メニューに戻るホームに戻る




  泣きつかれ、踊らされる。
  It is entreated, and it is made to dance.


 
洗濯物を畳む本田を横目で見詰めながら、ぽち君を構い倒していたバイルシュミットは、ふと
思い立って口を開く。
 「菊。新しい茶、淹れてくれ」
 笑顔で会釈した本田が、バイルシュミットが好きな熱々のほうじ茶を入れてくれる。
 湯飲みは勿論、黒地に鮮やかな椿が描かれているバイルシュミットが旅行先で購入して
以来のお気に入りだ。
 「……ぽち君は、ちょっと席外してて貰えるか?」
 ぽち君を目線まで抱き上げて首を傾げれば、飼い主同様空気を読むのに長けた犬は、
きゃわんと一鳴きして、畳の上に置いた途端に走り出して行く。
 バイルシュミットは無言で、湯飲みを抱えて、ごっきゅんと一口飲み干して、天井を仰いだ。
 「お前、さ。一体何時までアーサーと付き合うつもりなんだ?」
 少し前から気になりだした質問を口に出す。
 らしからぬバイルシュミットの様子に本田は居住まいを正し、にっこりと笑いながら答えて
寄越した。
 「彼が私に飽きるまで。お付き合いさせて頂く心積もりでおります」
 「マジかよ!」
 「お嫌です?」
 「嬉しくはねぇなぁ」
 こいこいと手招きをすれば、四つん這いのままでそろそろと近づいてくる。
 食の割には華奢な身体を膝の上に抱え上げれば、本田は着物の裾を捌きながら、彼の首に
腕を回した。
 すりすりと頬擦りしてくる、甘えた仕草に目を細めながら、バイルシュミットは大きく息を吐き
出した。
 「だって、あいつがお前に飽きる日なんて、永遠にこねぇからな。ってーコトは。永遠に奴と
  付き合うってコトだろう」
 「そうなりますねぇ」
 「何だ、その他人事状態は」
 柔らかな本田の頬を、うにーっと引っ張ってやる。
 年を考えても弾力に飛んだ彼の頬は指に心地良い。
 そのまま感触を楽しんでいると、本田は苦笑してバイルシュミットの手の甲に、その掌をあて
てくる。
 「ちゃんと自覚はしています」
 「ほんとかよ? とてもそうは見えない面で、物言いだぜ!」
 「ええ。アーサーも。貴方も。等しく、愛しておりますよ」
 「アレと同等ってか」
 「ご不満です?」
 「ああ。元々俺だけのモンだったのによ、ってー感情は強いぜ」

 あの日の事は忘れられない。この先もきっと。
 
 ひとしきり抱き合った口で、そこだけが奇妙に赤く見えた唇が囁いた言葉を。
 『ごめんなさい、ギル。私、先日。アーサーさんと寝ました』
 耳を疑ったが、本田がカークランドに弱いのは、知っていた。
 きっと奴のツンデレ猛攻に押し切られた一度だけの関係だと思ったのだ……けれど。
 『今後もそういうお付き合いを、続けさせて頂くつもりです』
 きっぱりと言い切られて、愕然とした。
 本田はバイルシュミット同様、浮気は勿論、二股、三つ巴を許さない性質だと信じて疑わな
かったから。
 『お前、俺がそれを許すと思ってんのかよ』
 『ええ。貴方は懐が広い方ですから、アーサーさんを抱え込んだ私ごと、愛してくださる
  でしょう?』
 バイルシュミットの愛を信じて疑わない真っ直ぐな瞳。
 そこで、駄目だといえなかった時点で、負けは確定していたのかもしれない。
 本田らしくもない傲慢な笑顔は、しかし、バイルシュミットを捉えて離さなかったのだ。

 「今でも私は貴方だけのモノですよ。精神的には間違いなく私。アーサーさんに対しては
  攻めですもの」
 「おいおい!」
 「だって、あんなに可愛く泣く人を捨てられる訳ないでしょう? 貴方だって、わかってます
  よね。あの人がどれだけ不憫な方か」
 本田の腕に縋って、ほとほとほとと泣く奴の姿を何度も見たことがある。
 カークランドは知らないだろうが、本田はそうして、カークランドの弱い面をバイルシュミットに
見せ付けることで、庇護欲を刺激しているのだ。
 よく不憫属性と、一緒のカテゴリに分けられる二人だが、その性質は全く違う。
 バイルシュミットは本田を泣かせることは出来るが、本田の前で泣くことはない。
 カークランドは本田の前で泣くことは出来ても、本田を泣かせることはできない。
 だからこそ本田は、バイルシュミットだけでは、埋めきれない部分をカークランドで埋めて
いるのだろう。




                                    続きは本でお願い致します♪
            大体サンドイッチを書くと、菊さんの心がどちらかよりになるのですが、
             今回は珍しく、どちらも菊さん的には均等に愛している風合いです。





                                       メニューに戻る
                                             
                                       ホームに戻る