喰らいつくす
「先生っつ!せん、せっつ」
ノックス先生の家。
寝室だというにも関わらずどことなく香る薬品の匂いと、全身が包み込まれるような濃厚過ぎ
る煙草の匂いに、くらりとした酩酊感を覚えながら、自ら挑んだ騎乗位で腰を振りたくる。
「ボウズ……も少し、加減しろ。俺はお前さんのように、若かぁねーんだ」
「嘘吐き、ですよね?若くないなんて……この硬さで」
私の中を深く穿つ肉塊は、十分な硬さで以って奥深くまでを突いてくれる。
同じような年代の相手を複数こなしてきたが、こんなにも硬く私を満足させてくれる相手は
誰一人としていなかった。
それは向こうさんの欲望を、ただ強引に受け入れさせられた攻め勝手なSEXだったというの
は、十分にあるだろうけれど。
私が相手の全てが欲しいと望んでの行為でなかったという、何より精神的なものが左右して
いるのは解り切っている。
「そりゃ、坊主が。きゅんきゅん締め付けて、萎えさせてくれないからだろうが……こっちはア
ナルSEX初心者だってーのに」
「そうなんです?奥様がいらした方が」
「……ってーか。夫婦でも。や、夫婦だからこそ、普通のSEXに甘んじるんじゃないんかね」
にゅぷにゅぷんと絶え間なく続く淫らこの上もない、交わりの音に紛れるようにして、先生の
声が聞こえた。
優しい先生だから、きっと。
今こうして私を受け入れてくれるとの同じような感情で、奥様を尊重するSEXをされていた
んだろう。
「……おい!締めすぎだ」
嫉妬のせいか、無意識に力を入れてしまったらしい。
ふ、と肩から息を抜いて、先生を見下ろす。
苦しそうに眉根を寄せて、眉間にはくっきりとした皺まで刻んで。
私の動きに合わせるようにして、突き上げてくる様は。
SEXに手馴れた既婚者の、それ。
ただ犯されるだけの行為に慣れた私の身体は、自分を尊重してくれているのだと感じて驚くほ
どの過敏さで、我ながら手を焼く。
「お前さんの身体は……犯罪的だな、マスタング。こんなに良すぎてどうしようってんだ?」
「相手が、先生だからですよ」
「ふん。よく、言う」
ぬちゅっと普段決して犯されない個所にまで肉塊が届いた。
「あ!はぁ……ホント、です……」
格別に、大きいとか、長いとかではない。
ちゃんとに剥けているし、年齢を考えれば標準以上の硬さを保ってはいるけれど。
たぶん、私側の問題なのだ。
欲しいと望む唯一の相手だからこそ、本来受け入れるべき場所でないはずのそこから、とろ
とろと蜜が溢れる。
より深い場所まで迎え入れようと、意識せずとも身体が変化してしまう。
「っつも!こんなに深いトコまで……届かない、から」
「俺も一応医者だからなぁ。人の身体についてはそこそこ知ってるつもりだが……ここ、が。
こんな風に蕩けるなんてコトまではわからんよ」
「イイですか、先生?」
私の、身体は。
貴方を欲しがって、焦がれる私は、嫌じゃないですか?
「お前は、どうなんだ、マスタング」
ん?と重ねて問われる側から、腰を突き上げられる。
一番奥深い、たまらないトコロに。
先生の先端が、ちょんちょんと掠めた。
腰に派手な震えが走る。
「イイです。すっごく……気持ちいい、です」
「なら、俺はきっと。それ以上に、イイだろうよ」
不意に伸びてきた腕が首の後ろを掴んで、ぐいと引き寄せられた。
貪るように触れてくる口付けの熱心さは、演技ではないと知れて、嬉しい。
そんな風に演技なぞしてくる人じゃないとわかっていても、この人は私より嘘を付くのが上手
いのだ。
イシュヴァールの地獄。
この人の突き放すような、優しい嘘に幾度救われたかしれない。
「センセ?も、出して……中に、奥に。先生しか知らないトコに……たくさん…かけて下さ
いっつ!」
「……お前さん、どこでんなセリフ覚えてくるんだ?」
「いや、ですか。気に、いらないです?」
「んなこたぁねーけど。焼けるんだぜ、俺だって、よ」
自ら腰を上げて押し付けるタイミングを絶妙に見計らって、突き上げて貰って喉の奥。
ひ!と、という情けない声が漏れる。
「焼けちゃあ、悪いんか」
「……いえ、嬉しい、ですよ」
貴方とするSEXだけがイイ。
他は皆どうでもいい。
むしろ、貴方とだけしていたいのに。
今の私にそれは許されるものでもない。
閣下が自ずから指揮を取っての高級娼婦だ。
今だ私を欲しがる将軍連中がいるというのも、恐れ入るが。
ただ単に能力では及ばないから、そんな部分で見下して征服した気になりたいのだろう。
心の底から馬鹿な、奴等だ。
奴等に抱かれるのに甘んじるしかない自分こそが、更に愚かなのだろうけれども。
私には、この人がいる。
いて、くれる。
私は誰にでも犯されるけれど。
先生は私しか抱かない。
「お前さんとする度に、俺は色々と搾り取られてる気がするよ」
お互い心から相手を望んでの行為。
溺れない方が、難しい。
「搾り取ってますよ。貴方が私以外に目を向けないように」
「淫乱なお前さんの相手で手一杯だよ、俺は」
口では何だかんだ言っても、私を満足させるまで挑んでくれる先生だ。
一体いつ、そんなに身体を鍛えているのかと思う程度に、鍛錬の施された体。
やっぱり鑑定医に体力は必需品なのだろうか。
監察対象に引き摺られない、強い精神力は必要だと常々思っているけれど。
「センセ。大好きです」
「……何時になっても、ガキで困るな。女たらしの名前が泣くぞ」
「先生……?」
「ああ!もう何だってんだ。はいはい。愛してるぜ。それなりに」
それなりに、とは。
また、先生らしい。
「私は、めろめろですよ。大好きです……大好き」
「この年で、青春なんざする気はねーぞ。ったく」
憎まれ口を叩きながらも、硬直の動きは激しくなる一方だ。
私の恥ずかしい口を塞ごうと。
己の照れを見せないように。
「も、たくさん……出して」
「たくさん、は。無理だがな。出して、やるさ」
お前さんが、幾らかでも、満足するように。
耳朶を噛まれながら、低く、注ぎ込まれた声音に。
私は一足先にいってしまった。
「締めすぎ、だ……ロイ」
滅多に呼んではくれない名前に、またしても身体を震わせる。
射精と中でと立て続けにいった淫らな身体に、ようやっと屈したのか。
体内が熱い液体で満たされた。
そのまま先生の胸の中、倒れ込んだ私の腰を支えながら、無骨な指先が額の髪の毛を掻き
上げる。
露になった額の上、照れたように目を細めて、口付けを一つくれた。
END
*全くマスタングに付き合うのは大変だよ。とか溜息をつきながら、
せっせと密かに筋トレをしている先生を一人想像して、悶えました。
色々と先生にはドリームが入っているようですよ。