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  もう、許さない。



 「……っつ」
 覚醒は不意で、最悪だった。
 「頭っつ、痛いっつ」
 慢性胃痛と同じくらいに悩まされている偏頭痛の痛みに似ているようで違う頭痛は、長くを
生きる本田でも指折って数えられるほどしか経験がない。
 「ああ、何で……また、イヴァンさん?」
 何で今更と自分でも不思議に思うが、現在。
 本田はブラギンスキと公には出来ない関係にある。
 極々一般的な表現をすれば、恋人という関係だ。
 執拗に請われて求められて縋られて陥落したのは、まだ三ヶ月前。
 後悔を口にしてしまう事が多い本田が腹正しいのか、元々がそういった性質なのか、ブラギ
ンスキは実に嫉妬深い恋人だった。
 「こんな事をしなくても、私は。逃げも隠れもしないのに」
 ふぅと深い溜息をつくと、また酷い頭痛が襲ってきた。
 これは全身の力を奪う特殊な薬を投与された副作用による頭痛なのだ。
 恋人になってまだ日も浅いというのに、既に二度。
 こういった薬を盛られている。
 ブラギンスキ曰く。
 だって菊君。
 こうでもしないと僕から離れようとするんでしょう?との事。
 後悔は常に抱いているが、自ら手放すほどに温い執着ではない。
 幾ら求められたからといって、逃げ道は数多あった。
 それを選ばずに彼を受け入れた時点で本田なりの深い情愛があったのことなのだと。
 どうしてわかってはくれないのか。
 「異国の方は難しいですね……」
 特に愛の言葉など、日々囁く物でもないという慣習がある。
 言葉にしなくともお互い感情を読み取れば良いという、相手に甘えきった愛情の表現に親しん
で久しい。
 長く鎖国をしていた本田に取って、一番近くにいてくれた存在が、そうやって何時でも本田の
言いたい事を、言葉にしなくとも感じ取ってくれたから。
 未だに甘やかされたその癖が取れないかもしれないのだけれど。
 「哥哥……」
 本田がただ一人、兄と呼ぶ相手。
 しかし今となってはもう、そうは呼べなくなってしまった大切な存在。
 幼い頃のように呼べば膨れ上がった感情が暴発しそうになった。
 堪える代わりに、涙が一粒ころりと転がり落ちる。
 「あいやー。泣くほど痛いのあるか?」
 「っつ!」
 幻聴かと声のする方を振り返れば、そこには今考えていた人が、茶盆を携えて立っていた。
 「頭痛に良く効く漢方を持ってきたあるよ」
 「……どう、して」
 貴方が、ここに居るんですか?という言葉は、余りにも当たり前に。
 昔のように頓着なく、こつんと額に額をあてられて口の中に消えてしまった。
 「ん?少し熱もあるね。解熱作用のある漢方も追加しとくある。でも、今はこれが先あるよ。
 あーん」
 随分と昔。
 それこそまだ、彼の腰辺りまでしか背がなかった頃。
 漢方が苦いと駄々を捏ねる本田に、何時だって王は、甘い甘い菓子を最初に与えてくれたの
だ。
 本田の為だけに作られた、一口大サイズの月餅。
 大人しく口を開けば、慣れた仕草で放り込まれる。
 外の皮は口の中かしょりと心地良い感触で崩れた。
 中は大好きな南瓜餡だった。
 「ん。これでよろし。さ、お茶を飲むある」
 「はい」
 手渡されたのは、本田が愛用していたガラスの茶器。
 桜の文様が透かし彫り浮んでいる逸品。
 飲み口はやわらかで、漢方特有の甘さが広がった。
 本田の好みを考えて、どこまでも飲みやすく改良してくれている、その優しさに。
 また涙が零れそうになった。
 「一体、どうしたあるか。今日の菊は、本当。泣き虫あるね」
 くすっと笑った唇が、そのまま目の端に止まった涙を吸い上げる。
 これもまた、懐かしい仕草。





                                    続きは本でお願い致します♪
                                  いきなり露日前提って!(苦笑)
                 書き出す前は何も全然そんな予定なかったんですけども。




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