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  らしくねぇなぁ。



 
「おーい。ハーク」
 ぼんやりと母親の想い出が一杯詰まった遺跡を眺めていたら、この世で一番嫌いな男の声
がした。
 「俺が、ハークと呼んで欲しいのは、菊だけだ」
 更には、自分を愛称で呼ぶ、その無神経さ。
 「んぁ? フェリシアの坊やも確か、そう呼んでるぜぃ」
 「フェリは……いい子だから。っていうか、誰が呼んでもいい、けど。お前だけは呼ぶな。カル
  プシ殿と呼べばいい」
 幼い自分を育ててくれた。
 その感謝の念が全くないかと言われれば、そうでもない。
 大好きな菊のように優しい存在だったらきっと、心の底から素直に慕っただろうとも、思う。
 ただ、カルプシを育てていた昔。
 アドナンはとても、凶暴な存在だった。
 そして、男とは、国の象徴とはかくあるものだ、と言って。
 幼いカルプシの前でも遠慮なく、残忍な所業を見せ付けた。
 基本的に子供好きで、実の父親でもこうはいかぬだろうと、甘やかしても貰ったが、そこだけ
が許せなかった。
 育って後は、仕方ないのかもしれないが、何時まででも子ども扱いする。
 独立したのも、アドナンに対等な存在になったのだと、理解させたかったからだ。
 最も、それは無理な事なのだと、気がついてからは反発するしか出来なくなってしまって、
久しい。
 「では、カルプシ殿」
 「なんだ!」
 「俺は、近くお菊さんの所へ行くつもりだぜぃ。おめぇさんも一緒に行きてぇんなら、連れ行って
  やってもいいんだがねぃ」
 「お前は、行くな」
 「そういう、おめぇは?」
 「……余計な事を、聞くな」
 カルプシは、見ている者の眉を顰めるような大きい溜息を吐くとまた、遺跡を眺め始める。
 「ったく、らしくねぇなぁ」
 いきなり脳天に、どごっと、拳が振り下ろされた。目の前に星が飛び散って落ち切った頃に、
やっと。
 壮絶な怒りが湧き上がってきた。
 「……アドナン、殺す」
 「お子様如き相手にするのも面倒なんだがねぃ。それでも、ハーク。お菊さんがあれだけ、
  落ち込んでいらっしゃる、理由が。おめぇさんにあるって言うんなら、その首。今すぐ掻っ
  切ってやるぜぃ?」
 一切の予備動作なく抜き取られたシャムシールを言葉どおり首に押し当てられる。
 無論されるがままになっているカルプシではない。
 狭い場所で使う、切れ味抜群のダガーで迷う事無く急所を狙うが、呆気なく突き出されたマ
ンゴシューによって妨げられてしまった。
 そう。
 カルプシのナイフによる接近戦の師匠はアドナンなのだ。
 計画を練っても倒すのは難しく、隙を見せるのを狙って倒すのは更に難しい。
 それこそ奴が菊にでも気を取られている状態でなければ無理だろう。
 最も、菊に何かあればカルプシも冷静ではいられないので、成立しようもないケースなの
だが。
 「やっぱり、おめぇさんも。お菊さんに仇なした一人なのかぃ? 信じたかぁ、なかったねぇ」
 「っるさいっつ!」
 アレ、が菊を悲しませる行為だったなんて、よりによってこの男に指摘されるまでもなく自覚
している。
 ハークとて、信じられない。
 信じたくもない。
 何故、誰より何より大好きな菊に、あんな無体を強いてしまったのか。
 そう、好きだから。愛しているから。
 して、しまった。我慢が出来なかった。
 もぉ、限界だった……。
 だが、愛を囁けば許されるものでもない。
 例え、恋人であるボヌフォワがそれを許したのだとしても、菊が許してくれた訳ではないのだ。 
 甘く蕩けてくれた身体だったけど。
 辛そうに閉じられた目の端から零れ落ちた涙の、切なさが忘れられない。
 思い出せば恥ずかしげもなく下肢が熱くなって、奴に悟られないように武器をしまいながら、
腹を抱えて丸まった。
 「……へぇ。よりにもよって、レイプ? あの、潔癖なお菊さんに、レイプたぁねぇ……こんの、
  外道!」
 しかし、付き合いが長い上に目敏いアドナンの目から、こんな顕著な反応を隠し通せる筈も
ない。
 「しかも、そんなに、興奮しちまってなぁ? どれだけ良かったのかねぃ? 無理矢理犯した、
  あの人の身体はっつ!」
 「フランシスが、良い、と言った。約束を、守れるなら、抱いても、良い、と言ったんだ!」
 「はん! あのクズが何を言おうがねぃ? お菊さん本人が良しとしなきゃあ、意味ねぇコトだ。
  違うかぁ?」




                                      続きは本でお願い致します♪
                           相手が菊だと慣れてきたサディクさんですが、
                ハーク相手となると、またしてもべらんめぇ口調が……。
                        ベールさんとサディクにはしみじみ泣かされますよ。



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