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 Pure Love



 もし、今の時代にまだ、ハレムが存在していたのなら、俺は。
 愛しいこの人を広大なハレムに唯一人、据えていただろう。

 「サディクさん。何を考えていらっしゃるんです?」
 「そりゃ、俺なんざの考える事といっちゃあ、決まってますぜぃ。お菊さん、あんたの事でさぁ」
 綺麗な、綺麗な。
 稀有な存在。
 血で血を洗う日々を後悔してはいないが、なかったことにしてしまいたくなる。
 この、血塗れの手では本田を抱き締めることなぞできやしない。
 「おや、まぁ。嬉しい事」
 くすくすと声を立てて笑う様は、本田にしては珍しい。
 何時だって笑顔武装が標準装備のお人だ。
 そのアルカイックスマイルと呼ばれる物が、アドナンに向けられる事は、屈託ない笑顔を拝見
する数より、ぐっと少ないからありがたいのだが。
 「いえね? まだ俺の国にハレムなんてモノが存在しておりやしたらね。アンタを一人、囲って
 おけたのになぁと思っていやしたよ」
 「ハレム、ですか」
 ふむ、と何やら考える風情をしている。
 日本にも大奥と呼ばれる物が存在した。
 想像は容易だろう。
 「ええ。そこには入れる男は俺だけ。他はアンタの面倒を見る女官のみ。他の男の目になぞ、
  触れさせやしない……あんの、クソガキとか」
 「……本当貴方は、ハークと仲が宜しいですよね」
 「はぃぃ?」
 って言うか、お菊さん。
 何時の間に、愛称呼びですかい?
 「だって、心底嫌っていたら、基本的に話題に乗せたくはありませんよ? ほら、私における
  北の方なんかが、そうですね」
 北の方。
 冬将軍に愛されている大国のイヴァン・ブラギンスキ。
 本田に徹底的に嫌われているが、彼はどうにも本田が好きらしい。
 同じ態度を取られたら間違いなく凹むだろう拒絶にも飄々とした風情を保っているブラギンスキ
だが、時折。
 あの独特の紫眼で本田を、食い尽くしそうな勢いで見詰めている。
 正直あれに、そんな激しい感情があったのかと思う。
 烈火の恋情だ。
 似た目を。
 欲しがる眼を。
 自分がしているから、よくわかる。
 「それに、クソガキって表現がそもそも。優しいですよ」
 「ですかぃ?」
 我ながら結構手をかけて育ててやったつもりだが。
 何だってあんな、反抗的な奴になっちまったんだか。
 普段はお近付きになんざなりたくもねぇが、子育て失敗談をカークランドの奴としてみたい時が
ある。
 極々マレにだがな。
 カルプシとジョーンズが本田にベタ惚れな辺りも。
 カークランドとアドナンが同じく本田にめろめろな辺りでも話ができそうな気がする。
 そう。
 あのクソガキは、お菊さんに懐きまくりやがるのだ!
 本田は、それこそもう慈愛に溢れた眼差しで、穏やかにあいつを受けれる。
 そこに、恋情はないと知っていても腹が立つのだ。
 お菊さんの、膝枕は俺だけのものだぜぃ!と、断固主張したい。
 「でも。ハレムは憧れますね」
 「へぁ?」
 自分で振っておいて何なのだが、そんな返事があるとは想像できなかった。
 「だって、貴方以外の人と関わりを持たなくて良いんでしょう? 私はご存知のとおり鎖国が
  長かったですからね。何の心配もしなくとも三度の食事が用意されて、サディクさんの所
  なら、お風呂も充実してますし。それで、後はもうパソコンでもあれば」
 本田は、それはもう目が眩みそうな勢いで華やかに笑った。
 「喜んで、貴方のハレムの住人になりますのに」
 「お菊さぁん」
 「ネットは繋ぎたいですけど。駄目ですよね?」
 「ですね。けど、欲しいモンなら俺が全部手配しやすぜ?」
 「ふふふ。私も所謂オタクですからねぇ。好きな相手にあまり知られたくない嗜好もあります
  し。全部をお願いは出来ないでしょうから、やっぱり無理なんでしょうね」
 「ネックは、そこだけなんですかい!」
 聡明なこの人がまさか。
 ハレムの本来の意味をわかっていないとは思えないのだが。
 「そこだけですよ? サディクさんが私に誰の手も届かぬ楽園を提供して下さると言うのなら、
 こんな穢れた身体で宜しければ、誠心誠意を込めて、ご奉仕致しますよ」
 首を傾げた彼は、一転して毒々しいまでの微笑を浮かべてしまった。
 「……すいやせん」
 「謝る事はありません。私の身体が汚れ切っているのは、現在進行形で、致し方ないことです。
  恥じる誇りすら、砕かれて久しい」

 



                                    続きは本でお願い致します♪
                      ちょっとずつではありますが、サディクさんの口調が
                           慣れてきたような気がしないでもありません。
                 ベールさんに比べれば、まだまだ楽なことに気がつきました。




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