メニューに戻るホームに戻る




  LOVE 



 彼の何が好きなのかと、ぼんやり考える。

 「アルフレッド!お布団は、ちゃんと上げて置いて下さいね!」
 台所で二人分のモーニングを作っているはずの本田が、ひょいと寝室を覗き込んだ。
 眉根が寄せられたのは今だジョーンズが、布団の上でごろごろと寝そべっていたからだろう。
 本田が布団を出て行ってから既に、三十分以上が経過している。
 「……お布団を上げてくださらないのなら、朝食はないものと思って下さい?」
 昨晩の痴態が夢ではなかったのかと思う、冷ややかな声に態度。
 SEXをした次の日の朝。
 本田が羞恥から、殊更ジョーンズにつれない態度を取るのは案外と日常的だったけれど。
 慣れも、したけれど。決して、寂しくない訳ではないのだ。
 「……日本にはさぁ『万年床』って言葉があるらしいじゃん?」
 「……そんなマニアックな知識を、どこで仕入れてくるんでしょうね?」
 指摘されて、さてどこだっただろうか?と思い馳せる。
 何時まで経っても保護者癖の抜けないカークランドか、親日家で何かと競いたがるカルプシ
とアドナン辺りか。
それとも本田が格別に大切にしている、ヴェネチアーノ?ルードヴィヒ?……考えていたら、
だんだん腹が立ってきた。
 本当に、先頃まで引き篭もりをしていたのか!と。
 思わず喚きたくなる、諸外国との親交加減。
 菊は、自分とだけ親しくしていればいいのにと、切に思う。そもそも、恋人同士なんだしな。
 「……そんな顔しても、無駄ですよ。布団は必ず上げて下さいね!」
 一体どんな顔をしていたというのか。
 本田は気持ち頬を赤く染めながら、襖の向こうへ消えてしまった。
 「しっかたないなぁ……」
 ジョーンズは重い腰を上げると、自分が寝ていた布団を押入れの中に仕舞い込む。
 ジョーンズが来る前日、晴れていれば必ず干される布団には、まだ微かな陽の香りが残って
いた。
 「次は、っと」
 本田の布団は、仕舞い込む前にダイブして、思う存分その芳香を楽しむ。
 しばらく前から香道に目覚めたらしい本田は、自分の香とやらを調合して焚き染めている。
 白檀をメインにしたらしい香が、やわらかく鼻を擽った。
 「してる、時。この匂いと菊の体臭が混じるのは、ホント堪らないんだよな」
 まさか、あの羞恥心の塊のような本田が、それを考えて調合したとは思えないが。
 してる、最中。
 しっとりと汗ばんだ本田の体を包み込む白檀の香りは、何時だってジョーンズの情欲を
誘った。
 「あーもー想像したら、やりたくなっちゃったよ」
 味噌と醤油の香りに包まれた本田を抱き締めるのは、それはそれで乙だ。
 しかし、割烹着姿の本田に後ろから襲い掛かれば、壮絶な拒絶の意味を兼ねて、すぱんと
柳刃包丁が飛んでくるのは、解りきっている。
 恋人同士なんだからさぁ?モーニング前に、キッチンでかるーく一発なんて、普通だと思うん
だけど。
 菊はそんなの許しちゃくれない。
 「自分は年寄りですから!とかって、ぐずぐず言い訳してさぁ。ちっともさせてくれないんだ
 から!」
 朝一番、陽光が燦燦と降り注ぐ中なんて、とんでもない!秘め事は夜にするものですよ…と、
切々と訴えられた。
 実際そんな訴えなどするっとかわして、強引にした事も何度だってある。
 その度に、結局乱れて、ジョーンズの思うように翻弄されてくれるが、コトが終わって正気に
返った後が酷いのだ。
 無視したり、挨拶のキスすら拒絶したり。
 挙句の果ては、ジョーンズ以外の人間と、むやみに親しくする。
 本田は普通です!って言うけど、ちっとも普通じゃないんだ。
 彼は気が付いていないけれど、そういう時は、必ずちらちらジョーンズの様子を伺う。
 俺の反応が心配ならさ。
 大人しく乱れた自分を受け入れて、拗ねたりしなければいいのにな。
 「体力がないとか、言ってる割に、失神なんか滅多にしない辺りも問題なんだよ」
 どこがご老体なんだろう?という、綺麗に筋肉の付いた細身の身体。
 自分は元より諸外国から見れば、華奢なくらいの体躯から、どうしてあんな力が出てくるのか
と、感心し、呆れる機会は多い。
 SEXの最中が、その最もたる場面だ。
 ジョーンズも若い分、持久力には自信がある。
 例えその若さ故に、また本田の身体が良過ぎて、他人には言えない早打ち名人になって
しまったのだとしても、数を重ねるからどの道、長丁場になるのだ。
 数時間、時に半日以上に及ぶSEXでも一応、ノーマルに属する行為をしている限りでは、
本田が意識を失うような事はなかった。
 腰が痛いんですけど!と、抗議の声はよく上げられるけれど、何だかんだ言いながらも、
ジョーンズが満足するまで付き合ってくれるのだ。




                               愛情をテーマに甘さを増量したつもり。
                             そしてついつい、食事描写が楽しく……。
                                    続きは本でお願い致します♪
                          




                                       メニューに戻る
                                             
                                       ホームに戻る