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  ただ、壊したい。



 「……ヴぇー?」
 違和感に気がついた切っ掛けは、頬に当たる感触だった。
 「芝生……って言うか、野原だったよ!」
 親友達に何度咎められてもこれだけは直せない、直すつもりもない全裸のままベッドの中に
潜り込んでシエスタに身を投じたはずなのに、野原に寝ていた。
 芝生だと最初に感じた感触はまだ短い雑草が擽る優しさだった。
 「まぁさー。こーゆー場所ですっぽんぽんだったら大変だと思うから、服を着ているのは良いと
  思うんだ。けどさぁ。何でこの服なんだろう……」
 それには、身体を起こして頬についた草を指先で払おうとして気がついた。
 フェリシアーノが纏っている服はヴァチカンでの儀式に参列する際、着衣を定められている
独特の衣装。
 ローマ教皇と同じ一点の曇りもない純白の衣装を纏う権利はフェリシアーノとロヴィーノに
しかない。
 首からかける帯状の布・ストラに施されている刺繍は二人が国の化身である証のイタリア
国花・デイジー。
 基本が動かない儀式に着る時の物なので動きにくく手元足元の捌きが悪いのだ。
 もったりと垂れた袖に溜め息をついたフェリシアーノは、全身から草や小さなゴミを払い落とし
ながらそれに気がついてもう一度、魂が抜けそうな深い吐息をつく。
 「しかも、グラディウス装備ってどーなの?」
 ヴァチカン内の儀式に銃の持ち込みは許されていない。
 厳重な警戒態勢にあるので枢機卿達は武器らしき物の保持を許されてもいない。
 数多の人を殺せる武器が幅を利かせているこのご時世で、フェリシアーノとロヴィーノの二人
が許されている唯一の武器が剣とは笑えない話だろう。
 フェリシアーノとは比べ物にならぬほど銃器に慣れ親しんでいるロヴィーノも、こんな時代錯
誤な武器じゃ意味ねぇよなぁ、と愚痴を零している。
 万が一にもそんな事が起こらぬとわかっていても、いざ非常時ともなればロヴィーノと二人、
どんな敵であれど剣だけで殲滅させるだけの器量を持ってはいるのだが、そんな事は普段口
にしない。
 ロヴィーノは、面倒くせぇ! と広言して憚らないし、フェリシアーノも戦闘は怖いので遠慮し
たい方だ。
 血が流れ、数多の命が奪われてゆく様は悲しく、それを見て血がざわめく己の拙さが何より
疎ましく恐ろしい。
 「まぁ、こんな牧歌的な場所でグラディウスを使うこともないだろうから、いいっちゃいいんだろ
  うけど。重いんだよね、これ」
 一応取り出して、手に馴染むのを確認してしまうと放り出す気にもなれない。
 「ここがどこか。今自分がどんな状況に置かれているのかを掌握しないうちは、武器って必須
  だよね」
 うんうんと一人で頷いたフェリシアーノは、次に何をしようかと思案する。
 そんな時に浮かぶのは何時だってルートヴィッヒと菊二人の言葉だ。
 付き合いの深さも長さもルートヴィッヒの方があるのだが、それと同じようになりたいという気持
ちが強いのだろう。
 困った時に心身共に頼ってしまうのは、決まって二人。
 どちらも欠けたりはしなかった。
 『突然、自分の身に思いも寄らぬ事が起こったら、まずはどうするんだ?』
 何だか怒っているような声と、額に皺の寄った表情のルートヴィッヒが頭に浮かぶ。
 「はーい。最初にするのは安全の確保です!」
 条件反射で敬礼をしながら耳を澄まし周囲を見回す。
 怪しげな物音も見慣れない異物も不穏な気配もなかったけれど、微かに鉄の匂いがした。
 『少しでも不安な要素があったら面倒がらずに、それを排除しながら安全確保しましょうね』
 続いて何時でも物柔らかな声と、心配そうな菊の表情が浮かんだ
 「うん。わかってるよ。ここはどの道見晴らしが良すぎるから、移動します!」
 はい、良く出来ましたね? と菊がやわらかく頭を撫ぜてくれない状況に、ヴェーヴェーと
奇声を発したフェリシアーノは、自分の勘をだけを頼りに移動を開始した。

 「うー。何だかちょっと、マズイ状況になって来た気がします、隊長!」
 安全圏への逃避に関しては、冷静沈着なルートヴィッヒよりも臨機応変な菊よりも頼りにされ
るフェリシアーノであったが、一人で居ると勘が鈍ってしまうのかもしれない。
 安全な場所を求めて彷徨っていたはずなのに、先刻からどうにも危険極まりない区域に足を
踏み入れてしまった不手際を自覚する。
 四方から人間ではない生き物の殺気をひしひしと感じるのだ。
 「ヴェェ! ルート! 菊っつ! 怖いよぅ」



                                    続きは本でお願い致します♪
                         な、何が何だかさっぱりな冒頭ですみません。
                       ヴァチカン衣装で件を振るう伊も大好きですが、
                               すちゃりと二挺拳銃な伊も悶えます。



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