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  Natural




 「……起きろ、菊」
 「はい……今、起きまふ」
 「まふとは、なんだ。まふとは!」
 「ひゃい……ふみまへ……」
 「……ここまで、菊の寝起きが悪いの知ってるのは俺だけ、なんだろうけどなぁ」
 そう思えば、腹も立たないカークランドではあったが、散々昨晩は攻め苛んだ。
 もぉ、許して、と漆黒の瞳を華やかに潤ませて許しを請う本田に、深い欲情を覚えてなかなか
終わらせてはやれなかったのだ。
 何時もの事とは言え、我ながらこの自制心のなさはどうなのか?と思うのだが、本田が可愛
すぎるのがいけないとも思う。
 時間的には随分と余裕があった。
 まだ寝かせておいても問題はないのだが、せっかく作った朝食が冷めてしまうのは頂けない。
 カークランド以上に本田は、出来たて、が大好きだから。
 「ほら……朝食が、冷めてしまうぞ」
 「あさごはん、できたて?」
 「ほかほかだ」
 「じゃあ、おきない、おきないと……できたて、じゃなくなっちゃうねぇ」
 薄目を開けながら、首を傾げられた。
 これはあれか。
 朝からカークランドを試す試練なのか。
 愛情か?
 本田が望んでも、望まなくても四六時中抱き合っていたいカークランドとしては、このまま
押し倒した方が楽しいのではあるが……。
 「仕方ないか……」
 はぁ、と大きな息を肩でつくと、カークランドは本田の額に掛かっている髪の毛を掻き上げた。
案外とでこっぱちで、こうすると童顔が更に幼く見えるのに自然、微笑を浮かべながら、額に
唇を押し当てた。
 キスが苦手で、かのヴェネチアーノからのハグ付、マウストゥマウスを逃げ出すほど恥ず
かしがり屋の本田が、どうにか人前でも受け入れるキスが、額へのキスだ。
 まぁ、西洋では日常的な挨拶だ、というのもあるかもしれない。
 日本では基本。
 キスは人前では慎むべきもの…という古くからの慣習があった。
 ここ十年ほどで、特に若年層は道端でのキスにも抵抗がなくなったと耳にもするが、全体的
にはまだまだ。
 人前でのキスをむしろ恥と見る傾向は強い。
長くを生きている本田に、いきなりその慣習を変えろと言ってもこれが、難しい。
 かなりの柔軟性を持つ本田だが、時に驚くほど幼い依怙地な面も見せるのだ。
 事、性的な羞恥にはかなり抵抗があるらしく、恋人である俺にですら簡単には額以外のキス
を許さない。
 ま。
 こうやって、二人きりの時は別格だがな。
 額へのキスは公衆の面前では挨拶だが、二人きりの時は、これから恋人同士の時間に、
突入するぞ?というカークランドの意志表示でもある。
 そう、慣らした。
 カークランドは傍から見ればかなり人の悪いだろう笑みを、口の端に刻みながら本田の額の上。
 少々長いキスを落す。
 まだ半分眠っている本田の体温は高めで、カークランドの唇を優しく刺激する。
 そのまま、鼻筋を通って擽ったそうに肩を竦める本田を十分に堪能してから、唇へ。
 薄く開かれたそれは、キスを受け入れる意志があるという事。
 少し薄目の、しかし弾力に富んだ感触を楽しんで、そのまま顎から首筋へ攻略を始めようと
する段になって、本田の意識がはっきりしてしまう。
 「おはようございます、アーサー」
 耳の裏をやわらかく刺激しながら、額へのキス。
 本田からのキスは決して多くないが、こうして。
 カークランドの行動を戒める時には、惜しみないのが悔しい今日この頃。
 「何だ。起きたのか。あと少し、だったんだけどな?」
 首筋から鎖骨へのキスまで進めてしまえば、快楽に弱い本田の体は、朝一番であろうとも
たやすく陥落してしまう。
 連泊の時は、そうやって朝から睦みあう事も多いが、今日はそうならなかったようだ。
 何しろ今日は本田にせがまれて、大英博物館に行く予定を組んでいる。
 本田曰く、あんなに素敵な古物がタダで見れるなんてイギリスだけです!と大絶賛。
 イギリスを訪れる際、余程タイトなスケジュールでなければ、必ず立ち寄っている場所だった。
 「現時点でも、少し。足元に自信がありませんのに。これ以上…した、ら……腰が砕けるかも
  しれませんし」
 「博物館散策は足腰使うからな」
 「はい」
 神妙に頷く本田に、自分でも驚くほどの愛らしさを覚えてしまい、もう一度。
 額にキス。
 挨拶にしては情愛に溢れすぎたそれを、本田は明確に感じ取る。
 震える睫に込み上げる欲情を抑えるのは、思いの他辛かった。
 「じゃあ、紅茶を淹れるから、先へ行ってるぞ」
 だから。
 離れ際の挨拶が、素っ気無かったのは許して欲しい。

 「うわー。今日も美味しそうな朝ご飯ですねぇ」
 イギリスの食事はとにかく美味しくない!と言われ続けて久しいが、探せば本田好みの食材
や食事は幾らでもあった。
 それはテーブルの上を見た、本田の嬉しそうな顔を見れば一目瞭然というもの。




                                    続きは本でお願い致します♪
                             キスがテーマのコピー本シリーズ発動。
                            お次のお相手はです。ツヴィンクリさん。




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