ってはくれたけれど。
 その都度、余計な事をするなと、カークランドとジョーンズに言われて、少しづつ距離を取って
行った。
 幼い頃に育ててくれた恩を忘れた訳ではない。
 それでも、切実に助けが欲しいと思った時に、手が差し伸べられる事がなかったせいで、
感謝の念も薄れがちだ。
 「……重ね重ね申し訳ありません。言葉の使い方がなっていませんね。私は、貴方に
 謝罪をして欲しかったわけでもなく、傷つけるつもりもなかったのです」
 ウィリアムズの手に比べれば一回りは小さそうな本田の掌が、優しく頭を撫ぜる。
 「それにね? 彼を止められなくても、今こうして。私を匿って下さっています。それは大変、
  ありがたいことなのですよ」
 「そう、ですか?」
 「ええ! それに、この。メープルシロップ入りのコーヒーの美味しいこと! こちらのメープ
  ルシロップが美味なのは存じ上げておりましたが、コーヒーの味も凄く好みです」
 「気に入って貰えて良かったです」
 本田に言えば、恐縮してしまって大変な事になりそうなので内緒にしておくが、本田に出した
コーヒーは、本田の為に作った彼専用のブレンドコーヒーなのだ。
 ジョーンズと一緒にいるとコーヒーを飲む機会が増えるが、彼は味には頓着しない。
 また、カークランドは紅茶党で、コーヒーへの興味は薄い。
 だからせめて、自分がコーヒーの美味しい味を教えたかったのだ。
 「こちらへ来ると、何時も無防備にリラックスしてしまって……一仕事終えた後の人生を、
  こちらで過ごしたいという人の気持ちがよくわかります」
 「光栄ですね。行為を抱いている相手が、自分のテレトリー内で寛いでくれるのは、嬉しいで
 す」




                                    続きは本でお願い致します♪
                       マシュー君は、どうにもわんこの印象が強いです。
                    へたれわんこ攻め好きには堪らないキャラなのですが

                     今回はちょっと不憫キャラになったかなぁ。
                                 アルの不憫加減には負けますが。

 



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