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  めいぷる・ろーしょん



 隣に眠る、嘗てとても溺れた相手によく似た彼を、どうして選んだのかと思う。

 『ええ?まさか、本気だったの!俺にはアーサーが居るんだって、わからなかったんだ!』
 私を、愛しているのではなかったのですか?という質問への返答。
 若い彼に溺れてしまっていた当時は、何かの聞き間違いだと思ったくらいに衝撃だった。
 『一応責任を感じていたからさ。落ち着くまでのつもりだったんだよね、最初から』
 屈託なく笑われて。
 その罪悪感の欠片もない物言いに。
 二人の恋愛が本田の一人芝居でしかなかったのだと悟った。
 嬉しそうにジョーンズとの関係を話す本田を、何時もとは違う風合いで見守っていたヴェネチ
アーノとルードヴィヒの態度にようやっと得心がいって。
 カークランドが、何度も心配そうに『ジョーンズの奴は、優しくしてくれるのか?』と聞いてくれ
た、その本意を知った。
 感情に温度差が有り過ぎたのがショックで。
 それに気が付かない自分の浅はかさに呆れた。
 一人大人しく、昔の引き篭もり時のように傷心に浸ろうとしても優しい周りがそれを許してくれ
なかった。
 ヴェネチアーノとルードヴィヒは忙しいのに何度も日本を訪れては、たわいもない会話で慰め
ようとしてくれたし、自分を恋人に!と立候補してくれた方々も数人いた。
 優しい彼等の態度をとてもありがたいと思ったのだけれども。
 それまでと全く変わらずに接してくるジョーンズの態度に、深く抉れた傷口はぱくりと開いた
まま凍りつき、何も感じなくなってしまった。
 その頃だっただろうか。
 ウィリアムズが本田に、そっと近付いてきたのは。
 『本田君?オーロラ観光ツアーの明細見たいって聞いたんだけど……』
 ジョーンズに似た声で、全く違う口調で囁かれて、振り向いた顔は随分酷いものだったはず
なのに。
 『あ!驚かせちゃって、ごめんね?』
 ウィリアムズは、これもまたジョーンズに似た。
 けれど彼は決してしない、穏やかで人を労わる風な淡い微笑を浮かべて、謝罪してくれた。
 『いえ!こちらこそ!なんかとんでもなく不調法な態度を取ってしまって、すみません!』
 深々と頭を下げれば、大慌てで肩を掴んで起こされた。
のんびりとした雰囲気のある彼らしくない迅速さに、こう、思ったのは事実。

 ああ、この人は。
 私のペースに合わせてくれる優しさを持つ人だ、と。

 それを機に、観光に力を入れ始めたカナダと、カナダの魅力に引きつけられた日本は、
お国の為という名目を経て、会う機会を増やしていった。
 本田から訪れる場合もあり、ウィリアムズが訪れる場合もあり。
 日本に訪れる度に、彼は大きな目を更に大きく見開いて驚きの声を上げたものだ。

 『日本のコンビニって、すっごく綺麗だよね!』とか『どうして、日本はこんな細やかな物に
まで丁寧なラッピングをしてくれるのかな?これって、自宅用です!って言ったんだよ!』など
など。
 一緒に居て、嫌な感情を抱かなくてすむという相手は少ない。
 特に本田は元々が、人当たりはいいが懐にまで入れる相手は、徹底して選ぶ性質だ。
 ウィリアムズは、気が付けば懐に入っていた、そんな貴重な一人だった。
 友情が恋情に変わったのは、何時だったのか。
 本田自身もよくわからない。
 一緒に居て楽な人だな、から、もっと長い時間一緒にいられればいいのになぁ、とゆっくり
感情が変化していったから。
 自分が抱く感情が、もしかしたら恋執かもしれないと思い至った時。
 自分は彼を、ジョーンズの身代わりにしているのかもしれないと、認めたくなかった事実を
見据えねばならなかった。
 本田に優しいウィリアムズを。
 また、本田に人を好きになることを教えてくれた彼を、ジョーンズの身代わりになんかして
いるのかと思ったら、申し訳なくて、居た堪れなくて。
 距離を置こうとした時。
 彼は、何時もと変わらぬ風合いで言ってくれた。
 自分の醜い感情を素直に伝えることなどできなくて。
 どうして、僕を避けるんですか?という質問に背中を向けて逃げようとした本田を、素早く
拘束して。
 表情を見ないという意志で、その胸に本田の顔を埋めさせて、背中を繰り返し撫ぜながら。

 『アルフレッドの身代わりでも構わないよ、僕』

 「結局。あの一言が、私の心を決めたんでしょうね……」
 身代わりにできるくらいに、似通った部分が多かった二人だったけれど。
 いざ、身代わりにしようとすれば、違いすぎたのだ。
 本田の惹かれた部分が。
 「……何が、決めたんだって?」
 ふにゃあ、と大きな口を開けているのに、何とも可愛いらしい顔をした恋人が目を覚ました。
 「すみません。起こしてしまいましたか?」
 「んーん?うつらうつらしてた時、君の声が聞こえてね。目が覚めた」
 手がわたわたと空を彷徨うのに微笑を浮かべつつ、ベッドサイドに据えてあるテーブルの
上から眼鏡と取り上げて、手渡す。
 「はい、どうぞ」
 「あ!どうもりがとう」
 律儀にぺっこりと頭を下げて、眼鏡をする。
 耳脇の髪の毛を掻き上げて、眼鏡の弦を耳に乗せる一連の所作が大好きなのは内緒だ。
 「おはよう、本田君」
 「はい。おはようございます。マシューさん」
 お互い頬に軽いキスをして後、目線を合わせる。
 ウィリアムズの眦が一段と撓んだ。
 「起き抜けの、本田君も美人だよ」
 「そういう、マシューさんも美人さんですよ?」
 「本田君のが絶対美人さんだってば!」
 ずいっと、顔を近づけて力説。
 どうにも平行線を辿りそうな気配だったので。
 「……ありがとうございます」
 表向きは素直に頷いておいた。
 好みはあれど、美麗と表現するならウィリアムズの方だという思考は曲げないままに。
 「んーお腹好いたね。朝食は任せてもらえるかい?」
 「たまには、私が作りますよ。こちらの食材は素敵な物が多いですから、作り甲斐もあります」
 ベッドの上、よ!と起き上がろうとしたが、腰から崩れて倒れてしまう。
 「あ、れ?」
 「……だからね。菊……昨晩無茶させちゃったから、無理でしょ」
 菊、と呼ばれ、昨晩の痴態を思い出し、一気に頬が紅潮する。
 羞恥にこそこそと毛布を被ってベッドの中に潜ってゆく本田を、咎めることなど勿論せず。
 ウィリアムズは毛布の上から、ぽんぽんと軽く本田を叩いた。
 「朝食できたら、起こしに来るからさ。二度寝を楽しめばいいよ」




                      ちょっと、気を抜くと変態要素てんこ盛りに流れます!
                                  ……鬼畜要素が薄すぎるよ…。
                                    続きは本でお願い致します♪
                          




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