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  すっきだなぁ、お前も。



 「……うおーい、菊ぅ?」
 パソコンに向かってクリック三昧の本田は、修羅場中の作業でない事もあって、すぐに返事を
寄越す。
 「はいはい。何です? 紅茶、コーヒー? それともお腹でも空きましたか」
 何時だって本田は、戦闘モードでさえなければ、気のつく出来た恋人だ。
 「どれでもねーけど。そー聞かれりゃあ、コーヒーが飲みたい」
 「砂糖入りでいいですね」
 慣れた恋人だからって、常ではブラックで飲むコーヒーを、疲れてきたから砂糖入りに切り
替える辺りの細かい機微までは、なかなかどうして読めやしないだろう。
 「あーそれで」
 「では、少しお待ち下さいね」
 遠慮なく本田の背中に寄り掛かっていたので、素早くどけば、よっこらしょ! と些か情けない
掛け声つきで膝を立てた本田が立ち上がる。
 「おい!」
 「ああ……ごめんなさい」
 腰を屈めて、額へキスが届くので、頬に軽い奴を返した。
 離れる時は、キス必須! どこの馬鹿っプルだよ、と自分でも思うのだが、これは欧州の
習慣に何時まで経っても慣れぬ本田の為に、バイルシュミットが提案したものだ。
 フェリシアのハグ&キスに過剰反応するのをどうにかしたいのですよ! と力説されたら、
バイルシュミットとて一肌脱がねばなるまい。
 まぁ、フェリちゃんの喜ぶ顔が見たいってーのよりも、やっぱ。
 本田とキスする至福を、できるだけ多く堪能したいんだけどな。
 そんなこたぁ、口にはしねぇ。
 「後、軽く摘めるもんがあれば、それも。塩辛モノと甘モノで」
 「了解です、師匠」
 私はねー。
 ギルさんは、もっと評価されるべき存在だと思う訳ですよ! 
 いい加減恋人同士になったんだから、公衆の面膳で、人を師匠呼ばわりするな! と言った
ら、そんな返答があった。
 本田曰く、自分がバイルシュミットを師匠と呼べば、周りも少しは、バイルシュミットに関する
認識を改めるだろう、と言う事なのだが。
 過去のあれこれを知ってる奴等には、大変不評だ。
 お前、最悪。とは、本田にベタ惚れのカークランド。
 愛されてんのね? とは、悪友の一人ボヌフォワ。
 いいなぁ。わいも菊ちゃんに師匠呼びされてみたいわぁ。とは、もう一人の悪友カリエド。
 菊も大概見る目ねぇよ! とは、最近本田への友好値が上がってきたロヴィーノ。
 エーデルシュタインに至っては、少しは師匠らしい事をして見せたらどうなんです? で。
ヘーデルヴァーリは、何時か私が、菊さんの目を覚まして差し上げるのです! ときたもんだ。
 まぁ、昔からつるんでいる奴等には、何言われた所で痛くも痒くもない。肯定してくれる奴等
も勿論いるしな。
 ギルを師匠って呼ぶ時の菊の目って、可愛いよね! きらきらしてるんだよ、とはフェリシ
アーノ。 
 兄さんが、本田にそう呼ばれるのは、誇らしいぞ、とは可愛い弟。
 そもそも恋人に敬意を持たれるってーのは、良い気分だ。
 更には、人前では恋人同士だと広言するのが、恥ずかしい気性も承知している。
 二人きりの時には、ようやっと名前で呼ぶようにもなってきた事だし……だが、な?
 どうにも気になる所がある。
 どうでもいい事なのだが、一度言っておきたかった。
 「お待たせしました」
 忙しい時は、足の先で器用に襖を開けて見せる本田だが、今日は余裕があるので、膝を
ついて丁寧に襖を開けている。
 この独特の所作が、バイルシュミットの好みであると熟知しての行動だ。
 「おーもしかして、これ濡れ煎餅?」
 「ええ。美味しいと評判らしいので、お取り寄せしてみました」
 以前、食べてみたいと駄々を捏ねたのを覚えていたらしい。
 盆の上には、コーヒーと緑茶、大福とうさぎの形に切り揃えられた林檎と、濡れ煎餅が乗って
いる。
 「じゃ、早速。うわ! 面白ぇ食感だな、おい!」
 想像していなかった食感は、なかなかに好みだ。
 煎餅には緑茶があうので、本田の物を横取りしてみたが、全く動じない。
 手元に置いてある茶箱のセットを取り出して、自分の湯呑みに新しい茶を注いでいる。
 どうやら、横取りは想定内だったようだ。
 「……それで、先刻何か言いかけていらしたようですけど。何だったんですか」
 林檎をしょり、といい音をさせて食べた本田が、首を傾げるので、バイルシュミットは、けせ
せ! と笑い声を上げて、山と積まれている同人誌を指差した。
 ここ数ヶ月に渡って本田が出した新刊の数々だ。
 



                                    続きは本でお願い致します♪
                       黒伊に続いてやってきた、格好良い普の出番です。
                        独に勝るとも劣らぬドSっぷりだと楽しそうな予感。




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