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  そうまでして、守りたいですか。



 

 「大兄」
 凛と通る声の中、僅かに咎める色を見つけて顔を上げる。
 「……何あるね」
 「お茶が入りました」
 深々と頭を下げて告げられた言葉は、少し意外だった。
 茶を勧める時に普通、咎める声音は使わないから。
 「……紅茶は飲まんある」
 気のせいかと、内心で首を傾げながら呟けば。
 「勿論、中国茶です。ご安心下さい」
 間髪容れずに返事があった。
 かろかろと車輪の音をさせながら、香が側まで茶を運んで来る。
 先程、訪れの挨拶を受けてから姿を消していたのは、茶の準備をする為だったようだ。
 香は一時期一緒に住んでいたこともある。
 嘗て知ったる何とやらと、茶道具一式が仕舞ってある場所で作業をしていたのだろう。
 王が直々に躾けた中で、香は二番目に中国茶を美味に淹れる。
 芸術的な淹れ方、という点では、香が一番だが。
 味では今だ菊が淹れた物に届かない。
 卓の上、最後の準備をする物静かな香の様子を目の端で伺いながら、作業を一旦中断
する。
 少し前から王には、作り続けている調合の難しい漢方があるのだ。
 それこそ、職務以外の全ての時間を過ぎこむ位熱心に。
 必要最低限の睡眠すら削る執拗さで挑み続けている。
 「良い、茶葉だな。香りも豊かだ」
 目の前に置かれた茶杯に六分目程注がれた茶を見、茶杯を持ち上げて仄かな香りを楽
しむ。
 「香紅貴、と言います。大兄の作られる茶葉と、我の作る茶葉を配合して創った茉莉花茶
  です」
 「配合、か」
 目を伏せて、一口、口に含んで味と香りを堪能する。
 茉莉花の香りが濃厚に鼻を抜けるのが実に心地良い。
 ここまで強い香りを残すと、茶葉の本来の味を殺してしまう場合が多いのだが。
 舌の上には茶の絶妙な渋味と新茶特有の甘味が、たっぷりと残った。
 「味も良い。渋味と甘味が我好みの仕様ある」
 「……ですか」
 「……含みのある物言いだね。そんな子に育てた覚えはないあるよ?」
 「この茶葉の最終的な配合の確認を、小兄が引き受けて下さったものですから」
 「つっつ!」
 「さすが、小兄だなと」
 王の前に座った香も、同じ風に茶を堪能して後。
 真っ向から王を見詰めてきた。
 「大兄。我は、小兄と大兄の間に何が起こったのか、詮索するつもりはありません。ですが、
  もし。今調合されている漢方が小兄の専用の物であるのならば、どうぞ。今少し、身体を
  大切になさって下さい」
 「そうも、いかぬある」
 「……大兄が、小兄の為に無理をされていると知ったら、小兄は悲しみます。それに、
  せっかく大兄が調合して下さった漢方を、受け取らない可能性も出てきます。 自分の為
  に無理をなさる大兄から贈り物を受け取れる権利がございません、と言って」
 短い間とはいえ、菊と香は一緒に暮らしていた頃もある。
 国的には主従の関係にあったが、二人の関係は実の兄弟よりも仲睦まじかった。
 王よりも余程、お互いを分かり合って尚且つ、素直に受け入れている。
 当時は勿論今でもそうだ。
 王と菊も、恐らくこれ以上はないくらいに解り合っているのだが、お互いの性格が災いして
上手に受け入れる事ができないでいる。
 国同士の微妙な関係を除いても、尚超えられぬ深い溝のようなものがあった。
 更に、王は先日。
 取り返しのつかぬ事を仕出かしてしまったのだ。
 「それでも、我は作らねばならぬのだ。菊に、あの。悪夢を忘れさせてやりたい……」
 「大兄……」
 ボヌフォワの口車に乗せられて、菊を輪姦する一員としてその非道に参加した。
 王が提供する漢方がなければ、もしかしてその悪戯はなされなかったかも知れぬと思えば、
頷いてしまった過去の己を刺し殺してやりたいくらいだ。
 繋がりもせぬ、一方的に快楽を与えただけの王は例外的な存在で、他に狂宴参加した輩
の大半は、本格的な性交渉に及んでいた。
 数百年前には随分と奔放な真似もしていた菊だったが、昨今はそれも改めて、実に禁欲的
な存在になった。王の知らぬ所で色々とあったのだろう。



                                    続きは本でお願い致します♪
                                  追い詰められていて書いたので、
                         本編や他のコピー本との時系列が混乱しており、
                                       読み返すのが怖いです。
                                                   ひー。



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