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  Prayer U アルフレッド・ジョーンズ




 長く片思いをして。
 散々彼女を傷つけた挙句に、ようやっと。
 手に入れた恋人は、とても。
 優しい。
 自分にだけ、格別に、優しい……けれど。

 「あ! や、や、あや、やあっつ!」
 SEXの最中、否定の言葉が多いのはお国柄どうしようもないらしい。
 自分よりも遥かに長い生を紡ぐ彼女に、ましてやジョーンズとのSEXに溺れきって己をコント
ロールできない状態にいる菊に、否定の言葉を使うのは止めてくれ! と言っても簡単に直る
ものでもなかった。
 それだけが、気にかかっている事だったのならば、それこそ側に居る時は四六時中囁いて、
強引に変えさせてしまったかもしれないが、ジョーンズにはもっと。
 ずっと気になって仕方ない事があるのだ。
 「ねぇ? アルっつ。あるっつ。あるふ、れっど。お願い、おねがい、ですから。もぉ、イって。
  出してっつ!」
 「えーぇ。駄目だよ! 菊ってば、ちっとも、イってくれないじゃんかぁ」
 「です、から。わたくしっつ。中イけは……できない、体質なんですって、ひ、うっつ!」
 こんな時ニ決まって紡がれる言葉に腹を立て、彼女が感じ過ぎる箇所を容赦なく突き上げる。
 「毎回、こんなに頑張ってるのに、どーしてイけないのさっつ!」
 そういう体質の女性がいるとは聞いていた。
 女性は演技が上手だから、本当は中イけしてしなくてもイったふりをするなんて話も知識と
しては知っている。
 しかし、菊以外に抱いてきた本国の女性は必ず達してみせたし、ただ単純に突き上げている
だけでも絶頂を繰り返したり、潮を噴いたりしたものだ。
 不感症というならまだしも、それ以外の部分では過敏な性質の菊が、中での絶頂が無理だ
何てありえない! と、ずっと思っている。
 「すみまぜっつ! ごめんなさっつ!」
 ジョーンズの突き上げに合わせて必死に腰を振り、中を締め付けてもくるのだが、あのイく
直前の収斂は一向に見られない。
 初めての時からゴムなんてつけた事がないし、それがわかる程度には場数を踏んできた
から、女性がイく瞬間を見逃す事もないはずだ。
 「ねぇ? どうして駄目なの。イけないの?」
 「私が、私が悪いのです! 壊れた、身体なのです。心も、壊れて、いるのかもしれません。
  ごめんなさい……」
 心と身体が壊れている、とまで言われてしまえば結局、ジョーンズは沈黙するしかないのだ。
 ジョーンズは一度、菊の身体を完膚なきまでに壊している。
 今でも時折、菊と親しい奴等に責められるくらいにそれは、無残なものだった。
 医療大国と謳われるルートヴィッヒの力を借りて、最先端の医療技術でもって、彼女の身体
にその時の傷は一片足りとも見出せないけれど。
 心の中まではわからない。
 菊はどんなに懇願しても言ってはくれないが、ルートヴィッヒやその兄のバイルシュミットには、
己の心が歪んでいるといった類の相談もしているようだ。
 彼の持つ医療の技術が秀逸なのは認めるが、アメリカにだって有能な精神科医は幾らでも
いると言うのに。
 ジョーンズに相談できないというのならば、彼彼女等に直接相談してくれてもいいのに。
 最も、菊に関する事であれば全て。
 ジョーンズの手元に来るように完璧な手配はしているから、ジョーンズに隠れての相談は
不可能なのだけれども。
 「まぁ、良しとしなきゃ駄目なんだろうね? あいつに、相談を持ち込まないだけマシってもん
  だ」
 「……あ、る?」
 ジョーンズの言葉に、己を責めるのとは違う責めの色を感じ取ったのだろう。
 菊は何時見ても吸い込まれそうな真っ黒い瞳に、不安そうな色合いを乗せた。
 「俺と、してる最中に。そんな顔、しないでよっつ!」
 「ごめんなさいっつ!」
 すみません、ごめんなさい、私が至らないのです、申し訳ありません、と。
 仕事から離れれば幾らか落ち着くが、それでも彼女はジョーンズに対して謝罪や己を咎める
言葉を多く使う。
 己を卑下するなと言い続けたので、随分自分の意見を言うようにもなったのだが、ジョーンズ
には到底物足りないレベルだ。
 大きく息を吐き出すだけで怯える菊の額に極力優しいキスをしてから、気がつけば止まって
いた腰振りを再開する。
 今度は菊の事を考えずに己が達する為だけの動きだ。
 菊の全身から力が抜け、小さく安堵の溜息をつかれるのが堪らなく物悲しかった。
 イくよ、とも告げず。
 彼女の中に三度目の射精をした。
 スペルマを搾り尽くそうとする彼女の動きは逸品だ。
 そこに身体の反応だけでなく、心が伴ってくれればいいのにと唇を噛み締めながら一度、
奥を突き上げた。
 途端、追いついてはこれない彼女の中が一瞬だけ緩み、繋がった場所からスペルマが一筋
伝う。
 慌てて彼女の手がティッシュボックスを求めるのを、手首を掴む事で制して、自分でティッ
シュを取って繋がっている部分に押し当てながら、ゆっくりとペニスを引き抜いた。
 三度の射精でも衰えないそれは、菊に言わせれば、お若いですねぇ、という事になるのだが。
 ジョーンズにしてみれば、満たされない証でしかなかった。
 本当はまだまだ繋がっていたいのを、ぐっと堪え。
 簡単に己の始末をつけてから、菊の足首を高く持ち上げる。
 「や! アル君っつ。自分でっつ、自分でできますからっつ!」
 「嫌だよ。俺達は恋人同士なんだから。これぐらいさせてよ」
 恋人同士、という表現を使う都度、胸が痛む。
 そう言った所で菊の表情は変わらない。
 基本彼女は完璧に自分の感情を殺した、ものやわらかな微笑を浮かべている。
 だからこそ、余計に。
 これが前の男だったら。
 無理に別れさせた、あの。
 フェリシアーノ・ヴァルガスが相手だったら、きっと。
 ジョーンズが望む反応を返すのだろうと思えばこそ。
 菊の下腹を優しく擦れば、早々に諦めた彼女は、しかし羞恥の色も濃く下腹部に力を入れる。
どんだけ出せば気がすむんだよ! と自分で突っ込みを入れたくなる量のスペルマが、どろり
と溢れ出る。
 新しいティッシュを何枚も消費してどうにか綺麗にすると、彼女の背中を抱えて丸くなった。
 次の日に帰国すると決まっていれば、三度以上の射精はしない。
 それ以上してしまうと帰国が心底嫌になってしまうからだ。
 最も帰国を取り止めにした所で菊が嫌な顔をすることはない。
 変わらぬ笑顔を張り付けたままジョーンズが喜ぶ事をアレコレしてもくれる。
 だが、それを実行してしまうと彼女は、ジョーンズの上司から酷い叱責を食らうのだ。
 しかも、ジョーンズの目の届かない所で執拗に。
 ただでさえ懐いてはくれない愛しい人だ。
 だからせめて、自分以外の誰からも責められるような事態を招きたくはない。
 他ならぬ菊を思ってジョーンズは、己の我が儘を引っ込めるのだが。
 その心遣いが菊に届く事はなかった。




                                    続きは本でお願い致します♪
                                冒頭から不憫フラグが立ち捲くり。
             しかも、この先どんとんと不憫というか不幸になってゆくアルです。
                                   でも、さ。
                                            仕方ないんだ。
                                    この本はフェリ菊本だから!




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