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 Loyalty



 「日本に、お願いが、あります」
 「ふふふ。どうしたんです? 改まって」
 何度しても慣れぬ正座をして、本田の真正面に座って頭を床に擦りつける。
 土下座? とか言う奴だ。
 「ちょ! ヘラクレス君!」
 びっくりした声も可愛い本田。
 顔を上げれば珍しくおろおろと落ち着かない。
 「聞いて、貰える?」
 頭は下げたまま、ちらりと横目で見上げる。
 「何でも聴きますから! 頭を上げて下さい」
 内心で、ぐっと拳を握り締めたカルプシは、頭を上げて、ずりずりと膝頭を進めて本田との
距離を縮めた。
 「一緒にバス。浸かって下さい」
 「はいぃ?」
 「お風呂を、一緒に」
 「ええぇ?」
 どうやら全く想像しない内容だったようだ。口をあんぐりと開ける本田もまた、可愛らしい。
 「一度も一緒に入ったことがないです。背中、流したい」
 「あ! もしかして、銭湯ですか? ご近所にはないんですよね……車を出せば……確か
  行けると思いますよ。ちょっとネットで調べて……」
 そうではないのだと、本田自身もわかっているのだろう、常にはないまくし立てるような早口を、
首を振って止めた。
 「違い、ます。菊の家の。ここの、お風呂に。二人きりで、入りたいです」
 「ヘラクレスくぅん」
 「そして、全身をしゃぼんであわあわにして、できれば、お風呂でSEXも……」
 「ハークっつ!」
 「バスだったら、きっと。菊のいい声が、よく響いて、素敵」
 「そんな、素敵はいりません……」
 とほほ、と肩を落として先程のカルプシと似たような格好になってしまった、本田の目をもう
一度覗き込む。
 「約束?」
 「……私も日本男児です。一度言った事は撤回しません。しませんけど、代案はないので
  す?」
 他に、本田にしたい事と言えば……。
 「皆の、前でする?」
 最中の蕩け切った本田を他人に見せるのは嫌なのだが。
 そうでもしないと本田に群がる数多の存在を排除できない気がするから。
 「君の意図する所は理解できますけど! それだけは、勘弁して下さい……」
 「そう?」
 でもよくよく考えてみれば、最中の可愛い本田を見た彼等は余計盛り上がってしまうかも
しれない。
 そうは見えない重ねた年月で培ってきた、スルー技術で上手に特異な感情を避けて、カル
プシの為だけに、その貞節を守ってくれているのだ。
 それで、我慢しなければいけないと、考え直した。
 「モテモテの恋人を持つと、困りますね?」
 「若くて精力的な恋人を持つと切ないですよ?」
 「するの、嫌?」
 「……嫌ではないです……恥ずかしいだけです」
 言う側から頬に朱の色を登らせている。
 ん。これも可愛い。
 「恥ずかしいだけなら、良いよね。恥ずかしがる菊も可愛くて好きだから」
 「アリガトウゴザイマス……」
 まるでカルプシのように、拙い物言いで肩を竦めた本田は、意を決したようにすっくと立ち上
がった。
 「菊?」
 「思い立ったが吉日。お風呂に湯を溜めてきます」
 「あ! ちょっと待って。もう一度、座って。足を、貸して?」
 「? 何をされるつもりです」
 「ん? お風呂の準備するなら、足袋を脱ぐでしょう」
 「はい」
 「脱がして、あげる」
 「……自分でできますってば!」
 「してみたいです! 駄目、ですか」
 上目遣いでじっと本田を見詰める。
 本田がカルプシに凝視されると、それだけで陥落してしまうのを重々承知している確信犯。
 「うう。私が貴方の目に弱いのを知っていて! 反則です! 綺麗過ぎなんです! 食べ
  ちゃいたくなるんです!」
 「メロン味? 抹茶味? それとも、キウイ? マスカット?」
 「……どうでしょうねぇ。どれでも貴方の味なら美味しそうですね」
 「美味しいのは、菊です!」
 「……私達って、どうしてこんなに話が脱線するんでしょう」
 それは、菊の往生際が悪いから、とは言わない。
 代わりに、によによと笑う。
 ぷうと膨れた本田は、ついと、足先をカルプシに向かって差し出した。
 「これで、宜しいです?」
 口調は冷静を保っているけれど。
 耳朶まで真っ赤。

 



                                    続きは本でお願い致します♪
                      ハークさんが相手だと、甘くしかならなくて困ります。
                                    しかし、菊さん照れ過ぎです。




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